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『Canopus 』
セラフィナaa0032hero001)&真壁 久朗aa0032

「結構見えるな」
 セラフィナ(aa0032hero001)の隣で、真壁 久朗(aa0032)が呟いた。
「都会ですと見え難いですけど、ここは見易いですね」
 セラフィナが見つめる先には、流星群。
 お正月の風物詩とも言える、しぶんぎ座流星群だ。
 大体1月3日〜5日頃姿を見せると言われるこの流星群、今年は1月4日、5日の夜中が見易いという話を聞き、2人はこの丘の上で天体観測をしていた。
 夜中だけあり、寒さ対策はしっかりしているものの、話す度に白い息がほうっと出て行く。
 数時間がピークと言われる流星群は三大流星群のひとつということで、それに違わぬ美しさがある。
「今、クロさんと見ている星はここからどの位の場所にあるんでしょう」
「かなり離れてるだろうな。何光年かは知らないが」
 セラフィナが流星群を指し示して問うと、久朗はセラフィナが指し示す先を見る。
 星の光は今現在の光ではなく、何年も旅した光であるという。
 光の速さを以ってしても年単位の距離がある星は、人の身で辿り着くことは出来ないだろう。
 今この瞬間に星が輝いているとするならば、その光が届く頃───
「クロさん、今日輝いた星がここに来る頃、僕達はどうしているでしょうか」
「セラフィナ?」
 セラフィナは久朗がこちらへ顔を向けたのを感じながら、話を零し出す。
「以前の世界では、不老不死であったような気がします。何百年も……もしかしたら、あの星達よりも永く生きて、何か大事な使命を与えられていた気がしますが、今は憶えていません。ただ……」
 時に取り残されたことだけは確かだと思います。
 セラフィナが続けた言葉に、久朗は眉を顰める。
 意味を図りかねたのか、どれ程の重みなのか判断つきかねているのか、或いは両方か。
 けれど、聞き出すのではなく、言葉を待つ久朗は不器用かもしれないが、無神経に踏み込んでこない優しさがある。
「周囲の友人達は子供から大人になり、やがて恋をし、生涯を共にする伴侶を見つけ……子を産み、家族を作り……やがて、老いを重ねて逝く……その時、僕の姿は彼らと出会ったまま……何も変わっていません。そうして、何人もの友人達を見送ったのだけは確かです」
 久朗は、取り残される意味を正確に理解した。
 人は生きていれば、時の流れをその身に重ねる。
 だから、久しく会っていない者に会えば、その日の自分達を蘇らせ、懐かしさを見るのだろう。
 セラフィナには、それがなかった。
 久しく会えば、変わらない自分と変わった友人達を見、変わらないという残酷な現実を目の当たりにする。
 友人達はセラフィナのその思いをどこまで察していたのか、理解したのかは久朗には分からないが、彼らがセラフィナを置いて逝った事実に変わりはない。彼らは、自然の理のまま生きたのだろうから。
 変わらないこと。
 死なないこと。
 それを奇跡と言う者がいれば、その者は時を超えて生きるという意味を正確に理解していない者だ。
 誰かの大切な人になっても、全く成長しないセラフィナは何も変わらず、けれど、相手は時を重ねて、やがてセラフィナを置いて逝く。
 その日々が優しければ優しい程、セラフィナは深い孤独を感じる。
 この世界に降り立つ時、英雄は多くの記憶を失っているという。
 実際、セラフィナは不老不死であったのは何か大事な使命を与えられていた気がするとは言ったが、それについては憶えていない。
 だが、時に取り残される深い孤独を憶えていたというなら、それは本人の根幹───ということまで、久朗は明確に思った訳ではないが、セラフィナの見てきたものが簡単なものではないことは感じ取った。
「こういう言い方も変ですけど、殺されたこともあったと思います」
 セラフィナは言葉とは裏腹の口調と表情で語る。
 何か大事な使命を与えられていたならば、それは暗殺と呼ぶものだったかもしれない。不老不死の身を不憫に思った誰かが試みたことかもしれない。真実は分からない。
「……死ななかったんだな」
 久朗が問う形だが確信を得ているように尋ねると、セラフィナは小さく頷き、「僕しぶとかったみたいで」と明るく笑う。
 明るくはない話だ、セラフィナは自分を気遣っているのだろう。
 その笑みに在りし日の幼馴染が重なるが、今ここにいるのは『セラフィナ』である。
 解っているから、たまに判っていないことが後ろめたい。
「友人達は独りじゃないと言ってくれたと思いますが、僕は耐えられそうになくて……ただ、静かに眠りたいと海に身を投げたと思います。そこなら、死ななくとも、誰も僕に出会うことはありませんから」

 出会いさえしなければ。
 誰にも知られなければ。
 生きていても、生きていない。
 生きているとは心臓を動かしているという意味ではない。
 繋がりを絶ち、別れることも同じだ。

 その深い絶望は光も射さない昏い海底がよく似合う。

「誰かに僕のことを覚えていてほしい……でも、上手なお別れが出来なかったら……」
 別れのない出会いなどなかった。
 時を重ねることが許された彼らへ込めた敬意は、同時に上手な別れの為。
 置いて逝く彼らが心配していないとは思っていないから、せめて上手に別れられるよう一歩引いて。
「でも、何にもない海底に降り立ったら、小さな光が見えたんです。陽の光も届かない海底である筈なのに、星みたいに輝いてました」
 そこから、久朗の助けを求める声が聞こえてきた。
 セラフィナがその声に重なるものを感じ、近寄ると、光は目も開けていられない程に輝きを増し───セラフィナは光の奔流に放り込まれ、この世界に降り立ったのだ。
 目の前には久朗がおり、声を発していないのに、声の主だとセラフィナは直感したのを覚えている。
「僕は英雄になれて、本当に良かった。その相手が、クロさんであったことも」
 久朗は、そのセラフィナへかける言葉が見つからない。
 その姿を重ね合わせた感情を抱き、後ろめたさを感じているから。
 けれど、セラフィナは明るく笑う。
「クロさん、流星群終わりそうです。そろそろ帰りましょう」
「……そうだな」
 久朗はセラフィナに頷き、帰り支度を整える。

「セラフィナ、カノープスって知っているか?」
 丘を降りる最中、久朗がセラフィナへそう問いかけてきた。
 セラフィナが久朗へ顔を向けると、久朗もこちらへ顔を向ける。
「この時間には、ここで見られない星……シリウスに次いで明るい星」
 朴念仁呼び声高い久朗は、そこで話をひとつ零した。
「日本じゃ見つけるのが難しい……というのを、聞いたことがある」
 久朗は両親を早くに亡くし、家族で食事した記憶がない。
 冷たくあしらう親戚の家の隅で孤独に食事をした記憶がある。
 本で見たカノープスは、南半球では容易に見られるが、日本では見るのが難しい。
 それを最初に見た時に感じたことは忘れてしまったが、今思うのは、一緒に食事をしてくれるセラフィナは自分を見つけたということだ。
 その『セラフィナ』へ、これは言っておきたかった。
「セラフィナは今日輝いた星の光がここへ来る時のことを言っていたが、その時俺は事故や病気で死んでいるかもしれない。任務中、戦いで命を落とすかもしれない。明日のことだって解らないなら、そうだろう」
 でも、と言葉が続く。
「もし、俺が死んだら、英雄であるお前も無事ではない。……そうだよな?」
「そうですね。僕はこの世界にい続けられなくなります。その後は、僕にもよく分かりません」
「それなら、お前は今、他の奴と何の違いもなく生きているのと、変わらないと思う」
 セラフィナの天の川を流し込んだような緑の瞳が僅かに見開かれる。
 不老不死として、殺しても死ななかったと話したこの身の生を、そんな風に肯定してくれるなんて。
 ああ、だから、見つけられたんだとセラフィナは気づいた。
 久朗に気づいたのは、久朗が気づいてくれたから。
「同じ時間を生きていくんだ。友達も沢山作っていいんだぞ」
 久朗の言葉に、セラフィナは破顔した。
 決して器用ではない。恋愛や機微に聡いとは言えない朴念仁で、空気も時たま読めない。
 けれど、それが『久朗』なのだろう。
「クロさん、今度は……『皆』でカノープスを見に行きましょう」
「……そうだな」
 セラフィナが提案すれば、久朗は僅かに口元を綻ばせる。

 もうじき夜明け。
 カノープスは見えない。
 けれど、彼らは互いに気づき、そして、補い合って歩いていく。
 その関係は一言で表せるものではないが、言葉で表せる関係が全てではないのだ。

「クロさん、家に帰ったら、ホットケーキ食べたいです」
「卵、買い置きあったか?」
「それなら、お店に寄ってから帰らないとダメですね」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【セラフィナ(aa0032hero001)  / ? / 14 / 英雄(バトルメディック)】
【真壁 久朗(aa0032)  / 男 / 24 / 能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度はご発注いただき、ありがとうございます。
天体観測をしながら、セラフィナさんの踏み込んだ話ということでしたので、少しズレてしまいましたが、この時期に見られる流星群を見、そこから話に繋げる形を取らせていただきました。
冬の空の主役にはシリウスが有名ですが、最も輝くシリウス以上にカノープスが2番手という意味ではない意味で彼ららしいと判断して話に絡ませました。
もうひとつ、カノープスを選んだのは南極老人星とされていることより。
この日輝いた星の光の到着を彼らが共に迎えられることを願っております。
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2016年01月12日

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