▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『雪が見せる過去の面影 』
龍崎・カズマka0178

「はあ……。寒ぃな」
 龍崎・カズマは言葉と共に自分の口から白い息が出るのを見て、首を竦める。
 年末の仕事は忙しく、今日も朝から依頼を受けて外に出ていた。
 だが思いのほか早く仕事が終わったので、何とか日が暮れる前に家に到着できそうだ。
「寒くても年末の街中は、いつもよりも人が多くて賑わっているな。俺も年末年始の準備は、しっかりしとかないと」
 ふと、今年一年のことを思い出す。
 たくさん喜び、時には怒り、不意に哀しみ、そして楽しんだ日々を――。
 ハンターとして働いているせいか、日々は目まぐるしく過ぎていく。
 だが音を上げることなく、嫌になることもなく、今の仕事を続けていられるのは、やはり様々な出会いがあったのが一番大きいと思う。
「けれど俺がいる世界は、本当はここじゃないんだ……」
 無意識の内に呟いた言葉で、カズマは自分の心がギュッと痛むのを感じた。
 この『赤き世界』ことクリムゾンウェストにカズマが来たのは、もう一年半前になる。
 カズマは元々『青き世界』ことリアルブルー出身――のはずだ。
 しかし人生の大半を過ごした世界のことを、カズマは何故か上手く思い出せずにいた。
「あっちの世界での記憶は、まるで夢の中の出来事のようになっていやがる。……いや、そもそも覚えている事は、本当に『記憶』と呼べるものなのか? もしかしたら、何らかの『記録』と思い違いしてんのかもな」
 こちらの世界に来た時の最初の記憶は、サルヴァトーレ・ロッソに乗っていた頃になる。
 原因は不明だがサルヴァトーレ・ロッソは突如、リアルブルーからクリムゾンウェストへ転移した宇宙戦艦だ。
 サルヴァトーレ・ロッソは元々リアルブルーが建造した宇宙戦艦の為、そこにいたということはカズマは間違いなくリアルブルーから来た者となる。
「ちゃんとIDカードを持っていたし、サルヴァトーレ・ロッソに乗っていた記録も残っている。艦内には俺を知っているヤツもいたし、リアルブルーにしかないカメラで撮った写真にも俺はちゃんと映っていたのに、な……」
 カズマがリアルブルーから来た証拠は、数多く残っている。証人だって、何人もいるのだ。
 なのに当のカズマ自身は、リアルブルーにいた頃の記憶があやふやになっている。
 周囲の者達はサルヴァトーレ・ロッソがリアルブルーからクリムゾンウェストに到着した時に、カズマの脳に何かしら影響が出てしまい、記憶障害が起きてしまったのではないかと言っていた。
「けどなぁ、俺はそんなにヤワじゃねーだろ? それともどっかに頭をぶつけちまったのか?」
 皮肉げに言ってはみるが、心の中のモヤは晴れない。
 過去の記憶があやふやなまま、この世界でハンターとして生きることを決めた。
 最初のうちは文化の違いに驚いたものの、今ではすっかり馴染んでいる。
 様々な依頼をこなし、いろいろな人と出会い、そして経験を積んでいくうちに、とある疑問が思い浮かんでしまった。
「俺の過去の記憶は……本当に『本物』、なのか?」
 不安げに呟きながら両手のひらを見ていると、空から白い雪が舞い降りてきた。しかし雪はカズマの手のひらの熱で、溶けて消えてしまう。――まるでカズマの過去の記憶のように。
 ハンターとして積み重ねてきた経験は、カズマの勘を鋭くさせた。

 『記憶』と思っていたものは、本当はつくられたモノではないか?
 何者かがカズマの脳をいじり、偽りの記憶を植え付けたのではないか?
 本物の記憶など、もうとっくに消されているのではないか――と。

「……バカらしいな」
 しかし言葉とは裏腹に、口の中に苦味が広がる。
 この世界に来てからというもの、カズマは繰り返し見続ける夢があった。
 過去の出来事なのか、良い夢なのか、悪い夢なのか、それとも未来で起こる出来事なのか――、今は判断がつかない。
 ただあの夢を見るたびに、過去の記憶についてこだわってしまう。
 普段は日々が忙しいせいで、滅多に過去なんかにこだわらないカズマなのに。
 しかしあの夢は、この世界の日常に慣れたカズマの横っ面を叩くように、そして底なし沼のように意識を過去へ引っ張るのだ。
 思い出せない過去が、何故こんなふうに自分にまとわりつくのかも分からない。
 もしかしたらどちらかの世界で大罪を犯してしまい、今は刑が執行中ということもあり得る。
 過去の記憶を【忘却】させられるほどの罪を、自分は犯していないと強く断言できないことが少し悲しい。
 何せ頭の中の記憶は失っていても、身体は戦った記憶をしっかりと覚えていたのだ。
 自分の身体は戦いに慣れていた――その事実は消し去ることはなく、皮肉ながら今の職業には向いていた。
 つまり記憶を失う前も戦っていた事は、変えられない真実ということになる。
 そうなるとまた新たな悩み事が増えてしまい、落ち込んでしまう。
「……でも落ち込むたんびに、今の日常に引っ張り上げられるんだよな」
 カズマが過去の事で暗くなるたびに、この世界や仲間達が『今』に戻してくれるのだ。
 そして思い出す。自分は『今』、この世界で生きていることを――。
「この世界を守る為に生き続けたいという俺の気持ちも、もしかしたら植え付けられた意識なのかもしれねぇ。そうすることで、自分を生かす理由にしようとしているだけなのかもしれないが……」
 ギュッと両手を握り締めて、カズマは前を見据える。
 今、カズマの黒い瞳に映るのは、クリムゾンウェストに住む人々と景色だ。少なくともこの瞬間は平和と言える光景が、広がっている。

 ――いつか過去の記憶を全て、思い出す時がくるかもしれない。
 そして今の自分とは、違う自分へと変わってしまうかもしれない。
 もしかしたら、こうやって過ごした日々を忘れてしまうことも……。

「それでも俺は俺だ」
 力強く呟いたカズマの両目に、もう迷いはない。
 白い雪が街に降り積もる中を、歩き続ける。
 どこで生きても、何を選んでも、自分が自分である誇りを抱いて、カズマは前へ進む。


<終わり>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ka0178/龍崎・カズマ/男性/20歳/人間/疾影士】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 このたびは指名をしてくださり、ありがとうございました(ペコリ)。
 読んでいただき、満足していただければ幸いです。

 
WTシングルノベル この商品を注文する
hosimure クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2015年12月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.