▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『嵐の1日 』
戸隠 菫(ib9794)

 桜の季節を過ぎて、夏へと向かう頃。
 今にも泣き出しそうな空の下、紫陽花の花が風に揺れる。
「菫。一雨来そうだぞ。洗濯物は取り込んだか?」
「大丈夫、もうしまったよ」
「そうか。では雨が来る前に夕飯の買出しに行こうか?」
「うん。でもその前に……あのね、桐ちゃん。今日は折り入って話があるんだよ」
「何だ? 畏まって」
 相棒のからくり、穂高 桐の目の前にビシッと正座する戸隠 菫。
 主の緊張した面持ちに、からくりは首を傾げる。
「……ええとね。あたし、結婚しようと思ってるの。それで、桐に、お相手に会って貰えないかなーって……思って……」
「……ほう?」
 桐の黒い無機質な目がすっと細くなり、周囲の温度が下がったような気がして……嵐の予感に、菫はシュッと首を竦める。
 ――いや、別に後ろ暗いことは言っていないはずなんだけど。
 むしろ祝われてもいいくらいなのに……無理か。
 ため息をつく菫。
 桐は、主にいい人が出来る度、『菫に相応しい実力の持ち主かどうか、試させて貰う』と言っては決闘を申し込んできた。
 その結果は、優秀なからくりの全勝。
 容赦なくけちょんけちょんにぶちのめしてくれて、相手が逃げ帰るという結果に終わっていた。
 ――桐は、生真面目で、いつも菫をさり気なく手助けしてくれて……。
 その性格ゆえか、菫の相棒達を取りまとめてくれている。
 何より、桐は大切な家族だ。だからこそ、祝福して欲しいと思うし……彼女が認めてくれさえすれば、他の気難しい相棒達も納得してくれるとは思う。
 けれど、その手段は何とかならないものか……。
「あの……。前から聞きたかったんだけど、桐ちゃんはあたしに結婚して欲しくないの?」
「まさか。菫には幸せになって欲しいと思っている。主の幸せを願わぬからくりなどいない。当たり前だろう?」
「だったら、その……相手に決闘申し込むの止めてもらえないかなー……なんて。ダメかな?」
「その要望には応えられないな」
「何でえええ!? そんなことやってたらあたしいつまでも結婚できないじゃない!」
「そんなことはないぞ。菫がわたしより強い結婚相手を連れてくればいいだけの話だ」
「それが難しい、っていうか無理だって言ってるの! 桐がどれだけ強いと思ってるのよおおおお!!」
「ん? からくりの機能としては標準的なはずだが」
「そういう話をしてるんじゃなーーーい!!!」
 机をバーン! と叩き、肩で息をする菫。
 我が相棒ながら、物凄い頑固さに挫けそうになるが……ここで諦めたら、あの人を諦めるのと同じことだ。
 ――それは。それだけはどうしても嫌だ。
 菫はもう一度ため息をつくと、真っ直ぐ相棒を見据える。
「ねえ、桐ちゃん、あの人、すごく良い人なんだよ」
「いい人かどうかはわたしが判断する」
「最後まで聞いて! ……素敵な人なんだよ。戦闘能力的に強いんじゃないんだよ、心が強くてまっすぐなの。それにね、親友のお眼鏡にかなった人でもあるんだよ。桐ちゃんが心配するようなことは……」
「ほう? 彼女が認めたか。なるほどな。それは一度会ってみなければ……」
「……え? 桐ちゃん、いいの? 許してくれるの?」
「許すとは言っていない。あの方が認めたというのなら、会ってみても良いと思っただけだ。さあ、菫。その結婚相手とやらをここに呼んで貰おうか」
 そうは問屋が卸さない。
 凄みのある笑みを浮かべる桐に、菫は三度目のため息をつき――。


 ――それから桐は、菫と結婚したいという男性と面会した。
 当然の如く桐は決闘を申し込み戦いとなったが、結果は……。


「あの男、武力は皆無だな。弱い」
「……もう! 桐ちゃんのバカ! 死んじゃったらどうするのよ!」
「あれでも手加減したんだが」
「どこがよ! あの人にもしものことがあったら桐ちゃんだって許さないんだからね!!」
 婚約者の手当てを終えて、布団に寝かしつけてわあわあと泣く菫。
 ぽかぽかと殴ってくる主を抵抗もせずに抱きとめて、桐は遠い目をする。

 ――菫の婚約者との勝負は、一方的だった。
 開拓者ということだったが、膂力はないと言っても過言ではなかったし。
 今まで戦ってきた男達より弱いように思えたし。
 話にもならぬ、と。とどめの一撃を入れようとしたら――菫が割り込んできた。
 怒りに燃える空色の瞳。
 今まで何度かこうして勝負してきたが、一度としてこんなことはなかった。
 ――ああ、菫は。この男が本当に好きなのだろう。

 更に驚くべきことに、その男は菫に下がるように言うと、自分に立ち向かって来た。
 何度転んで土に塗れたか知れない。
 殴られ、傷だらけになっても不死鳥のように立ち上がり……。
 決して諦めず……結局、疲れ果て、彼が意識を手放すまで勝負は続いた。

 ――今までの男たちは、桐に負けると尻尾を巻いて逃げていった。
 からくりに負けた程度で諦める程度の想いならば、大事な主は渡せない。
 己の判断は正しかったように思う。
 でも、今回は――。

「……彼は弱いが、根性はあるようだな」
「……え?」
 頭の上から聞こえてきたからくりの声に顔を上げる菫。
 涙に濡れる主を手ぬぐいで拭きながら、桐は薄く微笑む。
「あそこまでボロボロになっておきながら、立ち向かって来た男は初めてだ。菫の言う通り、心は強い。わたしが保証しよう」
「じゃあ……いいの? 許してくれるの?」
「菫と彼の気持ちは、良く分かった。……これ以上邪魔立てすれば、菫を不幸にしてしまうだろう」
「桐ちゃん、ありがと……!」
「礼には及ばない。わたしは菫の幸せを願っているだけだ。……ただ、彼は弱すぎるな。菫を守るという点でかなり不安が残る。彼が強くなるよう、特訓させて貰うぞ」
「……桐ちゃん? あの……」
「悪いが、この条件だけは譲れない。大丈夫だ。菫の旦那様になる人であることは分かっている。殺さない程度にやるさ」
 ふふふ……と笑う桐に頭を抱える菫。
 困ったことに、相棒は一度言い出したら梃子でも動かない。
 これ以上の無体は止めて欲しいのだけど……。
 でも、結婚を許してくれただけいいのかな……。
 そこまで考えた菫は、いい事を思いついてにんまりと笑う。
「分かった。じゃあ、その特訓、あたしも参加させてよね」
「……菫が? そうか。一緒に彼を鍛えてくれるなら心強い」
「違うわよ。あたし自身を鍛えるの。桐ちゃんはあたしを守れればいいんでしょ? 自分の身は自分で守れるようにすれば文句ないでしょ!」
「……詭弁だな」
「それはお互い様ですよーだ!」
 あっかんべーをする菫。その子供っぽさに呆れと、どうしようもない愛しさを感じて、桐はくすりと笑う。
「……彼には怪我をさせてしまったし、お詫びに薬膳でも用意するとするか」
「あ、あたしも手伝うよ」
「わたし一人で出来る。彼の近くにいなさい」
「でも……」
「いいからここにいなさい。いいね?」
 桐に頭をぽふぽふと撫でられ、頷く菫。
 台所に向かう彼女を見送って、布団で眠る彼を見つめる。
 ――彼が起きたら、結婚の許しがもらえたって話さなきゃ……。
 うふふ、と。菫から、自然と笑いが毀れた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ib9794/戸隠 菫/女/19/武僧

穂高 桐/からくり(上級)/相棒(NPC)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております。猫又です。

前回のノベルの続きということで、相棒の桐さんに頑張って戴きましたが如何でしたでしょうか。
少しでもお楽しみ戴けましたら幸いです。
話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

ご依頼戴きありがとうございました。
WTシングルノベル この商品を注文する
猫又ものと クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2015年12月04日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.