▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『切磋琢磨、白光の一手 』
月居 愁也ja6837)&夜来野 遥久ja6843


 秋の終わり。朝の静寂に包まれた武道場。
 清廉な空気の満ちたそこに、竹刀を向け合う剣士が二人。月居 愁也と夜来野 遥久だ。
 紺地の道着が愁也、白の上下が遥久。視線と剣先で互いの呼吸を読み合う。
(その誘いには乗らないぜ、遥久……。もう少し、もう少し……)
 攻め込みが基本スタイルの愁也だが、その手は読まれていると知っている。
 遥久が、誘い込みを得手としていることも。
(――今だ!)
 試すような隙、そこから再び剣筋が戻ったところを強く叩き、愁也は踏み込む。
「……っ!?」
 構えを強くするほどに、弾いた竹刀への力は大きいはずだった。けれど、何だ、この軽さは……

 ――スパン!

「胴アリ!!」

 二人きりの道場内に、第三者の声が響く。余韻が消える頃には、愁也にも事態がわかっていた。
 『隙を戻す動き』までが、遥久の誘いだった。
 愁也の払いに合わせ軽く竹刀を回転させての、抜き銅。鮮やかな一本。
「お見事お見事。おはよ、二人とも」
「筧さん!!」
「筧殿。珍しいですね、こんな時間に学園だなんて」
 ジャッジをし、入り口で手を叩いているのは学園卒業生・筧 鷹政。彼もまた、剣道経験者だ。
「先生に相談があって朝イチで来たら、早すぎてね……。時間を潰そうとぶらぶらしてたら、良い音が響いたから」
 まだ、午前8時前だ。
「良ければ、筧さんも手合わせしませんか! 滅多にない機会ですし!!」
 剣道部の、予備の防具を借りれば問題ないでしょうし!!
「……良いのかな」
「是非」
 思案する鷹政へ、遥久も深く頷く。
「観せるためでも、一般人相手の稽古でもありません。撃退士同士の技と力のぶつけ合いです」
 遠慮は無用。言外の語りに、ややあってから鷹政は口の端を上げた。
「伸び盛りの若者に、どこまで対応できるか不安ですが。それじゃ、お言葉に甘えようかな」



●烈火と猛火
 正眼に構える愁也に対し、鷹政は右足を引いて上段に構えた。
(……身長は同じくらいなのに、威圧感すげぇな)
 飛び込む前に、竹刀が振り下ろされるビジョンばかりが愁也の脳内で繰り返される。
(やめだやめだ、こういう時こそ考え込んでちゃだめなんだっつーの!!)
 スピードと気迫で決める。
 声をあげ、突きを狙う。打ち落とされる。その勢いを利用して手先を返し、斜めに振りかぶって面を狙う!
「っと!」
 首を捻って外されて、半歩引いた相手がすかさず面を打ち込んできた。愁也は距離を縮めて体当たりからの鍔迫り合いで間を繋ぐ。
(スタミナには自信あり、ってところだな。力もある)
 猛獣の様な赤褐色の瞳を覗き、鷹政は愁也の実力を測った。長期戦に持ち込まれれば、分が悪い。
「せぇい!!」
 突き放してから、愁也の熾烈な連続攻撃が始まる。上段を構える余裕を与えず、鷹政は防戦一方だ。
 ライン際近くまで押され――
 じわりじわりと下がっていた鷹政が、浅い抜き銅を打ちながら斜め前に抜ける。側面へと回り込み、無駄のない動きで――
 パァン!!
「深い」
 狙った面は、当たりが深くて一本とならない。
「いっ……てぇええええええ!!」
 が、食らった愁也の目には星が飛んだ。
「今度は、こちらから行くよ」
「ぐっ!! させないですよ!」
 一度、遠く離れた間合い。構え直そうとする愁也は、目を疑った。
 上段から、左手だけで握る竹刀がズイと伸びてくる。
 『距離』の概念が、剥がれ落ちる。
 遠距離からの踏み込み、片手面。

「面アリ! 一本!!」




「はーーーっ やられた……ってか、筧さんの最後のナンですか、凄い伸びでしたけど」
「普通の片手面だよ。上段からだと、かなり伸びて感じるだろ」
「剣道経験者とは伺っていましたが、筧殿の経歴はどのくらいなのですか?」
「小学校入ってから、ずっとだねぇ。昇段審査はアウル発覚まで受けてて、四段止まり。二人は?」
 遥久の問いへ、面を外しながら鷹政が答える。次は遥久と鷹政の試合だが、その前に小休憩。
「俺は中学生から始めてー、今は二段です。そんで遥久が」
「三段。稽古は欠かしたことがありません。たしかに、アウルに目覚める前後では感覚が多少なりとも変わりますね」
「稽古の相手や対応を変えていかなくちゃならないしね。こうやって全力で試合ができるのは貴重だなー」
 額から流れる汗をタオルで拭いながら、卒業生は嬉しそうに笑う。
「二人は良いね、こうして切磋琢磨できる相手が傍にいて。大事なことだ」
「傍にいるために努力してますから!!」
 愁也は袖をまくって力こぶを作る。痣や傷跡が目立つ。
「でも実戦では盾役として動くことが多いんで、こうして竹刀を握るのって新鮮なんですよね。稽古は週イチでやってるものの」
「ああ、確かに普段使う武器は別物だよな」
「筧殿は太刀が主武器でしたね? その辺りは、得意を活かしてという選択でしょうか」
「そうだね。撃退士になった時は右も左もわからなかったから、少しでも心得のある物をーって。単純な動機だったけど、それだけ迷いは少なかったな」
 その辺り、盾を扱うことを選び成果を挙げている愁也は凄いと、率直に告げる。
「俺、痛いの嫌だったからなぁ」
「筧さん、それじゃ俺が痛いの好きみたいじゃないですか……」
「あはは、ごめん、そうじゃなくって。月居君も夜来野君も、『誰かを守る』ことに迷いが無い姿が良いなって」
 自分は刀を、現状を切り裂くために振るってきたから。
「学園に居た頃に、もっと広く学んでおけばよかったなぁって思うのよ。銃も盾も、絶賛勉強中ですからね」
 最新の技術。武器。そういった恩恵は、久遠ヶ原へ集まる。
 卒業し、己の手で仕事を選ぶ自由を得る代わりに、そういった後ろ盾が無くなる不安定がフリーランスにはあった。
「そうはいっても、アウルの力が最盛期なのは若いうちだし。撃退庁や企業も、一人前の撃退士は少しでも早く多く揃えたいだろうしね」
 どのタイミングで学園を去るか。見極めは、難しい。
「でも、どんな道を選んでも……こうやって、学園の道場で剣道が出来るってのは嬉しいねぇ」



●静寂と森閑
 互いの気勢の声が、道場内に響き渡る。
 愁也との激しい攻防とは一転して、遥久と鷹政との試合は水面下での手の読みあいだった。
 泰然自若とした遥久の構えには一分の隙も無く、鷹政の上段もまた矢を番える兵を並べる砦の如きである。
 ダダ、足を踏み鳴らし攻めの姿勢を見せる鷹政へ、遥久は揺るがない。青眼に付けた構えた崩れない。
 伸び来る竹刀を擦り上げ―― 面は相打ちですれ違う。
 振り向いて、構えを整える間に小手から面へと鷹政が連撃を。竹刀の軌道をずらしてそれらを往なし、遥久は体当たりを受け止める。
 接触は短い、素早い引き胴で遥久は再び間合いを取った。
(スゲー、遥久かっけぇええええ)
 先ほどまで剣を交えていた愁也は、鷹政の一撃の重さをよく知っている。それを、容易く躱してみせるのだ。あの親友は。
(筧さんとは同じ阿修羅だけど…… なんだろうな、何が違うんだろう)
 基本的には、愁也と同様に攻め手に思う。攻撃の重さは経験からくる差か。
 真っ直ぐで伸びやかな剣筋に邪気はない。真っ当な剣士だ。
(伸びる……うわ、またあの距離)
 先にじっくりと見ていた遥久は、その距離も読み切って小手を返した。若干、浅い。
(そうか、全身だ)
 遥久と鷹政の試合を見ていて愁也が気づいたのは、鍔迫り合いの少なさ。
 全身を使った打ち込みに切り返し。一閃してすれ違う。
 一手一手を慎重に大胆に、互いに狙っている。
(なるほど)
 同じ頃、遥久もまた気づいていた。
 適当に捌いていたのでは見落としていただろう。
(抜けさせていてはいけない)
 それ自体が、『彼の間合い』だ――……。
 リズムを作り始めている。
 にぃ、いち、……このタイミング。
(そうは、させません)
 今度は、こちらから切り込む!
 竹刀を打ち払ってからの面、体当たりからの引き胴。からの――

「一本! 小手アリィイイイイイイイイ!! 遥久の勝ちーー!!!」




 始業時間まで、まだ少し。
 スポーツドリンクを片手に、道場を見渡しながら三人は何くれとなく語らった。
「夜来野君、もしかして気づいてた?」
「筧殿のリズムですか? 先に愁也の試合を見ていましたから、その違いからなんとなく」
「なるほどね。さすがだな」
 動きを完全に読まれ、狙いすまして打たれた小手は防具の上からでもまだ痛む。
 手首をさすりながら、鷹政はどこか嬉しそうだ。
「でしょ、遥久は凄いんですよ! ほんとオトコマエ!! 俺が剣道を始めたきっかけですもん!!」
「愁也、何故お前が得意がるんだ」
「今更じゃーん!!」
「まあ、そうだが」
 二人のやり取りは、とても眩しい。
 鷹政は肩を揺らし、それから愁也の髪をクシャクシャに混ぜた。
「月居君はビシバシ稽古してもらうと良いよ。伸びしろがたくさんある。時間があれば、俺も付き合うし」
「なるほど。では、私は?」
 試すような、遥久の眼差し。
「また、本気勝負を申し込むよ。二度は同じ相手に負けたくないね」
「楽しみにしています。筧殿も、全ての手を明かしたわけではないでしょう?」


 清廉な空気の満ちた道場に、白い朝陽が差し込んでくる。
 秋の終わり、冬の足音が近づく頃。
 季節が変わり、次なる成長を待ちわびる頃。




【切磋琢磨、白光の一手 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja6837 / 月居 愁也  / 男 / 24歳 / 剣道二段】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / 27歳 / 剣道三段】
【jz0077 / 筧  鷹政  / 男 / 28歳 / 剣道四段】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼、ありがとうございました。
好きな技は、面すりあげ面です。あと巻技。
剣道対決! ということで、竹刀に依る純然な試合とさせて頂きました。
楽しんで頂けましたら幸いです。
ゴーストタウンのノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年11月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.