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『収穫祭ワルツ 〜いつもと変わらぬパリの街で〜 』
ユリゼ・ファルアート(ea3502)&リーディア・カンツォーネ(ea1225)&ロックフェラー・シュターゼン(ea3120)&ラシュディア・バルトン(ea4107)&エーディット・ブラウン(eb1460)&明王院 月与(eb3600)&セイル・ファースト(eb8642)


 収穫祭。
 それは年に一度、秋の実りを喜び神に感謝の意を表する祭りとして執り行われる。その規模は様々ながら世界各地で行われる祭りであるから、収穫の喜びは万民に共通ということなのだろう。
「また…この季節がやって来たな」
 街の賑わいを遠くに眺めながら、男は墓標へ向かって囁く。風に揺られて翻る色とりどりの旗を見ているだけで、聞こえないはずの喧騒が流れてくるようだった。
「…犠牲を無駄にはしないよ。必ず…。そう、誓う。これからもこの国の人々を、護ってみせる」
 小さな花束を墓標の前に置くと、彼は周囲の墓を見渡す。そこには、今までの戦いで散っていった騎士達の墓が並んでいた。そのひとつひとつを目に入れ、しっかりと心の中で誓いを刻み込む。だが最後の墓標へと目をやったその時、視界に見知った顔が入り込んできた。
「…パリで待っててくれって、言っただろ」
「お墓参りをするなら、可愛い家族も一緒でいいでしょ」
 にこやかに近付いてくる女性にそう言われ、ラシュディア・バルトン(ea4107)は表情を崩す。
「そうだな。でも墓参りは終わったから、とりあえず…祭りを楽しむか!」
 そう。ここ、ノルマン王国の都であるパリでも、秋の一大祭りとして今年も収穫祭が始まろうとしていた。
 今年の収穫祭では、仮装行列が開催されるらしい。様々な姿をした者達がぞろぞろと通りを練り歩くのは、実に楽しい光景となるのだろう。更に年々膨れ上がる屋台の列がどこまで大通りに伸びるかも、パリっ子たちの間では見ものと評判らしい。臨時店として各有名店も揃って露店を出す上に、その日限りの限定品販売もあるというから、収穫祭の一月も前から人々はそれを心待ちにしているとも言う。勿論祭りと言えば歌に踊りだ。各地の名所では催し物が開催されると言うし、吟遊詩人や楽士達もこぞって腕を競い皆を大いに沸かせてくれることだろう。
「ほんと…楽しみだな」
 毎年収穫祭はあるが、今年の楽しみは、今年だけのものだ。
 そして毎年規模が拡大していくのも、この国が平和になった証でもある。
 それは、かつて…或いは今も…彼らが戦い、必死になって守り抜いたという礎があるからこそ、続いていく歴史なのだ。
 

 或いはそれを一番肌に感じているのは、彼かもしれなかった。
 高いところから見下ろす街の眺めが年々変わっていくのを、彼はよくバルコニーから見つめている。
「今年は体調も良さそうですし、時々うずうずしてるみたいですし、むしろうずうずが子供に移って子供も一緒にうずうずしてますし、つまりうずうずな日々なので」
「いや、意味はよくわかるんだが、うずうず過ぎて体が痒くなってきたんだが」
「つまりですね。こっそりお忍び計画を立ててみたんですけど、セイルさんも一緒に考えてみてもらえませんか?」
 秋らしい衣装だが彼女らしく質素で慎ましやかなドレス姿で、リーディア・カンツォーネ(ea1225)はセイル・ファースト(eb8642)に協力を要請した。
 本人はひっそりと、王宮の廊下の隅のほうでお願いしたつもりでいる。
「…まぁ、裏口はいくらでもあるしな」
 言いながらも、セイルの視界には廊下の奥の曲がり角からひっそりと彼らを見つめている騎士達が見えていたりするわけだが。 
「では、明日。お願いしますねっ」
 この国の王妃でありながらも一般人の出であり冒険者でもあったリーディアは、元冒険者仲間に対して気安い。彼女が親しみやすく思えるのは、その人柄もあるのだろう。そしてそれに対して気さくな態度で接するセイルは、敬語を使ったり改まるのが柄ではない性格だからというのもあるだろうが、孤独にもなりがちな王宮生活の中で旧友が以前と変わらぬ態度で接することで安堵感を感じてもらえるようという配慮があったからに違いない。
 国王と結婚してからも色々と別の戦いがあったであろうリーディアだが、かつての仲間達だけではなく、王宮内の騎士達、そして夫である国王自身にも助けられ支えられ、そして支えることで彼女もこの国を護ってきた。ノルマン王国の悲願、後継者を生み育てることも叶い、彼女は幸せな生活を送っている。元々体が弱く病がちだった夫、ノルマン国王ウィリアム3世の体調が気にかかることを除いては。
「いいえっ。どんなお薬や道具よりも、楽しいこと、笑顔が一番のおくすりです。しっかりお忍びして見せましょうっ」
「いちばんのおくすり〜? おくすりいらない〜」
「お父さんには必要なの。とってもとっても元気になれるお薬なのよ。だから明日はお父さんとお母さんと2人でお出かけするけど、お土産買ってくるからいい子にしていてね」
「えー。行きたい〜」
「お土産は何がいい〜?」
「おかし!」
 というわけで翌日。リーディアとウィリアムは、セイルに先導されつつ王宮を抜け出したのであった。
 勿論、こっそり抜け出せたと思っているのは国王夫妻だけで、実際はぞろぞろと周囲を護衛の騎士たちが取り囲む状況でのお忍びになっているわけなのだが…。
 

 収穫祭を楽しむ人々は、それぞれだ。
 友人、恋人、そして家族。むしろ家族。そんな人々が周囲の熱狂に揉まれながら楽しむのも一興というわけで。
「さあ、収穫祭だ! 一年に一度のお祭…家族総出で楽しむぞ!」
 祭りという言葉を骨の髄まで叩き込むように勇んでやってきたロックフェラー・シュターゼン(ea3120)は。
「おぉ! あれは何だ?! あの造形の見事さ、気になるな…。あぁ! あっちは凄いな! あそこまで強烈に破壊的な武器は見たことがないぞ!」
 見事に祭りの熱気に巻き込まれて舞い上がっていた。とは言え、乳飲み子はしっかり抱きかかえている。
「鍛造品じゃないわよ」
 ロックフェラーと同じく鍛冶師が本業の妻から突っ込みを受けても、あれの実物を造れるといいなぁと思ってしまうのは鍛冶師の性だろうか。
「よし。巨大建造物は堪能した。子供達も調子が良いようだし、屋台巡りでもしようか」
 ずらりと通りに並ぶ露店を眺めながら家族に打診し、とりあえず目に入った順に屋台を回って行く。
「あ、これ旨い。絶品だな」
「ほんと絶品だよな」
 そして気付けば、隣に知り合いが立っていた。
「ラシュディアさんも家族と来てたのか」
「せっかくの祭りだしな」
 家族ぐるみで知り合いの2人は、自然とそのまま屋台順番巡りの道を進む。
「それにしても、うちの娘を見ろよ。この輝き。只者じゃないよな」
「確かに可愛い。けどうちの娘だって負けてないよ。ちょっと儚げだが、将来親を超える立派な娘になることは間違いない」
 そしていつの間にか、娘自慢となってしまっていた。
「いやいや、この幼さにしてこの美貌は、なかな」
「そうですね〜。お父さんがとっても可愛かったですからね〜」
「な!?」
 のんびりした声に娘自慢を遮られ、むしろぎくりとしてラシュディアは振り返る。
 そこには、亀の甲羅が居た。
 いや、縦になった亀の甲羅が亀に乗っていた。
「エーディットか…。いやそこは、『お母さんがいつでもいつまでも可愛くて綺麗だから娘もとっても可愛い』だろう」
「ごちそうさまです〜♪ でも、お父さんもとっても可愛かったですよ〜。娘さんに受け継がれて良かったですね〜」
「いやいやいやいや。俺もう30代だぞ?!」
「可愛さに歳は関係ないわよ。…あ、エーディットさん。ちょっとお願いがあるんだけど…」
「ユリゼまで言うか?! っていうか、なんでこんなに人が多いのに、知り合いが同じ所に集まれるんだ!?」
「エーディットさんのペットは目立つからなぁ…」
 背中に亀の甲羅を背負ったエーディット・ブラウン(eb1460)が連れ歩いているノルマンゾウガメとコゾウガメに子供を遊ばせながら、ロックフェラーが周囲を見回し言った。いつの間にか、彼らは少し遠巻きに見物されている。
「あれ? さっきまで人混みの中に居たはずの俺たちだったのに…」
「そうね。ゾウガメさん達だけじゃなく、私の後ろに埴輪も居るしね」
 確かに、ユリゼ・ファルアート(ea3502)の後方には、大人サイズの埴輪と子供サイズの埴輪が立っていた。埴輪とは家族であるユリゼとしては、いい加減別の仮装にすれば? と思わないでもなかったが、それと同時に親子埴輪が可愛いと不覚にも思ってしまったわけなので…。
「それで…あの2人、ゾウガメさんに乗せてもらえない…?」
 そっとエーディットの甲羅に抱きつき囁くと、甲羅は振り返ってにこやかな笑みを返した。
「もちろんですよ〜。一緒に行進しましょう〜♪」
「ありがとう。…それでね、さっき姉さんに聞いてきたんだけど…」
 ノルマンゾウガメに乗る親子を微笑ましく見守ってから、ユリゼはエーディットに本題を告げる。
「姉さんたち、オペラをやるそうなの」
「オペラですか〜? 楽しそうですね〜」
「一緒に見に行かない? シャンゼリゼでやるそうだから」
「シャンゼリゼか。さっき通りかかったけど、結構混んでたな。まぁこの時期はいつでも割りと混んでるが…」
「皆で劇か! 観に行こう、相当期待できるぞ!」
「楽しみですね〜」
 そうして彼ら一行は、集団になってぞろぞろと酒場へ向かって歩き出した。
 もちろん、混み合っている酒場にゾウガメたちが入る場所があるかどうかについては、誰も言及しなかった。
 

「リーディア隊長。この櫛はどう?」
 王宮をこっそりと抜け出した(と思っている)リーディア達は、日頃お世話にもなっている明王院 月与(eb3600)と合流し、こちらものんびり屋台巡りをしていた。
「そうですね〜…。でもあの子、ちょっとまだ髪の毛が少なくて…」
「誰に似たんだろうね〜」
 子供へのお土産を考える夫妻と月与から少し離れたところにはセイルが立っている。歩いている最中も後方からついて行く形を取り、月与が主に友か侍女風に傍を歩いていた。リーディアは、お忍び時の格好である貴族夫人風の衣装を着ており、ウィリアムもそれに合わせていつもの貴族風の格好をしている。貴族には護衛が付き物だからセイルが護衛役を担っているわけだが、出来る限り邪魔はしないよう離れたところから見守っているわけである。勿論、屋台飯を食べながら。
「お菓子が欲しいって言ってたんだよね。じゃあこの金平糖とかどうかな〜?」
 そこは、ジャパンの品も取り扱う、某商会の出張店だった。一部では奥手ということで有名な婿を貰った女主人が、販路拡大を最近頑張っているらしいという噂である。
「金平糖、可愛いですよね。…ヨシュアスはどう思います?」
 お忍び名であるヨシュアスの名で呼ぶと、ウィリアムは笑って頷いた。
「変わったものもいいんじゃないかな」
「そうですね。じゃあこれと…。あ、何か欲しいものありませんか?」
 とは聞いたものの、男性向けの商品は少ないようである。ふと、暖かそうな半纏が吊るしてあるのを見つけて、リーディアはそれを手に取った。
「これは寒さも凌げそうですね。ではこれを…」
「リーディア隊長、リーディア隊長。それを、陛…ヨシュアス様の服の上から着せるの?」
「えっ…ダメ…でしょうか…やっぱり…」
「ダメ…じゃないけど、とっても合わないと思う…」
 貴族の格好の上から半纏を着せた日には、露店の陰や人混みの中に紛れているつもりの人達が一斉に出て来かねない。お忍びのつもりが返って目立つ姿になるのも困りものなので残念そうに半纏を返すリーディアを、月与は静かに見守った。とは言え、仮装している人々もちらほら見かける大通りである。時折奇抜すぎる姿の者も通り過ぎるが、あれは冒険者だろうか。それを思わず見送っていると、向こうからやって来る人物と目が合った。
「あれ…?」
 ウィリアムの体調を気遣って声を掛けていたリーディアも、その声に振り返る。
「あら? 偶然ですね。ここでお会い出来るなんて」
 会釈を返した娘は、奇抜な色合いの着物を持っていた。
「お香を少しでも焚きしめておこうかと思って…」
「お茶会でもするの? 今日じゃないなら手伝うよ〜」
「…実は、歌劇を行うことになったんです。それで」
「オペラか。楽しそうだね。久しく観てないな」
「行きましょう」
 リーディアは即答だった。勿論自分だって這ってでも行きたい気持ちではあったのだが、夫が望むなら転がりながらでも連れて行く気満載である。
 そんな光景を遠目に眺めていたセイルは軽く息を吐き、手近な所に潜んでいるつもりの騎士のところへと向かった。
 

 シャンゼリゼ。それは、パリで最も有名な酒場の名前である。有名な理由は色々あれども、やはり一番の名物と言えば。
「よく、こんな大所帯が座れる席がまとめて空いてたなぁ…」
 思わずラシュディアが感心するくらい、酒場内は混雑していた。舞台からは少し遠いようだが、見えないほどではない。ここで歌劇が行われることは知られていないらしく、人々は舞台のほうを気にしていないようだった。
「運が良かったな。…あ、アンリさん。注文してもいい?」
 たまたま通りかかった給仕嬢を呼び止めると、ロックフェラーはざっと人数を目で確認し、口を開いた。
「えーと、古ワインを…11杯お願いしま」
「ごめんなさい。もう一度おっしゃっていただけます?」
 笑顔のまま、給仕嬢はそう告げる。
「ロックさん。子供の数も入れてるから」
 ひそ、とユリゼが囁き、ロックフェラーは慌てて首を振った。
「ち、違うんだ! つい癖で! いつもの癖で人数分注文しただけで! 本当は7杯なんだ。1人1杯だけなんだ!」
 尚、古ワインは無料である。貧乏冒険者にはありがたいサービスとも言えるが、サービスだからと何度も注文すると…。その後に待ち受けるのは、超人的速度で振舞われる銀盆の世界、らしい。
「何とか助かったな…」
 その世界を見る前に別の客に呼ばれて去っていった給仕嬢の後姿を見送りつつ、ラシュディアは身震いした。銀盆の世界はロックフェラーにしか展開されないかもしれないが、あおりを食らう恐れもあったのである。
「ゾウガメさん達も入れてよかったです〜」
「まぁ、冒険者御用達酒場でもあるわけだしな…」
 冒険者とペットは最早切っても切れない関係であった。街中でも堂々と希少価値の高いペットを連れ歩く者も増えているが、さすがに大きさによっては酒場にも入れてもらえない。
 ともあれ食事なども注文し、皆は劇の開演を待った。
 一方、お忍び夫妻とその侍女と護衛の4人は、びっしりと人で埋め尽くされた1階を通り抜け、2階へと案内されていた。2階からは食事に勤しむゾウガメたちの姿も見えるが、周囲からは目撃されにくいように、案内された席の傍には衝立などが置かれている。
「あら…? セイルさんが席を用意して下さったのですか?」
「まぁ…俺の部下がな」
 ブランシュ騎士団員をこっそりと部下扱いしつつ、セイルは頷いておく。
「月与さんも一緒にどうぞ」
「ではご相伴に預かります〜」
 夫妻と同じテーブルに座り、月与も食事を一緒に取った。2階からは1階がよく見える。2階にも潜んでいるだろうが、1階にも騎士達が何人か潜んでいるようだった。
「…赤じぃじは、御子様のお世話に忙しい感じですか?」
 かつて国王のじいや役として、ブランシュ騎士団赤分隊長として、ウィリアムを幼少時より支えてきたその人ギュスターヴは、今やすっかり孫馬鹿ならぬ御子馬鹿になっているらしい…という噂である。
「そうなのかな…? 最近は余り見かけないね」
「今日のお留守番もお任せしてきました。…何もお願いしないと、お部屋の外をうろうろされていて…。お願いすると、どこか嬉しそうにされるものですから、つい…」
「子供部屋にしか行かないなら、私が見かけないわけだね」
「御子様部屋勤務になっちゃったのか〜…。らしいと言えばらしいけど…」
 どこか懐かしむような気持ちで、月与は分隊長たちの話を聞いていた。
 一方で、衝立を挟んで奥のほうの席を陣取っている人物を、セイルは眺めている。
「…何やってるんだ」
 元分隊長現王妃護衛騎士の任に就いているその女性は、セイルも見慣れた光景の中、肉を頬張っていた。
「肉を食べています」
「見れば分かる」
「護衛役を仰せつかっておりますので」
「その割には遠いな」
「この肉の護衛を」
 むしろ、テーブルの脇に置いてある生肉らしき物体のほうが問題だった。
「いや、何持ち込んでるんだ」
「お肉友の会で頂いたお肉を皆さんにお裾分けしようかと…」
「ほう…」
「後、先ほど某筋から頂いたアデラ茶なるものも皆さんに」
「それはやめとけ」
 平和ボケか? と突っ込みたくなるような発言だったが、それを口にすることはしない。
 平和で結構。ボケもノロケも大いに結構だ。それは平和の証なのだから。勿論、最近むやみに惚気るラシュディアは一度軽くしめとこうと思ってはいるが、この平和は自分達が勝ち取ったものだ。奪い取ろうとする者が現れればいつだって戦う気でいるが、そんな日は来ないほうが良いに決まっている。
「あぁ…始まったみたいだな」
 そうしている間に、1階から流れる音と声を聞き取り、セイルは再び1階がよく見える場所へと歩いて行った。
 

「こうして、皆が集まって作り上げたひとつの思いによって魔王の束縛から解かれた娘は、皆と一緒に過ごすことが出来ました。めでたしめでたし〜」
 語り手の吟遊詩人によって終幕を迎えた歌劇は、事のほか盛況だった。1階は演者たちに声を掛ける者達で溢れ、ゾウガメ御一行が歌劇の主役達に話しかける隙間さえない。
「仕方ない…。また今度感想を言うか」
「楽しい劇で良かったのです〜」
「子供が拉致されかけたときは、どうなることかと」
「本当に楽しそうだったわよね。あのお子さん」
 口々に感想を話していると、2階から降りてきた人々が近付いてくるのが見えた。
「ヨシュアス様と、リーディア隊長だよ〜」
 それへとひらひらと手を振り、最初に月与がやって来る。
「寛いでる所を悪いね」
「皆さん、お久しぶりです…っ。あぁ…っ。可愛らしいお子さん達ですね」
 すぐさまその場に居る子供に抱きつきたい衝動に駆られつつ、リーディアはそれをぐっと我慢した。
「だろう!? うちの子の輝きは、太陽にも負けないくらい眩しいからな!」
「眩しすぎて目が潰れるな。あ、そうか。お前の目の老化も最近激しいからな」
「お前も来てたのか、セイル!」
「うちの子も、みんなの所ほどじゃないけど、そこそこ可愛いとは思うのよ」
「うん、ユリゼさんのお子さんも可愛いよね。でもうちの子の可愛さはこう、一味違うっていうか」
「どのお子さんも、可愛いのですよ〜♪」
 可愛い可愛いの応酬になっているのを見ながら、やっぱりもう1人欲しくなってきたなぁと思っていたリーディアの腕を、がしっと月与が握る。
「みんなの子供も可愛いけど、一番はリーディア隊長の御子様だよ!」
「いいいえいえ、私の子供も可愛いですけれども、でもそれぞれに皆さん可愛いと思うものですし、一番とかそんな」
「親は皆、親馬鹿だよね」
 楽しそうにウィリアムが笑ったのを見て、リーディアも笑みが零れた。
「そうですよね。では私も、私達の子供が一番ですっ、と…こっそり宣言します」
「は〜い。あたいも宣言するよ〜」
「ありがとうございます。…これからも、何かとお世話になると思うので…宜しくお願いしますね」
「もちろんだよ! 任せて!」
「皆さん幸せそうで何よりなのです〜」
 にこにこと皆を見守っていたエーディットだったが、さりげなくラシュディアの背中にリボンを飾ることは忘れなかった。ついでに大人埴輪の背中にも結んでおいたが、それはいつの間にか頭に移動している。
「女の子埴輪…」
「家に帰ったら縫い付けておこうか」
「男の子と女の子の埴輪が居るのですね〜。ステキなのです〜」
「大事に保管しておくよ」
 いそいそと埴輪着ぐるみを脱ぐ夫を眺めていると、いつの間にか周囲は踊りの場と変わっていた。吟遊詩人や楽士達の奏でる音に合わせて人々が踊り始めている。既に食事時は過ぎ、客も大分減ったようだった。
 まだ『可愛い談義』をしている皆へと視線を移すと、不意に手を取られる。
「え…? 踊るの?」
「いいじゃないか。祭りなんだし」
「そうね…。じゃあ少しだけ」
 愛しい人々が奏で歌う音に合わせて、ユリゼはゆっくりと踊り始めようとして。
「あぁ…そうね。少し待って」
 自分の荷物の中から赤色の造花を取り出した。聖なる夜の頃にだけ咲く花を模した造花だ。
 まだ少し早いけれどと呟いて、彼女は巻物を広げる。そこに書かれた文字を読むと、幻想が浮き上がって酒場の天井へと広がった。それは、赤い花びらが舞い降りる光景。くるくると廻る人々の間に降りてくる姿はまるで、色は違えど雪のようだ。
「お…これはファンタズムか…?」
「結婚式の演出みたいだね〜」
「さ、みんなも踊りましょ? 踊ればもっと楽しいわよ、きっと」
 ユリゼの誘いに、『踊りなんて無縁です』を地で行く者の顔は強張ったが、その後も皆はそれぞれに酒場の雰囲気を楽しんだのだった。
 

 夕焼けが空を美しく染める頃、その人はパリを後にしようとしていた。
「よぅ、お前さんもこの街を出るのかい?」
 道端に落ちている石に足を置くというポーズを取りながら、その後姿へと男が声を掛ける。
「この祭りの賑やかな時に出て行くなんてよっぽどの事があったんだろうな。いや分かるよ。俺もそうなんだ」
「…」
「良かったら話を聞かせてくれないか? こう見えて名うてのレンジャーである俺なんだ。何でもぱぱっと解決しよう」
「…」
「あぁ、警戒しなくても大丈夫。俺の名はポール。こう見えて冒」
「リーディア隊長ー! 見つけたよ〜!」
 2人の世界を一方的に形成していたポールだったが、唐突にまさしく体ごと割って入った月与に、慌ててとび退る。いや、跳び退ろうとしたのは、ポールに話しかけられていた相手も同じだった。
「あ、逃げる!」
「陛下。魔法を使用しても宜しいでしょうか?」
「許可する」
 次の瞬間、暴風が相手に襲い掛かる。転倒させることが目的だが、抵抗されては効果はない。
「…超越で唱えるべきだったか」
「私が行くわ。ミストフィールド!」
 ユリゼが球状になった霧を投げつけるが、射程が短くて届かなかった。
「私も投げますね〜」
 エーディットも同じく達人ランクで飛ばしたが、一目散に逃げていく相手にはやはり届かない。
「よし。こうなりゃあ燃やそう」
「ライトニングサンダーボルトでいいな。1キロ先まで届くしな」
「じゃあそれで」
 不穏な相談をしていると、遠くのほうでセイルがタックルしているのが見えた。一応誰も舌打ちはしなかった。
「はぁ…はぁ…もう…どうして逃げるん…ですか…」
 地面に突っ伏している相手にようやくリーディアが追いつき、声を掛ける。
「そうだよ。陛下も会いたがっておられるのに」
「ステキなドレスですね〜。レースでもっと飾ったほうがステキですよ〜」
 そこへのそのそとゾウガメに乗ってやって来たエーディットが、ドレスにひらひらレースを付け始めた。
「観念して挨拶でもしたらどうだ?」
 セイルにも言われ、その人物はようやく起き上がる。そこに、ウィリアムが乗った馬車が到着した。
「フランから聞いたよ。オペラも鑑賞していたそうだね。その仮装は…いつもながらに見事だけれど、どうして逃げたのかな」
「申し訳ございません…」
 仮装と言われてしまった女装姿のその人は、うな垂れている。既に中年の域に達しているにも関わらず、若い娘が着るようなドレスを着ていた。そのような格好をしていたのでは、主人の前から裸足で逃げてもおかしくない。
「フラン様との賭けに負けたんだって」
 ひそと月与がリーディアに耳打ちした。
「これは罰が必要だな。…久しぶりにパリに帰って来たんだ。皆と場を設けたらどうかな。…その格好で」
「ウィル。もう少し大人しめの格好のほうが良いと思うのです…」
「妃がそう言うなら仕方ない。淑女の格好で飲み交わす事を許可する」
「…恐れ入ります…」
「…フェリクス様…頑張って…」
「じゃあ、呑みなおしだな!」
 そうして女装騎士は皆に囲まれパリの中心へと戻って行く。
 長閑な光景を見守りながら、ふとエーディットは気付いて振り返った。
「ポールさんは、今も変わらないのですね〜」
「うるさい! 女装した男と女の区別がつかなくて悪かったな!」
 いつもと変わらない、いつもと同じような、穏やかな時間。優しい日々。
 そんな日々がいつまでも続きますように。そう誰かが祈らなくても、きっと続いていくのだろう。
 たとえ、それぞれの未来が違う道であったとしても。
 
 
 このノルマンの空の下で、皆が笑いあってさえいれば。
 
 
 
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

ea3502/ユリゼ・ファルアート/女/30歳/ウィザード(薬草師)
ea1225/リーディア・カンツォーネ/女/26歳/クレリック(ノルマン王国王妃)
ea3120/ロックフェラー・シュターゼン/男/40歳/レンジャー(鍛冶屋)
ea4107/ラシュディア・バルトン/男/31歳/ウィザード(プロスト辺境伯付き魔導師)
eb1460/エーディット・ブラウン/女/28歳/ウィザード(学者)
eb3600/明王院 月与/女/27歳/ファイター(お菓子作り職人)
eb8642/セイル・ファースト/男/29歳/ナイト(傭兵)

ez0012/ウィリアム・3世/男/30歳/ノルマン王国国王
ez0037/アンリ・マルヌ/女/29歳/ウエイトレス
ez0201/イヴェット・オッフェンバーク/女/41歳/正妃付護衛騎士
ez1115/フィルマン・クレティエ/男/39歳/元ナイト
 − /ポール/男/30代/レンジャー


【その他NPC登場人物】
ギュスターヴ・オーレリー/男/ブランシュ騎士団赤分隊長
フェリクス・フォーレ/男/ブランシュ騎士団緑分隊長
フラン・ローヴル/男/ブランシュ騎士団灰分隊長



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご発注頂きましてありがとうございます。呉羽でございます。
長い時を経て再びこの世界を紡がせて頂きまして、ありがとうございました。
また、お待たせして申し訳ございません。
お互いの呼称や話し方が間違っておりましたらリテイク下さいませ。

こちらは『お客側編』となります。
同時発注頂きました『お店側編』と同じ時、同じ場所を描いておりますが、こちら側ではオペラ内容は分からないようになっています。
是非、併せてご覧下さいませ。

これでAFOの世界を書かせて頂くのも最後かと思うと感慨深く、担当外のNPCやネタも少し書かせて頂きました。
ノベル内では名前が出ていないNPCもおりますが、一通り登場人物一覧に記載しております。
少し大ホール風な内容になっている気がしますが、雰囲気としてお読みいただければ幸いです。

今回で皆さんを書かせて頂くのは最後となりますが、最後の機会を頂けましたこと、本当に嬉しく思っております。
世界を超えて続いていくPCさんもいらっしゃると思いますが、AFOの世界でも次の世界でも皆様が楽しく幸せな日々を送ることが出来るようにと祈っております。

ゴーストタウンのノベル -
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Asura Fantasy Online
2016年01月08日

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