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『グリーヴ家の万霊節 』
ジョージ・J・グリーヴka1594)&シャロン・S・グリーヴka1260)&シメオン・E・グリーヴka1285)&ジャック・J・グリーヴka1305)&アルバート・P・グリーヴka1310)&ロイ・I・グリーヴka1819


 クリムゾンウェストにおけるハロウィン(万聖節)とは本来、今年の恵みを精霊に捧げ、新たな一年の豊穣を願うための祭である。
 それは元々、蒼の世界に伝わる古い祭だったものが、転移者によってこの世界に伝えられたものだ。
 よって両者の起源は同じ、行われる催しも同じものである――筈なのだが。

 こちらの世界に初めて伝えられた時、祭はまだ古代の呪術的な色合いを色濃く残していた。
 その後、蒼の世界では歳月と共に様々なアレンジが加えられ、或いは削除され、また地域ごとにバリエーションが生まれ、現在では殆ど原形を留めていない。
 その変化の過程にあった様々な「ハロウィン」が、様々な時代や地域から来た転移者によって断片的に伝えられ、取り込まれて出来たものがクリムゾンウェストのハロウィンだった。

 よって、それは何でもありのてんこ盛り。
 仮装やカボチャのランタン、子供達がお菓子をもらう時の「トリックオアトリート」の掛け声などは、蒼の世界でもお馴染みのものだ。
 しかし、ここではそれに加えて大食い大会や大道芸、料理コンテストや盆踊りなどなど、本家から見れば「何故それをハロウィンで?」と思われるようなイベントが盛りだくさん。
 祭とは、皆が楽しく騒げればそれで良いのだ。

 そして今年も、ハロウィンがやって来る。


「そういやそろそろ万霊節だよな」
 ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は、秋の色が濃くなり始めた窓の外を見た。
 商売人にとっての祭とは、とてもありがたいイベントだ。
 何しろこちらでは何の工夫もしなくても、勝手に楽しく良い気分になった客が頼みもしないのに気持ちよく、そして気前よく金を落としてくれるのだから。
「俺らにとっちゃ、まさに書き入れ時……なんだがなぁ」
 勿論ジャックも、この機に乗じて一稼ぎするつもりだったのだ。
 しかし運悪く積み荷を満載した船が歪虚に襲われ、海の藻屑と消えてしまった。
 保険はかけてあったから損害そのものは大したことはなかったが、商品がなければ商売は出来ない。
 もちろん、普段の彼ならそんな事で商売を諦めたりはしないだろう。
 しかし今年は何となく、商売の神様に「休め」と言われているような気がした。
「シメオンもでっかくなって俺様も商売が忙しくなってきたから、家族ぐるみではあんまやってなかったんだよなぁ」
 そうだ、確か妹が物心ついた頃にはもう――あれ、待てよ、ということはもしかして、うちの可愛い白薔薇姫はハロウィンをご存じない?
「俺としたことが迂闊だったぜ」
 これはきっと、妹にサービスせよという神様の思し召しに違いない。
「よし、今年は何かやっかぁ」
 そうと決まればまずは兄弟四人を集めて悪巧み、じゃない、ハロウィンの計画を練ることにしよう。
「ところで、あいつらん中にハロウィンの正確な知識持ってる奴っていたっけか?」
 尚、彼自身の知識は昔家族でやったハロウィンの思い出と、世界各地で出会ったその地に特有の習俗とがミックスされて、とてもカオスなことになっていた。
「本物のハロウィンって、俺が知ってんのとは違う気がすんだけど」
 まあいい、きっとあの出来の良い方の弟が知っているだろう。

「ハロウィン、ですか? はい、知ってますよ」
 一番下の弟シメオン・E・グリーヴ(ka1285)は柔和な笑みを浮かべながら頷いた。
「やっぱりな、お前なら知ってると思ったぜ」
 ジャックは「さすが頼りになる弟だ」と言いながら、その頭をわしゃわしゃと掻き回した。
「シメオンは勉強家の頑張り屋さんですものね」
「東方に関する知識は勿論だが、その他の事に関しても幅広い見識を有している。その学習意欲は見習うべきだな」
 長兄のアルバート・P・グリーヴ(ka1310)も、すぐ上の兄ロイ・I・グリーヴ(ka1819)も、シメオンに関してはベタ褒めである。
 この兄弟、才能は褒めて伸ばすのが信条のようだ。
 ただし例外もある。
「そりゃお前は筋トレしか能がない石頭の脳筋だからな、ロイ」
「ジャック兄さんこそ、最近は商売をそっちのけで何やらイカガワシイ遊びに興じているそうではありませんか」
 ジャックとロイは、互いに叩いて伸ばす主義――いや、ただの兄弟喧嘩か、これ。
「俺はジャック兄さんの商才にだけは一目置いていたのに、残念ですよ。ええ、とても」
「おいおい、お前は俺様の何処を見てんだロイ? 俺様の魅力はもっと他にもあるだろうよ、例えば……」
「例えば?」
 勝ち誇ったような表情で聞き返したロイから視線を外し、ジャックはアルバートに助けを求めた。
「そいつは俺様が自分で言うことじゃねぇな、自慢話になっちまうからよ!」
 というわけで、お願いします。
 いや、決して他に良いところが思い付かなかったわけではないのだ。
 でもほら、自分で自分を褒めるなんてカッコ悪いし?
 気配り神アルバートなら、きっと上手に褒めてくれるって信じてるから。
「そうねぇ、やっぱりお馬鹿なところかしら。ほら、馬鹿な子ほど可愛いって言うでしょ?」
「アル、それ褒めてねぇぞ?」
「やーねぇ、最上級の褒め言葉じゃない」
 二人の会話を聞いて、ロイはぷるぷると肩を震わせている。
 しかし良い子のシメオンは大好きな兄の窮地に黙ってはいられなかった。
「ジャック兄様はとても決断力があって、何事にも挫けない強い心をお持ちです。それに、とても優しくて気遣いも細やかで……ただ、それを真っ直ぐに表現するのが苦手なだけなんですよね、きっと」
 それを聞いて思わず赤面したジャックはぷいっと横を向く。
 ロイもまた、「そんな事はわかっている」と口の中でモゴモゴ言いながらそっぽを向いた。
「まったく、あなた達は本当に仲良しさんね♪」
 それを見て、アルバートが嬉しそうに頷いた。
「良かねぇよ!」
「良くありません!」
 即座に左右から反撃を受けたけれど――そのタイミングがぴったりなところも、やっぱり仲良しさんだ。
 と言うかこの兄弟、基本的には全員仲が良い。
 仲が良いほど喧嘩するという言葉を地でいくのがジャックとロイ、シメオンは誰にでも明るく素直に裏表なく接する潤滑剤、その三人をそっと見守るのがアルバート。
 そして、そんな趣味も性格も異なる四人の兄弟にとって、ほぼ唯一と言って良いであろう共通の宝物。
 それが一番下の妹、シャロン・S・グリーヴ(ka1260)だった。

「そうだよ、俺様はシャロンにハロウィンを楽しんでもらう為の企画をだな……!」
 というわけで兄弟喧嘩は一時休戦。
「せっかくですから、この機会にシャロンには出来るだけ正確な知識を得てもらいたいところですね」
 ロイが言う正確な知識とは、かつてリアルブルーで行われていたという本物のハロウィンのことだ。
「それに関しては、僕も少し自信がありません」
 シメオンが正直に答える。
「僕が知ってるのは、つい最近リアルブルーから転移してきた人から聞いたものですから」
 それも恐らく、向こうの世界での「現代風」にアレンジされたものだろう。
 古式ゆかしい昔ながらのハロウィンとなると――
「それをご存じなのはきっと、お祖父様おひとりじゃないかしら」
 アルバートが頬に手を添えて首を傾げる。
「私がお祖父様に伺ってみてもいいけれど……」
「あのジジイが素直に教えるとは思えねぇな」
 ジャックが難しい顔で腕組みをし、期待の眼差しでシメオンを見る。
「では、こうしてはどうでしょう――」
 それに応えて、シメオンが控えめに切り出した。
 まずは自分達が知っているハロウィンの知識で……それから、ああしてこうして、かくかくしかじか。
「よし、それだ!」
「うむ、流石はシメオンだな」
「それは良いことを思い付きましたね」
 兄達にベタ褒めされて、シメオンはほんのり上機嫌。
「じゃあ早速準備に取りかかるね」
 久しぶりに末っ子の表情を見せたシメオンは、嬉しそうにニッコリと笑った。


 その日から、グリーヴ家のハロウィン大作戦が開始された。
 まずは何も知らない妹に兄弟が持つ知識をさりげなく伝授、シャロンが自分から「ハロウィンをやってみたい」と言い出すように仕向けていく。
 曰く、ハロウィンとは挑戦状を手にした「審判者」と言われる者達に「トリックオアトリート」の宣言と共に挑み、彼等が出す課題を見事にクリアすれば報酬としてお菓子が貰えるイベントである。
 なお審判者も挑戦者も、行事に参加する者は一目でそれとわかる仮装をしなければならない。
 それがこのグリーヴ家伝統のハロウィンだ。
 家ごとに、地域や文化ごとにそれぞれ違った形がある、それがクリムゾンウェストに於けるハロウィンなのだ。

 兄弟と関係者達による細工と根回しの功あって、シャロンはハロウィンに興味を示した。
 そして遂に、10月31日の当日を迎える。


「とりっくおあとりーとですのよ!」
 来た。
 可愛らしいオレンジ色のカボチャ姫になったシャロンは、スカートの襞の間から出した黒い尻尾を振りながら屋敷の廊下を歩いて来る。
 もちろんその尻尾は勝手に動くわけではなく、背後に控えた黒子姿のメイドが糸を引いているのだ。
 しかし、その姿は見えていても見えないことになっている。
「それが東方に伝わる黒子っていう存在なんだ、面白いよね」
 物陰に隠れて妹を見守るシメオンは、そう呟いて小さく笑みを漏らした。
 今日のシャロンはいつもの白い日傘もオレンジ色に変えて、背中には小さな黒い翼を付けている。
「天使が子悪魔になった、そんなところかしらね」
 シメオンの更に後ろから、アルバートが顔を覗かせる。
「アル兄様、こんな所にいて良いのですか?」
 シャロンが真っ先に向かったのはアルバートの部屋だ。
 その主がこんな所にいて――
「良いの良いの、お部屋にちょっとした細工をしておいたから。じゃあ私はゴールで待ってるわね」
 シメオンの肩を軽く叩き、アルバートは忍び足でその場を離れた。

 しかし、二人は知らなかった。
 彼等の更に背後で、厳めしい顔をしたラスボスが目を光らせていたことを。


 長兄の部屋を訪ねたシャロンは、誰もいない部屋を見て不思議そうに首を傾げた。
「おかしいですわね、アルにーさまおへやにいらっしゃらないのですかしら」
 今日がハロウィンだということは知っている筈なのに。
 と、ふと目をやった窓際の花瓶、そこに挿された花の一輪に一枚のカードが添えられていた。
 カードの表にはちょうど目につくように『シャロンへ』と書かれている。
「あら、わたくしあてですのね? なにかしら……」
 中を開くと、そこには『かくれんぼ』のメッセージが。
「まあ、アルにーさまとかくれんぼですのね!」
 嬉しそうに目を輝かせ、シャロンは部屋の中をきょろきょろと見回した。
「おへやのなかかしら、それとも……」
 一通り見てから花瓶に目を戻すと、先程は気付かなかったものが目に留まった。
 そこに挿された一本の絵筆、その柄には『てがかり』と書かれたメモが結び付けられている。
「アルにーさまと、かくれんぼ。てがかりは、えふで……」
 暫く考え、シャロンは勝ち誇ったような笑顔で部屋のドアを指差した。
「わかりましたわ、あそこですわね!」
 あのドアを出て、廊下を右に曲がって、中庭を横切って、それから――
 シャロンは走った。
 脇目もふらずに、黒子を引き離す勢いで――ついでに足元も見ずに走った。
 もちろん、そこに置かれたアルバートのヒントにも気付かない。
 その時。

 コン、コン。

 どこかで音がした。
 硬い杖の先で廊下を叩くような音。
 思わず立ち止まったシャロンは足元を見る。
「あら……?」
 そこには絵具のチューブが落ちていた。
 正確には、アルバートが目印として置いたものだ。
「アルにーさまったら、おとしものですわよ?」
 それを拾い上げ、再び走り出そうとしたその先にもコロンと落ちている。
 もしやと思って振り向けば、アルバートの自室からここまで、更にその先までも、一定の間隔でチューブが落ちている。
「にーさまのおようふく、ぽっけにあながあいているんですの?」
 兄の意外なドジっ子ぶりにクスクスと笑いながら、シャロンはそれを全て拾い集めてアトリエに突撃した。
「アルにーさま、みつけましたの!」
 大きなカンバスが掛けられたイーゼルの陰を指差す。
 絵の具で汚れたスモックにベレー帽という、リアルブルーにおける画家の典型といった服装をしたアルバートが、そこに隠れていた。
「あら、見付かってしまったわね」
「ふふ、それで隠れてるおつもりですの?」
 あまり残念でもなさそうな様子で現れた兄に向かって、胸を反らせたシャロンは鼻の穴を思いきり膨らませた。
「あのね、にーさまの素敵な香りがね、まるわかりですのよ!」
「これは一本取られたわね。ところで、目印は見付けられたかしら?」
「めじるし、ですの?」
 シャロンはかくりと首を傾げ、たくし上げたスカートに包んだ絵具のチューブを差し出した。
「おとしものなら、ぜんぶひろってきましたわ! アルにーさま、こんどからはおとさないように、おきをつけくださいましね?」
「ありがとう、気を付けるわね」
 それは目印としてわざと置いたのだ……などと無粋なことは言わない。
「このアトリエに辿り着いて私を見付けたご褒美に、見つけた絵具と同じ色と数のマカロンをどうぞ、名探偵の白薔薇姫」
 赤に黄色に水色、緑、オレンジ、ピンク、色とりどりのマカロンを手提げの籠に山盛りにして。

 そしてグリーグ家のハロウィンでは、見事に課題をクリアした挑戦者にはお菓子のご褒美とともに、審判者がその軍門に降ることになるのだ。
 それは、来るべき最終決戦のため。
 めでたく第一の騎士を従えたシャロンは、意気揚々と第二の審判者のもとへ向かった。


「さってと、いよいよ今日か……」
 自室でシャロンの訪問を待っていたジャックは、少々暇を持て余していた。
「ま、とりあえずギャルゲでも嗜むとすっか」
 先日ロイに指摘された通り、近頃では暇さえあればこのリアルブルー産「ぎゃるげえ」をプレイしていることは事実だ。
 しかしこれは全くイカガワシイものではないし、ましてや商売そっちのけで現を抜かしているわけでもない。
「俺様はな、ちゃんとオンとオフのケジメを付けられる男なんだよ」
 仕事中に遊ぶなんて、もってのほか。
「サオリたんはなあ、俺様のことを、俺様だけを一途に待っていてくれるんだ。それを、仕事の片手間なんかに会いに行ったりしたら可哀想だろうがぁっ!」
 会う時は一途に真剣に、サオリたんのことだけを考え、サオリたんの為だけに時間を作る。
 それが「ぎゃるげえ」を嗜む礼儀というものだ。
「でもまあ、僅かに空いた隙間の時間にさえも会いに行きてぇってのもオトコゴコロってもんだよなぁ」
 というわけで、ぽちっと起動。
「今日も会いに行かねぇと、サオリたんが寂しがってからなー」
 なお本日の仮装はその「ぎゃるげえ」に出て来るプレイヤーキャラの服装だ。
「身も心もなりきってやるぜー!」
 大丈夫、シャロンが来るまでにはまだ時間が――

「ジャックにーさま、なにをしていらっしゃいますの?」
「……、…………って、シャロオオオオン!?」
 え、なんで、なんでシャロンが目の前に!?
 瞬間移動か、いつの間にそんな技を!?
「いいえ、わたくしふつうに、そこのどあからはいってまいりましたのよ?」
 言われて時計を見てみれば、先程からゆうに一時間は経過している。
 うん、ゲームって時間泥棒だよね。
「あ、あー、これはアレだアレ精神修行的なアレだから!」
 我ながら苦しい言い訳にしか聞こえないが、嘘ではない。
 これはリアル女子への苦手意識克服の為に始めたものであって、決して「サオリたんハアハア」とか、そういうものでは……
「まあ、こんなしゅぎょうもありますのね! すてきですわジャックにーさま!」
 素直に称賛されたジャックは、何とはなしの居心地の悪さを感じつつも我に返って気を引き締めた。
「よし、これより課題を与える。サオリたんをノーヒントで攻略しろ!」
「サオリたん……このおんなのこ、ですの?」
 シャロンは携帯ゲーム機を引っ繰り返して裏を覗いてみたり、軽く振ってみたりしながら不思議そうに尋ねる。
「このなかには、どうやってはいりますの?」
 どうやらシャロンはリアルブルー製のゲーム機を見るのは初めてらしい。
 ジャックはその概念から始まって使い方まで、一通りのことを教え込み、ゲーマー道に引きずり込もうと……ああ、いやいや、これは「ぎゃるげえ」の中でも健全なやつだから!
 シャロンに悪い影響を与えるとか、そんなことはないから!
 だから燃やさないでくださいお願いします兄上様!
「ええと、こんとろーら? はどうやってつかいますの?」
 ふむふむ、なるほど。
「このこは、このちいさなせかいのなかだけで、いきていますの……?」
 なんだか可哀想だと、プレイしながらじわりと涙ぐむ。
「だいじょうぶですわ、わたくしがおともだちになってさしあげますの!」

 そして数時間後。
 素直にサクサク選択肢を選んでいったシャロンは、あっさりすんなりエンディングに辿り着いた。
「そ、そんな馬鹿な、初見で隠しトゥルーエンドだとぅ……っ!?」
 プレイに数百時間を費やし、ありとあらゆる選択肢を選んできた筈のジャックでさえ、まだ見たことがないのに!
「やべぇ、天才かよ……」
 教えてくれ、一体どうすればそこに辿り着けるのか。
「俺様は一体、どこで選択を間違えたんだ……!」
「そうね、苦手の克服にぎゃるげぇを選んだ時点じゃないかしら」
 アルバートさん、わりと容赦なかった。


 新たにジャックを配下に加えたシャロンは、次にロイの部屋に向かった。
「とりっくおあとりーとですのよ!」
「ハッピーハロウィン。既に皆を集めているとは流石だ、白薔薇姫」
 ロイの仮装はリアルブルーのサラリーマンと呼ばれる者達が着用する戦闘服、所謂スーツというものだ。
 その中でも高級な部類に入るダブルの三つ揃え、ポケットには懐中時計を忍ばせていた。
「それでは俺からは問題を出そう、『魔女が大好きな食べもの』とは、何だろうか?」
「あら、なぞなぞ?」
 アルバートにはすぐに答えがわかったようだが、勿論ここは黙ってシャロンを見守る。
「ううん、むずかしいですのよ……」
 イモリの黒焼き?
 カエルの干物?
「それは薬の材料だな。実際にそんなものを使っているのかどうか、それは知らないが」
「んー、ひんと、ひんとがほしいのですわ」
「そうだな、とても大好きで三食それでいいと言う位の食べ物だ」
「……んーーー……?」
 ますますわからなくなった。
「これ以上のヒントは難しいな」
 懸命に頭を捻る様子を見て、ロイはアルバートの耳元でこっそり囁く。
「……アル兄さん助けてあげて下さい」
 頷いた兄は、暫く考えてから独り言のように言った。
「……そうね。ロイも言っていたけれど、食事は1日に何度あったかしら?」
「おしょくじは……あさと、おひるまえと、おひつと、おやるのじかんと、よるのでぃなーと……ときどき、おやしょくも……」
 それはちょっと、食べすぎではないだろうか。
「間食を抜かしたら?」
「あさと、おひると、よる……さんかい?」
『ん? 何て言ったのかしら、もう一度……お食事は、何度?」
「さん、ど……あっ、そういうことですのね!」
 ぴょんと飛び跳ねたシャロンは、得意げに言い放った。
「サンドイッチですわ!」
「正解だ、白薔薇姫」
 シャロンの頭を撫でたロイは、ご褒美のキャンディをその口に放り込んだ。
 少し甘すぎた気もしないでもないけれど、これで良いのだ。


 そして最後のひとり、シメオンのところでは――
「うん、ではこのお菓子をあげようかな」
 綺麗な東洋の着物を来たシメオンが和の花を模した精巧な和菓子を差し出す。
 普段、手に入れた着物はこの国での生活に合うように仕立て直しているが、今日は現地で手に入れたそのままの形で袖を通していた。
 なお、それは振袖と呼ばれる若い女性向けの着物だが、シメオンに女装をしているという感覚はない。
 綺麗なものは綺麗、綺麗だからそのまま着る、ただそれだけだ。
 そして似合う。
 つまりは全く何も問題はないということで。
「僕からの試練はこれを美味しく食べる事だよ」
「まあ、きれいな……ええと、おかしですの? ほんとですの?」
「ああ、本当だよ。僕がシャロンに嘘ついたこと、ある?」
 その言葉に、シャロンはふるふると首を振った。
 そして恐る恐る、そーっと一口。
「……っ!!」
 美味しい。
「とてもあまくて、でもあますぎるほどではなくて……いままでにたべたことにないおいしさですの!」
 形も可愛いし、食べてしまうのが勿体ない――そう思いつつ、その美味しさには抗えずに残りは一気にぱくっと完食。
「美味しそうに食べてくれて、ありがとう」
 シメオンは満面の笑顔で妹の頭を撫でる。


 姫を守るナイトは揃った。
 四天王を従え、シャロンはいざラスボスとの戦いへ。

「お祖父様を倒す……これが最終試練か、受けて立ちましょう!」
 ロイは暑苦しく闘志を燃やす。
 そして最後の扉が開かれた。
「おじーさま、とりっくおあとりーとですわ!」

「……来たか」
 カツンと杖の音を響かせて、祖父ジョージ・J・グリーヴ(ka1594)がゆらりと立ち上がる。
 その音は、つい先程もアトリエに向かう廊下で聞いた気がするが――きっと気のせいだ。
 祖父が孫娘を心配して、こっそり様子を見に来たり、うっかり見落としそうになったヒントを教えてくれるなんて、そんな。
「儂が本当のハロウィンを教えてやろう」
 ずごごごご……と謎の効果音が聞こえて来そうな空気感を身に纏い、ラスボスは孫達に迫る。
 その仮装は黒のタキシードにシルクハット、そして真っ赤なビロードが裏打ちされた漆黒のマント――吸血鬼だ。
 この試練をクリア出来なければ、本当に生命を吸われてしまう、そんな気さえする怖ろしげな姿。
 しかし呑まれてはいけない。
「これが、ハロウィンなんですのね……いきますのよ、おじーさま!」
 そして始まる孫vs爺の仁義無き万霊節。

「お前達、トリックオアトリートの真の意味を知っておるか?」
 誰も答えられる筈がない。
 それはリアルブルーからの転移者である祖父しか知らない太古の秘密なのだ。
「それはな、菓子が欲しくば儂の屍を超えて行け、という意味だ!」
 バサァ、マントを広げた祖父は尖った牙を剥き出しにして孫達に迫る。
「さあ孫達よ、儂と勝負するが良い」
 種目は孫達がそれぞれに得意とする分野だ。
「そして誰か一人でもこの儂に勝利することが出来たなら、最終試練をクリアしたと認めよう」
 さあ、どこからでもかかって来るが良い!

「承知しました、お祖父様。では年長者である私からお相手をお願いしようかしら」
 アルバートの得意分野は芸術関連、だが自らも認めるようにそれは器用貧乏の域を出ない。
 それでも並の人間に比べれば、その才能は全てに於いてぬきんでていると言って良いだろう。
 しかし相手が祖父とあっては、とてもではないが勝てる気はしなかった。
 とは言えここで勝負を避けることは出来ない。
「私が決めて良いなら、利き香はどうかしら」
 それは香の種類を嗅ぎ分けて、その精度を競うものだ。
 これなら多少は自信がある。
 しかし――
「流石はお祖父様、完敗ね」
「くっ、俺様もまだまだジイイの域には及ばねぇか」
 貿易会社を運営して四散を広げるシミュレーションゲームで挑んだジャックも力及ばず。
「齢70にしてその衰えぬ体力と筋力、流石はお祖父様です」
 腕立て伏せの連続記録で勝負をかけたロイが潰れた後も、祖父は涼しい顔で記録を伸ばし続けた。
「兄様達が敵わないのに、僕が敵うわけないよね」
 祖父が披露する東方に関する話は、シメオンが知らないものばかり。
 流石はラスボスを自認するだけのことはある。

 しかし連戦連敗にも関わらず、彼等は実に楽しそうだった。
 ラスボスというのは何か誤解している気もするけれど――
「皆楽しそうだからいいかな」
「そうね、私達もそうだけど……ふふ、お祖父様も楽しそうだこと」
 シメオンの呟きに、アルバートがそっと耳打ちする。

 そして、いよいよ最後の対戦相手、シャロンが満を持して登場する。
 対戦種目は――
「んー、わたくしのとくいなことといえば……」
 何だろうと首を傾げる妹に、兄達から声が飛ぶ。
「それはもう、決まってるじゃない」
「だな」
「愛らしく賢く美しい、それが我らが最愛の末妹、白薔薇姫だ」
「うん、可愛らしさなら誰にも負けないよ」
 というわけで満場一致。

 孫娘vs爺、可愛らしさ勝負!

「……ふっ」
 祖父は悟りを開いた様な微笑と共に溜息をひとつ。
 己の敗北を認めた。

 だって可愛らしさ勝負とか勝てる要素が欠片も見付からないし。

「やりましたわ、わたくしおじーさまにかちましたのよ!」
 何だかよくわからないけれど、勝ちは勝ち。
「さあ、おじーさま、おかしをくださいませですの!」


 戦いの末に勝利を手に入れた五人の兄妹は、祖父と共にテーブルを囲んだ。
「ハロウィンとは本来、こうして秋の豊穣を祈りつつその恵みに感謝を捧げる祭なのだ」
「なるほど、これが古来より伝わるハロウィンの本来の姿なのですね」
 ロイが感じ入ったように頷く。
 しかし、いくら祖父でもハロウィンの原型が存在した頃に生きていた筈がない。
 この孫達は、祖父を不老長寿の精霊か何かだと思っているのだろうか。
「精霊はともかく、常識では測れない偉大な存在であることは確かね」
「越えられない壁といったところだな」
 アルバートとロイはそう言って深々と頷いた。
 しかしジャックは――
「いいや、超えてやる。見てやがれジジイ、来年こそは俺様の商才でその屍を超えてやるぜ!」
「それは楽しみだな」
 余裕の笑みを浮かべ、祖父は孫達に尋ねる。
「さて、お前達にとってこの一年はどんな年であったかな」
 問われて、孫達はそれぞれに様々な出来事を語って聞かせた。
 楽しかったこと、苦しかったこと、悲しく、悔しかったこと……嬉しいことも、幸せなことも、たくさん。
 その全てを糧として、彼等は育つ。
 より大きく、強く、遙かな高みを目指して。
「秋の実りのように、お前達が大きく成長する事を祈っておる」
 そう言って微笑みながら、祖父は五つの菓子が置かれた皿を孫達の前に置いた。
 それは、ロシアンお菓子。
 普通に美味い菓子の中にひとつだけ、とてつもなく不味いものが混ざっているという、あれだ。
 普通それは、見ただけではどれがハズレかわからないようになっている。
「グリーヴ家にとってのハロウィンとは知力、体力、運、そして度胸、全てを鍛える最良の日でもあるという事なのですね」
 ロイがしみじみと呟いた。
 しかし、そこにはひとつだけ明らかに分かり易く怪しいお菓子がある。
 これは運試しではない。
「場の空気を読んで、敢えてハズレに手を出す……そんな勇気ある行動も時には必要よね」
「ええ、それも商人にとっては必要な才なのでしょう」
「僕達の中で、最もその才が必要なのは――」
 皆の視線がひとりに集中する。
「ジャックにーさま、ですわね!」
「俺様かよ!?」
 大丈夫、毒になるようなものは入っていない。
 ただ、ほんの少し……いや、とてつもなく不味いだけだ。

 楽しげに囀る雛鳥たちを見つめるその瞳が、柔らかな光を湛えて細められる。

「ハッピーハロウィン、皆に豊穣の恵みがあらんことを」


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka1594/ジョージ・J・グリーヴ/男性/外見年齢70歳/究極のラスボス】
【ka1310/アルバート・P・グリーヴ/男性/外見年齢25歳/華麗なるアーティスト】
【ka1305/ジャック・J・グリーヴ/男性/外見年齢20歳/魂のゲーマー】
【ka1819/ロイ・I・グリーヴ/男性/外見年齢18歳/生真面目リーマン】
【ka1285/シメオン・E・グリーヴ/男性/外見年齢15歳/博識の東方美人】
【ka1260/シャロン・S・グリーヴ/女性/外見年齢10歳/皆のアイドル白薔薇カボチャ姫】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

お世話になっております、STANZAです。
この度はご依頼ありがとうございました、お待たせして申し訳ありません。

ネタ、アドリブ大歓迎ということで、今回も楽しく妄想させていただきました。
お気に召していただければ幸いです。

口調や設定等、齟齬がありましたらご遠慮なくリテイクをお申し付けください。
ゴーストタウンのノベル -
STANZA クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年01月04日

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