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『―― ヤギさんこちら、褌はためく方へ ―― 』
弓月・小太ka4679

 一体全体何があればこんなことになってしまったのか。
 どこから逃げ出してきたのか、見渡す限りのヤギ、ヤギ、ヤギ――……。
「わふ……ど、どうすればいいんでしょうか?」
 今にも泣きそうな声で呟くのは影山・狐雀(jb2742)だった。
「ふぇ、ヤギさんばかりで、こ、これを僕達にどうしろというのですかー……」
 弓月・小太(ka4679)もオロオロとヤギの大行進を見つめている。
「けど、誰かが困っているのは見逃せません……! み、皆さんを助けるために頑張りましょうー!」
 グッ、と拳を強く握りしめながら、弓月が呟くのだけど、すぐにヤギの大行進に呑まれ「うわあああ……」と悲痛な叫び声が聞こえ始めた。
「わ、わふ、ヤ、ヤギ恐るべしー……」
 影山も弓月を助けようとは思うのだが、自分がいっても弓月と同じ目に遭う未来しか見えず、その場に立ちすくむばかりである。
「と、とりあえず、ヤギを……ヤギさんを捕まえなくては……!」
 ヤギの波に呑まれながらも、弓月は必死にヤギを捕まえようと手を伸ばすのだけど……。

 スカッ!

「ふぇ、何でさっきはこっちに向かってきたのに捕まえようとすれば逃げるのですかー!」
 まるで捕まえようとする二人をあざ笑うかのように、ヤギ達は逃げていく。
「わ、わふ! 僕も! わぁっ!」
 影山もヤギを捕まえようと飛びつくが、見事に避けられてしまい、地面へとダイブする。
「……どうしましょう?」
「わふぅ……ヤギ、意外と早くて追いつけないです……」
 ぜぇぜぇ、と息を切らしながら影山と弓月はうなだれ、呟く。
「はっはっはっは! そこの君たち! どうやらお困りのようだな! ばばーん!」
 効果音(自分で言った)と共に現れたのは、奇妙な褌一丁の男だった。
(ばばーんって、自分で言いましたよ、この人……)
(わふ、何ですか、この怪しさ全開……いや、むしろ全壊な人はー!)
 あまりの奇妙さに、影山も弓月も思わず言葉に詰まってしまったようだ。
「はっはっは、この眩い褌が羨ましいんだな! しかしこれは俺愛用の褌! 簡単にお前たちに渡すわけにはいかないな!」
「「いや、いらないです」」
 ふたりの心がひとつとなり、思い切り首を振りながら断る。
「はっはっは! そんなに照れなくてもいいんだぜ! 俺の褌は渡せないが、お前たちにはこれをやろう!」
 再び『ばばーん!』と効果音(自分で言った)と共に怪しげな褌男は白い何かを差し出してきた。
「これは俺が手ずから夜なべして作った手紙だ!」
「手紙!?」
「ど、どう見ても紙製の褌にしか見えません……」
「ヤギは紙が好きだろう! さぁ、その手紙を装着して、ヤギの気を引くといい!」
(手紙って言い切った!?)
(手紙ならわざわざ装着する必要ないはずですよね!?)
 色々と突っ込みたい気持ちがあるが、それらを気にしてしまっては最終的にこの褌男の存在に突っ込みたくなるので、ふたりはあえて気にしないようにした。
「では、お前たちの健闘を祈るぞ! はーっはっはっはっは……!」
 遠くなっていく褌男を見て、ふたりは再び心がひとつになる。
((健闘は祈るけど、手伝おうって気はないんですね……))
 逆に手伝われたら手伝われたで迷惑なのだけど、と心の中で毒づくふたり。
「と、とりあえず、せっかくですからこのふん……手紙を利用しましょう!」
「わふ! 少女達を助けるため、ですからね……! この際、手段は構っていられません」
 こくり、とお互いに頷きながら不本意ながら(ここ重要)、褌男から渡されたふんd……手紙を身に着けてヤギの前へと飛び出す。
「ヤギは紙が好き、一理はありそうなので試してみましょう」
「……けど、知り合いには見られたくない姿です」
 弓月の言葉に、影山は静かに頷いた。
 こんなところを見られれば、恐らく褌男に対してふたりが思ったことを、今度は彼らが思われる番となってしまうからだ。
「誰かに見られないうちに、わふ! 早く終わらせましょう!」
 影山が気合を入れた時、ドドドドド、と何かが地面に煙をまき散らしながらふたりの元へと向かってくるのが見えた。
「あ、あれは――……!」
 それは、先ほどふたりの前から姿を消したヤギ達の群れ――……どうやら、紙の匂いを嗅ぎつけて向こうから来てくれたようだ。
「ふぇええ、あ、あれはどうやって捕まえればいいのでしょうか……!」
「わ、わふぅ……つ、捕まえるというより、僕達が突進されるだけのような気が……!」
 ガタガタと震えていると、いつの間にかふたりはヤギ達に囲まれてしまう。
「はっ、こ、これは僕達がヤギの注意を引き付けて、他の人達に捕まえてもらえれば……!」
「そ、そうですね! み、みなさーん! いまのうちにヤギを……ヤギをおおお!」
 ある意味救いを求めるような声で、弓月と影山は少し離れていた住人達に呼びかけた。
 ふんd……手紙を装着した状態を見られるのは恥ずかしかったが、このままでは自分達が食べられかねないとふたりは思い始め、救い――もとい、捕獲を手伝ってもらうことにした。

 そして、数十分後――……。
「ありがとうございます! おかげでヤギはすべて捕獲することが出来ました!」
 最初困っていた少女達は、影山と弓月の身を挺したヤギ捕獲活動にお礼を言いに駆け寄ったのだが――……。
「……」
「そ、そんなに見つめられると照れます……」
「ぼ、僕達は当然のことをしただけですし……」
 少女達の熱っぽい視線に、弓月も影山もまんざらではない表情を見せる。
「…きゃ」
「「きゃ?」」
「きゃあああああああっ!」
 突然、目の前の少女達は叫び始め、弓月と影山から視線をそらした。
「え? え?」
「わ、わふ?」
「きゃー! きゃー!」
 少女達は顔をそらしながら、ふたりの下半身を指さす。
「「ん?」」
 ふたりはほぼ同時に自分の下半身を見ると――……。
「わ、わふ――――っ!?」
「ふぇえええええっ!?」
 ふんd……手紙がきわどいところまでヤギに食べられており、あとわずかですべてなくなってしまうところだった。
「わああああああ、み、見ないでくださいー!?」
「はわわわわわ!? な、なんですか、これえええっ!?」
 ふたりは慌てて、自分の服に着替えるため走り去る。
 しかし、ふたりの災難はこれで終わらず、逃げ惑うところを彼らの知り合いに見られており、しばらくの間『ふんどしっこ』と呼ばれる羽目になるのだった――……。


―― 登場人物 ――

ka4679/弓月・小太/男性/10歳/人間(クリムゾンウェスト)猟撃士(イェーガー)
jb2742/影山・狐雀/男性/11歳/陰陽師

――――――――――
弓月・小太様
影山・狐雀様

こんにちは、今回はご発注頂き、ありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていれば幸いです。

それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。

2015/11/19
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2015年11月20日

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