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『今年の一歩 』
真壁 久朗aa0032)&セラフィナaa0032hero001)&小鉄aa0213)&稲穂aa0213hero001)&佐倉 樹aa0340)&シルミルテaa0340hero001)&御代 つくしaa0657)&メグルaa0657hero001)&齶田 米衛門aa1482

●まずは───
 年が変わったばかりの風が、真壁 久朗(aa0032) の髪を揺らす。
 少し早く来過ぎたか、とスマートフォンのディスプレイを見ると、待ち合わせの時間より少し早い。
 混雑や都合が合う日を調整したとは言え、まだ三が日の範囲で電車も休日運行だからと、少し早めに出てきただけだったが───
「クロさん! ヨネさんが来ました!」
 セラフィナ(aa0032hero001) の声に顔を上げると、齶田 米衛門(aa1482)がこちらへ意気揚々やってくるのが見えた。
「あけましておめでとうございますッスよ! 今年もよろしくおねげいしますッス!」
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
 米衛門の挨拶に久朗、セラフィナも新年のご挨拶。
「駅で迷ったッスけど、オイが最後じゃなかったみたいッスねー」
「急ぐものでもないし、まだ待ち合わせ時間じゃないからな」
 米衛門へ久朗が笑っていると、視線の端でぱっとセラフィナが動いた。
 思わず視線を動かすと、セラフィナは佐倉 樹(aa0340) と一緒に来たシルミルテ(aa0340hero001) を迎えに行っている。
「くろーはいいとして、ヨネさんはあけましておめでとう」
 シルミルテと色違いのワインレッドのダッフルコートと黒のマフラーに身を包んだ樹は、軽く片手を上げる。
 その後ろでは、樹とは異なるピンクのダッフルコートと白のマフラー姿のシルミルテと白のふわふわマフラーとケープ姿のセラフィナが早速会話を弾ませていた。
 米衛門が久朗の反応を他所に樹へ新年の挨拶をしていると、「間に合ったでござる」と安堵の声。
 3人が視線を向けると、小鉄(aa0213) と稲穂(aa0213hero001)の姿があった。
 小花を散らした赤の和服はいつもといった所だが、赤の、目立ち過ぎない範囲で蝶を散らした羽織を羽織った稲穂に対し、いつもの忍装束にシンプルな黒の羽織を羽織っただけの小鉄はどこか寒そうだ。
「次の電車だったら、間に合わない所だったでござる」
「……乗り換えで、迷うから……」
 新年のご挨拶の後に続いた小鉄がそう言う隣で稲穂が待ち合わせギリギリの理由を述べる。
 初詣に行く神社は全員の希望を踏まえ、浅草としたのだが、彼らの最寄り駅からだと、電車乗り換えがあった。どうやら、家自体は早めに出たようだが、乗り換えで手間取ったらしい。
「あの駅、少し入り組んでいるからな」
「分かるッス。オイも同じッス」
 久朗がなるほど、と納得する横で、米衛門が共感の深い頷き。
 小鉄は山奥の過疎村で生まれ育った為、入り組んだ駅の構造には馴染みがない。同様に山奥の集落から出てきた米衛門も馴染みがないらしく、少々迷子になり易いそうで、共感する所のようだ。(米衛門が早く到着したのは純粋に家を出る時間の差だった)
「新年早々ごめんなさいね」
「あれは迷宮でござる」
 最終的に稲穂の尽力で乗り換えに成功したのか、稲穂が微笑む隣で小鉄が弁明した。
 残るは───
「間に合いました……!」
 待ち合わせ時間ちょうど、御代 つくし(aa0657) とメグル(aa0657hero001) が到着。
「つくしが方々で迷わなかったら、こんなギリギリではなかったと思いますが」
 白のマフラーを直しながらつくしへそう言うメグル。
「だって、近道した方がいいと思って」
「急がば回れ、です」
 メグルは呆れながら、「乱れてます」と向日葵がついたカチューシャの曲がりを直すように指し示す。
 無自覚方向音痴のつくしは、近道しようとして無自覚かつ盛大にメグルを巻き込んだ駅迷子になったと想像つくが、間に合ったからよしとしよう。
(妹がいたら、こういう感じなのかもしれない)
 久朗は皆へ新年の挨拶をするつくしを見てそう思う。
 が、これで全員揃ったと皆を促すことにした。
「そろそろ行くか」
 ここから神社はそこまで歩かない。
 人も大勢いるだろうが、屋台などもあるだろうし、詣でた後も楽しめそう。

●神社へ
 神社までの道中、寒風が小鉄を打ち据える。
 黒の羽織を羽織ってきたものの、防寒対策とは言い難く、小鉄は寒さに震えた。
(これも鍛錬でござる)
 そう思考を切り替えた小鉄の前では、セラフィナとシルミルテを先頭に賑やかな道中となっている。
「僕初詣は初めてなんですよ。色々教えていただけると嬉しいです」
「マズ小揖かナ」
 セラフィナへ作法を説明するシルミルテ。
 聞いているだけでも意外に知らなかったりするものも多い。
「詳しいッスね」
 聞いている米衛門もシルミルテが細かく知っていることに感心する。
 シルミルテはかつてそちら側であった意識で頼るつもりはあまりないが、イコールして作法を守らないという意識ではないらしく、しっかりしたものだった。
「結構お店ある」
 鳥居までの道、お土産屋だけでなく、出店の数も多い。
 お土産屋の数が多いのは場所が場所だからだろうが、出店が多いのは稼ぎ時と向こうも思っているからだろう。
 ちらりと見回して小さく呟いた樹の目には、多くの出店が映っている。
 食べ物関係が多いが、中には遊戯のものもあるので、神様の領域ではない場所での仕事となるのだろう。
「わ、林檎飴! キラキラしているように見えますねっ」
「……つくし、食べるのは詣でてからにしましょう」
 つくしがふらっと立ち寄りそうな所をメグルがコートの奥襟掴んで食い止める。
「詣でた後の方がゆっくり楽しめますよ」
「ふむ。詣でてからの方が良さそうな気がしてきたでござる」
 メグルの言葉に納得した小鉄の視線の先には、射的があった。
 気分的に詣でた後の方がいい結果を残せそうな気がする。
「オイ、んたひどっこ多い初詣始めてッスよ。土産は……」
 米衛門は、周囲を見回す。
 彼の英雄は今回留守番だそうだが、食い意地の張っている英雄の為何かあれば土産でもという所らしい。ただし、食い意地=食事量でもないので、何でもかんでも買おうとは思っておらず、本当にただの土産の範囲らしいが。
 やがて鳥居の前までやってきた。
「ココでご挨拶」
 シルミルテがセラフィナへ改めて説明。
 全員足を止めて、小揖。
「真ン中はアノ人タチの通り道だカラ、端っコ歩コー」
 足の運びなども説明したシルミルテの言葉を聞いたセラフィナも、「色々な作法があるんですね」と感心しながら倣う。
 ここで、正月に食べるお餅から中学生並の論争に入っていた久朗と樹もひとまず論争終了。
(ちょうど人が切れたのか)
 久朗が手水舎で気にしたのは、自分達以外の者の有無だ。
 怖がられたこともある為、機械部位は隠している。今は素肌を見られることが得意ではない。
 が、手水で手や口を清めるのが作法……それも神道では左を重視することが多いことより、左手からだ。
 見えないようにして清め、すぐに素肌は隠す。
 この間、誰も言わなかったのは、素肌を日常的に隠しているのを知っているからだろう。
 と、久朗は小鉄が手を擦っているのに気づいた。
(そんな作法、説明になかったような)
 久朗が首を傾げていると───
「……ハイ」
 世話が焼けるとばかりに稲穂が小鉄へ押し付けるようにしてカイロを渡した。
(単に寒かったのか)
 久朗、鍛錬だから寒いと言わなかった小鉄にやっと気づいた。
 暖を取り出す小鉄を見ていたら、稲穂がこちらへやってくる。
「部隊長殿、おひとつどうぞ」
「ありがとう」
 わざと格式ばった言葉を使う稲穂が言葉とは裏腹の笑顔で差し出すから、久朗も感謝を伝えてカイロを受け取る。
 手袋越しのカイロは何だかほっとするような気がした。

●今年はどうしようか
 手水で穢れを落とし、神様の前へ。
 通常ならコートやマフラーを取るらしいが、初詣で人手がある場合はこちらはしなくとも良いとのことで、周囲の混雑状況もあり、そのまま向かう。
(任務達成、それから、苦手な隠密が上達しますように)
 作法の後、小鉄が心の中で語った抱負と願いは非常に分かり易いものだった。
 忍者たるもの忍ばなければならないのに、今の所忍ぶのが苦手……残念忍者説もあるが、1人前の忍者にならなければという願いは確かなものだ。
(今年に限った話じゃないけれど……)
 そう思う稲穂は姿勢を正し、それから作法に則って抱負と願掛け。
(料理のレパートリーを増やすこと。それから、今年も楽しい一年でありますように)
 基本は大事。
 エージェントらしくないかもしれないけれど、自分自身がそうして楽しくなかったら、誰かのことなんて考えられないだろう。
 自分らしさは大事だ。
(新年の抱負、願い事……)
 久朗は、そのことで悩んでいる。
 こうして皆と初詣に来ているし、色々な人に囲まれているので、既に幸福であると思っていたから。
 隣のセラフィナは作法に則った参拝をしている。
 更にその隣で、シルミルテが参拝していた。
(樹ト愉しク生きルノで、見てイテ楽しカッタらご褒美くだサイ。セラフィナの幸せガ邪魔サレませンヨーに)
 それが、シルミルテの願い事。
 今年モ愉しク、という自分自身の今年の抱負と共に添えると、一礼して、待っている者の為にセラフィナ共々場所を譲った。
「くろー、そんなに願うことあったの?」
「違う」
 樹へ久朗は否定。
 控えめなのは、ここが神様の前だからだ。
「ふーん」
 それは樹も理解しているのだろう、口論を勃発させることなく、姿勢を正し、賽銭を静かに入れた。
 鈴を鳴らし、再度姿勢を正して教わった作法と共に抱負と願い事を心の中で呟く。
(今年も愉しく。……怪我をすることがあっても、シリィと愉しく過ごせますように。くろーの努力が少しは報われますように)
 さて、恋愛とかそういう次元ではなく、樹が素でいられる久朗はと言うと、やっぱりまだ悩んでいる。
 やがて、姿勢を正したのを見、樹は待っている参拝者の為に神様の前を譲った。
(もっともっと頑張って家の人に見つけてもらえますように。それから、色んな人と仲良くなりたい)
 樹に次いで神様の前に立ったつくしは、作法通りに参拝。
 願うことは多いかもしれないけど、でも、どれも大事……初詣だし、神様だって大盤振る舞いしてくれると前向きに考え、最後に『本音』も添えて、参拝が同じタイミングで終わったらしいメグルと共に神様の前を辞する。
「そういえば、メグルは何をお祈りした?」
「そういうのは教えるものではないですよ」
 ケチ、とつくしは言いながらも、しつこく食い下がらない。
 年が変わっても、相変わらず隣を歩いている。
 メグルは心の中で掛けた願を思い出す。
(昨年と変わらず程々に平和に過ごせますように。昨年と変わらずつくしを守れますように)
 つくしの『本音』の願いは案外もう叶えられているかもしれない。
「くろーはまだ立ってるね」
「クロさんらしいとも言いますね」
 樹が長身の久朗がまだ参拝していないと視線をやると、セラフィナが同じように見ながらそう言う。
 この間にも米衛門が参拝を終えて合流場所までやってきた。
「あとは───真壁さんッスか」
 聞こうとした米衛門が全員の視線の先を理解し、久朗を見る。
 やがて、久朗が姿勢を正した。
 作法に則った願掛けを行い、やっとこちらへやってくる。
「あとは、ゆっくり楽しみましょう」
 セラフィナが久朗へ多くを問わず、そう笑った。
 セラフィナがその願いを「また来年ここに来てその時に」と胸の内で秘めたように、久朗もまた胸の内に秘めると思ったからだ。
「揃った所でおみくじッスかね」
「おみくじ! 大凶が出たら大変ですねっ」
「御代殿、不吉でござるっ」
 米衛門がおみくじを引く人々に目を移すと、つくしが楽しそうに目を輝かせ、逆に小鉄が不吉だと戦く。
「普通は大吉引くか引かないかと話題にすると思いますが」
「それはそうね。縁起物でもあると思うし」
 メグルが溜息混じりに言う隣で稲穂は同意するものの、やっぱりおみくじの結果は気になったりする。
「樹、行コー」
 境内の中では手を繋げないものの、シルミルテが樹を促す。
「僕達も行きましょう、クロさん」
「そうだな」
 久朗はセラフィナへ頷いていると、「くろー遅い」と樹の声が飛んできて、2人は急ぐ。
(こういう時間をまた送ることが出来るように強くならなければ)
 先程、心の中で呟いた新たな決意を反芻する。
 無自覚に口へ刻まれた優しい笑みは、久朗が楽しんでいる何よりもの証拠。
 その幸福が、その心にあるものを満たせるよう。

●運試し悲喜交々
「あれっ、小鉄さん……まさか」
「凶でござった……」
 少し大袈裟な反応を視線の端に捉えたつくし、小鉄へ声を掛ける。
 実は今までちょっとしか話したことがなくて、少しだけ緊張してたが、おみくじはそんな緊張を解してくれた。
「拙者の1年は……」
「オイは大凶だったッスよ!」
 肩を落とした小鉄へ、米衛門は大凶のおみくじを見せながら笑顔。
 友人と来て意気揚々の彼、大凶でも笑って受け入れたらしい。
「物は考えようッスよ。この1年の不運を肩代わりしてくれるかもしれねッスよ?」
「その考え方はいいな」
 小吉を引いた久朗が会話へ加わってくる。
「小吉……勝った」
「勝……中吉か」
 樹に見られたことに気づいた久朗も樹のおみくじを覗き返す。
 運の話とは言え、勝ち負けとなると、何か言いたくなるが、セラフィナが「クロさん大吉でした!」と笑い、両者両方セラフィナには『負けた』方向で落ち着いた。
「大事ナのハソコじゃなイヨー」
 シルミルテが吉凶の結果よりそこに書いてある内容が大事と読むように言う。
 ちなみに、シルミルテはセラフィナと一緒で大吉である。
 が、これも、対極にあるものは反転し易いとも言われており、いい結果であっても注意は必要であるし、良くない結果であっても用心と誠実を心掛ければ加護に恵まれる、とのこと。
「ということは、結果に関係なく内容を忘れず、1年を過ごした方がいいということでしょうね」
「今年1年の指針として持ち歩く人もいるみたいよ」
「結んでいるのはどういうことなんでしょう?」
 メグルの納得に稲穂がそう返すと、セラフィナが境内にあるおみくじ結び所で人々がおみくじを結んでいることに気づいて尋ねた。
「おみくじは無闇に捨テちゃイケナイノ」
「神仏への縁を結ぶ……だったわよね」
 シルミルテが更にそこへ加わると、稲穂もシルミルテに続く。
(そう考えると、1年注意する必要はあるけど、持ち帰って、後日結んだ方がいいかしら)
 実は自分も大吉だった稲穂、周囲へ内緒と言いながらもほんわり嬉しそう。
「確か利き腕と反対の手で結べば、いいって聞いたことあったような気もするッス」
「困難だが……拙者は挑むでござる」
 米衛門へキリッと返した小鉄、チャレンジ開始。
「私もやってみますっ」
「つくしは、結局何を引いたんです?」
「吉っ」
 間に挟まれ仲良しさん、というつくしの考えはらしいと言うべきか。
 表情こそ変えなかったが、メグルはその隣で末吉のおみくじを結ぶ。
 おみくじが、更なるご加護も結んでくれますように。

●甘い誘惑を楽しんで
 おみくじも結び終われば、後は心置きなく楽しめると言うもの。
 参拝の後、いただいた福を落としてしまう為に寄り道をしないという考えもあるが、実は厳格なルールではなく、重要なのは心のあり方である為、羽目を外さないようにという戒めが強いらしい。
「セラフィナは?」
「そういえば、いらっしゃらないですね……?」
 セラフィナがいないことに気づいた久朗が首を巡らせると、つくしも一緒に首を巡らせる。
「捜しに行った方が……?」
「動くと行き違いになるかもしれない」
「いえ、その前につくしが新たな迷子になります」
 つくしの申し出に久朗とメグルがそう言う。
 捜しに行かない方がいいという意見は一緒だが、その理由は結構違っている。
 と、セラフィナが雑踏からやっとという感じでやってきた。
「凄い人でした」
 セラフィナがそう笑うと、一瞬の隙に雑踏に流されたのかと久朗は「それだけ人が出ているからな」と今度ははぐれないよう注意しなければと心の中で呟いた。
 何故雑踏から出てきたかは、後で知ることになるのだけど。

「戒め、なら、神様もそんなに怒ったりしないと思いますしねっ」
 つくしの言葉もあり、エージェント達は賑やかな屋台や土産屋を覗くことにした。
 賑やかなそれは、夏祭りの縁日に勝るとも劣らない。
「林檎飴はキラキラしてると思うんですよっ」
「そうね。結構甘くて美味しい……」
 つくしと稲穂が赤い林檎飴を手にご満悦。
 と、セラフィナが綿飴の屋台で綿飴が出来る過程をじーっと見ている。
 久朗からお小遣いを貰ったセラフィナ、来る途中で綿飴に気づいていて、そのほわっとした作り方をじっくり見たかったらしい。
 やがて、綿飴を手にしたセラフィナがやってくる。
「そちらは?」
「林檎飴ですよっ。赤くてキラキラしていて綺麗ですよねっ」
「こういう飴もあるんですね」
 綿飴を食べるセラフィナの次の購入物は決定的らしい。
「あら、それはカルメ焼き?」
 稲穂がカルメ焼きを買ってきたシルミルテに気づく。
 カルメ焼きの屋台は珍しいとのことで、買ったらしい。
「どんな感じですっ?」
「サクサクしテるヨ?」
「つくし、何でもかんでも買わないように注意してください」
 興味を持ったつくしがシルミルテへ尋ねていると、保護者的見張りをしているメグルが先回り。
 メグルの立ち位置は、つくしの一歩後ろ、楽しんでいるのを見守れるポジションだが、それ故につくしの考えが読み易い。
「でも、珍しい屋台……」
「仕方ないですね」
 メグルはやれやれと溜息。
 いざという時は自分が食べてしまえばいいか。
「ところでクロさん達はまだ射的勝負ですか?」
「決着ついていないみたいです」
 見守るポジションのメグルは射的屋台の白熱も見ていたらしく、首を傾げたセラフィナへそれを伝える。
「白熱シテルヨー」
 カルメ焼きを食べることに夢中だったシルミルテも射的の屋台へ視線を向ける。
 まずは勝負と小鉄が持ちかけた射的対決───小鉄は勿論、久朗、米衛門、樹が参戦。
 (彼ら全員共鳴していないが)本職ジャックポットもいないからだろうか、それが逆に遊戯にしか過ぎない屋台でも勝負を白熱させるらしく、傍から見てもガチっぽい勝負となっていた。
 誰が勝つのだろう、と顔を見合わせた面々、勝負の行方を見守るべく、射的の屋台へ歩いていく。
 彼らの勝負の行方は───

●新年最初の大勝負
 少し時間を遡らせると、小鉄提案の射的勝負は公平(?)におみくじのよろしくない順序となった。
 つまり、米衛門(大凶)、小鉄(凶)、久朗(小吉)、樹(中吉)という順序である。
「景品は倒したらOKッスか」
 店主からルールを確認した米衛門は幾つかある射的用の銃を選ぶことにした。
「どんなのがいいかよく分からないッスね」
「ヨネ初めて?」
 米衛門の言葉に久朗が声を掛ける。
 考えてみれば、米衛門は山奥の集落から出てきており、その集落で祭りがあったとしても屋台のバリエーションはそこまでないかもしれない。
 が、米衛門は馴染みがないことを認めながらも、どれがいいのか迷っている理由が一般的な理由と違った。
「猟銃とは一緒にならねッスからねー」
「ヨネさんの場合そっちになるよね」
 樹が米衛門の言葉を聞いて納得。
 生粋の農家である米衛門、猟師でもある。
 ジャックポットではないが、猟師として猟銃の扱いは知っているだろう。
 ……とは言え、射的銃は猟銃とは一緒にならないということで、米衛門はどういうのがいいのかとなっているらしい。
「見るのも鍛錬でござる」
 キリッとした様子の小鉄、やっぱり射的銃の基準は分からない模様。
 射的を正座して眺める様を見て、樹はやっぱり面白い、なんて思っていたり。
 そうこうしている内に米衛門が射的銃を選び、コルクを填めている。
「どうッスかねー」
 なんて言いながら、まずは1回目。
 狙っていたお菓子の僅か右に飛ぶと、米衛門は残りのコルクと銃を見比べた。
 銃やコルクの状態に気づいたらしく、調整、2発目でまずはお菓子を落とした。
「調整しながら撃つ……なるほどでござる」
 小鉄が真剣そのもので見ている間に米衛門は最初に落としたお菓子を含めて3つ景品を落とす。
「ヨネさん凄いな」
「真壁さんの腕はどうッスか?」
「ああいう結果ではないな」
 久朗の答えで、何となく結果を察した米衛門は「楽しいのが1番ッスからね」と勝負事でも笑いを見せる。
 そうしている間に、小鉄が射的銃を選び終えた。
 米衛門とは違うものであるものの、コルクを填める様は真剣そのもの。
「いくでござるよ!」
 気合十分のコルクは、やっぱり中々上手く当たらない。
 それでも試行錯誤して、何とか景品2つゲット。
「飛び道具も得意になる必要があるでござるな……」
「手裏剣じゃない飛び道具だと忍んでないからいいと思うが」
「真壁殿……! かたじけないでござる」
 小鉄が久朗の言葉に感激して深く礼、それからまた正座。
(そういえば、この後食べる時も覆面のままなんだろうか)
 参拝の時、いち早く終えてしまった為、口元の覆面まで確認していなかったが、久朗、そこはやっぱり素朴な疑問。
 と、興味ある食べ物をいち早くと買いに行っていた面々がこちらへやってくる。
 真剣勝負である関係で見守るだけらしい面々の中にいるセラフィナは綿飴を食べながら、けれど、久朗へ「頑張ってください」と口を少し動かしたのが見えた。
「くろーには勝つ」
「銃を構えるのに支障がなくとも勝つかどうかは別問題だろ」
「くろーが勝つかどうかも別問題だよね」
 地味に樹のスタイル的なものを刺激しかねない一言だったが、樹はそこではなく、勝つかどうか別問題、イコール、負け確定の言い方に食いつく。
「それこそしてみなければ分からない」
 そうは言ったものの、久朗、不器用なだけあり、コルクを上手く填められず、その為に景品は1つしかゲット出来なかった。
「2個倒せばくろーには最低でも勝つ」
 樹がシルミルテに手を振った後、射的銃を構える。
 淡々としながらも、2個、景品をゲットすることに成功、これで久朗の最下位が決定した。
「楽しむことが大事ッスよ。勝ち負けはその次ッス!」
 米衛門が笑いながらそう言えば、そういう意味での勝負は引き分けということに落ち着いた。

●まだまだ楽しく
 稲穂が小鉄の腕を引っ張り、タイヤキパフェの屋台の前へ向かっていく。
「こんなタイヤキがあるのでござるなぁ。拙者も抹茶アイスと小豆のものを」
「私はイチゴと生クリーム」
 興味を引いた小鉄も選ぶ隣では、迷った様子の稲穂が最終的に第一印象でたいやきパフェ決定。
 こうしたイベントが好きだというのは装いから見ても分かるが、やはり気が弾んで屋台で興味を引いた食べ物の誘惑に吸い寄せられているようだ。
「こういうタイヤキもあるのですね。いつもの物の方が好みですが」
「こういうのも美味しいよっ」
「それは?」
「クロワッサンタイヤキですっ」
 メグルとつくしがクロワッサンタイヤキをやはりどちら側から食べるかの論争をしながら食べていると、稲穂が気づいて声を掛けてくる。
 つくしの説明を聞いた稲穂が小鉄を引っ張っていくのを見、楽しそうだなと思ったり。
「色んな屋台あるッスよねー」
 あげもんじゃを買ったらしい米衛門は、一応英雄のお土産に浅草らしい人形焼も土産物屋で買ってきたらしい。
 が、友人と楽しみたい彼は屋台をガチで楽しむより、皆との時間を楽しみたいらしく、これ以上は特に、といった所らしい。
「私もビックリなんですよねっ」
 つくしも馴染みがない屋台が多いとうんうん頷きながら、クロワッサンタイヤキをぱくり。
 メグルとしてはつくしの食べ方に異議申し付けたいが、米衛門と楽しく会話をしているようなので、後で纏めて言おうと心に留めておく。
「個人的には最初に食べた綿飴が1番良かったです」
「雲ッぽイヨネ」
 貰ったお小遣いを使い果たしたらしいセラフィナ、シルミルテがクレープを手にやってくる後方では───
「じゃあ、ドロケイとケイドロ、どっちが一般的だと思う?」
「ジュンドロ」
「……選択肢、聞いてたか?」
「くろー、ドロケイだといつから錯覚していた?」
 今川焼と大判焼の呼び名から、呼称論争をしている久朗と樹である。
 大富豪と大貧民、ドロケイとケイドロといった子供の遊びからファーストフードの呼称まで、意見が分かれるものを延々と言い合っているのは、中学生レベルのような気もするが、あれはあれで楽しんでいるのだろうから、いいということにしよう。
「気づいてしまった……」
 稲穂が小鉄の腕を引きながら、どんよりと戻ってきた。
 心なしか彼らは食べ物の屋台に向かうペースが速い気がしていたが……?
「食べ過ぎてしまったかも……」
 英雄の稲穂は、実は食事をしなくとも問題はないので、食べ過ぎがそこまで深刻な問題にならないのでは、と皆思わないでもなかったが、小鉄も一緒に食べているなら、食べ過ぎを認めた形になり、おかん的問題はあるかもしれないと窘められたと話す小鉄を見て結論付ける。
「私も食べ過ぎてしまったかも……」
「今頃気づいたんですか」
 つくしが気づくと、メグルがやれやれと溜息。
「御代さんは大丈夫」
「そうですかっ?」
 口論を一時取り止めて口を挟んだ樹につくしが顔を輝かせた。
 朴念仁の久朗には分からない流れだったが、稲穂も加わった会話が楽しそうなので、口は挟まず。
 皆で来る初詣は初めてだけど、来年も同じように行けたらと鬼が笑いそうなことをふと思った。

●踏み出された一歩
「ヨネチャンが射的王者ネー」
「僅差ッスよ」
「思ったより難しかったけど、くろーには勝てた」
 米衛門がシルミルテの称号に笑うと、シルミルテの隣を歩く樹は最低限の目標を果たしたと呟き、後方を見る。
 久朗はセラフィナと一緒にのんびり後ろを歩いている形で、こちらの発言に何か言いたげな顔をしていたが、距離が少し離れている為に反論してこないらしい。
「モー樹は……」
 シルミルテはそう言いながらも、樹がそれを愉しんでいることを知っているから、咎め立てはしない。
「オイはそこまで食べないッスし、シルミルテさんどうぞッス」
「ワー、コのお菓子スキー」
 米衛門がシルミルテへ射的でゲットしたお菓子を渡すと、色とりどりのチョコに気づいて、喜ぶ。
「ヨネさん、ありがと」
「いいッスよ。シルミルテさんに美味しく食べて欲しいッス」
 樹の礼に、終始笑顔だった米衛門はその笑顔を更に深めた。

「あれってやっぱり難しかったんですっ?」
「拙者の鍛錬が足りなかったでござる」
 つくしの質問に小鉄は思ったより難しかったと答えた所で、寒風が吹いて、表情が一瞬寒さに強張った。
 すかさず稲穂が近くの自動販売機で温かい飲み物を購入していたらしく、暖を取れと鍛錬を主張する小鉄へ押し付ける。
「よく気づかれますね」
「世話が掛かるというか……」
 私がいないとダメねと言いたげな稲穂は、メグルの目から見ても小鉄の母親っぽい。
 見た目の年齢差はどう見ても稲穂の方が10歳は年下に見えるが、それが些細な問題に感じる程度に世話を焼いている。
(つくしも世話が掛かるという意味では……)
 メグルはそう考えながら、見守るように歩く。

「初詣、楽しかったですね」
 後方を歩くセラフィナは初詣にわくわくしていただけあり、帰り道も楽しいようだ。
「そうだな。人は多かったが」
 所々空気は読めていなかったものの、久朗も楽しかったようだ。
「そうそう、忘れない内に渡しておきますね!」
 セラフィナが久朗へ無病息災のお守りを渡す。
「いつの間に……あ」
 久朗も流石にセラフィナが一旦はぐれていた理由に気づいた。
「あり……」
 お礼を言う前に、前方から電車の時間が迫っていると声が飛んできた。
「急がないと乗り遅れますね」
 促すセラフィナはもう小走りになっている。
 お守りを大事そうにしまった久朗もその後を追う。

 初詣は、これで終わり。
 来年の今頃、また、こうして、楽しく来れるといいね。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【真壁 久朗(aa0032)  / 男 / 24 / 能力者】
【セラフィナ(aa0032hero001) / ? / 14 / 英雄(バトルメディック)】
【小鉄(aa0213)  / 男 / 24 / 能力者】
【稲穂(aa0213hero001) / 女 / 14 / 英雄(ドレッドノート)】
【佐倉 樹(aa0340) / 女 / 19 / 能力者】
【シルミルテ(aa0340hero001)  / 女 / 9 / 英雄(ソフィスビショップ)】
【御代 つくし(aa0657) / 女 / 16 / 能力者】
【メグル(aa0657hero001)  / ? / 22 / 英雄(ソフィスビショップ)】
【齶田 米衛門(aa1482) / 男 / 21 / 能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
真名木です。
この度は発注いただき、ありがとうございます。
皆で仲良く初詣、屋台等々を楽しみたいとのことでしたので、皆さんで仲良く楽しんでいる姿を意識して描写させていただきました。
来年の今頃、皆さんでまた楽しく初詣に行けますよう。
改めて、あけましておめでとうございます。皆さんの1年が良いものであることを願っております。
初日の出パーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年01月06日

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