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『停職エージェントの冒険(4) 』
フェイト・−8636


『良い実戦データが採れましたよフェイトさん。改良型を装着しての初戦闘、お疲れ様でした』
 電話の向こうで、御曹司が嬉々としている。
 正直な男だ、とフェイトは思った。
「なあ御曹司。あんた、俺がデータ採取用の実験台だって事……隠そうとも、しないんだな」
『私、商売人ですからね』
 今はバイクの荷台に固定してある、大型のトランク。
 その中身の開発責任者でもある若社長が、電話の向こうで不敵に笑っている。
『あの強化スーツは、改良型とは言ってもまだまだ試作段階です。フェイトさんには、大いにデータを集めていただかなければ』
「商売人って割に、あんまり商売しようって意図を感じないんだけどな。こいつからは」
 左手でスマートフォンを保持したまま、フェイトは右手でトランクを叩いた。そんな事をしても、相手には見えないのだが。
「念動力者にしか扱えない道具なんて、一体どこの誰に売りつけるつもりなんだ」
『もちろん最終的には、念動力をお持ちではない普通の方々にもお使いいただけるものを目指しております。今フェイトさんがお持ちの改良型は、あくまで貴方の専用品という事で……そうですねえ。強化スーツとか改良型とか味気ない呼び方ではなく、そろそろ正式名称のようなものが欲しいとは思いませんか?』
「……それはまあ、そっちで勝手に決めてくれ。俺は、こいつを使わせてもらうだけだ」
 フェイトは苦笑した。
「あって助かってるのは、事実だからな……まあ、データでも何でも採ってくれよ」


 一応は舗装されている山道で、フェイトはバイクを止めた。
 大型のワゴン車が、どうやら立ち往生をしている。
「どうかしましたか?」
「あ、いえね、エンジンがトラブっちゃったみたいで」
 運転手と思われる太り気味の男が、ボンネットを開けて悪戦苦闘している。
「困ったなあ。明るいうちに、こいつらを現場まで送らないといけないのに……」
 こいつら、と呼ばれた男たちが、ワゴン車内に詰め込まれている。
 作業服を着せられた男が、ざっと数えて10人近く。いくら大型ワゴンでも詰め込み過ぎだ、とフェイトはまず思った。
 日雇いの派遣労働者たちを、山奥の工事現場へでも運んでいる最中なのであろう。
「カーレス呼ぶしかないかなあ。いくら取られるかなあ」
「ちょっと……見せてもらって、いいですか」
 フェイトは、開けっ放しのボンネットを覗き込んだ。そして太り気味の男から工具を借りた。
 以前いたアメリカは、とにかく車がなければ話にならない国であった。ちょっとしたエンジントラブルなど、自力で解決出来て当然。そんな国であったのだ。
「お……おおっ、エンジンかかったかかった! 凄いな、あんた」
 太り気味の男が、運転席に戻り、喜んでいる。
 工具を返しながら、フェイトは言った。
「この車、明らかに定員オーバーだと思いますよ。それが原因じゃないんですか」
「いやあ、その通りなんですがね。こいつらに、一刻も早く仕事させてやんないと」
 こいつら、と呼ばれた男たちを、フェイトはもう1度、観察した。
 年齢は、20代から50代まで、といったところか。
 中でも特に年嵩の男と一瞬、目が合った。
 その男は、即座に目を伏せた。
 他人と目を合わせるのが苦手なのだろう、とフェイトは思った。
「じゃ、どうもありがと。助かりましたよ!」
 太り気味の男が、そう言ってワゴン車を発進させた。
 遠ざかって行く車の中で、年嵩の男は、いつまでも目を伏せていた。


 味がしない。
 自動販売機で買った、うどんである。だからと言って格別に不味いわけでもないだろう。
 思い出すだけで、何を食べても味がしなくなる。そんな男がフェイトには1人いる。
「まさか……な」
 ワゴン車の中で目を伏せていた、年嵩の男。
 その顔が、なかなか脳裏から消えてくれないまま、フェイトはうどんを掻き込んでいた。
 ドライブインで、軽い昼飯を済ませているところである。
 いくつもの自販機が立ち並ぶ、無人の食堂と言うか休憩所。
 近くの席では、トラックの運転手らしき2人の男が、カップラーメンや菓子を食べながら雑談している。
「絶対おかしいべ? ダムやトンネル造るような所でもねえのに、あんなに人集めてよぉ」
「一体、何の工事やってんスかねえ」
「それがよォ、そもそも工事なんかやってねえって話だぜ。食い詰めた日雇いやら派遣やら、そうゆう奴らを騙して集めてよ……殺してスナッフビデオ撮ってるって話あんだけど、聞いた事ねえ?」
「宇宙人に拉致られてるって話、聞いた事あるッスよ俺。内臓とか取られて、あとは捨てられちゃうの」
「それよぉ、ずっと前のアトラスの記事だべ?」
 そんな話を聞きながらフェイトは、味のしないうどんを完食した。


 洞窟の前に、あのワゴン車が止められている。
 中には誰もいない。太り気味の運転手も、荷物のように詰め込まれていた労働者たちも。
 目を伏せていた、あの年嵩の男もだ。
 バイクの荷台にあった大型トランクを携え、フェイトは洞窟へと足を踏み入れた。
 発破工事で掘られたものではない。自然に出来た洞窟、のようである。
 少し歩いた所で、フェイトは立ち止まった。気配が、ゆらりと近づいて来たからだ。
「……見逃して、くんねえかなあ」
 前方の岩陰から、太り気味の人影が現れ、声をかけてくる。
 ワゴン車を運転していた男だった。
「この先で、俺のおふくろがさ……今、食事中なんだよ。行ったら、あんたまで食われちまうぜ」
「余計なお世話だろうけど訊いておきたい。あんたのお母さん、一体何を食べてるのかな」
 フェイトの問いに、男は答えない。
 太り気味の身体を、ただ震わせているだけだ。
「あんた、親孝行してたんだな……ここから出られないお母さんのために食べ物、運んでたんだろう?」
 男は、やはり答えない。
 太り気味の身体が突然、破裂した。そのように見えた。
 衣服がちぎれ飛び、皮膚と筋肉が、変異しながら盛り上がって蠢く。
 人間ではないものに変わりながら、男が襲いかかって来る。
 牙か大顎か判然としないものが、凶暴に蠢いてフェイトの喉元を狙う。鉤爪を生やした6本の腕が広がり、フェイトを捕えんとする。
 2本足で直立・歩行・跳躍し、6本の腕で敵を襲う。その姿は、言うならば人型の蜘蛛であった。
 攻撃を念じながら、フェイトは踏み込んだ。身を捻り、左右の拳を叩き込む。続いて、左足を高速離陸させる。
 念動力を宿した拳が、蹴りが、人型蜘蛛の巨体を粉砕していた。体液が噴出し、様々なものが飛散する。
 それらをビチャビチャッと全身に浴びながら、フェイトは洞窟の奥へと進んだ。
 さほど深い洞窟ではない。洞窟の奥に潜むものの姿は、間もなく視界に入った。
 強いて表現するならば、蜘蛛に似ている。
 そんな巨大な生き物が、男の言っていた通り、食事をしている。
 ワゴン車で運ばれて来た労働者たちは、洞窟の片隅にいた。全員、蜘蛛の糸と同質と思われる白いもので縛り上げられ、意識を失っている。
 10人近くいたはずだが、今は4人しかいない。
「俺が、最初から気付いていれば……なんてのは思い上がりなんだろうけど」
 フェイトは小さく、溜め息をついた。
 あやかし荘の座敷童に、話を聞いた事がある。土蜘蛛という妖怪が、これであろう。
 もともと日本土着の神であったが、高天原の神々との戦いに敗れ、人を喰らう怪物に堕したという。
「チュトサインの同類……か」
 フェイトは、携えてきたトランクを地面に置いた。
 土蜘蛛が、食事をしながら排泄をしている。
 否、排泄ではなく出産であった。
 その巨体から大量に噴出し、垂れ流されたものたちが、蠢きながら起き上がって牙を剥く。6本の腕を、揺らめかせる。
 人型蜘蛛の、大群であった。
 一斉に群がり襲いかかって来る彼らを見据えながら、フェイトはトランクに片手を当てた。
「装着……!」
 黒色の強化スーツが、フェイトの全身を覆い尽くす。
 黒く武装したフェイトの拳が、フック気味に弧を描き、あるいは正拳付きの形に直進し、人型蜘蛛をことごとく粉砕した。
 装甲ブーツで固められた蹴りが一閃し、数匹の人型蜘蛛を一まとめに叩き潰す。
 蹴り終えた足を着地させながら、フェイトは大型ハンドガンを腰から引き抜いた。
 念動力が吸い取られ、銃内に装填されてゆく。
 フェイトは一瞬、気が遠くなった。それに耐え、引き金を引いた。
 銃声が轟き、巨大な土蜘蛛は砕け散った。


 白い蜘蛛糸で縛り上げられていた労働者4名は、意識は失っているものの命に別条はないようであった。
 うち1人が、目を覚ました。
「……何だ……あんた、助けてくれたのか……」
 目を伏せていた、年嵩の男である。
 今は弱々しくもまっすぐに、フェイトの方を見つめている。黒い機械装甲に身を包んだ、人型甲虫の姿をだ。
 装甲マスクで顔を隠した相手となら、目を合わせて会話が出来るのだろう。
「ありがたいが……余計な事、してくれたな……やっと、死ねるはずだったのに……」
「……死にたければ勝手に死ね。生きたければ、勝手に生きろ」
 それだけを言って、フェイトは背を向けた。
 この男が何者であれ、死にたがっている人間に軽々しくかけてやれる言葉など、あるわけがなかった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
東京怪談
2015年12月09日

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