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『ぉれときみゎ。。。ズットモ(?)だょ。。。! 』
水澤 渚aa0288

 ぴろぴろぴろぴろ。

 夕飯も終えた夜。ベッドに起きっ放しのスマホが光り、着信音を響かせた。
 電話だ――ボンヤリ雑誌を眺めていた水澤 渚(aa0288)は顔を上げる。手を伸ばす。スマホを取る。画面に表示されていたのは、とある幼馴染の名前。

 電話だなんて、珍しい。
 だって幼馴染とは、彼の部屋へとベランダ伝いにお邪魔できるほどご近所で。なのにわざわざ電話だなんて……。

(なんだろう?)
 いぶかしみながら通話ボタンを押した。聞き慣れた幼馴染の声。出だしは当たり障りのない会話。
「……うん、まだ起きてるけど?」
 起きてるか、と聞かれ、そう返す。「どうしてまた」という意味をこめて。
「え? 部屋に来いって……ティアは連れずに? ん、まぁ、できるけど……うん、うん、オッケー。今から行く。それじゃ」
 通話終了。
(……なんだろう? ほんとわかんねえ)
 渚の英雄を連れてこないで欲しい、と幼馴染は言っていた。二人じゃないとできない話なのかな?
 なんにしても、電話越しでもできないような話なんだろう。一体どうしたと言うのだろう。ちょっとだけ心配になってきた。
 という訳で、渚は自らの幻想蝶であるバングルをそっと外した。
「ちょっと灯のところに行ってくる。二人で話したいって言ってるから、悪いけどしばらく待っててな」
 と、幻想蝶の中にいる英雄に話しかける。了承の返事が来たので、それを手近な引き出しへ。

 さて。

 渚は窓へ近づき、カーテンを開ける。
 向こう側に幼馴染の部屋が見えた。
 カーテンは閉められている。が、電気が点いているのは分かる。部屋に幼馴染がいる証。
 いつも通り。ベランダ伝いに、彼の部屋へ。鍵は開けておくから、と友人は言っていたが、一応窓をノック。いつも通り。やがてカーテンが開き、友人の顔が見え、窓が開いた。
「お邪魔します、こんばんは」
 ひょいっと軽い動作で渚は友人の部屋に入った。勝手知ったる動作。窓を閉めてカーテンも閉めて、まるで自分の部屋のそれのよう、遠慮なくベッドにばふっと座り込む。
 彼の幼馴染はというと、眉根を寄せた落ち着かない様子で椅子にじっと座り込んでいる。
 どうしたんだろうか、珍しい。渚はそう思って、「で、話ってなに?」――そう言おうとして。
 先んじて、話された内容は。
 まとめるとこうだ。

 子供の頃――幼稚園児の頃、渚が幼馴染の彼に対して「お嫁さんになるー!」と毎日キスしていたこと。

「…… は?」
 渚は微笑のまま凍りつき、言葉を失った。
「え、マジ?」
 固まった表情のままの問い。幼馴染がコクリと頷く。
「…… は?」
 いや、この幼馴染、嘘を吐くような人物じゃないけれど。
 だとしても、この話は、流石に……マジぶっ飛ぶってか恥ずかしいわ!!!

 しかし。

 渚の目をじっと見る彼の表情は真剣で。そして……困っている様子で。
 からかっているんじゃない、冗談なんかじゃないんだ、と渚も表情を引き締める。
(こいつがこんな困ってんの、初めて見たかも)
 かちあったままの視線。沈黙。ちく、たく、時計の針の音。
 ふと、幼馴染の彼が、この場において唯一の音源である時計へと目をやった。
 既に23時を過ぎている。まもなく明日がやってくる。今日が終わる。

 一つ、言葉を告げられた。

「え、……?」
 渚は我が耳を疑った。
「っつーか、え!!?」
 聞き返す。

「一日一回ホモ!!??」

 復唱。
 返ってくる神妙な頷き。
「マジかよ」
 マジなようだ。

 ――目の前にいるこの幼馴染は、渚と同じくリンカーである。
 リンカーであるということは、英雄と誓約を結んでいる。
 そして、幼馴染と彼の英雄の誓約というのが。

 一日一回、腐った光景♂を見せるというもの。

 もう一度言おう。

 一日一回、腐った光景♂を見せるというもの。

 腐った生肉を見せるとかそういう意味ではなく。
 アッー的な。うん。

「……お、俺と?」
 おずおずと渚は聞き返す。
 返ってくるのは神妙な頷き。(二回目)
「へ、へぇーーーー……」
 何とも言えない表情をして、渚は気付いたら俯いていた。
「……」
 再度の沈黙。
 顔が熱い。
 のは、これは、顔が、赤いからだ。渚の。
(な、なんて俺、顔赤いんだろ……)
 ふと思った。答えが閃くはずなどなかった。
 やっぱり沈黙。
 いや、でも、だめだ、なんか、言わないと。
 そう、思って。
 搾り出した言葉は。

「……俺としなきゃ他の奴とすんのかよ」

 寸の間。沈黙。
 それから、英雄との誓約を守るためにはやむなし、という返答。
「へ、え。……な、なんかそれはちょっと嫌かもしれないぞ。や、嫌っていうかなんか胸の辺りがモヤっとするっていうか……」
 もごもご、言葉が詰まる。
 でもまた沈黙が訪れると、気まずさで確実に死ぬ。そう思った。ので、無理矢理にでも、顔が真っ赤っ赤でも、言葉を繋いだ。顔を上げて、幼馴染の瞳を見つめて。

「だからなんだ、その……べっ別に灯とならやってもいい……かも」

 最後の方はもう言葉にならなかった。
「って俺何言ってんだ頭沸いてる!!! あぁあああでもティアとの契約内容にもちょっと沿ってるかもしれねーし!!」
 セルフ発狂である。わーーーっと頭を掻き毟る。

 ちなみに、渚の英雄との誓約は『本当の恋を教える』である。微妙に沿っていない、気がする、けれど、今はそれをどうのこうの言っている場合ではない! ていうか今渚は脳味噌パーン状態である!!

「ああ゛ーー……」
 掻き毟った頭を抱えて、そのまま前のめりにベッドへぼふん。
「……ぞ」
 ぽつり。シーツの中で。
 幼馴染が聞き返す。
 ので、渚は顔を上げた。

「だから……いいぞ、キス」

 女じゃあるまいし、したからってどうにかなるわけでもねえし。
 真っ赤な顔で、幼馴染の前に座り直す。

「――さあ!!! 来いっ!!!」

 背筋を伸ばした。
 しかし、豪放な言葉とは裏腹に渚の身体はガッチガチに強張っていた。
 ついでに目もギューーッと閉じていた。
「……っ、……?」
 あれ。
 なんのリアクションもない。
 ので、渚はチラリと目を開けた。

 目が合った。幼馴染と。
 ゼロ距離だった。

(……あ、)

 瞬間に、解けた緊張。
 肩に添えられた掌。
 触れた温度。

 そして渚は、全てを委ねた――。



『了』



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水澤 渚(aa0288)/男/16歳/生命適性
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2015年12月28日

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