▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『アスの一番長い日(上) 』
アンドレアス・ラーセン(ga6523)&クラウディア・マリウス(ga6559)&不知火真琴(ga7201)&神撫(gb0167)



18 YEARS AGO
Lubyanka
Moscow/Russia

 着慣れない詰襟の位置を人差し指でくるりとなぞる。先ほどから、「緊張と不安」を表情に出す演技を続けている男は、部屋の主が現れるのを待ち構えていた。長靴の踵を床に打って、楽な足の位置を探る。
「待たせたね、同志ルバノフ。いや、ロベルト・サンティーニさん?」
 無造作に入ってきた士官は、「楽にして」と言いつつ、デスクに腰掛ける。男は続けていた敬礼を降ろして、手を後ろで組んだ。士官の背後の鏡にちらりと目を遣って、演技を続けられていることを確認する。
「私の名前は知ってるね? 同志ロベルト」
「はっ、ベレフキン閣下」
「そんなに畏まらなくていい」
 わざわざ偽名を呼ぶ嫌味な上官の名前は当然知っている。だが、問題はそこではない。内務省に出向いているはずの上官が何故ここにいて、何で呼び出されたのか、男は演技とは別の緊張を解かず、些細な言葉のニュアンスも聞き逃すまいとしていた。
「私は君の仕事に興味があってね」
 そう言って、デスクの上の紙束を数枚捲る。恐らく自分の事が書いてあるんだろうと男は確信する。身内に探られるのは、やはり気分が悪い。
「先進戦闘システム計画、という名前を聞いたことがあるかね?」
 名前とあらましは知っている。実弾を弾く宇宙人と戦争をするための新しい兵器と、専門に訓練された兵士を用意する計画だ。
「尤も、我が国は実証実験も出来てないような状況で、西側に遅れを取っているがね……」
 男が何か答える前に、上官は勝手に喋り続ける。そもそも、内務省に居るこの上官に、新兵器の開発計画などさほど関係は無かろう。男は緊張を解かず、頭を回転させる。この上官の目的は何か。
「君の『資産』に、クルメタルの役員がいるが、当たりを付けることは可能かね?」
 妙な事を言い出した、と男は思う。産業スパイをお求めなら、自分ではなくもっと適任がいる。
「お言葉ですが閣下、私の『資産』は財務担当で、技術とは無縁ですが……」
「うん、それでいいんだ」
 そう云って、上官が笑顔を作る。取ってつけた笑顔は気味が悪いが、男はやや安堵していた。
 要するに、この上官は国外に金庫が欲しいのだ。
 さもしい奴だ、と思う。
 さもしい奴だが、自分の仕事の邪魔にならないなら、隠し金庫の手配くらいしてやらんでもない。こんな小物は好きにすればいいが、上官に恩を売っておくのは悪く無い。



2016/04/04 19:13
Domodedovo Airport/Moscow
Russia

 スタジオを出てタクシーに乗り込んでから、真琴の素人目にもあからさまな程に、一台の黒いバンが付いてきていた。
 タクシーの座席からそれとなく後ろを窺って、気を使うでもなく、これ見よがしに後ろにつけるバンに、真琴は幾度か「考えすぎである」と結論付けようとした。が、バンは空港に入ると、タクシーに付いてロータリーに入り、タクシーのすぐ後ろに停まり、真琴がタクシーを降りるのに合わせるように、飛行機に乗るには軽装な、人相の良くない男らが降りてきて、真琴は確信を深めた。
 出発ロビーを、気が付いていない風を装って、真琴は歩く。
 恐らくは、お互いに気がついていることを前提で、あの人相の悪い男共も付いてきているんだろうが、真琴も気がついているのを隠さず行動するのは、思う壺のようで気が引けた。
 出発時刻と行き先が並んだ掲示板を、少しだけ首を持ち上げて眺めつつ、携帯を取り出す。
 恐らくは、あのプロデューサーの元に質の悪い連中が居て、そんな連中が手引きしてずっと監視されていたのだろう。スタジオ入りする前から見られていたのだ。きっとプロデューサーは知らないことだろう。
 だが、今となっては経緯などどうでも良くて、真琴はこれからどうすべきかに思考を集中した。
 チケットカウンターを探す素振りでそれとなく様子を伺うと、男共は相変わらず、二十メートルと離れていない距離で、これ見よがしにこちらを観察している。
 手にしたままの携帯の待ち受け画面を見て、少し逡巡した。流石に「尾行されている」と電話口に報告することを許してはくれないだろう。
 どうすべきか――。
 僅か二呼吸ほど、出発案内板を見上げて考えている間に、真琴がの視界に違和感が生まれた。
「……え?」
 驚きが小さく声になる。
 案内板の表示は出発時刻が全て消え、天候不良のため運休と表示が変わっていた。無論、真琴が乗る予定であった便にも例外はない。
 今日は一日晴れていたのにどういうことだろう。真琴が不審を感じる間に、出発ロビーにざわめきが広がる。運休を告げるアナウンスは無い。
 案内板から視線を切って、周囲を見回す真琴は、他の客のように動揺して見えたろうか。例の男達と目が合う。
 それが切欠のように、男達が近づいて来て、真琴は男とは反対の方向に歩き出した。不自然な動きだと自分でも思うが、今更だろう。肩越しに気配と足音が近づく。ポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押す。耳に当てずそのままポケットに戻したところで、気配が真琴の前に回り込んだ。顔を上げて、人相の悪い男と目が合う。咄嗟に右足を僅かに引こうとして、機先を制された。
「妙な真似するなよ。ここで戦闘でもないだろう?」
 動きを止める。
「さっきの携帯、渡してもらおうか」
 言われるまま、ポケットから取り出す。電話口に誰かの声が聞こえた気がしたが、それが誰かは聞き取れなかった。狙った通りに繋がっていれば、と思う。
 差し出した携帯を取り上げると、男達は真琴を取り囲むように歩き始めた。
 恐らく、何か事態が大きく動いたのだろう。その代わり、全ての出発便と真琴の動きは封殺されたのだ。
 何が起きたのか、まだわからないが、考える時間だけならたっぷりあるだろう。



2016/04/04 19:21
Somewhere room/SIS Headquarters
Vauxhall/England

 真琴からの妙な電話の話を聴いた神撫は、アスの姿を探して歩き回っていた。
 電話が鳴ってすぐ出たものの、一言も喋らない。そのうち電話は切れて、今度は掛け直しても繋がらないらしい。状況が状況であるし、真琴はよりにもよってロシア入りしていると言うし、何よりもう一つ、事態が大きく動くニュースがあった。
 何人かは真琴の状況を把握するために動き、神撫はと云えば、ここに戻って以来見ていないアスを探している。当事者たるアスに、報告しない訳にはいかない。
 幾つか心当たりを回った後、ベンチと自販機のある部屋の隅で、空き缶を灰皿代わりにしているのを見つけた。
 数年ぶりに見るアスは、変わっていないと神撫は思った。灰が長く伸びるのにも気づかず、片手で顔を覆うようにして何かを考え込んでいる。何度か見ている、一人で考え込んでいるときの表情。
「こんなとこに居たんだ」
 深刻にならないように声を作る。煙草に火を点けるチャンスをようやく見つけた風を装って、一本銜える。
 アスは返事にならない返事を口にして、表情を変えない。
「真琴さんから連絡あった」
 神撫は、彼をちらっと目の端で見たっきりボールを返さないアスに、話を続けることにした。
「仕事でロシアに居るのは知ってるだろ?」
 言ってから、吸い込んだ煙を吐き出し、アスの持つ灰皿代わりの缶に吸いさしを差し出す。アスの表情を窺えるくらいの距離には、自然に近づけたと思う。
「電話あったんだけど何も喋らないし、掛け直したらもう繋がらない」
 アスの表情がぴくりと動く。手が顔から離れて、ようやく神撫の顔を見た。
「今、何があったのか調べて――」
 言い掛けて、アスに手で制された。さっきまで何を考えていたのかは知らないが、水を向けた成果はあったらしい。
「ちくしょう……そういうことかよ」
 アスが呟く。まだ続きがありそうだと踏んで、神撫は一息、右手のメンソールを吸い込んだ。
「神撫」
「何かお手伝いできますか?」
 わざとおどけて見せる。
「俺のとこにも電話があった」
「誰から?」
「敵」
「敵?」
「わざわざうちの番号から掛けて来やがった」
 神撫は一瞬息を呑んだ。それはおおごとではないのか。
「いや、うちには誰もいない、ブラフだ」
 アスは神撫の驚きを察したのか、付け加えた。出掛けていて無事なのも確認したが、身元を調べ自宅から電話してみせることも出来るという警告だと、アスは言う。
「神撫」
「ん」
「ロシアへ行く」
 言うと、アスは灰皿の空き缶を神撫に預けると、幾つか指示らしき言葉を残して、どこかに出ていった。
 なるほど、付いて来いということか。
 戦後の数年で、アスは変わったように見える。神撫の記憶では、当時は一人で抱え込む、バカの付く青臭い奴だった筈だ。荷物を預けるに足る人物が周囲に居ると気付くのは、良い傾向だ。少し遅すぎた感もあるが。
 そういうことなら、戦友のために一肌脱いでやろうと神撫は思う。
 さっさと終わらせて、二年寝かせておいたプロポーズの言葉を引っ張りだそう。今半年ぶりに煙草に火を点けたことは、素直に話して謝ろう。



2016/04/04 19:38
Mstsislaw
Belarus - Russia Border

 暗視ゴーグルの奥で、国境を抜けるハイウェイ上の炎が、幾つも緑色にゆらゆら揺れている。
 燃えているのは、恐らくハイウェイを走っていた車だろう。彼の部隊がここに到着した十分前には、もうこの有様だった。
 そのハイウェイからは履帯の音が幾つも聞こえて、それから時折戦車砲の発砲音。友軍の戦闘車両は市内に展開するので精一杯だった筈で、聞こえるのは全てロシア側のものだろう。どうやら動くもの全てを撃っているらしいのが、胸糞悪い。
 やがて、暗視ゴーグルの奥の車両がわらわらと散開するように動き始めた。間を置かず東からローター音が幾つも近づく。無線を聴くに、味方のヘリだろう。航空灯の群れが上空に近づく。
 丁度真上を見上げた頃に、航空灯から閃光が放たれ、ハイウェイへと向かう。行き先を目で追うと、ハイウェイの車両に当たり、爆発を引き起こした。
 それから、航空灯の群れも散開して、地上とトレーサーの光の応酬が始まる。
 いかにも非力だ、と兵士は思う。
 今はいい。地上部隊を相手にしているだけだ。ヘリのほうが圧倒的に有利だろう。
 だがハイウェイの戦車の車列はどこまで続いている?
 航空支援はいつ到着する?
 友軍はどこまで展開している?
 僅か四機程度の攻撃ヘリで、いつまで足止め出来る?
 考えれば考えるほど、勝てる要素は何も見つからない。
 思考の奥で、肌にチリチリと違和感を感じて、それがジェットエンジンが空気を切り裂く音だと気がついて、兵士は暗澹とした。もう上空の航空灯の群れは散っている。
 ローター音が爆発音に変わるのを聞きながら、兵士はハイウェイに視線を戻した。
 暗視ゴーグルを調整して、戦車の車列をズームする。健在の車両は、既に列を形成しつつあった。視線を左にゆっくり振って、戦車を追っていく。
 今日二度目の違和感を、兵士は感じて、通り過ぎそうになった視線を止めた。
 戦車と目が合った気がした。
 目が合った気がしたのは、砲口がこちらを向いているからと気がついて、兵士は恐怖に何か声を上げようとして、それは喉から出て来なかった。
 ゴーグルの中心に収めた砲口が一際明るく輝いて、兵士の意識はそこで途切れた。



2016/04/04 20:05
Somewhere room/SIS Headquarters
Vauxhall/England

 医務室で手当を受けたあと、クラウは少し休むように言われ、程なく回復した頃には、皆の姿は見えなくなっていた。
 ニュースが、国境を超えた部隊が戦闘を始めたと盛んに伝えていて、誰もいないのはこのせいかとクラウは思った。右頬に貼った絆創膏に、何となく手で触れる。
 テレビはどこから撮ったのか、戦闘が行われている市街地の映像を流していた。ナレーターが、治安維持を目的として出動した上で頑強な抵抗があったとするロシア側の主張を繰り返し伝える。
 小さく溜息をついた。
 絆創膏を指先で触れる。
 この絆創膏の下が、能力者と一般人の違いだ。クラウは病院に搬送されることもなく、今やこの絆創膏一枚だけが負傷の事実を伝えている。
 これが原因で、終わったはずの戦争がまた始まったんだと、クラウは思う。
 確かに一般人とは違うのかも知れない。けれど、クラウが仕事で接してきた人々と、クラウの周りの友人達は、何も変わらない。
 何も変わらないのに、差別の対象とされ、戦争まで起こり、傷つき斃れる人がいるのは、クラウは許せないし酷く寂しい。
 寂しいと云えば、居なくなった皆だ。
 アスの考えていることはクラウにはよくわかる。余計なことに巻き込んで申し訳ない、あとはこっちでやるから、もう忘れて帰っていいと、言葉にするならこんなところだろう。
 アスお兄ちゃんの言いそうなことだ、と思う。
 誰もいないということは、他の皆はアスと一緒にどこかへ向かったのだろう。
 着いて行っても役に立たない自覚はあるが、それでも寂しいし、少し腹立たしい。
「クラウちゃ――さん」
 呼ばれて振り向くと、アニーが立っていた。
「クラウちゃん」
 何を勘違いしたのかもう一度アニーが言い直して、クラウはさっきの寂しくて腹立たしいのがそんなに顔に出ていたかと、少し無理やりに笑顔を作った。
「ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」
 アニーがそう真剣な様子で言うので、クラウは崩した表情を引き締めた。



15 YEARS AGO
Lubyanka
Moscow/Russia

「君の『資産』は、実によく働いてくれるよ。資本主義に毒された人間は、金には忠実なところが美徳だな」
「はっ、左様で」
 機嫌よく喋る上官に追従をする。「金には忠実」とは何の冗談かと思う。自己紹介だろうか。
「そうだ同志ロベルト、君には知っておく権利があるので、伝えておこう。先進戦闘システム計画についてだ」
「はっ……しかし閣下、私は計画には携わっておりません」
 左足の踵を少し動かして、居心地の悪さを誤魔化す。なるべくなら余計な事は聞きたくなかったし、普通なら余計な事は喋りたくないと考えそうなものだが、この上官はそうでもないらしい。
 或いは、話すことで自分を巻き込もうとしているか。だとしたら厄介だ。『資産』はもう上官に譲ってしまって、切る方策を探るべきかも知れない。
「まぁ黙って聞き給え。『資産』の提供者である以上、君は出資したも同然だ。聞かねばならない」
「……はっ」
 舌打ちが口を突いて出そうになって、慌てて引っ込める。
「どうも、兵士の開発は上手く行ってなくてね。体の基幹を作り変えているが、なかなか上手くいかない。航空機の形で無くなるということは、高G機動どころの話ではないらしくてね」
 当たり前だろう。戦闘機が地上車両にもなるなど夢物語だ。素直に空港の滑走路の上でキャタピラを出せばいいものを、上空で変形した上ミグと同じ運動性能を求めるなど、間の抜けた話だ。基幹を作り変えるとはどんな訓練を課しているのか知らんが、シベリアで不眠不休で一週間の行軍に耐えたところで無茶なことだ。
 しかし、夢物語だからこそ、『資産』が金庫として機能するのだろう。ならば、この計画はおいしいという事だ。止めるはずもない。
 ならば尚更だろう。『資産』から手を引く手段を考えなければならない。
 頓挫した計画と一緒に、詰め腹を切らされるのは御免だ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 --------------------------------------------------------------
 CONCERNED LIST(CLASSIFIED)
 --------------------------------------------------------------
 NAME          SEX  AGE ID   JOB
 --------------------------------------------------------------
 アンドレアス・ラーセン MALE  28 ga6523 エレクトロリンカー
 クラウディア・マリウス FEMALE 17 ga6559 エレクトロリンカー
 不知火真琴       FEMALE 24 ga7201 グラップラー
 神撫          MALE  27 gb0167 エースアサルト
 セルゲイ・ベレフキン  MALE  -- NPC--- NO DATA
 ロベルト・サンティーニ MALE  -- NPC--- NO DATA
 アニー・シリング    FEMALE 26 gz0157 イギリス陸軍中尉
 --------------------------------------------------------------
ゴーストタウンのノベル -
あいざわ司 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2016年01月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.