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『 秋に誓う 』
月居 愁也ja6837)&小野友真ja6901


 山は燃えるような紅葉に彩られていた。
 蒼天を背景に、真紅、臙脂、金、茶、そして目にも鮮やかな常緑樹の緑。
 ひっそりと佇む黒いワゴンの車体にも、鮮やかな色彩が映り込む。
「なんかすごい、圧倒される……!」
 小野友真は窓外の景色の美しさに息を飲んだ。
 月居 愁也は目を細め、風に揺れる楓の枝を見上げる。
「最高の瞬間に来られたんだぜ! きっと俺達の日頃の行いが」
「調子に乗るな」
「いてぇ!」
 鋭い声と共に、丸めた雑誌が愁也の後頭部を突いた。
「何が日頃の行いだ。まだまだヒヨッコの分際で」
 蘆夜葦輝が渋い顔で雑誌をぽんと掌に打ちつけている。
「そりゃ、あっしーから見たらヒヨッコかもしれないけどさー!」
 愁也の抗議は、半ばで打ち切られた。
「誰があっしーだ!」
「いて、いて、いて!!」
 今度は容赦ない三連撃が愁也の頭を打ち据える。
「ん、でも、折角創平さんとあっs……蘆夜さんに無理言って一緒に来てもろたんやし。晴れて良かったです!」
 友真のフォローに、米倉創平が歌うように囁く。
「雨も一概に悪いという訳でもないがな」
「そ……そうですよね……!!」
 独特な響き方をする創平の声に、友真の心音が高なった。

 アイドルユニット『SHOOT⇒YOU』の、お忍び旅行・愁也と友真のオフショット。
 音楽雑誌のそんな企画で招かれた温泉旅館である。
 全然オフじゃない。
 そんな突っ込みを飲みこんだのは、『今一番逢いたい人!』という連載コーナーもいっしょくたにして、創平と葦輝に同行して貰うことが叶ったからである。
 かつて一世を風靡し、突然表舞台から消えた伝説のシンガー、米倉創平。
 そして知る人ぞ知る実力派振付師、蘆夜葦輝。
 彼らはここのところ『SHOOT⇒YOU』の指導に当たってくれているが、本来余り表に出て来る人間ではない。
 だが事務所社長の白川がどういう方法でかふたりの約束を取り付け、一泊旅行への同伴が実現したのだ。
(社長、ほんまに、ほんまに有難う……! 俺らめっちゃ稼いで、社長の老後まで絶対しっかり面倒みるし……!!)
 友真は心の中で五体投地して、東京の社長に感謝した。

 そうしている間に、マネージャーの大八木 梨香が戻って来た。
「お待たせしました、車を中へ移動しますね」
 運転手に何事か伝えると、ワゴンは静かに動きだす。一般客と鉢合わせしないよう、一行は裏側から建物へと入った。



 部屋に落ち着く暇もなく、早速の取材開始。
「おふたりは今、それぞれがソロで活動されていることも多いようですが?」
 事前にある程度は決まった内容の質問に、順に答えて行く。
「そうですね。今はダンスのレッスンに全力で取り組んでます!」
 愁也が完璧なサワヤカ笑顔を見せる。それを逃すまいと時折フラッシュが光った。

「俺はなんとなく、ドラマ向きじゃないかなって。そっちは友真の方が頑張ってくれてる感じですね(笑)」
 勿論、考えていることはある。できれば演技の勉強もして、いずれは舞台に立ってみたいという野望だ。
 だが今、それを言葉にすれば、恐らく葦輝に蹴り飛ばされるだろう。
 今は目の前の課題をしっかりこなして、堂々と新たな道に挑みたいのだ。

「なるほど。では友真さんは、テレビの方面で目指しているお仕事はありますか? もし良ければちょっと教えてもらえたら」
「実は俺……」
 真剣な表情の友真がソファーから身を乗り出し、インタビュアーも釣られて顔を寄せる。
「ここだけの話なんですけど。『ぴらパー兄さん』目指してますっ」
 ぴらパーとは関西地方のとある鉄道沿線の遊園地の略称である。ここでは先輩アイドルが名誉園長のような形で、CMに起用されているのだ。
「なるほど、素敵な夢ですね!」
 後日、友真のこの発言が『大先輩に宣戦布告!?』という週刊誌の見出しになってしまうのだがそれはさておき。

「ところで最近は、ライブを精力的に開催されていますね。どうですか、手応えは」
「はい、ファンの皆の顔を間近で見られて、すっごい刺激になってます! 俺達に会いに来てくれる皆に、カッコ悪いとこみせらんないですしね」
 自分達が気持ち良く歌い踊り、それを見てくれる人を笑顔にする。
 もし出来が悪ければ、あっという間に噂は広がる。気の抜けない日々だが、それだけに愁也は大いにやりがいを感じている。

 友真が照れたような笑顔で頭を掻いた。
「なんか、俺、思うんですけど。本当、周りに居るん、凄い人ばっかで。恵まれてるんですよ俺」
 応援してくれるファンも。ユニットの相方である愁也も。自分達の活動を支えてくれる事務所のみんなも。そして――。
 少し離れた席に静かに座る創平と葦輝に視線を向ける。
「だからもっともっと頑張ろうと思います」
 月並みだが、決意を籠めた言葉だった。



 まだ日のあるうちの温泉は、窓いっぱいに紅葉が広がっている贅沢な空間だった。
「うひゃー、すごい! 露天風呂とかサイコーだな、これ」
 愁也が早速お湯を浴び、遅れて入って来た葦輝にキラキラした目を向ける。
「あっしー! サウナある、サウナ! 我慢大会しようz」
「阿呆!」
「うおぅ!?」
 指鉄砲から発射された髪ゴムが、情け容赦なく愁也の額を撃つ。
「まだ仕事が残っているだろう。気を抜くな!」
 そう、実はこの後、温泉上がりのサービスショットの撮影が残っているのだ。
「ふゎい……」
 だったら顔はやめて! ワタシ、アイドルなんだから!
 ……という抗議は飲みこみ、愁也はしおしおとお湯に浸かる。

 露天風呂ではじょぼじょぼとお湯が注ぎ込む上流(?)を創平に譲り、つかず離れずの距離に浸かる友真。
「いいお湯ですね……!」
「ああ。仕事のついでとはいえ、役得だな」
 創平も静かにお湯を楽しんでいる。
(背中、流しましょうか……!)
 何度もこみ上げる声を、友真はぐっと我慢する。もしもOKされたら、温泉で上がった体温がもっと上がって、ぶっ倒れてしまいそうだから。
 少し前までは、現実にいるという実感すらなかった人。
 それがこうして目の前で、同じ風呂で温まっているのだ。
(このお湯、ちょっと持って帰るってできるかな……って、おい俺!!)
 ちらりと浮かんだ妄想がかなりヤバいと気付き、友真はぷるぷると頭を振る。

「すみませんー! そろそろお時間なんですけど、大丈夫ですかー?」
 仕切りの向こうから梨香の声が響く。女湯側から叫んでいるのだ。
「梨香ちゃんも一緒に入ったらよかったのn」
 スコーン!
 どうやったのか分からないが、仕切りを超えて飛んで来た石鹸が、狙い過たず友真の脳天を直撃した。


●飲み・語り
 お湯ですべすべになった肌をアップで見せたり、マッサージチェアーで揺すられたり、卓球台の傍でポーズをとってみたり。
 支持されるままに、あるいは自分達で「らしさ」を考えて、写真を撮り。
「「お疲れ様でした〜!」」
 どうにか取材は終了した。ここからは完全プライベートだ。

 部屋に用意された食事を前にして、愁也がちらりと覆い紙を持ち上げる。
「うっひょー、豪華!」
「まずは乾杯、ですね! あ、俺ももうハタチになりましたんで!」
 友真が得意そうにビールの瓶を持ち上げた。が、すぐに神妙な顔になる。
「えっと、あの……創平さん、お酌させて頂きたいんですが、宜しいですか」
「ああ、貰おうか」
 やったー! 内心ではバック転三連発ぐらいの興奮状態なのを堪え、震える手でどうにかビールを注ぐ。
「ではそちらにも」
「え」
 返杯は想定外だった。創平からお酌され、友真は卒倒しそうになる。

 愁也は愁也で相変わらず。葦輝に構っては邪険にされている。
「あっしー、はい、あーん」
「要らんわ!」
 げしっ。
 流石ダンサー、据わった姿勢を崩さず、威力のある蹴りが愁也を襲う。
「あー、こういうのも撮ってもらえば良かったぜ!」
 転がりながら笑う愁也に、葦輝は鼻を鳴らした。
「アイドルはいわば想像の産物だ。なんでも本当の姿を見せればいいというものではない」
「そういうものかなあ?」
 愁也はある意味、計算高い。自分を偶像化することに躊躇いがないのだ。
 ぶれない芯さえあれば、他は飾りのような物。寧ろ飾りに気を取られて人が見てくれればいいとすら思う。キワモノを見るつもりで近付いた人の心を、本当の自分で捕まえて見せる。
 だが、今はまだその途上。
 いつか葦輝にも、自分の力を認めさせるつもりだ。

 等と最初は気を張っていたが。
「うひゃひゃひゃ……あっしー、ゴマ豆腐ダメなんだ〜!」
「やかましい」
 葦輝の拳骨が脳天を打ち据えても、酔っ払い愁也はけらけら笑っている。
「あのですね、俺、ほんともう、なんかもう、こんなにお酒楽しいとかですね……」
 顔を赤くして浴衣の裾を乱した友真が、寄りかかるようにして創平のグラスにビールを注ぐ。
「お前、大丈夫か?」
「らいじょうぶれす〜! あ、梨香ちゃんも、浴衣着たらいいのに〜」
「私はまだ仕事がありますから」
 きちんと正座して、入口に近い場所に控える梨香。顔には「だが断る」と書いてある。
「そっか〜残念やなあ! あ、あっしー、今のこの気分をダンスにしたらどうなりますか! 見本を是h」
「こうか」
「ひゃっ!」
 葦輝が握ったビール瓶が友真の顔の両側を掠め、流石の友真も少し正気に戻る。

 葦輝はその瓶で軽く肩を叩き、溜息をついた。
「この機会に言っておくか。お前達は確かに、それなりに頑張っているとは思う」
 だが、と続ける瞳は険しい。
「そろそろ自立しろ。憧れている対象には追いつけない」
 友真が一瞬、頬を強張らせる。
「それから。色々なことを器用にこなすのもいいだろう。それ自体は否定しない。だがな」
 その先を創平が続ける。
「……一つの事をとことん極める奴には、その分野で劣る。それはどうしようもないことだ」
 憂いを漂わせた横顔には、何か反論を許さないものがあった。
「……分かってます。いや、分かってるつもりです」
 愁也が顔をあげて強く言う。
「ただ何か一つを選ぶ為にも、今は色々経験したいんです」
 友真は迷いながらも、創平の横顔にぶつけるように思いを口にした。
「俺、今までは”SOHEY”の後を継ぐ、て思ってたんですけど……超える、て今は思ってます。ダンスも歌も役者も、全部俺は上を目指すつもりでやってるんです」
 創平が小さく笑う。
 だが決して馬鹿にしたわけではないことは伝わる。
「俺を超える、か。期待していよう」

 まだまだ先は長い。
 けれど走り続けなければ、その先に近付くことはない。
 先を走っていた者が走るのを辞めた理由は知らない。
 いつか自分達も走るのをやめようと思う日が来るかもしれない。
 けれど今は――。

 鮮やかな紅葉の記憶と共に、今日の熱を胸に。
 友真はスマホを見る度に、待受に収まる皆の姿に誓うのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / 24 / アイドル】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 20 / アイドル】

同行NPC
【jz0092 / 米倉創平 / 男 / 35 / 伝説のミュージシャン”SOHEY”】
【jz0283 / 蘆夜葦輝 / 男 / 24 / 伝説の振付師】
【jz0061 / 大八木 梨香 / 女 / 20 / マネージャー】
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 30 / 芸能事務所社長】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、秋の温泉が案外シリアスに。
ご依頼のイメージから大きく逸れていないようでしたら幸いです。
この度のご依頼、有難うございました。
ゴーストタウンのノベル -
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エリュシオン
2015年11月30日

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