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『交錯する想いと願い 』
宿輪 遥aa2214hero001)&蛇塚 悠理aa1708)&蛇塚 連理aa1708hero001)&宿輪 永aa2214

 ざわざわと人波が流れる。どこからともなく流れてくる音楽は、日本人なら誰もが1度は聞いたことのある和楽器の演奏。見渡せば、人々の表情もどこか浮き足立っているように見える。
 一年の計は元旦にあり、なんて言葉があるが、考えることは皆同じであるようで。
「わー、人いっぱいいる」
 きょろきょろと周りを見渡している蛇塚 連理(aa1708hero001)に、蛇塚 悠理(aa1708)はほっと胸をなでおろした。どうやら嫌がってはいないらしい。
「何か欲しいものある? なんでも買ってあげるよ」
「別に……」
 歩くたびにちゃりちゃりと音を立てるポケットを抑えて、悠理はにこにこと連理を見つめる。
 初詣に行こう、と誘ったのは悠理だ。連理はどこか面倒臭そうな顔をしているが、滲み出る雰囲気は「楽しみだ」と雄弁に語っていたから問題はない様子である。
「あっ射的!」
「やる?」
「やっ……っと、その前にお参りしなきゃだろ」
 射的の屋台を見つけキラキラと瞳を輝かせた連理だったが、当初の目的を思い出して急に表情をキリッとさせる。その変化が愛おしくて、悠理はまた笑うのだ。
「なんだよその顔ー」
「いいや、連理はかわいいなって」
「かわっ?!」
 ちょっとだけ頬を赤くして、けれど眦をつり上げて抗議の意を示す連理。「男にかわいいとか言うな!」とぽかすか殴りつけてくるけれどちっとも痛くなくて、戯れる連理が可愛くて、悠理はやっぱり笑うのだった。
 人波に揉まれながら参道を歩く。物珍しいのか、しきりに周囲を見渡す連理は悠理の目に危なっかしくうつる。だからそっと、手を伸ばす。
「な、なんだよ」
「はぐれると危ないから、ね?」
 繋いだ手をぎゅっと握り締めれば、連理はちょっとだけむすっとした顔をして、ふっつりと顔を逸らした。軽く握りしめた手が離されなかったことに、悠理は言いようのない幸福感を覚えるのだ。

「「せーのっ」」
 お参りした後におみくじを引く。何をお願いしたかはお互いに聞かなかった。聞かない方がいい気がしたのだ。ただ、ちらりと盗み見たお互いの表情は真剣そのものだったから、何を「お願い」したのかはなんとなく察することができる気がする。
「小吉だ。万事抜かりなく注意せよ、だって」
「凶……失せ物注意……大切なものほどなくしやすい」
 微妙な顔の連理と、愕然とした表情の悠理。見せ合いっこしようぜ、と言い出した手前、連理はなんとなくバツの悪そうな表情をしている。
「あー……」
 小吉のおみくじをぴらぴらしながら、かける言葉が見つからない様子の連理。
「何故……やはり俺では連理を守れないのか……?」
 凶のおみくじを握りしめたまま、悠理は泣きそうな顔で己の手を見つめている。なんらかの記憶がフラッシュバックしているのだろう、顔色がひどく悪い。
「ま、まだ決まった訳じゃないだろ! ほら、そうならないようにおみくじで忠告してくれるのかもしれないし! 今から気を付けてれば大丈夫だって!」
 わたわたと必死に元気付けようと奮闘する連理に、やっと顔色が回復する悠理。
「ほら! あそこに結びつけて置いてっちまえばいいだろ!! 悪いことも起きなくなるって!」
 そう言って悠理を引っ張って行ったのは、おみくじを結びつける為の場所。詳しい作法はわからないけれど、とにかく置いて帰ってしまえばいいとぐいぐい引っ張っていく連理。
「あ、ああ……うん」
 その力強さに呆気にとられていた悠理だったが、ようやっと衝撃から抜け出したらしく、必死な連理の背中を見つめてほのかに笑う。
 こんなに必死になってくれるのなら、凶を引いた甲斐があったかもしれないな、なんて思いながら。

「ほら、射的するんだよね?」
 気を取り直して参道へと戻って来た2人。未だ途切れない人波と、どこまでも続いているかのように錯覚するほど連なった屋台がお祭り気分を誘っている。
「しょ、しょうがないなーやってやるよ!」
 憎まれ口を叩きながらも連理の視線は射的の屋台に釘付けだ。キラキラと煌めく瞳に「連れてきてよかった」と改めて思いながら、小銭のどっさり入った財布を取り出した。
「1回、お願いします」
「えっ、悠理やんないの?」
 1回分の小銭だけ取り出せば、連理が目に見えて心細そうな顔をする。そんな顔をした連理に悠理が敵うよしもなく。
「2回、お願いします」
「あいよ」
 2回分の料金を取り出して、屋台の親父に差し出す。代わりにもらったのは、コルクでできた弾と簡単な作りの玩具銃。
「はい」
「ん」
 受け取ったそれを連理に渡して、コルク弾を詰める悠理。きゅっと軽快な音を立てて詰まった弾を見て満足げにひとつ頷いた。その流れで隣の連理を見やって――弾込めに悪戦苦闘しているのを見て思わず吹き出してしまう。
「なんだよ」
「いや、なんでもないよ。ほら、こっち使って」
「……む」
 既に弾込めしてある銃を渡せば、「自分でやる」とでも言いたげに顔が歪む。が、結局はしぶしぶといった様子で悠理から弾込め済みの銃を受け取った。早く撃ちたくてたまらないらしい。
「ていっ」
 肩に担いで一発。かっこよさを重視したそれは、的には当たったが威力が低かったらしく、ぽすんとかわいらしい音を立てて地面に落ちる。
「あーあ……」
「おっ、お嬢ちゃん、様になってるねぇ」
「お嬢ちゃんじゃねーよ!!」
「そうだったかそうだったか! すまんすまん!!」
 豪快に笑う店主にむくれる連理。
「くそぅ! もう一回!!」
 むくれつつ次の弾込めを悠理に押し付けてくるあたりちゃっかりしているとも言える。
 目の前の的に必死になっている連理は、その様子を微笑ましげに見つめている悠理に気付かない。結局、1回分の弾を撃ち尽くしても商品ゲットには至らず、連理の分にまで手をつける程である。
「なんで取れないんだよ!!」
「あはは、そういうものだよ」
 地団駄を踏む連理にまた弾込めした銃を手渡しながら悠理が笑う。むくれる連理は手に持っていた銃を交換しようとして――ようやっと、自分が悠理の分まで撃っていた事に思い至ったらしい。
「あっ悪りぃ!! オレが頼んだのに!」
「いやいや、俺は連理が楽しんでたらそれでいいから」
 ぱっと、手に取ったばかりの銃を悠理に押し返す連理。その仕草がまた可愛らしくて、夢中になって遊んでいた姿が愛おしくて、悠理は少しだけ泣きそうになる。
「オレ! 悠理が撃ってるところも見てみたい!!」
「え」
 ぱちくり。そんな擬音が聞こえてきそうな表情で目をまたたく悠理。
「……だめか?」
「ダメな訳ないだろ」
 そしてこの即答である。
 残弾は残り2発。悠理は連理の期待に満ちた眼差しを背中に受けながら、コルク弾を込めていく。
「どれがいい?」
「……あれ」
 連理が指差したのは、お菓子のバラエティーパック。それなりの大きさと重量があるようで、軽いコルク弾で落とすのは骨が折れそうだ。
「わかった」
 だが悠理は何も言わずに頷いてみせる。そして、まっすぐ手を伸ばして、銃口を的上部に突きつける。
 1発。バラエティーパックがわずかに揺らいだ。
 間髪入れずに弾を込め、2発目。不安定だったバラエティーパックは、そのまま揺れを大きくして――呆気なく、陳列棚から落下した。
「おっ! にいちゃん上手いね、よし持ってけ!」
 あれほど苦戦した筈の景品をあっさり落として見せた悠理に、連理はただただ感嘆の眼差しを送っている。対する悠理は少々くすぐったいようで、肩を竦めて苦笑していた。
「次、なにしたい?」
「あっ、あれ! あれ食べてみたい!!」
 お菓子のバラエティーパックを持って小首を傾げた悠理の袖を引いて、連理は綿飴の屋台を指差すのだった。


 ふと懐かしい気配を感じた気がして、連理は人混みの中足を止めた。
 手に提げた綿あめの袋が揺れる。頭につけていたお面が、慣性に従って少しだけズレる。
 何だろうか。既視感のようなものを覚えて首を傾げてみるが、思い当たる節は何もなくて。
「連理?」
「あー、今行――」
 瞬間、連理を包み込む時間が止まった気がした。
 誰なのかはわからない。わからないが、確実に視線が交わった。
 背中を駆け抜けていくのは懐かしさにも似た恐怖のような感覚。このまま、自分が自分ではなくなってしまうような――……
「連理? どうした?」
「――ぁ……、なんでも、ない」
 急に足を止めた連理を不審に思ったらしい悠理が、立ち止まった連理の腕を掴む。その衝撃とあたたかさでやっと人心地を取り戻した連理は、どこかギクシャクとした動きで首を振る。
「なんでもない。なー、早く帰ろう」
「ん? どうした? 疲れたのか?」
「いいから!」
 不思議そうな顔をする悠理の背を押して、連理は足早にその場を後にするのだった。

「……どう、した?」
 急に足を止めて一点を見つめだした相棒を見て、宿輪 永(aa2214)は小首を傾げる。
「いや、……なんでもない」
 少しだけ心配そうな声音の永に、宿輪 遥(aa2214hero001)はそうとだけ言って軽く頭を振った。まるで何かを断ち切るかのようなその仕草に多少の違和感を覚えはするものの、追求する程でもないかと軽く肩を竦めるに止めておく。
 それよりも、さっさとお参りを終わらせたかった。行事だからと初詣にやってきたものの、予想以上に人が多くて既に辟易しているのである。永は半歩後ろを歩く遥に悟られぬよう、小さく息を吐き出した。
「お前……何か……欲しい、ものは……?」
「特にない。それよりお参り、早く行こう。なんか混んできたし」
 着込んだコートの合わせを握って、遥が永の背中を軽く押す。常より少しだけ甘えたな様子に少しだけ違和感を覚えたが、普段と違う雰囲気の場所にいるからだろうと適当に当たりをつけ、永はそのまま足を進めた。
 前を見つめていた永は知らない。
 遥の視線が何かを探すように彷徨い、そうして何かを振り切るようにゆっくりと閉ざされたことを。


「……柄杓に、水を汲んで……、そう。それで……まず、左手を洗う。次に……右手、それから……軽く唇を濡らして……ああ、水は……口に、含まなくて、いい……」
 沢山の参拝客に紛れながら御手水を済ませる。慣れない所作にもたついている遥に、永は一動作ずつ丁寧にやり方を指導していた。
「口に入れてる人もいるが」
「やらなくて、いい。……湿らせる程度……。あとは、口に触れた手を……もう一度洗って、……残った水で、柄杓の柄を……すすいで……完了」
「水が足りない」
「慣れないうちは……そんなもんだ……」
 2度目に手を洗った段階で空になった柄杓を睨みつける遥と、そんな相棒を楽しげな瞳で見つめている永。仕方がないのでもう1度水を汲み、手と柄をすすぐ。ぴらぴらと手を振れば、察した永がわかりにくい笑顔を浮かべてハンカチを差し出した。
「ん」
「……ん」
 今日は永がよく笑う日だ。なんとなく気恥ずかしくなって、遥はズボンのポケットに突き刺したメモ帳が濡れないように注意しながらペンを手に取る。忘れないように書き付けておかないと、なんて思いながら、気恥ずかしさを紛らわすように顔を伏せた。
「……危ない、から……前、見て」
「……ああ」
 腕に添えられた手は、いつも通りあたたかい。

「参拝の作法は、いろいろあるが、……まぁ、一般的なのは、2礼、2拍手、1礼、だ」
 沢山の参拝客に混じって本殿に参る。放り投げた小銭が木枠にぶつかってちゃりちゃりと賑やかだ。
 道中、ただ歩いているだけでは暇だろう、なんて言いながら永がいろいろな事を教えてくれたから、遥のメモ帳は今日だけで沢山のページを消費する事になった。
 ぱんっ、と柏手を打ちながら、遥は隣にいる永をちらりと盗み見る。目を閉じた永が何を「お願い」しているのかは窺い知れないが、きっと願う事は大差ないのを遥は知っている。
 ひとつ小さく息を吐き、目を閉じる。
 こんな時間がずっと続けばいい。それは、神なんて不確かな存在に願うまでもなく、叶え続けると決めている祈りだ。
「……ん。あとは、おみくじでも、引くか」
「わかった」
 社務所へとゆっくり歩き出した永の後ろをぽてぽてと付いて行く遥。身体の動きに合わせてチャリ、チャリと鳴る小銭の音を聞きながら、待機列へと並ぶ。
「ああ……そうだ、おみくじ、なんだが……」
「ハル」
 ポケットに突っ込んでいた手を外気に晒して、遥は永の肘辺りの布を掴んだ。社務所に視線を向けていた永は、唐突な遥の動きに対して訝しげな表情で以って応える。
 そんな永に、遥はただ、ほんのりと笑って首を横に振った。
「慌てなくても、まだ、来年がある」
 ぴたりと、永の動きが止まる。それを確認して、遥は少しだけ、喉の奥が詰まるような心地になる。
「また、来年、教えてほしい。……今日は、たくさん教えてもらったから」
「……」
 また、来年。そう伝えれば、永はふつと瞳を閉ざして、そうしてゆっくりと息を吐き出した。
 ゆっくりと開かれた瞼の下から、微かにぬるまった瞳が露わになる。
「……そう、だな」
 がしがしと己の頭を掻き回して、永は吐息交じりの言葉を吐き出す。
「また、来年、教えよう」
 ぽす、と置かれた大きなてのひらの熱が、遥の頭皮をじんわりと温めた。
 吐き出す息が、白い。
「次の方どうぞー」
 臨時バイトの巫女さんが呼ぶ声に、はたと気がついて瞬きを一つ。
「……2人分、お願いします」
 ポケットに剥き出しのまま入れていた小銭を取り出して、規定の料金を支払う永。銀の硬貨と引き換えに渡されたおみくじ筒を受けとり、そのまま遥へと差し出した。
「ん」
「え?」
「……振って、……出てきた棒に、書いてある番号、言って」
「わかった」
 促されるままに筒を降り、出てきた番号をバイト巫女に告げる。そのまま筒を永に渡せば、表情の分かりにくい顔で受け取って、黙って遥と同じように筒を振る。
「はい、こちらをどうぞ」
「どうも」
 笑顔で渡された紙を見て、しかし遥はそこで困惑してしまう。
「小吉。感謝を忘れず信心深く過ごせば、惑いの道に光明あり」
「……カナは、小吉……か」
 小さな紙をためつすがめつ眺めていれば、こちらも小さな紙を持った永が小さく笑う気配がした。
「ハル」
「俺は、大吉、だったぞ。……動乱あり、だが……信心深く、用心して過ごせば、道は拓ける、だと」
 見せびらかすようにひらひらと小さな紙片をそよめかす永。おみくじの是非がイマイチよくわからない遥は眉根を寄せて首をかしげるしかない。
「……マ、……悪かない結果、だ。……気になるなら、あそこに、置いて帰っても、いい……ぞ……?」
「いやだ、持って帰る」
 ひっしと紙幣を胸元に引き寄せた遥。予想外の反応に、永は少しだけ片眉を上げた。そうして、必死にふるふると首を横に振る遥に、ふっと表情を緩める。
「……ん、好きにすれば、いい」
 そうして、永は遥の髪の毛に指を差し入れた。触れる髪の質感を楽しむように指を滑らせて、こわばった遥の頬を包み込む。
「だから……そんな顔、しなくても……いいだろう」
「……どんな顔だよ」
 逃れるように身体を引いて、くしゃくしゃになったおみくじのシワを伸ばす遥。
「……ハルと一緒に引いたやつだから、持っていたいんだ」
 そう言って、大切そうにメモ帳におみくじを挟み込む。
「ん……」
 その様を優しげな瞳で見つめて、永は遥の背中を軽く叩いた。
「……帰る、か……」
「うん」
 右へ左へ、人波を掻き分けながら帰路につく。道中屋台を冷やかしながら、結局何も買わなかった。
「……来年も、来ような」
「……ああ……また、来年……だな」
 ちゃり、ちゃりと歩くたびに小銭が鳴る。

 最後に振り返った視線の先に何があったのか、きっと誰も知らない。
 はらはらと舞い始めた粉雪が、石畳に溶けて消えていった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa2214hero001 / 宿輪 遥 / 男性 / 18歳 / バトルメディック】
【aa1708 / 蛇塚 悠理 / 男性 / 25歳 / 攻撃適性】
【aa1708hero001 / 蛇塚 連理 / 男性 / 25歳 / ブレイブナイト】
【aa2214 / 宿輪 永 / 男性 / 25歳 / 防御適性】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どうもでっす!
 この度はご指名ありがとうございました! 楽しんでいただければ幸いです。
 交錯する彼らの未来が幸せに満ちたものでありますように! 仲良きことは美しきかな、なんて思いながら書き上げました。どうしてこうなったのか私にもわかりません。彼らが楽しければそれでいいかなって……。
 それではまた、いつかの機会に。
初日の出パーティノベル -
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2016年01月13日

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