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『お礼参りとティータイム 』
レナ・スウォンプ3428)&ケヴィン・フォレスト(3425)&レシィ・シゥセ・レガス(NPC0837)


 斬撃、と呼ぶよりも打撃と表現すべき一撃だった。線では無く面で以て相手を打ち据える尋常ならざる膂力から繰り出される一撃は、掠めるだけでも体勢を崩しそうになるほどだ。面倒だ――と言いたげに微かに眉を寄せた青年は一撃を少し大きく距離を置いてかわす。飛びのきざまに二刀を同時に鞘から抜き放った。加減をしてどうにかなる相手でも無ければ、こちらに合わせて加減をしてくれるほど器用な相手でもなさそうだ。
「二刀流か! あはは、お前、面白いな!」
 その構えを見て、打撃の主の女が笑う。先の一撃の威力からは想像もつかぬ華奢な体躯に、鉄の塊としか思えぬ巨大な大剣が一種の異様ですらあった。加えて言えば、彼女には「色が無い」。そこだけごそりと色彩を欠いたように見える、違和の塊である。
 そうか面白いか、俺は面倒だ。等と、対峙する青年は口にこそ出さないが。
 言葉の代わりに斬撃を見舞う。右手の一刀はフェイント、彼女が正確に紙一重にその鋭い「線」の一撃をかわすのを予測して左手の一刀。避けきれぬと察して女は自身の右側に鉄塊としか見えぬ大剣をまわし、盾とする。分厚い鉄塊は一撃を防ぐには充分だが、女の足がその瞬間止まった。すかさず青年は半身を回し、その勢いの侭、二度目の右の刃を叩き込むようにする。
 これはかわせまい、と思ったその一撃が、重たい手応えを生んだ。想定したような肉を断つ感触ではない、もっと重く強い衝撃。青年の睨む先、大剣を片手で持ち替えた女が空いた片腕で、彼が柄を握る手を直接殴り飛ばしたのだ。剣を取り落とす愚は侵さなかったものの、軌道はそれ、結果としては女は無傷のままだ。
 あは――と、女が笑った。心底愉快そうに。そのまま彼女は身を低くすると、青年の下半身を狙って体当たりを仕掛けてくる。当然、受ける訳にはいかない。
 回避をすればそれだけ間合いが外れた。攻撃の調子を崩された格好になり、青年は大きく距離を開ける。女は追い縋らずに、身を起こして隙なく構えをとかない青年を見遣った。こちらは構えもなく、無造作に片手で大剣を掴んでいる。
「いいなぁ、いいねぇ、いい気分だ。もっと遊ぼうぜ?」
「断る」
 元より――この、戯れ合いだか、遊びだか、あるいは喧嘩だか分からない立ち合いは、女の提案から始まっているのである。
 青年、ケヴィンはうんざりと、しかしはっきりと声に出して告げ、少し離れた孤児院の建物、そのテラスでお茶を飲んでいた女がその声に「あら珍しい」と小さく呟き目を丸くするのを、矢張り面倒な気分で視界に納めた。皿の上のクッキーは、随分とその数を減じていた。




 クールウルダの孤児院、の名前を知る者の内、半数くらいは顔を顰めるだろう。そこで孤児の子供達を育てているのは一人の魔女と、一人の元魔女、という組み合わせで、加えてどちらもあまり性格は良くない。ケヴィンはある事情で彼らと知己を得るに至ったのだが、特に「元魔女」である灰色の女の方は享楽的な上に喧嘩好きという、あまりお近づきになりたくない類の人種であった。
 とはいえ、だ。そんな彼らと同じく別の伝手から知己を得た彼の相方、こちらも「魔女」の女――レナに言わせれば、
「でもお世話になった訳だから、お礼をするのがふつうじゃない?」
 面倒臭い、とケヴィンは視線だけでそう返したのだが、その視線を受けてレナはうんうん、と両腕を組んで頷いた。曰く。
「大丈夫よ、菓子折りは私が用意しておいたから。ケヴィンは行って頭下げるだけで十分よ?」
 どうしても行かないと駄目か――とこれまた視線で問いかける。彼の相方はまたしても意を得た様子で頷き、
「勿論。魔女は受けた恩は多分忘れないし、仇はもっと忘れないわ」
 多分、か、と心許ない上に些かならずいい加減な言葉に、しかしケヴィンは根負けして頷いた。元より彼の相方は彼の意見を聞き入れて折れるタイプではないし、加えて言えば彼女の発言も道理であろうとも思えたのだ。ちゃっかりと王都でも有名な菓子店の包みを片手に用意した彼女に、一体いつの間に、という感想は抱きつつも、二人は連れ立って街道外れの小さな町へ向うことになった。
 丘の上の孤児院は、いつ見てもおんぼろで、いつ見ても賑やかだ。唐突な客人を迎えたのは子供達に叩き起こされてやってきた寝惚け顔の「院長先生」こと、レシィである。
 色彩を呪詛により失った彼女は、まるでそこだけ切り取られた絵画か何かのように色が無く、見る者にはまず違和感を抱かせるのだが、レナにしてみれば今更の姿だし、ケヴィンはさして興味が無く、子供達には見慣れた姿である。手を引く子供に「お茶用意してきな」と告げて、彼女は眠気で焦点の甘い視線をまずレナへ向け、それからケヴィンへ向けた。
「ふーん。ほー。レナ、お前さん、今日は随分イイ男連れてるじゃないか」
「レシィってば分かってるわね、勿論ケヴィンはとびっきりいい男よ! レシィのハニーよりも!」
「おやそりゃ聞き捨てならないな。って言うか、この間、お前さんハニーと何を話してたんだ」
 うふふ、秘密、と歌うようにレナが返すのを、レシィは気だるげな笑みで頷いた。
「なら仕方ない。今度ハニーに尋ねるとしよう。で、色男。お前さんは久々…だねぇ?」
 そうだな、とケヴィンは頷きだけを返し、それからレナの手にしていた包みを取り上げてずい、と彼女に押しつけるように差し出す。包みに反応したのはレシィではなく、周りの子供達のほうだ。
「母さん、それ、王都のお菓子!?」
「いいなぁ、食べたい、食べたいー」
 眼を輝かせる子供達に、レナがどうぞ、と告げる前に、レシィが腕組みをして彼らを睨み下ろした。寝惚け眼に寝間着姿のひどくだらしのない恰好なので、全く迫力も威厳もあったものではなかったが。
「お前ら、お姉さんとお兄さんにまず言うことあるだろ」
 とはいえ言うことは一端の「院長先生」だ。子供達が顔を見合わせあってから、レナとケヴィンにぺこりと頭を下げる辺り、しっかり礼儀作法も躾けられているらしい。
「ありがとーございます、お姉さん」「ありがとう、お兄ちゃん!」
「どーいたしまして! じゃあ、お茶淹れたらみんなで食べよっか。王都のね、とびっきり有名なお店のクッキーなの、美味しいわよ」
 ふわりとレナが笑って応じる。それを見守りながら、ケヴィンは退出の機会を逃して気まずく佇んでいた。礼を告げたら立ち去ろうと思っていたのだが、どうにも雲行きが怪しい。
 ふわふわと欠伸をする「院長先生」ことレシィがそこに拍車をかける。
「ところで色男、お前さん、剣士かね」
 そうだが、と、怪訝を瞳に浮かべて頷けば、にたり、と女が笑う。
「お茶の用意が出来るまで、腹ごなしに運動ってのはどうだい」
 ――「元魔女」の経歴を持つ彼女が、実の所魔術よりも接近戦、それも肉体を駆使した戦闘を得意とする武闘派であることをケヴィンは知っている。傭兵時代には「敵にはしたくないが味方にもしたくない」と悪評を取った彼女が、相応に経験を積んだ強者であることも、何となく察しがつく。
 それでも「面倒」の一語で片づけられずにその提案に頷いてしまったのは――彼女の戦いに、幾らか興味があったせいか。
 ――思い返すのも面倒なので、ケヴィン自身にも分からなかったが。


 ともあれ、事の起こりと流れは大体そんなところだ。ケヴィンは現状を確認した後で、改めて眼前の女に視線を戻した。大剣を無造作に突き立てた女はただそこに佇んでいるが、付け入る隙が見当たらない。
 どうしたものかと、彼は再び、少し離れたテラスを見遣る。彼の相方はテーブルについて、その周りには孤児院の子供達。「院長先生」の喧嘩を彼らも見慣れているのだろう、激しい剣戟にも動じた様子が無い。
 しばしの思案。レシィが動こうとしないのはこちらがどう出るかを愉しんでいるのに違いなかった。まぁ尤も、元傭兵だと言うからには根競べもお得意であろう。礼を済ませて退散したいケヴィンとしては、あまり乗りたい勝負ではない。早々に決着を付けようと、彼は手持ちの札を確認する。
 音叉剣。打ち合った相手の武器を破砕するそれはひとつの手札にはなり得るだろうが、この女性、あの鉄塊を振り回している辺りからして膂力が凄まじい。武器を失っても拳ひとつでこちらに立ち向かってきそうで、それはそれで面倒だ。
 もう一つの選択肢は。
 考えるのも面倒で、結局ケヴィンは後者を取った。うおん、と、轟音が空気を揺らし、文字通り空を飛んで、場に凄まじい勢いで鉄の塊が飛び込んでくる。驚いた様子でレシィが大きく飛びずさる、そこへ、ケヴィンは追撃した。飛び込んできた鋼鉄の早馬――バイクにまたがり、片手には音叉剣を構えて突貫する。不意を打たれたか、レシィが完全に防御の構えを取ったが、遅い。
 鉄を砕く刃が速度を乗せて鉄塊に触れる。
 砕けた鉄を前に、それでもなお、魔女は笑っていた。あまつさえ地面を蹴って、接近してくるバイクに突進してくる。
(正気か、この女)
 ケヴィンは一瞬、操作の手を迷わせたものの、すぐに躊躇を振り払った。正気の沙汰の訳が無かった。
 そもそも正気の人間は「お前強そうだからちょっと試合しない?」とは言わない。それも打ち所が悪ければ確実に死ぬような武器片手に。ケヴィンとて少しばかりは興味を引かれて提案を受けた訳だから、自身の正気も一緒に疑わなければならないところだが、それはそれだ。
 ハンドルを引く。鋼鉄の馬は急な制動に不服げに唸りを上げながら速度を増し、拳ひとつの華奢な女へ突進する。
 ふたつの影が高速で交差する、その寸前――

 ――二人の動きを止めたのは、ただの子供の、歓声であった。



「次、おれ! おにーちゃん、おれものせて!」
「やめなさいって、危ないでしょう」
「だいじょーぶだよ、ケヴィンおにーちゃんがちゃんと守ってくれるんでしょ!」
 ――どうしてこうなった。という思案を浮かべたのは本日何度目であろうか。テラスで、彼らへのお礼と称して持ち込んだはずのお菓子をしっかりお相伴に預かって楽しんでいるレナを横目に、ケヴィンが嘆息する。彼の言わんとするところは付き合いの長い相方には伝わったらしく、お菓子を片手に楽しげに笑われた。
「そりゃあ、子供の前でバイクを見せたらこういう反応になるわよ」
 つまるところ、それだ。
 子供達が「あれすごい、乗りたい」と騒ぎ出してしまったため、毒気を抜かれたレシィも、ケヴィンも、有耶無耶のまま戦いの手を止める羽目になったのだ。そして今、ケヴィンは子供達をバイクの後部に乗せ、危なくない程度の速度で庭をひとめぐりする、という、無為な行為に巻き込まれてしまっていた。子供達のキラキラした眼で「凄い、なにこれ、凄い!」と大騒ぎされれば、いかに彼と雖も抵抗は出来ない。
 結局のところ、一番強いのは子供か、と、彼は半ば諦めの境地で嘆息する。横目に睨んだ彼の相方は、クッキーの最後のひとかけを口に放り込んでいるところだった。
「どうしたの、ケヴィン」
 何でもない。と目を逸らす。その先では、庭の端、柵に腰を下ろした灰色の女が、こちらも酷く楽しげにこちらを見ていた。
「なかなか子供の扱いが堂に入ってるじゃねーか、色男。結婚の予定が無いなら、イイ女紹介するぜ?」
 まさかあんたじゃないだろう、と目線で問うより先に、背後のテラスから「何それー!」と彼の相方の姦しい声が響いた。
「レシィには旦那さん居るじゃないのよ!」
「誰も自分を紹介するなんて言ってないだろ、落ち着けよレナ。私はハニーひと筋だ」
 ――どうでもいいがこの女の伴侶というからには苦労しているんだろうな、とケヴィンは他人事のように思い返した。今日は所用で留守にしているとかだったが、この孤児院の運営の要でもある黒髪の、幼い少年の姿をした人物が思い浮かんだのだった。
「で、どうだい。子供に囲まれるのもいいもんだぞ」
 ふにゃふにゃと笑う女が、真っ当に子育て出来ているものかどうかも怪しい所だが。
 ケヴィンは嘆息し、後部座席から子供を抱きかかえて下ろしてやりつつ、女に向けてはっきりと、
「断る」
「本日二度目」
 何故かレナが酷く驚いた様子だったが、彼は気にせず、口を閉じることにした。
結局、クッキーは一枚も食べられないきりであった。別段甘味に拘る気も無いが、レナが半分以上食べていたことを考えると面白くは無い。
 王都に戻ったら何か小腹に納まる程度のものでも買い求めるか、と算段をたてていると、声を立てて笑いながら、レナが「帰りにまた同じ店に寄りましょうか」と告げた。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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聖獣界ソーン
2015年11月20日

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