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『はとコン狂騒曲 秋の陣 』
砂原・ジェンティアン・竜胆jb7192)&和紗・S・ルフトハイトjb6970


 秋、それは物寂しい季節。
 草は枯れ、その陰で盛んに鳴き交わしていた虫達の声も次第に聞こえなくなり、木々は葉を落とす。
 全てが死へと向かって歩み始める季節、それが秋。

 現実を正直に見るならば、枯れない草もあるし、越冬する虫はいるし、葉を落とさない木も普通にある。
 家の中に発生する虫などは季節に関係なく元気だ。
 しかし、これはポエムである。
 ポエムには客観性も学術的な正確さも必要ない。
 ただ気分で語れば良いのだ。

 そう、今はポエミーな気分。
 だって秋だから。

 隣に誰もいないから。


 砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)の寝室に目覚まし時計は存在しない。
 何故なら隣の部屋に住むはとこ、樒 和紗(jb6970)が起きる気配を察して、自動的に目が覚めるからだ。
 しかし今、隣の部屋からは人の気配が消え、物音ひとつしない。
 いや、防音効果に優れたこのマンションは元から静かで、隣室の気配や生活感など全く感じない筈なのだが――
 通常では感知できないレベルの物音や気配にも敏感に反応する、それが拗らせた「はとコン」の恐るべき超能力なのだ。
 だがその能力も、今では全く役に立たない無用の長物と化してしまった。

 和紗はもう、いないのだ。
 如何に超能力を駆使しようとも、その気配さえ感じられない遠いところへ、彼女は行ってしまった。

 いや、ただ住込みのバイトを始めただけなんですけどね?
 部屋を引き払ったわけでもなく、時々は帰って来ているみたいだし。

 しかし竜胆にとって、和紗が働くそのバーはアンテナの圏外だった。
 毎日のように夕飯をたかりに行く第二の我が家も同然の場所ではあるが、寝室から気配を感じるには物理的な距離が余りに遠いのだ。


「和紗がいない世界なんて、ジャムとクロテッドクリームのないスコーンと同じだと思わない?」
 本人は甘い物は苦手だが、ものの例えとしては恐らくそれが最もわかりやすい例だろう――英国紳士なら。
 そんなものを食べる為に、わざわざ起きようと考える者がいるだろうか。
 寝ることにも飽きて自然に目が覚めたはいいが、起き上がるタイミングを掴めないままベッドの上でダラダラと過ごすこと数時間。
 漸く起き上がった時には、午前中の授業が終わりかけている。
 和紗がバイトを始めてからというもの、それが毎日のパターンとなっていた。
 もちろん授業は自主休講、しかし学校へは行く。
 もうすぐ昼休みだし、売店で何か買ってから行こう――ただし向かうのは高等部の校舎だ。

「やあ、おはよう和紗。こんなところで会うなんて奇遇だね♪」
 しかし和紗は華麗に冷ややかにスルー、代わりに通りすがりの教師に首根っこを掴まれた。
「砂原、ちょっと職員室に来てもらおうか」
 度重なる遅刻と自主休講について、一度じっくり話し合おうじゃないか――
 そう言われても、竜胆の方には話す事など何もない。
 だから逃げる、待てと言われても構わず逃げる。
 そして駆け込んだのは科学室。
 知ってる、ここの主は他の先生と違って勉強しろとか真面目に授業受けろとか、うるさい事を言わないのだ。
 去年だって留年したいって言ったらすんなりOKしてくれたし、その理由を書いて提出するのもサボったけど、なんかフォローしてくれたっぽいし。
 そんなわけで。
「門木先生、ちょっと匿ってくれるかな♪」
 そう頼まれて、彼――門木章治(jz0029)が断る筈もない。
「ああ、そろそろ進級試験が始まる頃合いだったな」
 また留年希望なのかと尋ねるその声にも、非難の色は感じられなかった。
「お前何回大学三年生をやるつもりだとか、何回留年したら気が済むんだとか、そんなこと言われても痛くも痒くもないんだよね」
 奥の準備室に隠れた竜胆は、外の様子を伺いながら小声でこぼす。
 寧ろ留年希望ですし、進級しちゃったら困りますし。
 順当にいけば次の年度は和紗も大学生、晴れて同じ校舎で学べるのだ――と言っても竜胆は勉強しないけれど。
「和紗と同じ学年になったら真面目に試験受けてちゃんと進級するよ、多分ね」
「ん、そうか」
 門木は頷くだけで何も訊かない。
 生徒の自主性を尊重してくれる良い先生だ――もっとも、めんどくさいから放任しているだけかもしれないが。
 ところで、お茶とお菓子を出してくれたのは良いのだけれど。
 どれもこれも甘い物ばかりって、密かに嫌がらせですかこれは。
 実は怒ってるとか――いや、違うな。
「遠慮することはないぞ、いつも生徒達が食べに来てるしな」
 陰では小腹が空いたら科学室に行けばいい、などと囁かれているとかいないとか。
 チョコにクッキー、キャンディ、キャラメル、マフィンやパウンドケーキなどなど、食べに来る生徒も多いが、それ以上に差し入れが多い。
 お陰で甘い物には事欠かないのだ。
「いや、もう、匂いだけで充分かなー、なんて」
 充分と言うより殆ど拷問。
 しかし門木に悪気はない、一欠片もない。
 これは、はっきり言うべきだろうか。
 世の中には甘味が苦手な者もいるということを――


 そして翌日、再び昼食時。
「やあ、おはよう和紗。こんなところで会うなんて奇遇だね♪」
 しかし今度も和紗は冷ややかに全力スルー。
 だって明らかにわざとらしいし、友達に変な目で見られそうだし――いや、それはもう手遅れか。
 それでも竜胆は気にしない、寧ろいつも通りの態度に安堵を覚えつつ、同じ時刻に同じ台詞を繰り返す――次の日も、また次の日も、まるで無限ループのように。

 五日目、とうとう和紗が根負けした。
 わかっている、彼の「はとコンレベル」が急激に上がったのは、自分が住込みのバイトを始めたせいだということは。
 それでも自分を応援し、背中を押してくれたことには感謝もしていた。
 だから……たまには構ってあげてもいいかな。
「竜胆兄、ここは高等部ですが」
「うん、知ってる」
「それなら間違えたわけではないようですが、どんな偶然が作用すれば大学部の竜胆兄と高等部の俺が、高等部の廊下でばったり出会うのですか」
 と言うかバイトを始めてから学校での遭遇率が明らかに増えてますよね。
「いやあ、そこは運命かな、やっぱり」
「ないですから」
 きっぱり否定されても竜胆はメゲない。
「せっかく会えたんだし、お昼一緒にどう? もちろん他の友達を誘っても構わないよ♪」
 寧ろ歓迎と、竜胆は遠巻きに見守るJK達に爽やかな笑顔をふりまく。
 これだけ見れば普通にイケメンなのに……何をどう、どれだけ拗らせて、こんな残念な人になってしまったのだろう。
 ああ、いや、わかってます、はとこコンプレックスですよね、見事に拗らせたのは。
「……少し量が多かったので、残りを食べてくれるなら相席してもいいです」
「あ、お弁当? 和紗の手作りだよね、もちろん食べるよ!」
 出来れば自分のために毎日お弁当を作ってくれたりすると、隣にいない寂しさも少しは紛れるんだけどなー、なんて。
 いや無理ですよね、知ってます、はい。
 和紗の正面に座った竜胆は、お裾分けをいただきながら購買で買ったパンをもそもそ食べる。
 その味はいつもと変わらないけれど、和紗が目の前にいるというだけで魔法のスパイスがかかったようで、普段の百倍も美味しく感じられた。

 なお、この二人の間に割って入ろうなどと考えるJKは存在しない。
 和紗のクラスメイトは皆、このイケメンの姿を見ると暗黙の了解でもあるかのように、そっと距離を置いて生温かく見守る体制に入るのだ。
「和紗の友達は慎み深いね、さすが大和撫子っていう感じかな」
 竜胆はそういう子も嫌いじゃない、寧ろ好物だと、遠くから届けられた微かな信号に笑顔を返す。
 しかし、そうじゃない。
「自分がどれほどの有名人であるか、竜胆兄には自覚がないようですね」
 このクラスになって、そろそろ一年。
 和紗のはとこであるこのイケメンが実は残念なイタメンであることは、既に女子全員の知るところとなっていた。
 だって毎日のように教室に来て、惜しげもなく「はとこラブオーラ」を振りまいてるんですもの。
 それでも近付いて来ようとする者は、鈍感で空気読めない系の男子か、事務的な用がある場合か――そう、例えばこんなふうに。
「樒、学級日誌ここ置いとくな」
 そう声をかけた男子の胸ぐらを掴み、恫喝。
「交換日記、だとぅ……っ!?」
「え、ちょ、なにこの人キモっ!?」
「竜胆兄、耳垢詰まってるんですか。ドリルで掘り出してあげましょうか」
 これは学級日誌、彼と和紗は今週の日直。
 OK?
「オーケー、そういう事か。さては貴様、学級日誌にこっそり手紙でも仕込んで和紗を誘惑するつもりだな?」
「竜胆兄」
「日直で一緒に当番ラッキーとか思ってるだろう!」
「竜胆兄、いいかげんにしてください」
 うざ。
 何この絡み付くような鬱陶しさ。
 心配してくれるのは嬉しいが、正直ちょっと、いやかなりうざい。
「これ以上俺の友人達に迷惑をかけるなら、出禁にしますよ」
 高等部の校舎にも、バイト先であるオカマバーにも。
「それは困る」
 竜胆にとってはどちらも大切な憩いの場だ。
「お前、和紗のおかげで命拾いしたね。感謝するんだよ?」
 男子生徒を解放し、小声で付け加える。
「だから恩返しとして日直の仕事は全部お前がやるんだ。机の整頓とか重労働を女の子にさせるなんて男じゃないよ? それに黒板消しもチョークの粉を吸い込んだら僕の和紗が喉を痛めてしまうからね、もちろんゴミ出しもお前の仕事だ。でも日誌にはそれを全部和紗がやりましたと――」
「竜胆兄」
 うざ。


 その後、昼休みの全ての時間を使って延々と説教された竜胆はしかし、夕食時に例のバーへ立ち寄ることだけは許してもらえたようだ。
 店に入ると、和紗は既に友人の先輩バーテンダーと共にカウンターの向こうに立っていた。
「いらっしゃいませ」
 その声が普段より低く聞こえるのは、きっと気のせいだ。
「おなかすいたー。今日のご飯、何ー?」
 いつもと同じ台詞を言ってカウンター席に座ると、当たり前のように夕飯が出て来る。
 なんという幸せ――
 しかし、その幸福感もこのところは目減りしていた。
 何が嬉しくて、目の前で大事なはとこが男とイチャつく姿を見せ付けられながら食事を摂らねばならんのですか。
 いや、イチャついているわけではない。
 バイトの先輩と後輩、双方共に恋愛感情がないことはわかっている。
 それに自分も、和紗がこのバイトを始めるにあたって反対しなかった。
 普段は自分の望みを言わない和紗が珍しく口に出した「住込みバイトをしたい」という願い。
 それを叶えてやりたいと、素直に思った。
 けれど、こうして目の前で仲良くしている姿を見ると、なんだか自分だけ除け者にされた気分で――
(そもそも和紗だってお嬢様育ちなんだから、お金には困ってない筈だよね)
 ならば、働くのは金のためではないだろう。
(じゃあやっぱり、二人でイチャつくために……)
 それはない。
 ない筈だ。
 そうは思っても心の中で渦巻くじぇらしー。
「竜胆兄、店の備品を食いちぎるのはやめてください」
「え?」
 あ、ごめん、コルクのコースターぎりぃしてたわ。
 それもこれも全て目の前にいるコイツが悪いと、バーテンダーの友人に逆恨みの八つ当たり。
「お前の所為で僕は寝坊するんだよ……! せっかくの夕食も美味しく感じられないし、和紗のクラスメイトには避けられるし、先生には甘い物攻めにされるし……!」
 この怒りと悲しみを拳に乗せて、コイツの顔面にブチ込んでやりたい。
 でも知ってる、絶対避けるしマグレで当たっても堪えないし、和紗にもお仕置きされるって。
 だから――

 くるり、竜胆は後ろを向いた。
 幸い今夜はハロウィン、無関係な人々に八つ当たりで悪戯をしても許される日だ。
 なんか違う気もするけれど、気にしたら負け。
「そこのお前、さっきから僕の和紗に色目使ってたよね?」
 濡れ衣? 知るか。
「ハロウィンだし、Trick or Trick?」
 竜胆は超ものすごく良い笑顔で淡い白光のオーラをめいっぱい際立たせる。
 どう転んでもトリックしかない恐怖のハロウィンを、存分に味わうがいい。
「さーて何をプレゼントしようかなー、せっかくのお祭りだし、ここは派手にファイアワー……」
「お客様、営業妨害です」
 すぱぁーん!
 全てを言い終わらないうちに、和紗の本気ハリセンが飛んで来た。
「選んでください、他のお客様へのご迷惑をお詫びした上で大人しく食事を続けるか……それとも、無期限出入り禁止にされるか」
「あっはい、大人しくします」
 しまった、何故自分は他の客になら狼藉をはたらいても大丈夫などと思い込んでしまったのだろう。
 あの和紗に「今のはハロウィンの悪戯だから」などという言い訳が通用する筈もないのに。
「いや、和紗もバーテン姿が板に付いてきたね」
 実は今のはテストだったんだよと誤魔化してみる。
 格好ばかりではなく店を預かる責任者としての意識が育っているかどうかのね!
「合格だよ和紗、これも先輩バーテンの適切な指導のお陰かな」
 顔で笑って心でギリィ。

「なら、良かったです」
 その言葉を全て信じたわけではないけれど、ここは素直に誤魔化されてみた。
 和紗は迷惑をかけた客にカクテルを奢り、竜胆の前にもグラスを置く。
「ハッピーハロウィン、と言うのでしたか」
 ハロウィンに相応しくオレンジと黒に色分けされたそれは、和紗が自分で調合したものだ。
 因みにオレンジリキュールとオレンジジュースを使ってあるので、竜胆の舌にはかなり甘く感じられるだろう。
 しかし――

「雰囲気重視ですから」
 他意はない。
 多分。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb7192/砂原・ジェンティアン・竜胆/男性/外見年齢22歳/レベル5イタメンはとコンストーカー】
【jb6970/樒 和紗/女性/外見年齢18歳/見習いバーテンダー】

 ちょこっとお邪魔しましたNPC
【jz0029/門木章治/男性/外見年齢41歳/やる気ない先生】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております、STANZAです。
いつもありがとうございます、毎度ながらお待たせして申し訳ありません。

一気にレベル5になり、ステータスに「イタメン」が追加されました。
なおレベルの上限は99となっております(

では、お楽しみ頂ければ幸いです。
ゴーストタウンのノベル -
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エリュシオン
2015年12月28日

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