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『Root 』
クレイグ・ジョンソン8746)&フェイト・−(8636)&バルトロメオ・バルセロナ(8752)

「やぁ、おはよう二人共。いい朝だね」
 眩しい金髪をパサリと手で払いつつそう言うのは、バルトロメオであった。
 ここはホテルのロビーである。
 彼に伝えてはいなかったはずなのだが、集合時間の十分前という所で、突然現れたのだ。
「お、おはよう……バルトロメオさん」
「キミたちは任務中は黒尽くめなのかい。ナイトウォーカーはともかく、フェイトはキュートにまとまっているね。とても良く似合っているよ」
「ど、どうも……」
 フェイトを過度に褒める事をやめないバルトロメオは、やはり彼を気に入っているらしい。
 真正面からそれを受け止める形となったフェイトは、引き気味に言葉を返していた。
「……アンタはいちいち一言多いんだよ。私服みてぇだが、良いモン着やがって」
 クレイグが難色を示しながらの言葉を発すると、バルトロメオは自慢気にふふんと笑ってみせる。
「男はセクシーかつエレガントに飾るものだ。どうだい、この下ろしたてのスーツ。かのジェームズ・ボンドが愛用していたブランドだよ」
 グレーの質の良さそうなそのスーツは、私服ではあるがシルク仕立てらしいということが作りからしても解る。
 一般人では中々手に届きにくい値段の『一品』であった。
 ちなみに、中に着ている藍色のシャツも、光沢を放ちつつ縦のストライプが細かく入りこんだ精巧かつ高級な作りのものであった。彼の言うセクシーさは開襟の襟が物語っているのだろうと思いつつ、それは敢えて口にはしない。
「そうだ、こうして巡り会えた縁に、フェイトにも特別に仕立ててあげてもいいんだよ?」
「え? い、いや……俺は別に……」
 バルトロメオが名案と言わんばかりの表情でそんなことを言ってきた。
 慌てて首を振って断りを入れるのはフェイトで、隣に立つクレイグの表情があからさまに嫌そうなものになる。
 何かを言おうと口を開くも、今はそれどころではないと悟った彼は、ため息を吐き零してバルトロメオに通信機を手渡した。
「装備の方は大丈夫なのか?」
「その辺りの心配はいらないよ。ボクは私物をいくつか普段から持ち歩いているからね」
 素直に通信機を受け取りそれを装着したバルトロメオは、クレイグの言葉に視線で誘導しつつの返事をする。
 彼の足元にはアタッシュケースが一つ。中身は銃のようだが、支給品ではなく私物らしい。
 バルセロナ家の紋章が何よりの証拠でもあった。
「貴族のお坊ちゃんの割には、護衛もつけねぇのか」
「ああ、その辺に紛れているとは思うよ。ただ、彼らもその道のプロだからね。そう簡単には気配は探れはしないだろう」
「まぁ、そっちが勝手に着いてくんだ。自分の身は自分で守ってくれなきゃ、俺達も困る」
 クレイグとフェイトは『任務』だが、バルトロメオはあくまでも個人での行動である。本来ならば管轄外の人物を巻き込むのはタブーだが、彼自身が強く望んだこともあり今に至っているらしい。
「さて、どう動くか」
「ナイトが昨日撃ってくれた発信機はまだ生きてるね。このままそっちに行ってもいいけど、例の薬剤がどこから流れてるかも把握しておきたいかな……」
 男三人がロビーで立ち話を続けるのも、と彼らは会話を続けつつホテルを出た。
 フェイトは端末を片手に独り言のような言葉を発する。
「ではボクが、薬剤の件を追おう。実はすでに目処はついているんだ」
 フェイトが見ている端末の画面を見ながら、バルトロメオがそう言った。
 観光目的という名目上ではあったが、ある程度の事はやはり把握ができているようだ。
「……バルトロメオさんは随分とその……今回のクリプティッドの件に執着してるね」
「そのクリプティッドがあのような姿じゃなければ、ボクもここまで追っては来なかっただろうね。これは個人的なプライドが働かせているようなものだ」
「人狼……か。そういや、IO2にもアンタみたいなのがいるが……そうじゃねぇんだろ」
 三人は歩きながらそんな会話を交わす。
 数メートル先に見える公園を目指しているようだ。人目を避けるためなのだろう。
「ジーンキャリアだね。ボクの一族は人為的なそのモノの遺伝子を投与されたわけじゃない……生粋のライカンスロープだよ。遠い過去の話になるが、先祖が人狼と交わってね」
「さらっと言うけど、とんでもない話だよね……」
 バルトロメオの言葉に、フェイトがそう返してくる。
 人為的な投与で『そうなった』者達とは関わり合いがあるが、生粋の存在と出会いこうして会話をしている現実が、どこかおかしな気もするのだ。
「今時、珍しい話でもないだろう? ヴァンパイアだって実在するんだからね」
「まぁ、それは……知り合いにもいるから、そうなんだろうけど」
「アンタみたいな純粋な希少種ってのは、早々出会えるもんでもねぇと思うけどな」
 バルトロメオの行動の意味は、そのルーツを聞けば何となく理解は出来た。今回の件で一族の名が汚されているという事が、許せないのだろう。
 だが、純粋な存在である彼が、何故IO2に所属しているのだろうか。
 そこにも興味が繋がっていくが、今はそれを聞いている時間もない。
 公園に辿り着いた彼らは、周囲を見回した後、こくりと頷いてみせる。行動を開始するようだ。
「……俺らは発信機を追う。多分、そんなに離れてるわけでもねぇだろうから、アンタも何か見つけたら深追いしねぇで俺かフェイトに知らせてくれ」
「了解したよ。お互い、無理せずに行こう」
「気をつけて」
 クレイグとフェイト、そしてバルトロメオが一気に駆け出す。二手に別れたそれは左右に綺麗に分かれていた。


 一般人を襲う人狼がいる。
 それを耳にしたのは、一週間ほど前の話だ。
 長期休暇を取っていたバルトロメオは祖国イタリアから離れ、アメリカの各地を巡る旅行をしている最中でもあった。
「バルセロナ家の仕業では無いだろうな?」
 そう囁かれた言葉は、身内から出たものだった。確か、分家にあたる遠い親戚の男だったように思える。
「過去はどうだったかは知らないが、現代に存在するボクらはそんな野蛮なことは滅多にしないよ」
 バルトロメオはそう答えつつも、いつの間にか調査のために出歩くようになった。もちろん、名目上は観光である。
 闇の眷属なれども、自我を失ったことはない。血脈に誇りも抱いているし、プライドだってある。
 始祖たる狼は、バルセロナの娘と恋に落ちた際、ヒトと交わること自体を一度は躊躇ったという。静かに残される多くの子孫たちの行く末を考えれば、当たり前のことである。
 自尊心を失わず、それでいて一族を出来る限りで大切に扱ってきた。ヒトよりよっぽど、誇らしい存在であったのだ。
 その血が自分にも流れている。言葉には表し難い熱い何かが、いつでも心の奥で静かに滾っている。
 だがそれは、無意味に人を襲うための感情ではない。
 何よりそれを証明するのは、自分という存在である。
 だからこそ彼は、自ら行動を起こしているのだ。一族の誇りをかけて。
「ボクの直感にアンラッキーの文字はない。……そう、信じるしか無いのさ」
 ぼそり、と小さく呟きながら、バルトロメオはこの地で予め目星をつけていたポイントへと足を運んだ。
 鼻を鳴らせば、ほんの微かに薬物の匂いがする。
 郊外にある古びた廃屋は、人気のない長い路地の先に存在した。
 辺りは静まり返っている。
 壁に背中を預けつつ、私物の銃を手に収めたバルトロメオは、息を殺してその先へと視線をやった。
 やはり、誰もいない。
「……僅かな気配は残っている。数分前にはここにいた……。少し、出遅れてしまったようだ」
 廃屋の手前、敷き詰められた石畳が妙に凹んでいる部分がある。それは人が踏みしめていた何よりの証拠でもあった。バルトロメオは言葉なく膝を折り、地面に手のひらをそっと充てた。微かにだが温もりがその場には残っている。そして、踏み潰された煙草の吸殻と小さなビニール袋の切れ端が無造作に目について彼はそれを手にとった。もちろん、指紋をつけないように手袋を装着している。
「ナイトウォーカー……彼は視る専門のようだが、こういう物の霊視は可能なのだろうか」
 そう呟いてから、バルトロメオは通信機に手をやった。
 ジジと数秒の電子音の後、応答を示す声が聞こえたのはそれからすぐの事であった。

 同時刻――それより数分前。
 発信機を追っていたクレイグとフェイトは、その道先がどんどん治安が良くない場所に繋がっているとそれぞれに自覚していた。
「フェイト」
「わかってる」
 移動を続けながら、短く言葉を交わす。
 流れる視界の端では、怪しい目つきをした若者同士が秘密の取引などが行われていた。
 汚れた金が普通に流れる場所。
 そんなところに彼らは紛れ込んでいる。
 そして、当然のごとく異質の目を向けられていた。
 数秒後、クレイグがふと足を止めた。同じように、フェイトも足を止める。
「俺のすぐ後ろにいろ」
 クレイグはそう言いながら、一人の若者に足を向けた。そして「よぅ」と気さくな笑顔を向けて、彼に声をかける。
 フェイトは言われたとおりに周囲を警戒しつつ、クレイグの後に続いた。
「兄さん、薬買わねぇか。色んなのあるぜ。ハイになれたり、美人と一緒に天国行くやつとか」
 キャップ帽子を目深く被った若者は、ニヤニヤしながらクレイグにそう言ってきた。
 明らかに違法な事柄に足を突っ込んでいる風だ。
「そっち系のはこいつで間に合ってる。それよりもっと、ヤバイの無ぇか? 例えば、すげぇ強くなれるとかさ」
「ちょ、ちょっと、クレイ……」
 クレイグは放った言葉は少しだけ刺激的は響きであった。それと同時に、背後にいたフェイトを抱き寄せてわざとらしく見せつける。
 その直前に、フェイトに言い寄ろうとしていた別の存在がありそれを見越してのことであったのだが、あまりの突飛さにさすがのフェイトも動揺を隠せなかった。
「兄さんそっちの趣味かよぉ。でも、だったら余計にヤバイの必要かもな? 丁度いいのがこの奥にあるぜ」
 若者はさらにニヤリと笑みを深めつつ、自分の肩越しに親指を向けた。
 狭い路地の先に、それがあるらしい。
「おっと、タダじゃ通れねぇよ?」
「解ってる。……あんまアブねぇ事には首突っ込みすぎんなよ」
 しっかりと通行料をせがんでくる若者に、クレイグはポケットマネーを握らせた。
 その際、少しの苦言も忘れずにだ。
 それが彼に伝わるかどうかは解らないが。言葉は言霊として残る。
 耳元でそんな彼の言葉を聞いたフェイトは、小さな笑みを作っていた。
 そして二人は、路地の先へと足を踏み入れた。
 奥では重低音がよく響く音楽が流れている。
「一般的なヤツに混じって流れ込んでやがるな」
「集まってる人も多いみたいだね」
 路地の先は広場になっており、その場には若者たちが多く集っていた。
 音楽と共にに盛り上がっている様子だが、それぞれの視線が怪しい。
「――――」
 何かを感じ取って、クレイグもフェイトも頬を引きつらせた。
 直後に、まずい、と感じる。
<……ナイトウォーカー、そちらはどうだい?>
 クレイグの耳元にそんな声が聞こえてきた。電子を通したそれは、バルトロメオのものであった。
「あー……、そうだな。取りあえずは潜入は出来た。だが、どうにも嵌められたっぽいなぁ」
 集っていた若者たちがその動きを止めて、一斉にこちらへと向き直る。
 目が赤く光り、その身体は見る間に変容していった。
 フェイトが銃を構える。
 クレイグはそんな彼に背中を預けつつ、バルトロメオに応答していた。
 ――嫌な記憶が甦る。
 まさに『あの時』と同じ状況ではないのか。
「アンタはこっちにすぐ来られるか?」
<了解した、すぐに向かおう。3分ほど耐えてくれたまえよ>
 バルトロメオはそれだけを言い切ると、通信を切った。
 彼はこちらの状況が良くわかっているかのようであった。
 たが、たかが3分は、されど3分でもある。それを踏まえて、クレイグはIO2へと応援要請を即座に出した。
 任務を開始する前に、予め用意してもらっていた要員である。
「フェイト、行けそうか」
「……殺さないように努力はするよ。ナイトも俺だけ逃がそうとか、もう考えないでよね!」
「そりゃ、状況にもよるけどなぁ!」
 二人同時に、左右に銃を放つ。
 若者たちは奇声を上げて彼らに飛びかかってきた。
 その姿は、昨日見かけた人狼のような形。筋肉強化剤を服用した証だ。
 急所を外して一人ひとりを相手にする。その場で円を書くようにして背中合わせで戦う二人は、武器が銃である分の不利があった。纏めて仕留めることが出来ないからだ。
 爆発を起こすブラスト系の球もあるが、それも良くて二人程度しか巻き込むことは出来ない。
 この状況を長く続かせるわけにもいかず、クレイグは透視を応用した退路を見る体制に入った。
「ナイト、それはオススメしない!」
 クレイグの能力を傍で察知したフェイトが、そう言ってきた。
 以外にも彼は、冷静だ。
「あの時の俺とは違うから! 大丈夫だよ!」
 背中から伝わる彼のしっかりとした声。
 それを体で感じて、クレイグは浅く笑った。
「……それなら、もう少しだけ頑張らねぇとなぁ!」
 危機的状況にも関わらず、彼はそう言ってまた銃を放つ。その表情は、笑みを浮かべたままだ。
 そうだ、あの時とは違うのだ。
 心でそれを繰り返すと、安心感が広がっていく。
 フェイトも自分も、目に見えない成長がそこにはあるのだろう。
 ――そして。
「やぁ、待たせたね二人とも!」
 やけに明るい声が頭上から響いてきた。
 出で立ちも軽やかにかつ華麗に姿を見せたのはバルトロメオで、彼は銃を空中で数発放ちながら地上へと降りてくる。4、5人ほどが地面に沈んだ。だが、殺したわけではない。
「命を軽んじるのはボクの美意識にも反するからね」
 いつも通りの彼である。
 だが今は、それがとても有り難いとも思えた。クレイグにとっても、フェイトにとっても。
 その後、数人の応援要員も駆けつけてくれて、その場は一気に終息を迎えた。
 若者たちを拘束後、詳細を問い質すためにコンタクトを取ったが、変容してしまった彼らには言葉が通じないようであった。
「どうやら本元には完全に逃げられてしまったようだね。ボクのほうも気配は残っていたんだが、もぬけの殻だったよ。例の薬剤はそこからこちらに運び込まれていたようだ。遺留品らしきものは回収してある」
「しょうがない……俺がテレパス使ってみるよ」
 フェイトがそう言いながら、一人の若者の前に進み出た。拘束されているにもかかわらず、彼らは犬のように噛み付こうとする仕草を見せる。それを見たクレイグが、フェイトの傍へと寄り、彼の背に手を置いた。
「無茶はすんなよ」
「うん」
 それだけの会話を交わしてから、フェイトは能力を発動させた。緑色の目が淡く光る。

 ――コレを飲むと、望んだ通りの強さが手に入る。欲しくはないかい?

「……ッ!」
 ビクリ、と身体が震えた。
 聞き覚えのある声のような気がしたのだ。
「ユウタ」
 クレイグが耳元で名前を呼ぶ。
 その声があるから、彼は何とか平静を保つことが出来た。
 だが、次の瞬間。

 ――いい子だね。もっとその力を見せておくれ。

 自分の記憶と、若者の記憶がブレて再生される。
 強い目眩とともに脳内を横切った影は、かつての『勇太』が監禁されていた施設にいた、研究員の姿であった。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年11月26日

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