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『お手をどうぞ、お嬢様 』
シンシア リリエンソールaa1704hero001)&風深 櫻子aa1704


「舞踏会?」
 突拍子のない単語に、風深 櫻子はキョトンとした表情で振り返る。
 普段は余裕の笑みを浮かべていることが多いから、少しだけ幼く見えた。そんなことを考えながら、彼女の契約相手であるシンシア リリエンソールは英雄仲間から届いた招待状を示した。
「貴族・王族系の英雄たちが主催でな。互いの契約相手を招き、親睦を深めようというのだ。特に予定が入っていないなら断る理由もないと思うが、サクラはどうだ?」
「でもアタシ……パーティーへ着ていくドレスがないわ!」
「安心しろ、主催側で用意してある。仮装舞踏会といったところか」
 櫻子が芝居がかって涙を拭うが、シンシア、そこはスルー。
「ふうん、ずいぶんと力が入っているのね。面白そうじゃない。あたし、ダンスは本気で出来ないけどそれでもいいのかしら」
「構わない、楽しめばそれでいい」
「そういうことなら任せて」
 いつになくシンシアが楽しそうだから、櫻子も釣られて嬉しくなる。
 喧嘩をしたり悪態を吐いたり絶えない二人だが、素直になれないだけで、幸福な感情はできるだけ分かち合いたいものである。
 日程と場所を確認し、当日はどんな装いをしようかだなんて話に花を咲かせた。




 その日は、とあるテーマパークのお城を借り切っての舞踏会。
 ライトアップされた城から、ゆったりとした音楽が聞こえてくる。生演奏だ。
「うわぁ……。本当に夢みたいな世界ね」
 自前の衣装を持っている者たちは、既にドレスアップして集まっている。
 異世界へ飛び込んだ気分で、櫻子はキョロキョロしてしまう。気圧されるを通り越して、楽しむばかり。
「着替えはこちらだ、サクラ。選んでやろうか?」
「それくらいできますぅー。あっ、着替えるの手伝いたいとか? 大歓迎よ♪」
「……好きにしろ。私は向こうで着替えて来る」
 衣装室へ案内した傍から、これである。痛む頭を押さえ、シンシアは着替えに向かった。
「また後でね! ……それにしても、目の保養だわぁ。可愛い女の子がたくさん……」
「やはり着替え終えるまで付いている。何をしでかすかわからん」
「えーーーーーー」
 ほう、と櫻子が溜息を吐いたところで、高速で戻ってくるシンシア。
 見るくらいいいじゃない。
 サクラの場合は『くらい』でとどまらないからよくない。
 そんな言い合いをしながら。


 青が基調のサー・コートを纏うシンシアは、櫻子の着替えを待っていた。随分と時間がかかっている。
 愛用のレイピア、その柄を指先で弾きながら、何かトラブルでも起きたのだろうかと声を掛けてみるが、『大丈夫』しか返ってこない。
「サクラ――……」
「ふう、お待たせ! やっぱり手伝ってもらえばよかったかしら。リボン、曲がってない?」
「……っ、いや…… ……そうだな、後ろをむいていろ」
 ワインレッドのロングドレスは生地の上等さを大事にしつつ、レースを重ねることで軽やかさを印象付ける。
 珍しく髪を下ろした毛先が、ほっそりとした肩と鎖骨へと視線を繋ぎ、ドレスの赤が肌の白さを引き立てる。
(落ちつけ……何を着ようが、これはサクラだぞ?)
 動揺をひた隠し、シンシアはウェストから後ろへ回されているリボンを結び直した。
「まあ、馬子にも衣装と言ったところか。悪くない」
「思わず見とれちゃったー、とか素直になったらどーお?」
 顔色を変えないシンシアを、櫻子はえいっと肘で小突く。
「……そうだな。それで立ち居振る舞いが完璧であれば見直さないこともない」
「何よ……きゃっ」
「ほら。手を貸せ、私につかまっていろ」
「なんだか悔しいわ」
 高いヒールでバランスを崩しドレスの裾を踏んでしまい、倒れかかったところでシンシアに抱き留められる。
「……小さいな」
「誰の胸が」
「そんな話はしていない」
 むしろ、サクラは――いや、そんな話はしていない。
 抱き留め、肩に腕を回してシンシアは実感したのだ。自身の契約相手の、体の小ささに。頼りない、守らねばならないと思わせる細さに。
 口を開けば、それも台無しだが。
「行こう。ダンスも良いが、食事やワインもなかなかだぞ」
「あたしの料理の腕を発揮できないのが残念だわ」
 腕を組み、そっと笑いあって、二人はダンスホールへ向かった。




 優雅な三拍子に合わせ、ダンスホールではいくつものドレスが花開くように翻る。
 そんな中、リズムに乗りきれないペアがこちら。
「身体の力を抜け、サクラ。私についてくればいい、踊っているようには見えるさ」
「〜〜でも」
 言うだけあって、シンシアの動きは洗練されている。完璧なエスコート。
 しかし、それが櫻子には逆に照れくさい。体を預けきれない。
(なんだろ、いつもと違うカンジ)
 耳が熱いのは緊張か、それともシンシアの息がかかるから?
「ほら。こうすれば安定するだろう」
 するり、シンシアの手が櫻子の腰に回される。緩く、優しい拘束。
「……細いな」
「乙女ですから」
 唇を尖らせる櫻子に、ようやく普段の感覚が戻って来ただろうか。
(細いのは……シンシアだって)
 騎士様のように櫻子の手を取り男役を演じるシンシアも、こうして密着していれば線が細いことはうかがえる。
 整った顔立ちに、どこか遠くを見るような深い蒼の瞳。
(綺麗な女の子なのよね……)
 手を引かれるままに踊りながら、ぼんやり、そんなことを思った。
 触れあう肌の温度が一緒になる頃には、櫻子からも不自然な力が抜けて純粋にダンスを楽しめるようになっていた。
(守り守られる、そういうんじゃなくって)
 共鳴している時とも違う、二人が二人として存在していて、それでいて重なり合うような今。
 どう、表現すればいいのだろう。
 櫻子は言葉を探そうとするが、演奏のテンポが速いものへ切り替わり、追いついていくのに必死になって次第に忘れてしまった。
 いつになく楽しそうなシンシアの表情だけが、印象に残った。




「ふぅー! 夜風が気持ちいいわね」
「ああ。緊張もほぐれたか?」
「もう、また言う!! そうね、おかげ様で。後半は、ずいぶんと上達したでしょう?」
 バルコニーへ出て、二人で乾杯を……そう思ったのに、すぐこうやって言い合いになる。とは言っても慣れたもの。いつもの距離。
「今日はありがとう、シンシア。楽しい夜だわ」
 グラスを鳴らし、ワイングラスに唇をつける。程よい渋みと甘味が意識をクリアにした。
「サクラはそうだろうな。私は大変だった」
「なによう」
 何しろ、英雄・人間問わず自分好みの美少女を見かけると声を掛けずにいられないものだから。
 セクハラには至らず、退場処分は免れているものの。
「飲みすぎるなよ」
「なによう!」
「酔いに任せて不埒なことを考えるのは、何もサクラだけじゃない」
「え?」
 スッと、シンシアの表情が変わる。
 自分を見ているわけではないと気付き、櫻子が振り返ると……逃げ帰る男性の後姿があった。
「あら。あたしに興味があるならお話くらい良かったのに」
「冗談でもやめろ。これ以上の頭痛は勘弁だ」
「心配性ねぇ」
「ああ、心配している。サクラに興味を持つような、奇特な男をな」
「なにようっ」
 シンシアの悪態に噛付いて見せるふりをして、櫻子はふふっと笑う。
「でも、今日は充分かもね」
「どういうことだ?」
「あたしには、シンシアがいるもの。そうでしょう?」
「……まあ、そうだな。今日のところは」
 英雄たちとの顔繋ぎは果たせたし、自身の契約者を守ることも肝要だ。
 『美少女に弱い』は悪癖みたいなものであり、櫻子がシンシアをないがしろにするということもない。
「ところで、シンシア。すごく言いにくいお願いがあるの」
「今更、なにがあるというんだ」
 上目遣いに、櫻子が見上げてくる。その目は、少しだけ潤んでいるようだ。

「慣れないヒールで踊ったから……足が限界……。家まで歩けない……」

「…………」
 何かと年上らしい振る舞いをしたがる彼女だ、これはかなり参っている。
 そんなことか、とシンシアは一度は呆れたものの、もう一度彼女の気持ちを考えた。
「素直でよろしい。あまり遅くならないうちに帰るとするか」
「ごめんなさい、せっかく楽しい舞踏会なのに」
「気にするな。きっとまた開かれる。だから――」

 お手をどうぞ、お嬢様?

 勝ち誇ったようなシンシアの表情に、櫻子が赤面で爆発したのは数秒ほど後のこと。




【お手をどうぞ、お嬢様 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa1704hero001 /シンシア リリエンソール/ 女 / 20歳  /ブレイブナイト】
【 aa1704    /   風深 櫻子    / 女 / 28歳  / 人間】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
素敵な女性たちのダンスパーティー、お届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
ゴーストタウンのノベル -
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2016年01月05日

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