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『甘い悪戯 』
イーター=XIka4402)&エリザベタ=アルカナka4404



 XIとIII――『懲罰と救済』を掲げている裏社会の団体組織の仲間である二人は、付かず離れずの距離感だった。……しかしそれはどこか曖昧で、どこか甘酸っぱい。
 そんな大人二人の、悪戯な夜のお話。







 街の外れにある寂れた教会の隣にある孤児院は、子供達の笑顔で溢れていた。……と言うのは、今日は『Trick or Treat?』と唱える日。大好きなお菓子を貰える特別なイベントだからだ。
 孤児院の子供達が見上げていたのは、慈愛の母。温かな優しい眼差しは、まるで我が子への愛情のよう。愛しい子がちゃんと言えるのを、ゆっくりと待っている。 ――そして。
「トリックオアトリート!」
「よく言えたわね、Happy Halloween」
 愛おしそうに微笑みながら、お菓子をひとつ。
「ありがとう、おねーちゃん!」
 満開の笑顔になる子供達の頭を、そっと撫でていた。






 凛と白く仄かに輝きが瞬く花……スズランには、『幸福が訪れる』という花の言葉がある。その言葉は彼女にぴったりだ。今こうして子供達が母なる愛に包まれている時間は、貴く、幸福なるもの。
 今宵の女帝は、さながら妖精の女王ティターニア。美しく纏う青薔薇も、アメジストの輝きも、思わず見惚れてしまうような華やかさだったから――。
「……ふむ、良く似合っているぞ? 美人だから映えるな?」
 こっそり見守っていたらしく、背後に立っていたイーター=XI(ka4402)は、本音をさらりと零す。一方のエリザベタ=III(ka4404)はというと時間が止まったかのように硬直していた。まさか彼が此処にやって来るなんて、想ってもみなかったのだ。
 どうして!?――と、顔に書いてあるエリザベタは思わず彼の名を叫びそうになるが、刹那、なんとか堪える事にしたようで、じとー、とイーターを見上げている。
 イーターの褒め言葉は本音だが、同時にからかっているのである事を見透かしているのだ。
 しかしその反応を含めて、イーターは楽しい。堪えながらも感情が剥き出しになっているエリザベタの様子を眺めてくつくつと笑う――……すると。
 ゴツっ、と思いっきりヒールで踏まれてしまうだろう。
 それは地味に痛かったかもしれない。

 子供達はというと、エリザベタを見て、イーターを見て、首を傾げていた。
「おねーちゃんの知り合いー?」
 その内の一人が尋ねると、エリザベタは少々戸惑う様に頷く。
「そう、ね。そんなところよ………?」
 ただ子供達に向ける表情は、蕩けるように優しい。
「もしかして恋人ー?」
 しかしまた違う一人が更に質問したこの言葉には思わず「えっ!?」とエリザベタは動揺の声を挙げてしまった。
「ち、違うわよ?」
「そうなのー?」
 子供達の質問に慌てて否定するけれど、信じて貰えていなくて。
 イーターの方は、(「なんとか言いなさいよ」)とエリザベタに目で頼まれていたが、微かに視線を外して敢えて聞かなかった事に。そればかりかエリザベタの反応を、じっくりと楽しむ為にだんまりを通していた。
「……!」(「イーター……!」)
「……」
 その心の声は届いているのに届かずに、男は敢えて助けない事で彼女をからかい続ける。
 そして、そうしている内に。
「おねーちゃん、おにーちゃんのこと好きなのー?」
「っ……―――!」
 やがて真っ赤に染まる、エリザベタの頬。
 好きか嫌いかで言えば?
 その答えを、エリザベタはよく分からないでいる。いや、絶対に認めたくないのかもしれない――。

 ああ、面白いな。

 イーターはそんなエリザベタの反応を十分楽しみながら、微かに笑った。
 こうしてコロコロと表情を変える彼女の反応がおもしろくてたまらないのだ。
 その想いは唯一の恋情とも似ている。
 ――ただ、そもそも昔は持っていなかった感情だったから、普通のものとは恐らく異なっているけれど。
 
「さて。すまないが今日はここまでだ。そろそろ妖精のお姉さんも帰る時間なんでな」
「えーー!」
 ようやくの助け舟。イーターがエリザベタの周りにいる子供達に云うと、残念そうな声が返るだろう。まだエリザベタといっぱい遊びたいのだ。
 それにエリザベタも、「ねぇ、それはちょっと……」と一言。
 少々事情があるような雰囲気を漂わせ、口を噤みながら。
 子供達に聞こえないように、こっそり、「……私、まだここから離れられないわ」と小声で伝えるだろう。

 実はというと――今エリザベタは単独潜入の任務を任されていた。
 子供達にお菓子を配っていたのもその為なのである。
 だからこそ未だ自分は此処に居なければならない、と。 
 しかし。それを聴いたイーターの返事は、エリザベタにとって想定外の言葉だった。

「それなら終わったぞ?」
「えっ」

 驚きのあまり、固まるエリザベタ。

「今なんて……」
(「任務なら終わった」)

 最初は一体どういう事なのかと理解できなかった。エリザベタには単独潜入の任務だと伝えられ、任されているのだから無理もない……。
 だが、彼女がその答えにたどり着くのには、そう時間は必要が無かったことだろう。イーターが此処に居る理由。
 そのワケを想像するならば、辻褄がぴったりと合致したのだ。

「……」
「さ、帰ろうか」

 そう。
 ――今回の任務は最初から、《単独》では無い。と、言う事なのである。

「イーター!!」
 
 思わず、堪らず、思いっきり叫んだ。こうしてさっきまではずっと耐えきれていた分が、街の外れに響くだろう。
 そんなエリザベタにイーターは面白そうに笑いを零す。ああ、楽し過ぎる。だが「子供達が見ているぞ」と、優しくなだめながら、落ち着かせようと。それを受け、エリザベタはやむをえなく、大人しく。
 そしてゆっくりと深呼吸してから、愛しい子供達に。

 別れを惜しみながら笑顔で、バイバイ。

「またね」

 と、手を振った。

 恋人と言うには足りず、友達や親友でもない―――
 そんな彼と肩を並べつつ、けれども近すぎない距離で。

 帰路につく背中を、子供達から憧れられるように見守られながら………。






「結局私は囮だったのね」
「そう拗ねるな。リザが居なければこの任務は遂行出来なかったんだ」

 夜が訪れた裏通りは人通りが無く、闇ばかり。
 任務を終えて帰還する事となったイーターとエリザベタの二人だけ――。
 表の方では今もハロウィンに浮かれ賑わっているが、此処の静寂は二人だけのもの。
 そして。あっと思い付いたエリザベタはイーターの方へと振り向くと、ふふ、と悪戯っぽく微笑んでいた。

「ねぇイーター。今日はハロウィンよね?」
「ん?」
「お菓子をくれないと悪戯をしてもいい日よね――?」
「……」

 常日頃、からかわれてばかり。
 またとないチャンスだからこそ云った。

「Trick or Treat?」
 ――お菓子を持っていないなら、悪戯してもいいわよね?

 悠然と微笑む『女帝』。
 母のように愛情深く、穏やかたる物腰で。
 組織の『女帝』の地位に就くのも頷けるオーラが溢れている。
 しかし。

「Happy Halloween」
「……」

 イーターはあっさりとエリザベタの掌に飴を一粒乗せた。
 なんと事前にポケットに飴を忍ばせていたのだ。

「こういう事もあろうかと思って、忍ばせておいて正解だった」
「何よ……つまんないわね」
 エリザベタは失敗したことを残念そうに呟きつつ、袋を開けて。
 早速口に入れて、飴を舐めた。
 淡く甘酸っぱいレモン味。

 その時、イーターは鋭い眼光を柔らかく細め、云った。

「Trick or Treat?」
 ――お菓子を持っていないなら悪戯してもいい日、なんだろう?


「!!」

 エリザベタは、しまった……というような顔をして動揺をした。
 さっきまではいっぱい持っていたお菓子。
 それは全て、子供達にあげてしまっているのだ。


「くれないのか?」

 イーターは余裕綽綽の様子で首を傾げつつ、敢えて尋ねた。
 エリザベタがお菓子を持っていない事を知りながら。

「……なら悪戯されても文句は言えないな?」


 微笑み浮かばせて歩むなら、エリザベタは「ちょ、ちょっと……!」と一歩下がる。
 イーターがひしっ、と手首を掴む力は何処か優しいのに敵わなくて。

 目をぎゅっと瞑り、悪戯されるのだと身構えていたら……――
 柔らかな感触が、額に。

「―――!!」

 イーターはエリザベタの反応を窺うと、ふっと笑みが零れた。
 不意打ちの甘い悪戯。
 彼女はどんな表情をしたかというと―――……
 それは彼だけが知る、秘密ということで。



「やはり飽きないな、リザは」




 今宵の空は美しく
 星がきらりと輝いていた
 まるで二人を見守る様に
 




 HAPPY HALLOWEEN ♪





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4402 / イーター=XI / 男 / 44 / 漆黒のロマンス】
【ka4404 / エリザベタ=III / 女 / 26 / 純白のロマンス】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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とてもお似合いで憧れずにはいられず、大人のロマンスを感じながら執筆しておりました。
こんにちは、瑞木雫です。この度は、ゴーストタウンのノベルの御依頼誠にありがとうございました!
いかがでしたでしょうか……?
アドリブ等も沢山使わせて頂きました為、お気に召して頂けるかどきどきしております。
もしも内容の中に不適切な点等御座いましたら、遠慮なく仰って頂けるととても有り難いです。
お二人の思い出の物語となれていますように。
ゴーストタウンのノベル -
瑞木雫 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年11月25日

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