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『そして始まる非日常 』
化野 燈花aa0041)&七水 憂aa0041hero001

 化野 燈花(aa0041)の視線の端で、七水 憂(aa0041hero001)の紫の髪が揺らめいた。
 緩やかなその動きは、いつものようにふらりと出かけていくもの。
 行き先も告げずに出かけていく憂が、まるで猫のように思える。
 だが、『気づいている』燈花は、そのことを問い詰めようとは思わなかった。
 故に、何も言わず、代わりにこう言う。
「いってらっしゃい」
 仕事をしない表情筋で真顔のまま、燈花は憂との出会いを思い出していた。

 あの日、燈花と彼女は外出先で道に迷っていた。
 人に道を聞こうとしても人の姿はなく、誰かいそうな建物の類もない。
「どうしようか」
 足が痛くなってきた、と彼女が言う。
 どこかで休めればと更に歩き回った末、教会が見えてきた。
 外観から、もう誰もいなくて久しい廃墟であるというのは分かったが、雨がちらつき始め、時間も夕方に迫っている。
 せめて雨宿りをという話になり、教会へ歩いていった。
「廃墟とは思えませんね」
 燈花が、そう感想を漏らす。
 廃墟と化した教会の最奥には祭壇があり、その祭壇の後方は見事なステンドグラスだ。どこも欠けることなく、保存状態もいい。見事の一言に尽きる美しさだ。
「ホント、確かにスゴイ!」
 こんな綺麗なステンドグラスのある教会で結婚式挙げたら、幸せだろうな。
 夢見る少女の顔で語る彼女は、自分とは違うものを沢山持った友人だ。
 彼女は怠惰な表情筋を持つ自分に呆れたりせず、自分の隣で楽しそうにしている。
 雨がステンドグラスを叩く間、燈花は彼女がする他愛ない話に耳を傾け、やがて、夜と共に雨は止み、月明かりがステンドグラスを通して差し込んでいることに気づいた。
「今日は、満月でしたね」
「そういえば、そうだった。だから、ステンドグラスも綺麗に見えるね。陽の光とも違う印象だし、そう思えば迷ってラッキーだったのかな」
 そこまでは、『普通』だった。
 だが、次の瞬間、『普通』は終わりを告げる。
「これより死ぬ幸運以上があるとは、面白いことを言う。私を笑わせる冗談を言ったことに関しては、誉めて遣わす」
 静寂に響いたのは、男とも女とも判断出来ない高さを持った声。
 今まで、誰もいなかった筈。
 2人で見上げていたステンドグラスから声がした方向に顔を向ければ、そこにいたのは、側頭部と背に漆黒の翼を抱く者。
 ステンドグラスの光のような不思議な色合いの髪と同じ色の瞳を見れば、自分達を愉しむ為に殺す存在というのは、説明されずとも分かる。
 男性とも女性とつかないその存在は……名乗られるまでもなく、愚神であることは判った。
「趣向を凝らして獲物を待っていたが、獲物が思った以上に面白いことを言う」
「趣向を、凝らす……」
 どちらの口からは分からないが、愚神の言葉が反芻される。
 つまり、この教会に迷いに迷って辿り着く、そこから愚神の狩りは始まっていたということか。
 どんな術かは分からないが、この愚神は教会に辿り着いた自分達を殺すという遊戯を愉しんでいるつもりなのだろう。
「さて、ひとしきり笑わせて貰った……どうやって殺すか。死なない程度にいたぶって絶望させてから殺すか、互いに殺し合わせて見せるか。一撃はつまらん。……冗談の褒美に死に方を選ばせてやろう」
「そんなの選べる訳……」
「なら、死ね」
 愚神が滑るように進んでくる。
 咄嗟に二手に分かれて避けたが、愚神がいつの間にか手にした剣は祭壇を粉々に砕いた。
 愚神は最初のこの攻撃を当てるつもりはなかったと気づくのは後の話だが、その攻撃に彼女が驚き、怯えたのは言うまでもなく。
「逃げよう、燈花!」
 彼女が入り口へ向かって走り出す。
 だが、その彼女に向かって、槍が矢のように飛ぶと、彼女を入り口のドアへ縫い止めた。
「あ……かはっ……」
「逃げることを許してはおらんが」
 びくびくと痙攣する彼女の耳に、愚神のその声は届いているだろうか。
 わざと、わざと生が永らえるように、愚神が彼女の手を、腕を、足を、剣で貫く。
 人とは思えない絶叫を上げる彼女は、さっきまで楽しそうに笑っていて。
 こんな風に弄ばれて、絶叫を上げるなど……。
「次は貴様だ。私を愉しませる支度以外は許可しない。その場で待機するがいい」
「断ります」
 燈花は砕けた祭壇の破片が鋭利な刃物のように尖っていることに気づき、それを拾い上げた。
 死ぬ為の待機など、愉しむ為に殺される待機など、するつもりはない。
 その時だ。
「死にたいの」
 燈花の肩に、誰かがそう言った。
 振り返ると、祭壇の残骸の上に誰かが腰を掛けている。
 ステンドグラスを通した満月の光を浴びた細身の青年が、残骸からするりと立ち上がった。
 ……だが、その姿は実体を得ていない。英雄だ。英雄が、目の前にいる。
「死にたくありませんが……」
 燈花は愚神に続く英雄という非日常の存在を受け止め、口を開く。
「むざむざやられてなどやりません。せめて、一撃でも……」
「今のきみでは、その一撃も与えられないよ」
 愚神は、この世界の存在ではない存在。
 ただの人間である燈花の攻撃は、愚神が戯れに攻撃を受けてやったとしても、通じない。
 愚神の嘲笑の材料を与えるだけだ。
 思い出せない誰かと重なった背中を持つ彼女を、咄嗟にであっても止めた意味がなくなってしまう。
 無策を、無謀を止めるには、たったひとつしかない。
 燈花にはそう言わず、けれど、こう言った。
「……だから、僕が力を上げる。だから、『目を逸らすな』」
 それが、彼らの間で破ってはならない約束……誓約。
 燈花が手を伸ばせば、実体がない幽霊のような存在の手と触れることが出来た。
「分かりました」
 英雄と契約させてなるものかと愚神が迫る直前……両者の誓約の同意はなされ、幽霊のようだった目の前の存在は、確かな存在となった。
「今のきみでは、倒せない。解っているね?」
 静かな問い。
 誓約があるからこそ、目を背けてはいけない『事実』を見つめることになる。
 今の自分では、あの愚神を倒すことは出来ない。
 英雄と誓約を交わしたばかりの自分が倒せるような相手ではない。
「逃げるよ」
「逃すか……!」
 愚神が燈花の足を止める為に彼女の首筋を槍で貫いた。
 断末魔、まるで海老のように跳ねる彼女の身体。
 けれど……自分に出来ることは何もない事実から目を背けてはいけない。
「生きる為の行動、それが今のきみに出来ること」
 頷き、手を差し伸べ、誓約を交わしたばかりの身で共鳴。
 武器にしようと手にしたそれに目を落とす。
 狙いは、愚神ではなく───
 綺麗だね、と言葉を交わしたステンドグラスへ叩きつけるように投げた。
 砕け散ったステンドグラスの破片を縫うようにして、満月の光だけが照らす闇の中へ走る。
 振り返らず、けれど、彼女へ謝罪しながら。

 あれから、燈花はH.O.P.E.のエージェントとなる道を選んだ。
 世界蝕が起こったこの世界では、日常がいつ非日常によって壊されるか分からない。それを知るには、エージェントとなるのが最も良かったから。
 七水 憂と名乗った彼の英雄は、冗談とも本気ともつかない言葉と共に燈花とある。
 たまに彼がどこにも行かずに出かけていくのは、あの日迷い込んだ廃墟の教会がどこにもないから。
 迷い込んだ、逃げ切る為に必死で走った、そうであったとしても、周辺住民すらその教会のことを知らず、もしかしたら愚神の狩りの為の場であり、狩りをしていない今、姿を見せないのではという話となった。
 それから、自分とその会話をしたことはないが、憂は恐らく、あの日の廃墟の教会を探している。
 いつか、燈花がリベンジ出来るよう。
 最期を見ながら尚、彼女をそのままにして逃げなければならなかった事実と向き合えるよう。
 憂は多くを語らないが、燈花は気づいている。
 始まった非日常は、いつ日常に戻るか……それが分かる者はいないだろう。
 けれど、非日常が始まってしまったなら、そのことに目を背けず、前に進むしかない。

 それこそが、憂との誓約だから。

 燈花は窓の外に目を移す。
 今日は、満月だっただろうか。
 ふと、そんなことを思った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【化野 燈花(aa0041)/ 女性 / 17歳 / 能力者】
【七水 憂(aa0041hero001)/ 男性 / 19歳 / 英雄(ジャックポット)】

以下ゲストNPC
彼女 / 女性 / 人間

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご発注いただきましてありがとうございます。
憂が廃墟の教会を探しに行くのを見送り、当時を振り返る形式とした為、若干地の文章が多めになっています。
状況的に友人を見捨てる形で逃げた燈花さんは表情筋が仕事しておらず、常に真顔であっても、何も感じていない訳ではないと思いますので、いつか、廃墟の教会へ辿り着くことを願っております。
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2015年12月02日

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