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『Permissive Day 』
リコリス・ベイヤール(gc7049)&ルナフィリア・天剣(ga8313)

 冬が間近だというのに、昨日までの寒さが嘘の様に温かいその日。
 地球温暖サマサマだねなんてちょっと不謹慎な事を言いながらも、リコリス・ベイヤールは浮き立つ心を全く抑えずに陽気な道を陽気に走って行く。
 飾り気が一切なく、窓も必要最低限しかなくて冷たい印象しかない無機質な建物に到着すると、シンプルな外見に似つかわしくない重厚な鋼鉄製の扉の前にリコリスが立つ。
 電子ロックの様々な識別認証が始まるが、「まだかなまだかなー♪」とウキウキソワソワしているリコリスをなかなか読み取りきれないでいると、銀髪に黒いメッシュが浮き出た笑顔のリコリスは、右の掌を顔の高さで構えた。
「ドアばーん!!」
 まっすぐに突き出された張り手が、風に飛ばされた発泡スチロールの如き勢いで重厚な扉を吹き飛ばす。
 手形がくっきりとついた鋼鉄の扉は室内の壁に激突。しばらく張り付いていたが、やがて重力を思い出し、重量感と金属音のけたたましい悲鳴を上げ床に倒れていった。
 そこに割と近い所にある大きなベッド、その上でルナフィリア・天剣が起き上がる。
「おはよ、ルナ! 朝だよ! もう9時57分21秒だよ!」
「ちょっと前に寝たばかりなんだけど……リコの言った時刻が正確なら、2時間7分11秒しか経ってない」
 空間に投影されている時刻を最後に見た記憶を掘り起こすルナフィリアは、床に転がった扉を見て溜め息を吐く。
「……もっと認証の早い奴にしないと、ダメか」
「ごめーんね!」
「いや、いいよ。問題点ってのは、こうやって改善されるべきことだから」
 枕元のスイッチを押すと、今しがたぽっかりと開いて外が丸見えの穴をシャッターが塞いだ。それから身体を伸ばして立ち上がる。
 素足でペタリペタリと冷たい床の上を歩き、すぐそこにある見ただけではわからない冷蔵庫から、ゼリー飲料とスポーツドリンクを手に取り、ドリンクをリコリスに向けて投げつける。
 受け取ったリコリスだが、ルナフィリアがゼリー飲料のキャップを開いた時にすでに空き缶を握り潰し、飲み干した事を示すかのように前に突き出した。
「折角のお休みだし、あそぼーよ!」
「……まあ、2時間も寝れば十分だケド。なにする?」
 ゼリー飲料から口を離すルナフィリアが尋ねるのだが、遊ぼうと言っている本人は何をしてまでは考えていなかったのか、腕を組んでうんうんと唸りだす――のは一瞬だけだった。
「そうだ、ゲームしよー?」
「ゲーム、はいいケド……毎度のことだね」
 休みには欠かさず一緒に居れば、することはほとんど変わりばえがしない――そう言いたいらしい。だから、わざわざ提案してくる理由がわからないでいた。
 しかしリコリスはちっちっちっと指を横に振る。
「いつもの電子的なゲームじゃなくって、ちょっとアナログな奴があったから、あれをやってみよ」
「あれ……? ちょいと研究の刺激になるかと思って買った程度の物なんだけど」
「だからこそ、じゃんかー! 平等対等上等! これで勝負になるってもの!」
 空き缶をぶんぶん振り回すやる気十分なリコリスへ、ルナフィリアは思わず「内容によると思う」と言いたかったが、水を差すのは止め「いいよ、やろう」と受けて立つ。
 その途端、天真爛漫なリコリスが、あくどいとしか言えないような笑みを浮かべる。
「負けた方はもちろん、罰ゲームね」
「ま、言うと思ったけど、それでも……いいや。うん、始めようか」




「まずは最強にシンプル! ババ抜き! これなら運次第だし、私でも勝てるはず」
「んー……そうかもね」
 つらっとした顔で、わずかに出張らせたカードを引くように仕向けるルナフィリア。そして期待通りに引いてくれるのがリコリスである。
 結果は火を見るより明らかで、ルナフィリアの圧勝だった。
「あっるぇぇぇ?」
「さて、罰ゲームだけど……んー、後で何か料理作って。私の好物から適当に」
「えー……わかったけど……」
 そうじゃない感満載で不満顔のリコリスだが、それも一瞬のこと。もういつものにぱっとした笑みを浮かべていた。
「次は――」
「ポーカーなんて、どうかな」
「あ、それなら互角に戦えるよね!」
 自分が不利になる戦いを、ルナフィリアが選ぶはずもないと気付けないリコリス。もはや、勝負の描写をするまでもなく。
「胸……じゃなかった肩揉んで。凝ってないけど」
 自分の肩を叩いて、嘲笑うかのような笑みを浮かべるルナフィリアの出した罰に、リコリスは「ぐぬぬぅ……!」と悔しながらもルナフィリアの肩に手を置き、指を蠢かしていた。
「くっそー、じゃあ次はあれ、まーじゃんとか言うの!」
「リコが麻雀知っているとも思えないけど、それでもいいなら」
 ただのテーブルの上に雀牌を広げ、仕込みを完了させたルナフィリアはまた自分の圧勝かなと思っていた。
 ――だが。
「リコが先でいいよ」
「よーし、今度こそ…ていうか、この図にある通りになればいいんだよね?」
「うん、そう」
「ドーン!」
 リコリスが掛け声と共に、たどたどしく並べていた牌を一斉に倒す。
 そろえる事も難しいとされる役だが、それが最初から出来上がっている事に、表情をあまり崩さないルナフィリアですらも目を丸くしてしまった。
「え、どゆこと……? 狙っていた、とかじゃないよね」
「直感に任せて集めてただけだよー。これは、私の勝ち?」
 文句なしの負けにルナフィリアが頷くと、リコリスは右拳を天に突き上げてはしゃぐ。
「おーっし、罰ゲームは……じゃあね、次のゲームが終わるまで語尾ににゃんを付けて!」
「語尾に、にゃん……にゃにゃー……こうにゃん?」
 舌を出してサムズアップで答えるリコリスだが、唐突にルナフィリアに抱きついて頬をこすりあわせた。
「かわいい、かわいいよルナニャン!」
「リコ、くっつくのは構わにゃんが、次の勝負をしようにゃん」
 ルナフィリアのその手にはバドミントンのラケットが握られていて、どちらかと言えばインドアタイプなのに、今すぐにでも外に向かおうとする。
 涼しい顔してるけどしっかり悔しがっているなと、ニヤニヤした笑みをルナフィリアの背中に向けているのであった――


 一回勝負――それくらいでなければ能力者同士の決着はなかなかつかない。
 すでにどちらの打つ羽も、常人のスマッシュくらいはあるが、それでもラリーが続いていた。体力勝負ではリコリスだが、読みあいで上回るルナフィリアに、リコリスは取られるコースにしか打たされていない。
 左ギリギリのコースを打ち返し、手を地に着け、身体が完全に左へ泳いだリコリス。
(あの体勢で右へこの角度なら、もう取れにゃいにゃん)
 勝利を確信したスマッシュ。しかし、リコリスはそこから腕の力をも利用して飛び跳ねると、ネット間際で目にも映らないような速度で飛来する羽根をほとんど真下に打ち返していた。
 予想外の行動と反応に、ルナフィリアの足は地面に張り付いたまま。勝負はこうしてついてしまった。
「はい! じゃあ今! ここで! 私に愛の告白!」
「今? ここで……?」
 ぐるりと見回すルナフィリア。敷地は色々な関係で広めにとってあるが、それでも外には違いない。近くに誰かが通れば、聞こえてしまうような場所である。
 それでもここで、と言う話である。
 これくらいお茶の子さいさい、いつもの毒を吐くのと同じように愛の言葉も吐けるように見えるが、思いのほか照れてのどの調子を整えるふりをして覚悟を決める時間を稼ぐあたり、存外乙女な部分が見え隠れする。
「……好きだよ、リコ。愛してる」
 言った後でルナフィリアは能面のように表情を失くして強張らせているが、横一文字に結んだ口元は何かを噛みしめているかのようで、わかりやすいほどに照れている。
 少なくとも「えへへ〜」と笑うリコリスには、よくわかっていた。笑うリコリスは上気した肌を冷まそうと、服の裾をバサバサと扇いで冷たい空気を服の中に送り込む。
 そして思い立ったかのように、指を一本立てた。
「汗もちょっとかいたし、次の勝負はシャワー浴びながらでやろう!」


「で。ここで何をするって言うね」
 泡立てたスポンジを手に、湯船に浸かるリコリスへ尋ねるルナフィリアだが、リコリスの手にあるのがシャボン玉を作るための輪っか握られていて、それだけでなんとなく察しはつく。
「シャボン玉の大きさ勝負! 一発勝負で大きなシャボン玉が作れた方の勝ち!」
 洗面器にお湯とボディーソープを混ぜ込んでいるリコリスだが、なかなか溶け込まず、その間にルナフィリアは風呂場から出て行って材料を調達してくると、それでシャボン玉液を作り始める。
「とりゃー!」
 リコリスの気合一閃。だがシャボン玉にすらならず、膜が弾けるだけに終わってしまった。
 そしてルナフィリアはというと、横に長く、どこまでもシャボン玉が伸び、そしてそれが見事に切り離されて宙に浮かぶ。しかもそれが簡単には割れず、壁に当たって床に落ちても、割れはしない。
 何でと言う顔で凝視するリコリスへ、ルナフィリアはフフンと鼻を鳴らす。
「理屈さえわかれば、あとは科学。グリセリンもちょうどあったしね――さて、どうしようかな……うんまあ、とりあえずまた揉んでよ。凝ってないけど第二段」
 リコリスに背を向けて、肩を叩くルナフィリア。その背後に回るリコリスの指が怪しく蠢き、肩に手を置いたかと思えば――
「おっと手が滑ったー!」
「リコ、そこは胸」
「いやーよく考えたらどこをって、言ってなかったし? ルナが悪いのさ」
 悪びれもなく言うリコリスの指は蠢くままで、身をよじろうがなにをしようが、背中にぴったりとくっついたリコリスの魔の手からは逃れられないでいた。
 しかし、黙ってやられっぱなしのルナフィリアではない。肘から下を動かして、すぐ後ろの脇腹をがっちりと両手でつかんでお返しと言わんばかりに指を蠢かせる。
「あははははははははは!!」
 弱い所を執拗に攻めるルナフィリアの指に、リコリスは笑いながらも身を強張らせて耐えようとするが、守りに入った時点で負けのようなモノである。
 自由になったルナフィリアは向き直り、さらなる執拗ぶりを見せ、風呂場には湯気に混じってリコリスの笑い声が蔓延していた。
「あはははは! 参った、参ったルナみょん!! 私の負け!!!」
 そう言っても、なかなかやめないルナフィリア。逃げようと身をよじり、暴れまわっているうちに2人してシャワーで濡れた床に転んでしまう。
 2人してお湯に濡れた床で横になり、向き合ってお互いの目を合わせる。
「勝ちってことで、じゃあ私にも愛の告白。力の限りに!」
「好き好き好きだよルナみょん!! 愛してる!!」
 一瞬の躊躇もなしに、大きな声で叫ぶリコリス。ほんの少し面喰らった顔をしたルナフィリアだが、小さく笑みを作って「うん」と再びリコリスの目を覗き込む。リコリスも、ルナフィリアの目から全く逸らさない。
 風呂場に広がる、シャワーの音と水の流れる音。
 2人は指を絡め、額を合わせる。顔が近くなり、お互いの熱い吐息が僅かに乱れているのが、わかる。
 そしてルナフィリアがポツリと、言葉を漏らした。
「リコ……一緒に人間辞めよ?」
 額が縦に動いたような気がした――気のせいかもしれない。それでも十分だった。
 やがて、どちらからともなく目を閉じる。
 シャワーの音と湯気が、2人の高まる鼓動とこれから起こる事を覆い隠してくれる、甘い甘い、休日のお話であった――




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【gc7049 / リコリス・ベイヤール / 女 / 13 / 天真爛漫、だけでもなかったんだよ】
【ga8313 / ルナフィリア・天剣  / 女 / 14 / このあとむちゃくちゃ人間やめた】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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今回納品遅れ、すみませんでいた。どうイチャイチャにつないでいこうかなとかも悩みましたが、ちゃんとイチャップルできていましたでしょうか?
なかなかイチャイチャを書くのが辛い時ではありましたが、しっかりできたとは思います。
この度のご発注、ありがとうございました
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2015年12月07日

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