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『Malice 月×桜 』
常塚咲月ja0156


 一面の白。

 光すら透過する真白。
 その無彩色は、白亜で描くキャンバスを印象づける。
 現実から目を逸らさないで、夢という言葉に逃げないで、まっさらなラインを引いた。昨日の彼方も、明日の色も、描いた“箱”で抱きしめる。

 彼女の世界。
 常塚 咲月(ja0156)の世界は、真白の箱。
 壁は画布の如き囁きで色彩を欲し、足下の床は無色透明の硝子。薄く、不安定で、真実さえも透けて消え入ってしまいそうだ。

「でも……此処に来て……学園で色んな人達に出会って……少しずつだけど、未来の色……増えた……」

 出会いが咲いて。
 一秒ごとの瞬間が輝いて。
 過ぎていく季節と共に、箱は大きな部屋となり、床の硝子は彩りで表情を変える。

「ぽかぽか、温かい……きらきら、眩しい……重ねた想いみたいに……色の奇跡、繋いでいく……」

 安定の調和である深緑色、太陽の色さえ褪せる雪色。一際落ち着いた彩を放つ紫紺色、聖なる絹に触れた瑠璃色に、秋の陽光に映える竜胆色。そして、翳りと淡紅を含んだ桜色――……。

 全てが咲月にとって、かけがえのない色の欠片。咲いても散らない花のように、うつろわない想いの色で世界を鮮やかに染めてくれる。

 だから、切に。

「この色を護りたい……」

 願う。
 消える泡には委ねない。幸せの欠片、繋いだ光、水面の記憶――自分の手で、ゆらりゆらりと描いて残そう。

「喜びは……何色かな……

 絆は……

 想いは……

 ――え……?

 黒……?

 深くて……黒い……?

 ――ちが、う……やっ……」

 おいで。
 おいで、さあ――鬼さんこちら。

 突如、咲月の色彩がシャットアウトした。
 音も色もない虚無の後(のち)、瞬いて現れたのはモノクロームの世界。白が存在すれば、反して黒も存在する。部屋という世界の中央には、混迷が一輪咲いていた。

 首を揺らして呼んでいる。
 黄昏に燃えるようなその花は彼岸花であろうか。だが、その鬼首は揺らす都度、朱赤の色を溶かして変える。

 どろり、ぽたぽた。
 どろり、どろり、ぽたぽたぽた。

 酷く、耳に障る童歌を聞いているような音であった。
 その“色”は嗚咽を流して硝子を呑み込んでゆく。じわりじわり、這ってきたそれは、咲月が零した懸念の色であったのか。

 ――“昏し”の“黒”。

「や……呼ばないで……」

 逃げられないよ?

「私は近付けない……呼ばれても近付けないの、分かってる……」

 ほら、捕まえた。

「必要ないって言うんでしょ……? 私は要らないって……私だけが、要らないって……」

 あれ?
 鬼はどちらだっけ?

「深くて、寒い……独りは、嫌……これ……なんて言うの……? 分からない……分からない……」

 まあ、いいや。
 だって、君はどうせ――。

「これは――……嫌、消えちゃ……やだ……」










 大切なことを信じ、疑いなどなかった。
 重ねてきた想い出や時間に、偽りなどありはしなかった。
 しかし、永遠という真実は只の言葉であるが如く。子守唄のように夢心地として続きはしない。“彼”が呆れたように微笑む。“彼”が在ると微笑む。――そう。

「ずっと三人一緒じゃないって分かってる……“特別”な“約束も”……傍も……何時まで……?」

 ねぇ、誰か教えて――――。











「大丈夫だ」

 包まれた温もりと共に、咲月はとても近い所で彼の声を聞いた。

「大丈夫だから」

 まじないのように繰り返し言い聞かせてくる桜の音の弾みで、喉で支えていたものが通り抜ける。

「――え……? あれ……?」

 顎を滴った冷たい温度。
 吸い込んだ息が、喉でひゅっと音を立てた。

「私、泣いて……?」

 アンバランスな視界を白で流して、咲月はおずおずと面を仰ぐ。どうやら、彼の――藤宮 流架(jz0111)の胸に上体を寄りかけていたようだ。安らかな眼差しと瞳が触れ合う。

「流架先生……」

 彼の感じた鼓動と、瞼の奥に映る心。不確かであるはずがないのに、記憶を何処か遠くへ落としてきてしまったような心細さが咲月の胸を刺した。

「あ……私、確か……此処……縁側で骨董品見せて貰ってた……?」
「ん、そうだよ。……低血圧だったのかな、少し、ね。君の意識が攫われていたようだったから。平気かい?」
「んん……なんでもない……。へいき、だよ……? むぅ……あ……これ……蝶だし……綺麗……。これ……ください……」
「――え? ああ、つげ櫛かい? ……分かった。後で包んでおくよ」
「ん……ありがとう……。んと……あ……こっちの三連桜の髪飾りも素敵、だね……念珠入れも可愛い柄……。えと……こっちは……」
「――咲月君」

 細やかに震える咲月の指先が扇子に触れる前に、流架が己の掌を彼女の体温に重ねて制する。そして、重ねているのとは別の手で、涙の痕に張り付いている幾筋かの髪を指で解いてやった。

「落ち着いて。大丈夫だよ」

 囁くように、流架が言う。真摯に咲月を見つめて。真っすぐな眼差しは、彼女の答えをじっと待っていた。咲月の瞳が大きく膨らんで、固まる。心が縋る。此処にある確かな記憶をどうか、いつまでも引き留めていてと――咲月は掌を合わせて望んだ。

「――ぎゅー……しても……だいじょぶ……?」

 目尻を下げた彼女の上目遣いに、流架はきょとんと睫毛を二度扇がせる。次いで、小さく苦笑した。

「あとへ退けるのかい?」
「う……? んむー……先生の意地悪……」
「ごめんごめん。ほら、おいで?」
「――……ん……はぐー……」

 ぽふっ。
 猫が自分の居場所へ戻るように、体温を彼に解いて。鼓動を共鳴させて。吐息すらも心に捧げるから――……、

 ねぇ、

「教えてくれる……?」

 褪せた彼岸の世界。

「先生なら知ってるのかな……苦くて寒くて深い黒色……」

 咲月の沈鬱な声音が、微風の波に静かに混じった。
 それ以上、彼女は語らない。只、言葉を口にしたからといって、何もかもを分かってもらえることがないのは知っていた。だけれど、形には見えないけれど。彼の色彩に甘えた。

 暫く沈黙が流れる。

 流架の胸へ当てている耳元に、彼の“細波”は聞こえない。しかし、触れているからこそ感じとれる気配――追えども、見えないような境界ではあったが。

「黒は嫌いかい?」

 憂う、形のよい唇が薄く開く。

「んん……分からない、けど……不安……? 寂しいのと……ひとりぼっち……みたいな感じ、する……」

 頬を預けていた胸に、咲月は顔をずらして額を押し付けると、その“気掛かり”へ応じるように慈しみ深く頭を撫でられた。

「苦しいと感じるのは、自由を織り成す甘息(といき)を知ったからなのかもしれない。
 寒いと感じるのは、親愛の実を結ぶ腕(かいな)を知ったからなのかもしれない。
 深いと感じるのは、夢と現――どちらか満たす足(しるべ)を知ったからなのかもしれない」

 そして、流架は何処か自身に説く語り口のまま次ぐ。

「黒の裏に在る白よりも、君にとってもっと意義のある豊かな色を知ったから――そう思えるようになったのかもしれないね?」

 咲月はゆっくりと面を上げ、頬を傾けて目を細める。流架の顔が今日一番近い位置にあった。咲月の予想とは反し、なんのわだかまりもない、澄んだ眼差しが見据えてくる。

 ――そうか。
 もしかしたら、と。咲月は吐息を零して。

「先生……も……?」

 その問いに、流架は平素の狡さで目笑だけを返す。
 でも、たったそれだけでもいい。
 心の内から消えた心細さにほっとして、咲月は再び彼の胸元へ、そろり、身を寄せた。

 温かい。

 確かで、その優しい体温に胸が詰まる。





 ――ねぇ、教えてほしい。
 望んで、赦されるのだろうか。どうか、この瞬間がいつまでも続きますように、と。

 私は、願う。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0156 / 常塚 咲月 / 女 / 21 / 白い箱と堕ちた月】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 黒い桜と砕いた硝子】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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平素より大変お世話になっております。愁水です。
今回はシリアスほんのりダークでお届け致しました。若干ホラーテイストも混じってしまいましたが……すみません、私の趣味です(平伏
彼女の世界に、流架が少しでも添えることが出来ましたでしょうか?ご想像を裏切っていなければ幸いで御座います。
此度のご依頼、誠にありがとうございました!
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エリュシオン
2015年12月22日

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