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『猫になった日 』
リズレット(ic0804)&天河 ふしぎ(ia1037)


 ――リズレットは、とても美しく、愛らしく、貞淑な妻だ。
 結婚してからというもの、炊事も洗濯も完璧で家の中は綺麗だし、出てくる料理はいつも美味しいし。
 夫であるふしぎを立てて常に一歩引いていて、まさに良妻の鑑のような人で……。
 どれくらい完璧かというと、ふしぎが掃除や料理を手伝おうとすると『それは私の仕事ですから、休んでいてくださいね』と言われてしまう程だ。
 ふしぎ自身はリズレットと一緒にいるだけで嬉しいし楽しいし、別にそこまでしてくれなくて構わないし、休みの日は一緒にのんびりしてくれたらと思うのだけれど。
「ふしぎ様はお優しいのですね。でも、妻としての勤めはしっかり果たしませんとね」
 そう笑顔で返されて、何も言えなくなってしまう。
 うーん。リズが頑張ってくれているのは分かるし、有難いし嬉しいけど。
 リズにももっとこう、自分を曝け出すというか、甘えて欲しいな……。
 ふしぎがそんなことを考えていたからだろうか。
 ――ある日突然、その事件は起きた。


「にゃああああああああん!!」
「うわあああああああああ!?」
 小鳥の囀り。差し込む朝の光。
 いつも通りに目を覚ました朝。
 隣にいるリズレットにおはようの挨拶をして、いつも通りに起きようとしていたはずだったのだが……何故か、ふしぎの上には妻が乗っていて……。
 いつもは朝食の準備を始めると言って自分より早く起きることが多いのに、今日はどうしたのだろう。
「リ、リズ? どうしたの?」
「にゃーん……」
 恐る恐る訊ねるふしぎに、猫のような鳴き声で返事をするリズレット。
 よく見ると、彼女の銀色の瞳がとろんとして、細くてしなやかな尻尾がゆらゆらしている……。
 ――リズレットは、猫の神威人だ。
 天儀に住む獣人族である神威人は、耳や尻尾、羽といった様々な種類のケモノの特徴をその身体に備えており、彼女も例外なく髪の色と同じ、綺麗な銀色の猫耳と、長い猫尻尾を持っている。
 リズレットが猫っぽくなったのも、何かの拍子に神威人のケモノの部分が出てしまったのかなぁ、時々そういう人いるよねえ……で済む話なのだが。
 問題は、彼女は今まで一度もそんなことがなかった点である。
 何度も言うが、リズレットは貞淑で控えめなのだ。
 いつだって愛を囁くのはふしぎからだし、夜のお誘いだって……。
 いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
 様子のおかしい妻を何とかしないと……!
「ねえ。リズ。大丈夫? 身体の具合でも悪いの?」
「にゃーん」
「え? 身体が熱いの? 熱あるのかな……」
「にゃあぁーん」
「ん? 私は元気です? あんまり元気そうに見えないんだけど……言葉話せる?」
「にゃん!」
「ちゃんと話してるじゃないですか、って……リズ、さっきから『にゃん』しか言ってないよ?」
「にゃーーん」
「そんな、まさかー……って自覚ないの!?」
「にゃー。にゃん!」
「う? ふしぎ様、ちゃんと私が言っていることが分かってるじゃないですか! って、えええ!?」
 困惑しつつも呟くふしぎにこくりと頷くリズレット。
 どうやら、彼女は『にゃん』しか言えなくなっている上に、本人にはその自覚がないらしい。
 ……この状況下でリズレットの言っていることが何となく分かるのは、きっと愛の力の成せる技だ。うん。
 いやー。愛って素晴らしい! 夫婦って通じ合ってるんだなー……!
 何というかこう、彼女の見た目は全く普段と変わらない為、ギャップの激しさに戸惑うけれど。
 こういうリズレットも悪くない。というか、カワイイ……!
 ……って。だからそうじゃなくてですね。
 そうだ。病院! 病院に連れて行こう。
 身体が熱いということは、どこか調子が悪いに違いない。
 神威人だけが罹患する変な病気だったりしたら困るし……!
 意を決したふしぎは、己の上で荒い息をしているリズレットをそっと伺う。
「リズ、やっぱり今日はちょっとおかしいよ。病院行こう。ね?」
「にゃーん……」
「その為にもさ、とりあえず僕の上から降りてくれないかなー……なんて」
「にゃあああああん」
 すりすりすりすり。
 ふしぎの声が聞こえているのかいないのか、彼の胸に頬を摺り寄せるリズレット。
 ――彼女自身、自分の身体が少しおかしいことは気付いていた。
 朝、目が覚めたら隣にいる旦那様がとてもキラキラと輝いて見えたのだ。
 もちろん、ふしぎはいつだってカッコいいし、優しい旦那様なのだけれど。
 今日は、普段の比にならないくらいステキで、何だかいい匂いがして……。
 もう、とにかくくっついていたくて仕方ない。
 自分で抑えようと思ってもどうにもならない……。
「リズ。リズってば……! ちょ……」
「にゃああああん」
 病院に行くためにはまず起き上がらなくてはならない。必死で妻を引き剥がそうとするふしぎ。
 しかし、リズレットは離れるどころか、更に身を寄せてくる。
 頬をくすぐる彼女の銀糸のような髪。紅を差していないはずなのに赤く艶のある唇。そこから漏れる熱い吐息。こちらを見上げる瞳はうるうると潤んでいて……。
 ああ、こんな状況じゃなければ! とっても嬉しいんだけど!!!
 そ、そう。まずは病院。病院だー! 落ち着け、落ち着くんだふしぎ。
 はっ! そうだ! リズを抱えて連れて行けばいいんだ!
 よし、そうと決まれば……!
 ……リズレットは細身で軽い。そして、ふしぎは百戦錬磨の開拓者である。通常であれば、彼女を抱え上げることなど造作もないことなのだが。
 そう、通常であれば、だ。忘れてはいけない。相手はふしぎ。らきすけの申し子である。
 そう簡単に事が運んだら面白くn……いやいや。そう簡単に事が運ぶ訳がないのである!
 意を決したふしぎ。リズレットの身体を優しく支えて、持ち上げようとして……その熱さに驚愕する。
 ――リズ、こんなに身体が熱いなんて。やっぱり早く診察して貰わなきゃ……!
「リズ、苦しい? 急ぐからね。ちょっとごめ……うわあああああ!!!」
「みゃああああああ」
「いたたた。ごめん、リズ。大丈夫だった……?」
「にゃあ……」
「大丈夫です、もっとくっついていたいです? うん、僕も……って、いやいや。今退くからね!!」
 焦ったのが悪かったのか、盛大にひっくりかえったふしぎ。
 何をどうしたらそうなるのか、リズレットの上に乗ってしまい、慌てて退こうとして……。

 ――むにゅり。
 あ。この柔らかさは知ってる。リズレットの――。
 ふんわりとしていて、形も良くて。こう、手に吸い付くようで、いくら触っていても飽きないんだよねー。
 
「……にゃぁん」
「って、うわああああああああああああ!! ご、ごめん!」
 リズレットのか細い声に、ハッ!? と我に返って身を起こそうとした彼。
 彼女の胸に張り付いている手を外そうとしたが、リズレットの手がそっと添えられて封じこめられた。
「リズ、何してるの?」
「にゃーん……」
「こうして下さっていていいんですよ、って……あのね。今そんなことしてる場合じゃないよね」
「……にゃん? にゃーーーん」」
「うわぁ! リズこんな時にそんなこと言わないでよおおおおお!!」
 空いている片手で頭を抱えるふしぎ。
 どうやら、リズレットから愛を囁かれたらしい。
 普段、なかなかそういう言葉を口にしない妻からそういうことを言われると、なかなかクるものがある。
「にゃーん……?」
「ん? ううん。嫌な訳ないでしょ。嬉しいよ?」
「にゃぁあぁん」
「うん。僕も……」
「にゃあ……。にゃあん」
 ふしぎの首に腕を回して身体を摺り寄せ、尻尾を絡ませて、求愛の言葉を繰り返すリズレット。
 その言葉もだんだん熱を帯びてきて……ふしぎの頬が朱に染まる。
 ――普段は、自制しているだけで、本当は夫が愛しくて堪らないのだ。
 良き妻でありたくて、ふしぎの役に立ちたくて……常に一歩引くようにしているだけ。
 本当は一刻だって離れていたくない。触れていたい。ずっと彼の腕の中にいたい。
 その鮮やかな若緑色の瞳に映るのが、自分だけであって欲しい……。
 自分は貞淑なんかじゃない。本当は恐ろしく欲深い。
 ……こんな私でもいいですか?
 私を、愛してくれますか……?
「リズ、あのね。その……勿論僕も君を愛してるんだけどね」
「にゃーん」
「僕も男だからね。色々とあってね……」
「にゃーーーーん」
「だからね。その……」
「にゃぁん……」
 うわーーー! ダメだ! リズレットの言葉がだんだん過激になってきましたよ!
 他の人が聞き取れない猫語で良かったのか悪かったのか!!
 ふしぎさんの理性が!! 赤ゲージです! 大ピンチです!
 でも、夫婦なんだし問題ないんじゃ……?
 いやだからちょっと待って。まずはリズレットを診て貰わなきゃ……!!
「リズ、そういうことh……」
「にゃ!」
 問答無用! とばかりにふしぎの唇を塞いだリズレット。
 彼の脳内で、ぷっちん……という理性の糸が切れる音がした――。


「……ふしぎ様。朝ですよ。今日の朝ごはんはミネストローネにしてみました」
「ん……? んん? ああ、リズ。おはよ……」
「おはようございます。さあ、冷める前にテーブルにいらしてくださいね」
「うん……。あの、リズ。身体は大丈夫なの?」
「……身体? 何の話ですか?」
「昨日、身体が妙に熱くなって、にゃーしか言えなくなってじゃない……?」
「今の私がそんな風に見えます? さぁ、テーブルへどうぞ」
 小鳥の囀り。差し込む朝の光。漂う朝食の良い香り。
 ふしぎが目を覚ますと、リズレットは何も変わらず、いつもの通りの優しい微笑みで……。
 ――昨日のは夢だったんだろうか? でも、それにしては何だか妙に身体がだるいし、お腹も空いてるなぁ……。
 頭をぽりぽりと掻きながら小首を傾げるふしぎ。
 そんな夫を見て、リズレットはくすりと悪戯っぽく笑った。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ic0804/リズレット/女/16/猫な奥様
ia1037/天河 ふしぎ/男/17/ステキな旦那様


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

二人のラブラブな生活を書かせて戴きましたがいかがでしたでしょうか。
ラブラブというより何だかコメディになってしまった気がしなくもありませんが……。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

お届けまでお時間を戴いてしまい、申し訳ございませんでした。
ご依頼戴きありがとうございました。
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舵天照 -DTS-
2015年12月24日

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