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『もつべきものは、HOMODACHI。 』
多々良 灯aa0054

 さて、困った。

 夕飯も終えた夜。多々良 灯(aa0054)はベッドの上に正座をしていた。伸びきった背筋。まるでこれから切腹でもするのだろうかという神妙さがそこにある。
「……」
 沈黙のまま、じっと彼が見つめているのはベッドの上に横たえられた自分のスマホだ。ディスプレイには幼馴染の名前。あとはタップ一つで電話がかかる。

 ……さて、困った。

 というのも。
 灯は自らの幻想蝶をちらと見やる。そこには彼の英雄が収められている。
 英雄がいるということは、誓約を結んだということ。
 そして、その誓約内容というものが……

『毎日一回ホモを与えること』
『ただし二次元ではなく三次元で』

 いや、弁明させて欲しい。
 灯は同性愛者ではないし、この誓約は灯が提案したものではない。こう、なんか、勢いで、なんかこう、こうなったのだ。
(男同士でいちゃいちゃするなんてハードル高すぎだろう。キスだってまだした事ないのに……)

 ……ん?
 そういえば幼稚園の頃、幼馴染(♂)に食べかけの飴を直接渡したアレって……。

 ……。


 〜しばらくお待ち下さい〜


「……」
 そして今に至る。ゲ■ドウポーズで無言の灯。
 そんなこんなでスマホと睨めっこして早30分。
(嗚呼……そろそろ今日が終わってしまう)
 時計の針は無常に進む。

 ……ここはもう腹をくくるしかない。

 カッ、と灯は目を見開いた。そしてリンカーの身体能力を無駄に使ってスマホを取ると、通話の選択をタップ。もうどうにでもな〜れ。

 幼馴染が電話に出たのは間もなくだった。
「もしもし、俺だけど」
 出だしは当たり障りのない会話。
「……ああ、まだ起きてるよな?」
 起きてるよ、と返事が聞こえた。「どうしてまた」という意味が込められているのを、言葉尻に感じた。だが、今はまだそれに答える時ではない。
「ちょっと窓からこっちに来てくれないか。……きみの英雄には内緒にしたい話があるんだ。ついてこれないように、できるか?」
 結論的には「できる」と返ってきた。尤も、友人の言外の質問にあえて答えない灯の態度に少し不思議そうにしている様子ではあるが。
「……じゃあ、窓あけておくぞ」
 今から行く、そう言われ、灯は立ち上がりながら答えた。スマホを持つ手とは反対の手で、カーテンの隙間に手を差し込み窓の鍵を開ける。
「じゃ、あとで」

 通話終了。

「……っはぁ、」
 我知らず溜息。
 さぁ、もう後には引けないぞ。息を整え、再度自分の幻想蝶を見やる。幸い、英雄からの返事はない。寝ているのだろうか? 寝ていて欲しい。寝ていると信じたい。ああいや寝られていると『与える』にカウントされないのだろうかそれはこまるいやでも

 そんなこんなで、そしてまもなく。

 こんこん。

 いつもの音。
 そう、いつも――ご近所さんである幼馴染は、ベランダ伝いにこちらの部屋にやってくる。いつも通り。カーテンを開けば友人の顔が見えた。窓を開ける。
「ん、こんばんは」
 こんばんは。挨拶を交わし。ひょいっと軽い動作で友人は灯の部屋に入ってきた。勝手知ったる動作である。窓もカーテンもちゃんと閉めてくれる。
 そして灯は椅子に座り込み、幼馴染は遠慮なくベッドにばふっと座り込んだ。昔からこんな感じなので、幼馴染は「友人の部屋に遊びに来た」というより「ここは自分の部屋」という感じである。
 しかし、そんなリラックス状態な幼馴染とは対照的に――灯の表情は険しいというか、強張っている。眉間に皺ができている。じっと、石像のように椅子に座り込んだまま。
 そんな灯の姿は、幼馴染の目には奇妙に映ったらしい。「で、話ってなに?」――そう言われる前に、灯は先んじて口を開いた。
「……なあ、渚。お前、幼稚園の頃俺とよくやってたことって……覚えてるか? ……、……お、覚えてない、か。……先に、謝っておくな。ごめん……」
 では。呼吸一つ分の間を空けた後、灯は言葉を続けた。
 まとめるとこうだ。

 子供の頃――幼稚園児の頃、幼馴染が灯に対して「お嫁さんになるー!」と毎日キスしていたということ。

「……あの頃はよくわかってなかったけど、そういうこと、よくやってたよな」
 目の前の幼馴染の笑顔が凍りついている。
 マジなんです。頷いて、嘘じゃないことを証明。
 だって本当に本当だ。灯はこの幼馴染に対して嘘を吐いたことなどない。
 本当なんだ。灯は幼馴染の目をじっと見つめる。冗談や茶化すつもりの発言でもない。そして何より、困っているのだ。
 それが伝わったのか――幼馴染の表情も、驚愕から真剣なものへと変わっていった。
「……」
 かちあったままの視線。沈黙。ちく、たく、時計の針の音。
 ややあって、灯はこの場において唯一の音源である時計へと目をやった。
 既に23時を過ぎている。まもなく明日がやってくる。今日が終わる。

「……実は誓約で、一日一回こういうの、英雄に見せなきゃならなくてさ」

 覚悟を決めて、灯は言った。
 幼馴染の表情が再び驚愕になる。何度も聞き返してくるけれど、事実なので頷き返す他になく。
「……渚しか思いつかなかったんだ。……渚が嫌なら、しない」
 灯のその言葉に。
 幼馴染は、俯いている。顔が真っ赤だ。
(どうしよう……)
 怒らせてしまったかも。
 どうしよう。
 困った。
 人生で最大に困っている。今。

 しかし。

「――え、」
 顔を上げた幼馴染の答えは。
「……いいのか? 本当にいいのか……? ……きみの誓約の邪魔にならないか?」
 再確認。
 答えは、イエス。大丈夫だ、問題ない。
 さあ、来い。
 幼馴染は背筋を伸ばし、目をギューッと閉じて待機している。
「……っ、」
 寸の間の逡巡。
 それから呼吸を止めて、顔を寄せて――幼馴染がチラリと目を開けて、目線が合って。

 ――ゼロ距離。

「…… は、」
 離れた。けれどほとんど密着。
 灯の両手は幼馴染の肩の上に添えられている。
 触れた温度。
 重なる視線。
 時計の針が12時を超えた。
 明日が、今日になった。
 ちなみに幻想蝶の中では「ホモキタアアァァァ」と英雄がお祭り騒ぎだった。
「……なあ」
 距離はそのまま、灯は彼に声をかける。
「今日に、なった」
 新しい一日を向かえた時計の針の音が聞こえる。
「……今のうちに……今日の分も済ませてしまってもいいだろうか」
 頷きが返ってくる。
 では、と灯も頷いた。

 そして、委ねられるままに――……。



『了』



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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多々良 灯(aa0054)/男/16歳/生命適性
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2015年12月29日

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