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『鈴猫のお迎え 』
珠々(ia5322)
 理穴国は首都奏生の上原家は武芸や諜報活動においては優秀な人材を多く排出されている家柄。そこの家の娘が半年前に求婚をされて、近日に祝言を挙げるという。
 今日も贈り物が届き、上原家は忙しい。
「御樹家、来れるのか?」
 中を改めつつ、確認しているのは上原麻貴。
 七年前に上原家へ嫁入りして一子一児の母となり、現在は養女の姉が嫁入りする為、家の中を取り仕切っていた。
「市原家か! 緒水ちゃん一家も元気そうだな」
 手紙には式にも現れると書いてあり、麻貴は嬉しそうであった。
 ここ一ヶ月、武天と理穴の両親の付き合いから娘が関った所からお祝いが続々と届けられている。
 当人である珠々は驚くばかりで、二間続きの部屋が埋まりかけている。
 婚礼まであと四日――。

 翌日、珠々は義父とキズナが帰ってない事に気づく。
「おかあさん、今お仕事忙しいのでしょうか?」
 珠々が尋ねると、麻貴は言葉を選ぶように沈黙してしまう。
 麻貴が話したのは、キズナは今、内偵を行っているということだ。
 七年ほど前に終結した事件の後始末が終わってなかったことが判明したという。
「……あいつが攫った娘たちを使って武器工場があっただろう。あれは解体する予定だったが、されてなかった」
 解体する業者を買収し、そこで盗品の売買を行い、管理をしているという。
「待ってください、監察方の事件は基本、表沙汰には出来ません」
 珠々の言葉に麻貴は「当然だ」と頷く。
「監察方二組の者が該当するという調査があった。その者は解体業者を買収して口止めをした」
「おかあさん、キズナは知っているんですよね……」
「二組は理穴国でも広域な調査を行っている部署だ……問題の役人は、キズナが見習いの時によくしてくれた人物だ」
麻貴の言葉に珠々は拳を握りしめる。
「祝言は二人で挙げるものです。キズナがもたつくようであれば、私が仕留めます」
 珠々が立ち上がり自身の部屋へと向かう。
 即座に忍び装束へと姿を変えて珠々は忍刀を手に持ち、馬に乗って、再びかの土地へと向かった。

 一方、キズナは武器工場で忍びこんでいた。
 本来、ここを所有していた者はもう、この世にいないことをキズナは知っている。
 キズナの養い親であった男。
 自分には優しく、強く、里の皆に慕われていたとしか覚えしかない。
 彼が行ってきた罪を知って衝撃を受けたが、彼への思慕は揺るがなかった。
 しかし、罪をすべて受けた彼に対して、今行われている状況はキズナにとって耐えきれない。
 他の悪事へと使われている事が許せなかった。
 表舞台に引きずり出すことは出来ない。
 せめて、現理穴監察方主席の前には引きずり出したいのだ。
 彼もまた、この事を悲しんでいるから……。
「キズナ、いますね」
 穏やかな声が聞こえた。
 見習い期間に二組へ出向していた際に面倒を見ていてくれた人。
 歯噛みしたキズナは言われるまま、姿を現す。
 今、二人しかいない状況であるが、超越聴覚が隠れている気配を察する。
「見つかってしまって残念です」
 穏やかに微笑む彼の笑顔はどこか歪んでいるように見えた。
「主席の元へ連れて行きます」
 キズナが剣を抜き、構える。彼は予想をしていたのだろう、周囲を見回すように一瞥して手を上げた。
 それが合図であり、二十人ほどの武器を携帯したゴロツキ達がキズナを囲む。
「ここで犯罪などもう、犯させない」
 低い声のキズナは怒りと殺意で身体中を満たしていく。
「やってください」
 彼は周囲のゴロツキ達に声をかける。唸り、雄叫びを上げてキズナへと武器を振るおうとしている。

「キズナは返してもらいます」

 艶のある低い感情を押し殺したような女の声が響く。
 進行方向にいた邪魔なゴロツキ達を蹴散らかして一陣の風の如く、飛び込んできた。
「珠々……!?」
 驚いたキズナの言葉に珠々はぎろりと、キズナを睨み返す。
「あなたはばかですか。このような事を黙っているだなんて。今日を含めあと三日で何があるかは分っているでしょう」
「ば、馬鹿って……」
 うろたえるキズナを無視して珠々は二組の役人と対峙する。
「これは主席令嬢。ご機嫌麗しゅう」
「……そして、さよならです」
 地を蹴った珠々は刀を逆さに構え、役人を斬りつけようとするも、寸でに刃を合わされて払われてしまう。
「流石は歴戦の開拓者、噂に違わぬ技です」
 母、麻貴の言葉通りに役人は強いと感じた。
 一人では無理だろうが、今は夫となるキズナがいる。
 自分もここの元主には色々と思うところがあるし、深い傷も負ったことがあった。
 許せるわけじゃない。
 今も尚、キズナの心を奪わせる『彼』のカリスマ性にとても嫉妬している自分がなんだか悔しいのだ。
 奥義『天津風』を発動させた珠々は、風を感じる間も与えずに役人の背後をとって背骨に肘を打つ。
「……がっ」
 短く呻いた役人はその場で倒れこみ気を失った。
「戦うものがいれば、叩きのめします」
 周囲のゴロツキを見やった珠々は声を上げる。
「わらったり、ないたり出来ないようにさせます」
 その言葉は冗談ではない事を思い知らせるには十分なものであった。投降するようにゴロツキたちは武器を捨て、膝を地につける。
「キズナ、おばあさまが待ってます」
 帰りましょうと、珠々は促す。
 入れ違いに、理穴監察方の役人達が飛び込んできた。珠々とキズナに労わりと冷やかしの声をかけて。

 外に出た二人は中から微かに聞こえる喧騒に一度振り向いた。
「ボクの出番、なかったね」
 助けられて格好悪いやといわんばかりにキズナが笑う。
「……キズナは、私のかぞくで、だんなさまですから」
 珠々は恥ずかしそうに言えば、キズナは嬉しそうに微笑む。
「正直、あのひとがしてきた事は非道だと思う。どんな理由があっても」
 工場を見つめるキズナの表情は珠々の立ち位置からは見えなかった。悲しい表情をしているのだろうかと、珠々はキズナから目が離せない。
「ボクも同じ立場になったらどうしたんだろうって考えたとき、あったよ。でも、いっくら考えても、珠々がアヤカシに殺されるだなんて絶対にないって思うんだ」
 やっと振り向いたキズナは笑顔だった。
「当たり前です」
 ほっとしたことを気付かれないように珠々はそっぽを向く。 
「強いお嫁さんでよかったなーって思うよ」
 にっこり微笑むキズナは珠々の前に立つ。
「一緒に行こう。一生かけて」
 手を差し伸べるキズナに珠々は素直に手をとった。
「帰ってこなかったら迎えに行きますから」
 まだ素直になりきれない珠々の言い方はまだつっけんどんであった。


 三日後、上原家では祝言が無事に執り行われる。
 花嫁は、武天の領地の一つである、繚咲の白無垢に身を包んでいた。
 この日の為に貌佳に住まう職人達が力を合わせて手にかけ、幸せでありますようにと作成された白無垢は見事な一品で、ため息が零れる。
 二人を幼い頃から知る者達が沢山姿を現し、花嫁は嬉しそうに夫と顔を見合わせ、互いの手を重ねていた。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ia5322 / 珠々 / 女 / 多分、20歳くらいに見える / シノビ】
【iz0048 /羽柴麻貴/ 女 / 30歳くらいに見える / 弓術士】
【iz0056 /鷹来折梅/ 女 / 尋ねたら命はない  / 一般人です(真顔)】

ゲスト:キズナ
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舵天照 -DTS-
2015年11月25日

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