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『エミナが生まれた日 』
エミナ・トライアルフォーaa1379hero001

 私は、Medical-Unit Type-17, Trial No.4。
 普段はM17という略称で呼ばれています。

「ありがとう。お礼を言っても足りない」
 その声は、かつて魔王を倒した勇者のもの。
 魔王を倒した勇者も病には勝てず、難病と呼ばれる病に罹ったのです。
 その治療に携わり、勇者は難病に苦しむことはなくなり、その功績で祀られた私を訪ねてくるようになりました。
 医療用機械として生を受け、けれど、意思を宿す私にとって、治療という事後の対応であったとしても、間に合ったことが嬉しく、勇者が元気な姿を見せてくれることは安堵します。
 治療しか出来ない私には、事前に防げない……治療の時には手遅れで、救えない命もまた存在しますから。
 出来れば、治療の前に、命を救う行動をすることが出来ればいいのに。
 勇者が他愛ない話を私に聞かせ、また来ると帰っていきます。
 私は静かになった場所で、意思があっても機械である筈の私には見ることは出来ない夢を見るように思いを馳せ、スリープ状態へ移行しようとし───

 何かが、そう、何かに引っ張られ、そこへ放り出されました。

「……?」
 彼女は、違和感に気づいた。
 自分の身体の構成がおかしい気がする。
 けれど、そう言っている場合ではない。
 目の前に、愚神がいた。
 暴れる愚神から逃げ惑うように人々が逃げ、中には傷つき倒れている者もいる。
 助けなければ、と思った瞬間、その『おかしい』の正体を知った。
 実体のない機械の腕が、自分の意思であるかのように動いている。
「……?」
 自分は、意思を宿した医療用機械である筈。
 腕など……。
 そこで、気づいた。
 意思を宿した医療用機械、人命を救うことが存在理由……この世界の存在ではない、が……それ以上は解らない。思い出せない。
 今、一体何が起こっているのだろう。
 違う世界に来たから、この姿になっているということなのだろうか。
 けれど、意味が解らないにせよ、自分で動けるようになった。
 そう、救えない前に自ら行くことが出来る。
 だが、誰も自分に気づいていない。
 助けなければと思うのに、誰も自分に気づいていない。
 ふと、視線に気づいた。
「私が、見えていますか……?」
 彼女は、その視線、自分の傍らへ顔を向けた。
 そこには、問いかけの肯定の色が見える。
「あなたには、見えるのですね」
 初めて聞いた自分の声は抑揚がなく、平坦な棒読みであった。
 表情も動いているという自覚はない。
 今、自分がこの身に沸き起こらせた感情のひとつも含まれていない。
 けれど、何故だろう、この身体は馴染みがないのに、自然にそれは出来た。
 右手の甲にある小窓を、そっと見せる。
 そこの小窓には、大きな喜びを示す顔文字で埋め尽くされていた。
 今、彼女は嬉しい。
 治療される存在を待つだけの存在ではなくなった自分を、すぐに見つけてくれた存在がいたことが、嬉しいのだ。
 願う言葉は、ひとつだけ。
「私に人を……命を救わせてくれますか」

 エミナ・トライアルフォー(aa1379hero001) は、ふと意識を我に返した。
 時計を見ると、そろそろあの日自分を見つけてくれた少女が学校から帰ってくる時間だと気づく。
 彼女と誓約を成立させ、実体ある存在となり……そして、この名を貰った。
 エミナは、鏡を見る。
 サイドテールにした青い髪、歯車模様の左眼と瞳孔のない、人が言うには人形のような右眼は金、左頬にある『4』のペイント、機械の腕、耳……そして、何もない表情。
 かつてとは異なる姿の自分は、一体どこから来たのだろう。どんな風に過ごしていたのだろう。
 この姿ではない、意思を宿し、人命を救う目的の機械であったという強い記憶はあるのに、それ以外は殆ど保持されていない。
 何故なのか、理由は解らないが、自分はかつての自分ではないというのは解る。
 傷ついた、病に苦しむという『結果』を待ち、『治療』という対応するだけの存在ではない。
 救えなかったと歯痒さを覚える前に、この身はその『結果』を阻む事前行動をすることが出来るのだ。
 小窓へ、幾つもの喜びを顔文字で表現して見る。
 声と表情でこの身の感情を表現出来ない自分の、感情表現手段のひとつ。
 かつての世界で伝えたかった感情があるかどうかは、今となっては分からない。
 玄関から、明るく快活な声が元気よく聞こえてくる。
 この名をくれた、両足が機械の少女が帰ってきたのだろう。
 エミナは彼女を迎えるべく立ち上がった。

 ふと、もう1度鏡を見た。
 暴れる愚神、逃げ惑う人々、誓約を成立させてくれた少女……それらを知らない誰かへ。
「私は、人を……命を救っています」
 あの日の問いかけの答えの結果を、もう思い出せない誰かへ。
 『エミナ』が生まれ、今日も生きている事実を伝えるかのような呟きは、やはり、彼女の感情を何も乗せてはいなかったけれど、小窓へ感謝の顔文字を表示させる。
 直後、声の主が出迎えるより先に戻ってきて、エミナは独自の身振り手振りと感情を右手の甲で表現し、「おかえりなさい」といつも通りの声と表情でこう言った。
「おかえりなさい」
 あの日、『エミナ』を生んだ人よ。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【エミナ・トライアルフォー(aa1379hero001) / 女性 / 14歳 / 英雄(バトルメディック)】

以下ゲストNPC
勇者 / ??? / ???

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木風由です。
この度はご発注いただきましてありがとうございます。
召喚された状況をとのことでしたが、シングルノベルの性質上、誓約する能力者唐沢 九繰さんの明確な描写は出来ない(明確な描写を行う場合WTツインノベルとなります)ことより、召喚前、召喚後誓約までの心情、現在のパート構成とさせていただいています。ご了承ください。
治療という事後の対応を待つだけではなくなったエミナさんが、この世界でより多くの命を救う為の事前行動を行えることを願っております。
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真名木風由 クリエイターズルームへ
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2015年12月03日

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