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『トリック・パーティー 』
真壁 久朗aa0032)&小鉄aa0213)&剛田 永寿aa0322)&佐倉 樹aa0340)&今宮 真琴aa0573)&伊東 真也aa0595)&齶田 米衛門aa1482

「皆さまにお集まり頂いた理由。それは、トリック・オア・トリート。というモノでございまする」
 H.O.P.E. 本部に集められた7人の精鋭。それらを前に発せられた言葉に、全員が戸惑いの表情を覗かせる。
 それもその筈。彼らは奈良での大規模作戦の最中に呼び出されたのだ。
「ごめん、よくわからなかったんだけど……今のってこの時期に行うことと意味があるのかな」
 そう言葉を発したのは伊東 真也 (aa0595)だ。
 彼女は情報の少ない頭をフル回転させて首を捻る。
「確かに今はハロウィンの時期だけど、それってかなり平和な行事だよね?」
「……気にするべきはそこではないでござるよ、伊東殿」
「へ?」
 そうなの? そう振り返る真也に小鉄 (aa0213)が頷く。
「今気にすべきは、大事の最中に平和的行事を遂行する意味があるか否かでござる」
「そうですね。小鉄さんの言うとおりです。今は奈良県で愚神がドロップゾーンを展開している最中。そのような行事に参加している時間はないでしょう」
「皆さま、だいぶ気持ちが急いているでございますなぁ?」
 クスリ。そう笑みを零す職員に小鉄の言葉に頷いた佐倉 樹 (aa0340)が首を捻る。
「急くも何も、H.O.P.E. 内部もだいぶ慌しく動いていると聞いていますし、あなたの様に落ち着いている人は珍しいのでは」
「だな。随分と余裕があるように見えるが、この任務に何か大きな理由でもあるのか?」
「まさかわたしたちの未来に関わる重要任務とか!?」
「そ、そんな……まさか、他の場所にもヴィラン、が……っ」
 剛田 永寿(aa0322)の言葉に身を乗り出した真也。そんな彼女に今宮 真琴(aa0573)が目を瞬く。
「おっ、なんか一気に特別任務っぽくなりましたッスね! そう言うことなら喜んでトリック・オア・トリートッス!」
「いや意味わかんねぇから」
 永寿は嬉々とする齶田 米衛門 (aa1482)の肩を叩いて首を横に振る。
 そもそもヴィランの討伐ならトリック・オア・トリートなどと言わないし、わざわざH.O.P.E.まで呼び戻す必要もない。
 となれば今回の任務は奈良の件とは別と考えるべきだろう。
「本当のところは如何なんだ? 詳しく説明してくれると有難いんだが?」
 真壁 久朗 (aa0032)はそう言うと、面白そうにこちらのやり取りを見ていた職員に向き直った。
「噂にたがわぬ面白い者たちですなぁ。確かにハロウィーンは平和且つ温和な行事。時折阿呆な輩も出没いたしまするが、今回はそのような乱痴気騒ぎとは少々違う任務にございまする。言うなればそこの貴女」
「わたし?」
 突然指名された真也が驚いたように自分を指差す。
「ええ、貴女の言うことが当たりですなぁ」
「伊東君の言うことが正解……未来に関わる重要任務……?」
「そうでございまする。皆さま方にお願いするは孤児院でのハロウィーンパーティー。それも能力者の子供たちがいる孤児院にございまする」
「ほう、能力者のいる孤児院とは珍しいでござるな」
 真也と視線を合わせる真琴の言葉に頷いた職員。彼女はようやく概要の書かれた紙面を各自に配ると説明を始めた。
「対象の孤児院は本部が慈善事業の一環として助成金を出している施設でございまする。ここで勘の良いお方は察するでございましょうが、今回は敢えてご説明いたしまする。皆さまをわざわざ派遣するのは彼らの未来を示すためにございます」
「要は子供たちがヴィランの道に誤って進まないよう事前に指導する、という訳か」
「大まかにはそう言うことですなぁ。もっと言うなれば、将来仲間になってくれることを期待して。でございまするよ」
 なんとも大人勝手な話だが言い分は了承できる。
 人間は善にも悪にも染まることが出来る。それは能力者であっても同じ。
「趣旨はわかった。けど何で今なんだ?」
「そうッスね。剛田さんの言うとおりですッス。何もこの忙しい時期でなくても」
「あ、あの……」
 スッと挙げられた手に皆の目が向かう。
 その視線を一気に受けて戸惑うように視線を落とした真琴は、少しためらうように呟く。
「ハロウィンだから、じゃないか、な……なんて……」
 徐々に小さくなっていく声に樹の目が職員に向かう。
「と言う見解ですけど、実際のところはそうなんですか? まさかそんな単純理由で重要な場所から呼び戻されたとかないですよね?」
「単純とは言いまするが、これも重要任務にございますぞ。子の中には我々に興味津々な者も在れば、親を失いエージェントになる決意をした者もございまする。中には危険な力の使い方をする子も見受けられましょう。そんな彼らとハロウィーンを通じて有意義な時間を過ごすこと……無意味でございますかな?」
 朗々と語られる言葉に誰も反論出来ない。
 勿論それは各々が思うところがあってなのだろうが、どうにもこの職員の雰囲気が反論を許さない。そんな空気を醸し出していた。
 もし断れば命に関わる。そんな危機感すら――
「面白ソウだし、ヤるのヨ♪」「?!」
 突然会話に飛び込んできた金髪の少女にギョッとする。
 目を向けた先に居たのは樹の英雄だ。
「ワタシも参加イイよネ?」
「構いませぬ。ただし、子供たちへ害を加えるのはなしに願いますな」
「リョーカイなのヨ♪ ト言うワけで、引キ受けたヨ!」
 樹の英雄はそう言って親指を立てると、呆然と見守る仲間を振り返った。

●はろうぃん
 バスケットに詰めた色とりどりの包み。チョコにクッキーにキャンディーに。子供が好きなお菓子を持って孤児院を訪れた真琴は、最後の決意を踏み出せず、仮装したまま入り口の前に佇んでいた。
「こ、ここが会場……」
 何度目の呟きだろう。
 生唾を飲み込み扉に手を伸ばすこと数回。いい加減後ろにいる小鉄がイラだち始めているがそんなものは見えていない。
「……大丈夫……ようは、お菓子をくばるだけ……そう、このお菓子を……配る」
 意気込みを入れた瞬間、ぐぅ、っとお腹が鳴った。
「そういえば、朝ごはん……」
 思い返せば緊張しすぎて朝ごはんをほとんど口にしなかった。
 出立前にそれを知った樹が心配そうに声を掛けてくれたが、その時は空腹など気付かなかったのだ。
 だが今は違う。
「……空腹が、限界に……」
 落とした視線の先には子供たちへのプレゼント、食料の山。
 言っておくが今回のお菓子はとびきり極上である。なぜわかるかと問われたら、それは既に味見ずみだから!
「……ごくっ」
 極上のお菓子を前に空腹の自分に堪えろと言うほうがオカシイ。
「ここは1つ味見を……」
「一緒に食べるのでござろう?」
「ひゃぅ!?」
 ぬっと覗かされた顔に飛び上がる。
 そうしてバクバクする心臓をバスケットを抱えることで押さえつけると、黒装束にジャックオランタンの仮装を施した小鉄を見た。
「べ、別に食べようなんてしてない、し……う、うん!」
「あえてそこには触れないでござるが、そろそろ入ったらどうでござる?」
 指差した扉は未だに閉じられたまま。
 実は他のメンバーは既にこの扉の向こうだったりする。何故2人がここに取り残されたかと言うと。
「大丈夫、ちゃんと包めているでござるよ」
「そ、それは当然……にんにんが手伝って、くれたし……」
 そう言って視線を外す真琴に小鉄がカボチャの中でフッと笑む。
「では中に入るでござるよ」
「え?! そ、それは心のじゅんび――ひぅ!?」
 制止も聞かずに開け放たれた扉に目を瞑る。
 これは要するに反射行動なのだが、果たして瞑った目に意味はあったのだろうか。
 思わず苦笑する小鉄を他所に真琴はそーっと目を開くと、見えてきた光景に「はぅ」と息を呑んだ。
「これはすごい……」
 真琴の持つ包み紙に負けないくらい色とりどりの装飾。各所に備えられたカボチャの飾りも本格的だ。
「あ、真琴だ。おーい、真琴ー、こっちだよー」
「いとうさん、っ!」
 大きく手を振って真琴を手招いたのは真也だ。
 かわいらしいメイド服を着た彼女の周りには既に子供たちの姿がある。
「ようやくお菓子到着だね」
「おま、おまたせしまし……」
「マヤー、こいつもエージェントなのか?」
「うん。真琴も小鉄もエージェントだよ」
 子供の目線になってしゃがみ、笑顔で話をする真也に真琴が感心した声を零す。
 だが次の瞬間、真琴は仮面の下で固まった。
「見えなーい」
「こっちのおじちゃんはそれっぽいかな〜」
「おじ……いや、拙者は南瓜のお化けでござるよ!」
「うそだー!」
「その服、忍者だろー!!」
 ヤイヤイと小鉄を取り囲む子供たち。
 実際のところ小鉄の変装は微妙だ。片目だけ空けたジャックオランタンの被る意外特徴がない。
 あると言えば普段から着ている黒装束がそうなのだがコレは仮装ではない。
 つまり『忍者』の仮装に子供たちには見えても、断じて『忍者』ではないのだ。
「残念でござるが拙者は南瓜――って、何をするでござる?!」
「忍者の正体を見破ってやれー!」
「おー!」「はーい!」
 1人の子供が南瓜の頭を奪いに来たのと同時に、別の子供たちも参戦してきた。
 小鉄によじ登る者、彼の頭に飛びつく者。だが小鉄も負けてはいない。
「あ、あまりよじ登ると危な、ぐぉぉおお、この頭だけは死守するでござるぅー!」
「こ、これは身をていしてのプレイ……ぐっじょぶ、だ!」
「違うでござるッ」
 感心する真琴に首を横に振る小鉄。
 そんな2人を少し離れた位置で見守るのは久朗だ。彼はかぼちゃの着ぐるみを着たまま部屋の隅に佇んでいた。
(……小鉄と真琴は頑張ってるな……それに比べ俺は……)
 遠い目で遥か彼方を見つめる彼の傍に子供の姿はない。
 会場に突入する前は、子供たちに大人気で立っているだけでは物足りなくなるくらい揉みくちゃにされることを想像していた。
 だが現実は違った。
「……なんか、きもい……」
 そう、開口一番に言われたのが最後。久朗は部屋の隅に佇んだまま、子供たちに遠巻きに見られると言う苦行を強いられることになったのだ。
(……着ぐるみは子供に人気と聞いていたんだが……何故だ……)
 過去に子供に怖がられて泣かれた経験があった。故に子供の扱いは苦手だったのだが、今回の依頼を受けたときに閃いたのだ。
 子供が好きだと言う着ぐるみを着れば、しゃべらなくても子供たちの人気者になれるのではないかと。
 そして立っているだけで依頼達成に漕ぎ付けることが出来るのでは、と。
「現実は甘くなかったッスね」
 ぽんっと久朗の着ぐるみを叩く米衛門。
 彼はネコミミを着けた頭を揺らして哀れみの視線を向けてくる。その屈辱に震えていると、1人の子供がやってきた。
「お?」
「おばけ退治ー!」
「ごふっ!?」
 真正面から突き入れられた拳に久朗が嘔吐く。とは言え、所詮は子供の力。
 いくら能力者とは言え、本物にして現役の彼にダメージを与えられるはずもない。
「こいつ、たおれないぞ!」
「やっちゃえー!」
 ドカッ☆ バキッ★ ゴキッ♪
 次々と叩き込まれる拳や蹴り。その様子がさすがに可哀相になってきたらしい。
 米衛門は子供たちを「ストーップ!」と止めると、ツナギの膝を曲げて彼らの目を見た。
「何でこんな乱暴なことをするですッス? この着ぐるみの中にもお兄さんが入ってるですッスよ?」
「えー、だってこのかぼちゃ、なんか気持ちわるいんだもん」
「でっかいし、はくりょく……いあつかん? がある」
「あー……」
 今の発言で大体理解した。
 良かれと思って選んだ着ぐるみの種類がまずかったらしい。
 確かに巨大な弾力あるかぼちゃの着ぐるみを、久朗のような背の高い人物が着たらどうなるか。
「威圧感の塊、ッスね」
 子供ばかりを責められない。そう結論付けた米衛門に久朗の視線が更に遠くを見た。
「……大丈夫だ。俺は、なる」
「へ?」
「子供たちの、良き、サンドバックに……!」
「ちょ、ちょっと、それは如何」
「……さあ、子供たちよ……俺を、叩け!」
「おおー!」「おばけかくごー!!」
 なんだかわからないが良い話になってる? ってか、これが良い話なのかも疑問だが、なんだか可笑しなことになっているのは確かだ。
 米衛門は突然始まった拳とかぼちゃのやりとりを見詰めると「まあ、良いか……」と踵を返した。
「オイはお菓子教室を……ん?」
「とりっくおあとりーと……!」
 神妙な面持ちでバスケットを差し出す真琴。その口はもごもごと動いており、明らかに食べながらの興行だとわかる。
 だが気にするべきはそこだけではない。
「『H.O.P.E.とは異世界の存在と戦う組織だ。英雄と共に拳を掲げろ。そして共鳴するのだ!』」
 手製の紙芝居だろうか。
 『H.O.P.E.とエージェント』と言う若干謎感のある話を披露する樹は、自身の英雄をイメージしたかのような魔女の衣装を着ている。
 彼女は熱演する。
「『助けて、ヴィランが出たわ!』」
「『任セルのヨ! 今助けル!』」
「『うわぁぁああああ!!! 出たな、エージェントぉぉおお!!!!』」
(なんで……エージェントが悪役みたいになってるですッス)
 英雄と競演する樹を見て苦笑する米衛門。
 見た感じ児童向けのH.O.P.E.のパンフレットを紙芝居にしたようだが無理がある気がしないでもない。
 それでも子供たちは嬉しそうだ。
「エージェントやっちゃえー!」
「そこでリンクだっ!!」
「『みんな、わたしに力を……ヴィランを倒す力を貸してっ!』」
 振り上げられた拳に子供たちが立ち上がる。
 そして――
「「「「エージェント、がんばってぇえええ!!!」」」」
「『みんな、ありがとうっ!! 喰らえ、超必殺技☆エージェントクラーッシュ!!!』」
 わぁあ! と歓声が上がる。
 中には興奮して隣の子供の手を掴んだまま身を乗り出す子供まで。
「樹はすごいね。子供たちの心をガッチリ掴んじゃった」
 真也の言うとおり樹の手腕は確かなものだ。
 しかし紙芝居が終わり、興奮した子供たちが駆け寄った瞬間、彼らは予想外のモノを目にした。
「あ、あれ……子供たちが、蜘蛛の子を散らすみたいに放れて……」
 スゥッと放れてゆく子供たち。
 その原因は樹の態度にあるようだった。
「後でジャックオーランタンの由来の紙芝居もしますので……はい、お菓子です」
「まるで別人だね……」
 子供と接する時まで「普通」を通すとは。
 淡々と誰とも変わらない接し方をする樹に、彼女の英雄も苦笑気味だ。
 それでも駆け寄ってくる子供にはきちんとお菓子をあげる辺りしっかりしているとも言える。
「オイも任務はこなさないとですッスね」
 チラリと時計を見て肩を回す。
 そろそろ子供たちの興奮も落ち着いてきたはずだ。となれば次は自分の番。
 米衛門は大きく息を吸い込むと、片手を上げてあたりを見回した。
「これからクッキーを作るですッス! 一緒に作りたい人ー?!」
「クッキー?」「お菓子作り?」
 ざわっと女の子たちを中心に子供が集まってきた。
「おにーちゃん、お菓子作れるの?」
「出来るですッス。とは言っても、簡単な焼き菓子くらいですッスが」
「すごぉい!」
 目をキラキラさせる子供に笑みを向け、米衛門は集まった子供を連れてキッチンに向かった。
 キッチンにはお菓子作りに必要な材料のほか、子供が使っても大丈夫な道具も揃っている。
「上出来ッスね。では始めるですッス!」
 そう言って子供たちを振り返ると米衛門は、まず手洗いから、と本格的な指導に入り始めた。

●はろうぃん2
 そろそろ日が傾き始めた頃。
 子供たちとリンカーごっこをしていた真琴と樹と小鉄、そして久朗は香る匂いに鼻を鳴らすと誘われるように会場の入り口を見た。
「さあ、クッキーが焼けたですッス!」
 熱いうちにどうぞ。そう促す米衛門に真琴の喉がゴクリと鳴るが前に出れない。
 その理由はリンクしたことで生えた尻尾だ。それを子供に掴まれて思うように動けないのだ。
「こぉら、女の子の恥ずかしい部分をあんまり触ったらダメだよ」
「は、ははは、はずかしい、ぶ・ぶ・ん……っ?!」
 別にそう言うわけではなく、触られると何となくゾワゾワするだけなのだが、真也にそう言われるとそんな気がしてしまうから不思議だ。
「だーいじょーぶ! それにこれきもちいんだぜー?」
「はわわわわっ」
 ぶわわっと逆立った毛に男の子が楽しそうに尻尾を握り締める。
「こら!」
「ぃ!?」
 ガンッと頭を叩いた拳に男の子が蹲る。そして恨めしそうな目を真也に向けると、次の瞬間、彼女のスカートの裾に手を伸ばした。
 だが――
「ぎゃんっ!?!?」
「百万光年はやい」
 一瞬の出来事だった。
 能力者として一般人よりも早く動いたはずの男の子よりも前に動いた真也。彼女は男の子の手を叩くと、軽くデコピンをして彼の行動を注意した。
 その動きは現役エージェントだからできる動き。まだ未熟である子供の彼には出来ない動きに、周囲の子供たちも驚いたように動きを止めた。
「遊ぶときは遊ぶ。でも羽目を外しすぎたり、人が嫌がることをしたらだめだよ」
 ね? そう顔を覗きこんで微笑んだ真也に、デコピンで額を赤くした男の子の頬が赤らんだ。
 それを見止めて米衛門が笑う。
「さあ、みんなでトリック・オア・トリートッス! 美味しいクッキーを食べるですッス!」
 お菓子は自分で作ったこの分以外にも用意したらしい。
 真也にも手伝ってもらってクッキーを配る彼はまるで菓子職人のようだ。だからだろう、1人の女の子からこんな質問が飛んで来た。
「おにいちゃんのお仕事って、なぁに?」
「ん?」
「エージェントは仮の姿、じつはおかしやさん……とか!」
 目を輝かさせる女の子に「うーん」と視線が泳ぐ。
 この場合、正直に答えるべきか否か。だが良いことを思いついた。
「オイは皆を守るために活動している縁の下の力持ちですッス」
「縁の下の、力持ち……?」
 どういうこと? そう首を傾げた女の子に、ジャックオーランタンの形をしたクッキーを開ける。
「大人になったらわかるですッス」
 そう笑みを向けて自分も1つ摘む。と、その時だ。
「いっけぇぇええええ!!!」
 会場の隅から子供の元気な声が聞こえて来た。
 目を向けると、そこには大きなくまの着ぐるみと、子供たちの姿が見える。しかも彼らの前にはいつの間に用意したのかと言うほど大きなコースが。
「おお、今の完璧なコーナリングじゃないか!」
「くまさんのおかげだよ!」「つぎ、おれのマシーンをみて!」
 次々とくまに駆け寄る子供たち。
 くまは押しかける子供たち1人1人の話を聞きながら何やらアドバイスをしている。
「剛田、それは……?」
「おう、クロか。こいつは小型の動力付き自動車型プラモデルだ。最高にクールなマシンだ!」
「プラモデル……」
 良く見れば彼の周りにいる子供たちは皆自分の物を持っている。
「昼間からやっていたのはこれだったのか……」
 感心する久朗の言うように、剛田は日の高いうちから子供たちと何かをしていた。
 それがまさかプラモデル作りだったとは。
「おいおい。これじゃあパーツを盛りすぎだ。ここのところを少し減らしてだな」
「くまさーん、ボクのマシンが……っ」
「とと、肉抜きしすぎたか」
 半泣き状態の子供が持ってきたのは分解されたプラモデルだ。
 剛田によると軽量化を図りすぎてマシンが動きに耐え切れなくなったらしい。
「こうなると直すのは大変だが……ああ、クロ。そこのパーツとってくれ」
「え……いや、俺の手では……」
 かぼちゃの着ぐるみでは歩くことすらままならない久朗が完全棒立ちになる。
 先ほどのリンクごっこも悪役に徹することでなんとか輪に入れてたくらいだ。
 役に立てない自分の不甲斐なさに遥か遠くを見そうになる久朗の視界を割って、樹の手が伸びてきた。
「これで良い?」
「おう、すまねえな!」
 樹からパーツを受け取った剛田は子供に指示を出しながら分解されたプラモデルを修理してゆく。
 その後ろには、既に別の子供が数名マシン改造の相談に列を作っていた。
「この差は、いったい……」
 何度目の悲しい目だろうか。
 久朗は子供たちに大人気な永寿を見つめると、完全に着ぐるみのチョイスを間違えた自分を呪ったのだった。

●せいこうほうしゅう
「これが報酬……」
 本部に依頼報告に向かった帰り、久朗は仲間と共に交通費ほどのお金と一緒に受け取った封筒を見ていた。
 宛名は『エージェントのみなさん』となっており、中の方はまだ確認していない。
「開けるのが、少し怖いな……」
「何言ってるんですか。さっさと開けて皆にも見せてください」
「そうですッス。オイも早く中が見たいですッス!」
 急かす樹と米衛門に久朗が苦笑して封筒に手を掛ける。
 そうして開いた先にあったのは7枚のメッセージカードだ。
「名前があるな……えっと、全員分……か?」
 目を瞬きながらそれぞれにカードを手渡す。
 カードには子供の字で『今日はありがとう』の文字が書かれ、いくつか寄せ書きのように言葉が書かれていた。
 中には不恰好なかぼちゃの絵が描かれたものもある。
「『いっぱいなぐらせてくれてありがとう。またなぐらせてね』……いや、俺の趣旨はそう言うことでは……」
「俺のほうは『こんどミニ四駆で勝負!』か。ふっ、負ける気がしないぜ」
「いや、そこは嘘でも負けてやるのが大人だろ……」
 完全に子供との勝負で勝つ気でいる剛田に突っ込みを入れる久朗。そのまま賑やかな押し問答に突入する中、女性陣はそれぞれのカードを見せ合って笑顔を零していた。
「『こんどでーとしてくれ』だって」
「いとうさん、すごい……!」
「真琴だって『おいしいお菓子、ありがとう。またあそんでね』って書いてあるよ?」
「そ、それはお菓子がおいしかったから……」
「それでもまた会いたいって思ってもらえたんだよ? っと、樹の方はどうかな?」
「『紙芝居おもしろかった』と書いてあります」
 そう淡々と零して目を瞬く。
 その胸中には密かな達成感があるのだが、それは彼女の英雄だけが知っている。と言うことにしておこう。
 そして小鉄のメッセージはと言うと……。
『忍者の正体、次こそあばく!』
 堂々とした文字で書かれた宣言文。何度も忍者ではないと言っていたのに結局これか。
「拙者は忍者では……っ!」
 うな垂れたように崩れ落ちる小鉄に、樹は労うようにそっと肩に手を置くのだった。


END...

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa0032 / 真壁 久朗 / 男 / 24 / アイアンパンク / 防御適性 】
【 aa0213 / 小鉄 / 男 / 24 / アイアンパンク / 回避適性 】
【 aa0322 / 剛田 永寿 / 男 / 47 / 人間 / 攻撃適性 】
【 aa0340 / 佐倉 樹 / 女 / 19 / 人間 / 命中適性 】
【 aa0573 / 今宮 真琴 / 女 / 14 / 人間 / 回避適性 】
【 aa0595 / 伊東 真也 / 女 / 20 / アイアンパンク / 生命適性 】
【 aa1482 / 齶田 米衛門 / 男 / 21 / アイアンパンク / 防御適性 】
ゴーストタウンのノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2015年11月20日

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