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『くおんがはらようちえん・ハロウィンのひ 』
月居 愁也ja6837)&矢野 胡桃ja2617)&加倉 一臣ja5823)&夜来野 遥久ja6843)&小野友真ja6901)&点喰 縁ja7176)&矢野 古代jb1679)&華桜りりかjb6883)&ゼロ=シュバイツァーjb7501


 ちょっと気の早い落ち葉がかさこそかさこそ。
 大きなどんぐりがころころりん。
 秋のあたたかなお日さまの光を受けて、地面をころがっていきます。
 いつもならそんな宝物はすぐに誰かに拾われるのですが、今日はちょっと特別。
「とりっくおとりー!」
 胡桃ちゃんがちょっと惜しい感じで、元気に声をあげました。

 今日、久遠ヶ原幼稚園では、ハロウィンの仮装パーティーをたのしむことになっているのです。
 門ではりか先生がお出迎えです。
「おはようございます、胡桃ちゃん。今日は早いのね」
「おはようございます! きょうはね、モモのとうさんとひつじさんもいっしょにきたのよ!」
「あら、よかったわねえ」
 りか先生は一瞬だけ。
(未……? 今年の干支か?)
 と思ったようですが、どっちかというとヒツジというより狼っぽい、「執事」のゼロさんの姿に納得しました。
「おはようございます。今日は宜しくお願い致します」
 見た目ダンディな胡桃ちゃんのお父さんが、きちんと挨拶。
 でもりか先生は知っています。というより、この幼稚園に通うお子さんたちのお父さん達はみんなそうなんですが。
 どんなに立派な身なりの人も。
 どんなに穏やかな紳士的な物腰の人も。
 例外なくみんな、親バk……もとい、大変子煩悩なのです。

 胡桃ちゃんのお父さんはニコニコしています。
「今日はもう本当に楽しみにして来たんですよ。なんといっても普通にしていても可愛いうちのこももちゃん、ラブリーマイドーターがコスプレですよ。最高に可愛いに決まってるじゃないですか。もう天使ですよ天使。マイエンジェルですよ」
「とうさん、てんしじゃないもん。モモ、こももちゃんだもん」
 胡桃ちゃんは自分の名前をちゃんとしっています。てんしって名前じゃないのです。
「ああ判ってるとも!」
「あー、やってるやってる」
 半笑いになっているのは遥久くんのお父さんと友真くんのお父さんでした。
 かなりお友達には慣れた胡桃ちゃんですが、まだお父さん以外の大人の人はちょっと苦手です。
 お父さんの足の後ろにさっと隠れて、遥久くんと友真くんにそっと手を振ります。

「おはようございます、いいお天気になりましたね!」
 遥久くんのお父さんはいつも通りの大荷物です。皆の楽しそうな姿を映像に残すため、カメラや予備の機材一式を担いでいます。
「おはようございます。きょうはよろしくおねがいします」
 きちんとご挨拶するのは遥久くんです。なんだか妙に大人っぽい言葉と仕草ですが、顔をあげれば目がキラキラ。やっぱりパーティーは楽しみみたい。
「皆さんお忙しい中ありがとうございます。お友達もみんな喜びますよ」
 園長先生が顔を出しました。何か準備をしていたらしく、珍しくシャツの袖をまくり上げています。
「先生こそ、いつもすみません。今日は楽しませていただきますね!」
 友真くんのお父さんは、若干疲れの残る目元で笑っています。半分ヤケなのかもしれません。こちらも遥久くんのお父さんに負けないぐらいの大荷物。
 友真くんはお父さんの手にぶら下がり、足をよじ登り、全然じっとしていないで大はりきりです。
「おはようございますー! おれ、めっちゃがんばって仮装するん!」
 いつもは忙しいお父さんが、無理をして来てくれているのが分かっているのです。ちょっと心配だけど、でもやっぱり嬉しい。だから、お父さんにも楽しんでほしいなんて思ってみたり。
「それは楽しみだね、じゃあ皆はお教室に入ろうか」
「「「はーい!」」」

「彫物ときいちゃ、ちがさわぐってもんでさ」
 真剣な顔でひとりちょっと興味の方向がちがうのは、縁くん。
「彫物……には違いないけど。でも縁くんは、工作が上手だものね」
 縁くんのお家の人は指物の職人です。縁くんもおはしが使えるようになるのとほとんど同時に、細工用の小刀などを使っています。
 今日はその力を存分に発揮できるイベントでもあるのです。
「りりかちゃんも行きましょう?」
「……はぁい」
 皆がわいわい集まっているのを、そっとすべり台の陰から見つめていたりりかちゃん。この幼稚園に来たばかりで、まだどうしていいのかわからないようです。
 それに元々はにかみ屋さんで、知らない大人がいっぱい集まっているのがちょっと怖かったのですが、皆がニコニコしているとやっぱり気になります。
 先生の手をぎゅっと握って、お教室に入ります。

「では先生、いつもの通り給食室をお借りしますね」
「はい、給食の先生もいますから。あとはお任せします」
 友真くんのお父さんは、荷物を抱えて給食室に向かいます。
 その背中に、遥久くんのお父さんが声をかけました。
「後でそっちも手伝いに行くから!」
「おう。映像担当、しっかり頼む」
 すっかり役割分担も決まっているようです。さて、どんなパーティーになるのでしょう。



 お教室に入ったみんなは、まずは飾り付けのお手伝いです。
 遥久くんのお父さんは三脚を立ててカメラをセット。
 ……これが、数台。みんなの素敵な表情を逃すまいという執念を感じます。
「こんなもんかなー?」
 角度を調整しつつ、あとはオートで。後で編集すれば、どのお友達のお家にも分けてあげられます。

 縁くんはさっそく、両手で抱えるぐらいのカボチャを机の上にドンと置いて、あちこちから眺めます。
 このカボチャでランタンを作るのです。
「厚い皮のものは彫るのがむずかしいんでさ」
 カボチャを割らないように、どの角度から刃を入れるかを真剣に見極めています。

 そんな縁くんを、胡桃ちゃんの執事のゼロさんはじっと見つめていました。
 ランタン職人とはゼロさん自身のこと。だがしかし!
「なんでもできる俺にとってランタン作りなど造作もないこと。だがな、全て俺がやってしまっては、子供達の成長は期待できんしな」
 そう言いつつ懐から取り出したのは、瓶入りのお酒でした。
「あーゼロ? 幼稚園で酒はまずいとおもうが?」
 雇い主兼悪友でもある胡桃ちゃんのお父さんが笑顔のまま、低い声でとがめます。
「あー? 水だ水。命の水ってやつやな」
「じゃあせめて外で飲め! 空気中のアルコールでうちの天使に何かあったらどうしてくれる!!」
 胡桃ちゃんのお父さんとゼロさんは瓶を握りあい、目を血走らせ肩の筋肉をいからせ、熱い戦いを続けていますが、お友達のみんなは忙しいのでそんなことはどうでもよくて。

「はーい、では皆さん。できあがったかざりを先生に見せてもらえますかー?」
 りか先生は机を回りながら、みんなが色紙に絵をかいて、ハサミで切ってつくったおばけやこうもりのかざりを見て行きます。
 みんなとっても上手です。ときどきひたいに三角をつけたおばけがいるようですが、日本だから仕方がないですね。

「縁くんのランタンはどうかな?」
「いま、いいところで、さぁ」
 先生の声もうわのそら。くりぬきに失敗したらとても間抜けになってしまう、カボチャの歯の所を削っているのです。
 隣では遥久くんが、縁くんの手元をじっと観察中。
「よすがくん、とってもじょうずだね」
 縁くんがちょっとだけ手を止めます。
「いえのしごとばで、毎日みてやすから」
 そう言いながら、遥久くんがカボチャに下書きしただけで、まだ彫りには手をつけていないのに気がつきました。
「だいじょうぶでさあ。はるひさくんはなんでもこなしやすし。ちょっとコツを……」
 顔を寄せ合って相談するふたりのじゃまをしないよう、りか先生はそっとはなれます。
 どんなカボチャランタンができるのか、とっても楽しみですね。


 ランタン作りは刃物が使える子に任せて、他のお友達はお部屋を飾り付けます。
 高いところは園長先生ががんばります。
「せんせい、もっと上! もっと!」
 友真くんの無茶ぶりに、先生もがんばってこたえます。でも後で外すのが大変そう。
 手の届くところはお友達みんなでぺたぺた。
 こうしてお教室にはお化けがいっぱい飛びまわり、きれいなリボンが壁から天井、そして壁に流れます。
「さあ、じゃあみんな変身しようか」
「わーい! 変身するでー!」
 友真くんは大はりきり。みんなも持ってきた衣装を広げます。
 いつもと違うお洋服を着られるのはなんだか楽しい。それがみんな一緒になのです。
「先生はー? 先生はなに着るん?」
「ははは、なににしようかなあ」
 園長先生はみんなの変身を手伝いながら笑っています。



 カメラのセットをとりあえず終えて、遥久くんのお父さんは給食室へ走ります。
「遅くなった、大丈夫か?」
「おう。先にやれるところから始めてたからな」
 友真くんのお父さんが美味しそうなカボチャをくりぬきながら顔をあげました。
「ま、俺はどっちみち補佐役だからな。シェフの仰せに従うぜ?」
「またまた、ご謙遜を」
 ふたりは冗談をかわしながら、手早く料理の準備に入ります。
「何かお手伝いしましょうか」
「俺がひとりでフルコースのディナーでも作るけどな!」
 胡桃ちゃんのお父さんと、執事のゼロさんもやってきました。
 遥久くんのお父さんが忙しく走っていくので、後を追いかけてきたようです。
「お、助かります。宜しくお願いします!」

 こうしてお父さん達は忙しく働き始めます。
 何故か料理スキルの高いお父さんたちと執事さんが集まって、慣れた手つきで次々と美味しそうなお料理を作っていきます。
「これならお土産も作れそうだな!」
 手が足りているのを確認して、遥久くんのお父さんはカボチャクッキーの用意。
「どうせハロウィンパーティーなら、一つぐらいこう、それっぽいのがあっても面白いんやないか?」
 ゼロさんが赤いいちごゼリーの上に、ミルクゼリーの中に大粒のタピオカを入れた物を乗せました。
 ……かなり不気味です。
「その、無駄に高いスキルを、もうちょっと、他のことに、生かせないかな……!!!」
「ここで生かさんで、どこで使うっていうんや?」
 胡桃ちゃんのお父さんとゼロさんが、ひきつった笑顔で腕を握り合います。

「いやー、なんか面白い人だなあ」
 遥久くんのお父さんは、ゼロさんのセンスが気に入ったようです。
「はははは……」
 友真くんのお父さんは、流石にこのデザートには、泣きだす園児がいるんじゃないかと思いました。
「と、のんびりしてる場合じゃなかった。すぐにお昼になってしまうな」
 普段あまり用意しない人数のご飯に、張り切りつつも忙しく。
 でもみんなの喜ぶ顔を想像して、お父さんたちも自然と笑顔になって行くのです。



 そうして一生懸命お料理をしているお父さんたちの元に、忍び寄る影がありました。
 りか先生がしゃがんで、皆にしーっと合図します。
「いいですか? 包丁を使っているお父さんには、急に声をかけてはだめですよ? 先生が合図したら、いっていいですからね。わかった人は黙って手をあげて!」
 沢山の手が一斉にあがります。
「じゃあいきますよ。いち、に、さん。はい!」
「「「「とりっく・おあ・とりーとぉー!!!」」」」

「おっ?」
 お父さんたちが振り向きます。
「がおー! お菓子くれへんと血ぃ吸うぞー!」
 友真くんがお父さんの腕に抱きつきました。友真くんは黒いマントをつけた吸血鬼です。がっしりした腕につくり物の白い牙でくわーっと噛みつくふりをします。
「ははは、噛みつかれたらお菓子があげられないな! ほら、お菓子」
 袋いっぱいのお菓子を友真くんに渡すお父さんは、片目をつぶります。
「しょうがないなー、噛みつくのは勘弁しといたるわ!」
 友真くんは袋を受け取り、マントをひるがえします。ですがちょっとマントが長すぎて、思った通りにぶわーっとなびいてくれません。
 ちょっとよろっとしたのをなんとか踏みとどまって、他のお友達を見回します。

「とっくおとりー! くれなかったらちゅーするのっ」
 胡桃ちゃんは言えてない上に、ちょっと勘違いしているみたい?
「お菓子は勿論あげるとも! でも父さんはこももちゃんのちゅーも欲しいよね!!」
 座りこんで両手を広げて叫ぶお父さん。ダメすぎです。
「父さん、ちゅー」
 ほっぺに魔女っ子の扮装をした胡桃ちゃんのちゅーをうけて、お父さんはでれでれです。
「えーとこももちゃん、こっちのほっぺもほら」
 言いかけた時には、胡桃ちゃんはもうお父さんの番は終わりというように、くるっと振り向きます。
「ちゅー」
「ふわ……!」
 りりかちゃんは胡桃ちゃんにちゅーされて、目をぱちぱちさせます。
「とっくおとりー! はろうぃんのいたずらなのよ!」
 ちょっとずれてるおおきな帽子を元に戻しながら、胡桃ちゃんが得意そう。でも先に悪戯したら順番は逆かもしれないですね。

 りりかちゃんはもじもじしています。
 着物風でフリルをいっぱいあしらったドレスに、ネコ耳とネコの尻尾をくっつけて、頭の上にはヴェールのようにうすい着物を一枚かずいて。他の人から顔は見えているのですが、りりかちゃん自身はこの一枚のお陰で、ちょっと隠れているような気がして安心するのです。
 でもちょっと考えていたりりかちゃんは、思い切ってだーっと走り出します。
「とりっくおあとりーと……です!」
 どーん! 向かった先は、友真くん。
「ほああっ!?」
 びっくりした友真くんが思わずがーっと口を開けます。
「びっくりしたあ! がぶーするで……って……」
 かずいた着物の下でりりかちゃんがびくっと身体を震わせました。
 友真くんはそれを見て、がーっとあいたお口を閉じました。
(女の子とか、よわいもんは大事にすんのがヒーローやからな……!)
 だから女の子にはがぶーはしないのです。
 友真くんは袋からがさがさと出したお菓子をりりかちゃんにわけてあげます。
「飴ちゃんなー。食べておいしいし、いたずらにも使えるんやで!」
 飴には「ちゃん」をつけるのが、大阪人のあいでんてぃてぃなのです。
「あり……がとう……」
 りりかちゃんは手のひらにのせてもらった飴と友真くんの顔を交互に見て、そうっと笑いました。
 この幼稚園ならおともだちがたくさんできそうです。

 りか先生もちょっとほっとしたみたい。
「みなさんお菓子はもらえましたかー? あら、よかったわねえ」
 そういうりか先生も、黒い長いスカートの大きな魔女さんです。まほう学校の先生でしょうか。
 ふと、りか先生が首を傾げました。
「あら? 園長先生は……さっきまでいっしょだったのに」
 遥久くんがりか先生に教えてあげます。
「えんちょう先生ならあそこに」
 指さす方には、給食の先生と何やら話している背中があります。
 遥久くんは近付いていって、お話が途切れて園長先生が振り向くのをお行儀よく待ちます。
 給食の先生がなにか笑いながら合図すると、園長先生がくるっと振り向きました。
 が。
 そこにあるべき顔は見慣れた園長先生の物ではありませんでした。
「ぎゃああああ!!」
「きゃああああ!!」
 給食室にひめいがひびきます。
「ふぁ……ふぁあああん」
 友真くんと手を繋いでいたりりかちゃんは、泣き出してしまいました。

 なんと園長先生の顔はまっさお、頭に刺さったナイフから真っ赤な血が流れているではありませんか!
「……」
 遥久くんが無言のまま。じっと園長先生の顔を見つめています。
「遥久!」
 異変に気付いたお父さんが、血相を変えて走ってきました。
「いくら園長先生でも、遥久を……!」
 そこまで言いかけたお父さんは、自分の息子の性格をちょっと忘れていたみたい。
「ふ……」
 遥久くんの肩がふるえます。
「ふふ……うふふふ……」
 肩をふるわせてどんな顔で笑っているのか、見たのは園長先生とお父さんだけでした。
 たぶん他のお友達は、見ないのがよかったのでしょう。
 とにかく園長先生は遥久くんの顔から目をそらして、顔のケチャップをぬぐいました。
「ははは、おどろいたお友だちはごめんね。これはうそのナイフだよ。先生もちょっと悪戯してみたんだ」
「もう、園長先生! 悪乗りしすぎです!」
 りか先生がりりかちゃんを抱きかかえながら、ちょっと怒った声で言います。
「先生、女の子キャーいうてるし! わるいお化けはがぶーするで!!」
 友真くんはそう言って、みんなを代表してがぶーと園長先生の腕に噛みつきます。

 お父さんは笑いながら、友真くんの身体を抱きかかえて園長先生から引き離しました。
「よしよし友真、園長先生も、もうごめんなさいしてるからな!」
「……男には遠慮なくいってええってゆってた」
「ははははは、まあそれはそれということで! えっとご飯ができたからな、皆そろそろお腹もすいただろ?」
 おともだちみんながパッと笑顔になりました。



 にぎやかな飾りがいっぱいのお教室にお化けがいっぱい。
 仮装のまま、みんなでお昼ごはんをいただきます。
「みんなお手々は洗ったかな? じゃあお手伝いしてくれよなー!」
 遥久くんのお父さんが、大きなワゴンを運んできます。
 みんなで机をくっつけてひとつの大きなテーブルにして、そこにコップやお皿を並べます。
 友真くんのお父さんがそのお皿にお料理を配ります。
 二つに割ったカボチャをそのまま器にした熱々のグラタンに、小さめの甘いカボチャを丸ごと使ったカボチャプリン。
「これな、顔彫ってあるん! おれもちょっとだけ手伝ったん!」
 友真くんが器になったカボチャを得意そうに指さします。お父さんをお手伝いして、がんばったのです。ちょっと怖い顔になったのもいますが、みんな笑っています。
「すごい! 友真くん、頑張ってくれたのね。じゃあ皆さん、いただきましょう」
 りか先生の掛け声で、みんなでいただきます。
「おいしい!」
「あまーい」
 一斉に上がるうれしそうな声に、友真くんのお父さんもちょっとだけ得意そうです。
「はは、熱いから火傷しないように気をつけてな?」

 執事のゼロさんが、トレイを片手に教室に入ってきました。
「デザートはまだあるからな」
 焼き立て熱々のカボチャのパイは、バターのいい香りがします。みためも程良くこんがり美味しそう。お店で売っているお菓子のようです。
 きれいに切り分けてみんなに配る手つきも、流石の有能執事さん。
「ここに置くからな?」
 遥久くんがひっくり返さないように、ゼロさんが声をかけました。
 きちんと手を膝に置いて、遥久くんはお礼を言います。
「おそれいります」
(しっかりしたお子さんだ。しかもどこか仲間の匂いがする……)
 ゼロさんにとってのお仲間というのはどういう意味なのでしょうか。

「父さん、モモのまじょさん、にあう?」
「似合う似合う。こももちゃんの魔女さんはとっても可愛いよ!」
「まじょさんはかわいくないの! こわいの!」
 ぷっとほっぺをふくらまして「こわいかお」をしている胡桃ちゃんに、お父さんは困ったみたいな顔をします。
 いえ、本当に困っているのです。本人が「こわいかお」をしているのを可愛いと言っては失礼なので。でも可愛くて、顔がにやけて来るのを何とかごまかしている、困った顔なのです。
「はは、胡桃ちゃんのお父さんてば、幸せ者ですね!」
 友真くんのお父さん、今度はハンディカメラを構えてニコニコ笑っています。お料理の次は撮影と、大忙しです。
「でも胡桃ちゃんの魔女さん、ほんと可愛いなあ。りりかちゃんの和風のも可愛い。ふたりとも読モになれるよ」
 りりかちゃんは名前を呼ばれて、きょとんとした顔。
(どくも……?)
 遥久くんのお父さんもカメラを構えて、真剣な顔です。
「うん、女の子の仮装ってほんと可愛いよな! でもうちの遥久も可愛いしマジ天使」
 聞いちゃあいねえ。
(遥久くんと胡桃ちゃんのパパは、本気で似た者同士と言わざるを得ない……)
 友真くんのお父さんは、相変わらずだなあと思いました。
 でもお父さんはみんな自分のおうちの子が一番可愛いのですから、仕方ありませんね。
 友真くんのお父さんも、女の子をちゃんと守ってあげたりする友真くんのことを可愛いと思うのですから。
 ……というわけで、せっかく可愛い友真くんを映像に残そうと思っていたのですが。
「ほらほらすごいやろー? この飴舐めたらべろ赤くなるん、とりっく付きな!」
 べーっと真っ赤な舌を突き出す息子は、ちょっと残念な感じになりました。

「せんせい。ぷりんはおすきですか」
 遥久くんが、不思議な威圧感のある目でじっと見つめるのは園長先生です。
「え? ああ、嫌いではないよ。でも良かったらみんなで分けるといいよ」
 先生は自分のお皿のプリンをそっと示します。
「おすきですか。ではどうぞ」
 なぜか遥久くんは先生にプリンを食べさせてあげるつもりのようです。
(どうしてそうなる!?)
 園長先生の貼りついた笑顔に、スプーンが迫ります。
「もしも先生にかいごがひつようになったら、いつでも任せてください」
「ハハハハ、当面はそうはなりたくないと思うよ!!」
 そんなふたりをファインダー越しに眺めつつ、遥久くんのお父さんは歯を食いしばります。
「くっそ、うちの息子がなんで……! ああでもスプーンを持ってる遥久も、マジ天使」
 やっぱり遥久くんのお父さんは相変わらずなようです。
 
 ごはんがすんで、みんなでお片付けして。
 カボチャランタンが笑う中で、りか先生のピアノにあわせて、みんなでお歌を歌いました。
「それにしてもよく出来てるなあ」
 友真くんのお父さんが縁くんのランタンをほめます。
 でこぼこのカボチャが、にいっと口を曲げて笑っています。口も目も、とてもきれいな形にくりぬかれています。
 褒められた縁くんですが、まだちょっとぼんやりしています。
 あまりに一生懸命に作業しすぎて、まだ気持ちが戻ってこないみたいです。
 それでもカボチャプリンは食べました。
 やさしい甘さのカボチャプリンは、縁くんのお気に入りになりました。
(もうちょっとこう、飾り方を変えてもおもしろそうでやすねえ……)
 なにか考えこみながら、縁くんはプリンをきれいに食べました。


 楽しいハロウィンの会もそろそろ終わりの時間です。
 お部屋の片づけは明日、みんなで頑張ることになりました。
「お父さん……眠い……」
 友真くんが目をこすり、お父さんの袖をひっぱります。
「あー、昨日から頑張ってたからな。そろそろ限界か!」
 お父さんはしゃがみこんで、友真くんの顔を覗き込みました。
 いつもお父さんといるときはいい子にしている友真くんですが、こんなときはちょっと甘えてみたいなと思うのです。
 お父さんが広げた腕にパタンと倒れ込み、そのまま夢心地。ふわふわとだっこで運ばれるのはとっても気持ちがいいのです。
「みんなーお土産忘れずに受け取ったかなー? クッキーとチョコレートだよ!」
 遥久くんのお父さんが、お手製のカボチャのクッキーと、幼稚園の先生が用意したチョコレートを可愛く包んだお土産を配ります。
「ちょこれーと……」
 引っ込み思案なりりかちゃんが、目をキラキラさせて見つめます。
「はい、りりかちゃんの分!」
「ありがとう……!」
 にっこり笑ってうけとるりりかちゃんは、もうお父さんたちも怖くないみたいです。

「えんちょう先生!」
 ぱたぱたと走って来る遥久くんは、なにかを抱えています。
「ん? どうしたのかな、遥久くん」
 しゃがみこんだ園長先生の目の前に、カボチャのランタンが差し出されました。
「ごめいわくでなければもらってください」
「ああ、遥久くんが作ったランタンだね! いいのかな、おうちに持って帰らなくて?」
「はい。先生にプレゼントです」
 よく見ると、ちょっと目がたれ気味の、薄い口を開いて笑うカボチャは、園長先生に似ていなくもないような……?
「どうもありがとう。今日は楽しかったかな?」
「はい。とっても」
 年齢のわりにしっかりしていて、いつも落ちついている遥久くんですが、そのときのにっこりは本当に楽しそうに見えました。



 がくり。
 久遠ヶ原学園の大学部の一室で、准教授のジュリアン・白川は珍しく転寝をしていた。
「いかんな。学生に笑われてしまうぞ」
 自分の頬を両手で叩いて気合を入れ、肩を回してひとり呟く。
「それにしても何だろう。妙な夢を見ていたような」
 目覚めた瞬間に消えた夢は、とても奇妙な甘さの余韻を残していた。

 コンコン。

 白川は扉をそっとノックする音で我に帰る。
「開いているよ。入りたまえ」
 そう返事した直後、白川は扉に鍵をかけておかなかったことを後悔するのだが、時すでに遅し。
 乱入する声は……

『トリック・オア・トリート!!』

 ……果たして夢は何かのお告げだったのか?
 甘くて奇妙な夢は、今、現実となって白川を訪れる。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja6837 / 月居 愁也 / 男 / はるひさくんのおとうさん】
【ja2617 / 矢野 胡桃 / 女 / とっくおとりー!】
【ja5823 / 加倉 一臣 / 男 / ゆうまくんのおとうさん】
【ja6843 / 夜来野 遥久 / 男 / はい、あーん】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / がぶーするで!】
【ja7176 / 点喰 縁 / 男 / しょくにんかたぎ】
【jb1679 / 矢野 古代 / 男 / こももちゃんのおとうさん】
【jb6883 / 華桜りりか / 女 / ひっしのどーん!】
【jb7501 / ゼロ=シュバイツァー / 男 / ゆうのうすぎるしつじ】

同行NPC
【jz0061 / 大八木 梨香 / 女 / りか先生】
【jz0089 / ジュリアン・白川 / 男 / 園長先生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
長らくお待たせいたしました、パラレルなハロウィンパーティーの一日をお届します。
有能なランタン職人と料理人のお陰で、何か新しい商売ができそうだなどと思ったりしましたが。
お楽しみいただけましたら幸いです。
この度のご依頼、誠に有難うございました。
ゴーストタウンのノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2015年12月07日

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