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『Red Geranium 』
真壁 久朗aa0032)&セラフィナaa0032hero001


「公園…か」
 真壁 久朗(aa0032)は公園という場所が苦手だった。
 無理もない。彼の身体の一部は機械化しているし、元々人との交流が苦手な彼にとって人の集まる公園などは出来れば近寄りたくない場所である。だが、そんな彼の気持ちを余所に彼の手を引くのは彼のパートナーであるセラフィナ(aa0032hero001)だ。
 丁寧に編込まれた長い髪をふわりと揺らして、セラフィナは久朗の事を『クロさん』と呼ぶ。
「はい、公園です。こんないいお天気ですからね。外に出ない手はないじゃないですか」
 久朗とは対照的に丸い瞳をキラキラさせて……彼は太陽の下、子供のような笑顔を見せる。
「…好きにしろ。但し、俺は」
 久朗はちらりと視線をベンチに向けると勝手に歩を進め始める。
(何でまた、あいつが俺のパートナーなんだ…)
 あの顔を、忘れはしない。忘れようにも忘れられる訳がない。
 好きだった。幼心に抱いた唯一の好意……何もなければ今も一緒だったかもしれない。けれど、現実とは残酷なもので、今その幼馴染はいない。
 この世界から消えてしまった魂はもう自分の元には戻ってこない。だからと言って、代わりが欲しいと思った事はない。なのに、彼のパートナーはその大切な人にそっくりで心は違うと判っていても、その容姿にざわつきを覚える。
「ダメですよ。今日は僕に付き合ってくれるって言ったじゃないですか」
 そんな事を考えてぼーっとしていたのだろう気付いた時にはセラフィナに腕を捕まれ、どうにもベンチには座らせては貰えないらしい。
「付き合うとは言ったが、何でもとは言っていない」
 彼はそう言って、掴まれた腕を振りほどく。
「もう、クロさんは素直じゃないですね。今日を僕は楽しみにしていたのになぁ」
 その言葉に久朗は静かに眉を潜める。
(楽しみだと…毎日顔を突き合わせているのに、か?)
 セラフィナと共に過ごし出して早数年。同居であるから否応なしにも相手の姿を目にするし、最低限の会話は交わす。仕事が入ればそれこそペアで動く事になる訳だから、自分ならばたまの休み位は別行動をしたいと思うのだが、相棒はそうではないらしい。
「どうかしましたか? さてと、まずはあれを食べましょう」
 セラフィナはそう言うと公園の隅にとまっているキッチンカーを目指し歩を進める。
(…やれやれ)
 久朗はそう思いつつも、彼の後に続いた。


 ホットドッグのキッチンカー――その店は意外に盛況なようで既に列が出来ている。
「クロさん、こっちです」
 そんな中に混じって手を上げて見せるのは言わずものがな。まだ暫くかかりそうだ。
 車の近くに併設されている椅子に腰かけて彼はセラフィナの戻りを待つ。
 そんな彼の下に転がってくる小さなボール。
 こつんと彼の足に当たって、そちらの方を向けば小さな少年と子犬がこちらに駆けてくる。
(くそ…何なんだ、全く)
 この身体になって子供も苦手になった。久朗が心中で再び溜息をつく。
「そこのおにーちゃんっ。ボール取ってよー」
 少年の声。無視したい所であるが、周りの視線もある。久朗はゆっくりと屈み手を伸ばす。
「あら、あの人もしかして…」
 その言葉に心臓がびくりと跳ねた。別にこの世界ではもう珍しいものではないのだが、それでも人というものは自分との違いを見つけると差別化したがる生き物だ。悪気はなかった筈のその言葉であるが、今の彼には何より辛辣に突き刺さる。
『ワンワンッ』
 そんな彼を呼び戻したのは少年の連れていた子犬だった。ボールを受け取りに来たらしい。まだ生まれてそれ程経っていないのか、それとも好奇心が勝ったのか久朗の手袋で隠した義手の周りをくるくると回り、ボールをせがむ。
「おや、クロさん。懐かれているみたいですよ」
 そこへセラフィナも戻ってきた。紙袋一杯にホットドッグを抱えて、彼の横に座る。
「こいつはこれが欲しいだけだろう。ほら、さっさと行け」
 久朗は子犬にボールを返すと、さっと腕を袖にしまう。
「ありがとー」
 それを見取って、少し先にいる少年が叫ぶ。がそれに久朗は会釈を返さない。その様子を見て、代わりにセラフィナが手を振って、
「あの、よかったらホットドッグ食べていきませんか?」
 その予想外の言葉に久朗の心が再び脈打った。
 そして口を開きかけるが、声にはしない。紡ごうとした言葉を全て呑み込んで、彼はゆっくり立ち上がる。
「俺は帰る」
 ただそれだけを言い残して、元来た道に進路をとる。
(見ず知らずの相手に物をあげるなんてどうかしている)
 そう、彼には今のセラフィナの行動が理解できなかった。
 昔から一人で何でもこなしてきた。何か困った事があっても助けを求める相手はいなかった。
 両親とて彼に手を貸そうとはしなかったからだ。だからか、そんな得にもならないやり取りは理解できる筈がない。
「駄々、捏ねないで下さいよ。さっき言った事は本当なんですから」
 少し声を大きくして、セラフィナが念を押す。
 そこで少年が走ってきてしまったのだろう背後で相棒が少年に「待ってて」と言葉を残しているのが聞こえる。
 そんな相棒に追いつかれないよう久朗は無意識に速度は早める。
「待って下さいってば…」
 セラフィナの声――その声で大体の距離は把握できる。
(ふり切るべきか…)
 そんな考えを巡らす久朗の下に再び子犬が駆けてきた。よっぽど彼を気に入ったらしい。彼について足元を駆け回る。
(この犬といい、あいつといい…何で俺に構いたがるんだ)
 ほおっておいてくれれば済む事なのに、お節介にも何かと絡んでくるその心理が判らない。
「ねえ、クロさん。僕との約束、破ったりしませんよね?」
 破るつもりはなかった。しかし、こうなっては知ったこっちゃない。纏わりついてくる子犬を一応蹴らないよう気を付けながら速足で進む。
 そんな彼らの間に風が吹いた。公園の出口、木々の合間を風が通り抜ける。
 それと同時に耳障りな音を立てて枯葉が舞う。その枯葉に子犬は興味を惹かれたらしかった。
 久朗を追い抜き、道路の方へと駆けていく。その視界の先に捉えたのは大きな影――クラクションが鳴り響く。

(危ないっ!)

 そう思った瞬間、久朗の身体は動いていた。大地を強く蹴り出し、子犬の元へと走る。
 そうして、間一髪の所で彼は子犬を抱え、炉端に倒れ込む。
「危ねぇじゃねぇか、コノヤロー」
 それはほんの数秒の出来事だった。トラックの運転手が叫び走り去ってゆく。
「クロさん、大丈夫ですか!」
 その光景を目の当たりにしたセラフィナが心配し、彼の身体を調べる。
「大丈夫だ。俺よりこいつを…」
 抱え込んだ子犬…幸い怪我はないらしい。何が起こったか判っていない様子でかくりと首を傾げる。
「……全く、何てやつだ」
 その様子にほっとしたのか、久朗は深く息を吐き微かな笑みを零す。
「クロさん…」
 その表情にセラフィナも表情を和らげる。
「おに゛ーち゛ゃんたち、あり゛がどー」
 そこへ少年もやって来た。気が気でなかったらしい。彼も息を切らして、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。
「もういい…とりあえず戻ろう」
 久朗が少年へと手を伸ばす。が彼の手は少年に触れる前にぴたりと止まる。
(俺は今、何を…)
 自然と動いた手――その動作に意味などあったのだろうか。
 けれど、そうする事が必要だと思ったのはなぜだろう。よく判らない自分の動作に些か困惑を覚える。
 すると、それを見たセラフィナが小さく助言。
「こういう時はこうするんです。そうすると落ち着くから」
 躊躇なく触れてセラフィナの手が少年を撫でる。すると少年の表情も変わっていく。
「おにーちゃん、もしかして怪我しちゃった?…大丈夫?」
 その後少年は顔を拭うと久朗を心配し顔を覗き込む。そこで彼は見てしまった。
 久朗の左目…冷たい機械の眼球を――無機質なそれは大人が見ても見慣れていない者ならゾッとてしまうだろう。
「あの、これは…」
 セラフィナが固まってしまった少年に事情を説明しようと口を開く。だが、
「……かっこいい」
 少年の瞳は彼を軽蔑したりはしなかった。



 そうして、結局彼等はその日一日一緒に行動を共にする。
 久朗を気に入ったのか少年と子犬は終日彼を慕い、黙ったままだったというのに少年達は楽しそうだった。
「何故、あいつらを誘った?」
 そんな彼らに付き合い心中はヘロヘロになりながらも表には出さず、久朗がセラフィナに尋ねる。
「フフ、理由ですか? しいて言えばあの子達が寂しそうだったから…でしょうか」
「寂しそう…あれでか?」
 粒になっていく後ろ姿。確かに着ている服やボールは汚れていたが、快活な少年なら当たり前だと思う。がセラフィナは、
「朝早くから公園でボール遊び…普通に見えるかもしれませんが、僕達がここに来たのって何時だったか覚えていますか?」
 七時――もし親がいれば食事をしている筈の時間だ。
 そんな時間にいたという事は…はっきりは判らないが、何らかの理由でそう出来ない理由があったのかもしれない。
「偽善だな…」
 静かに久朗が言う。
「だけど、楽しかったでしょう。僕は楽しかった。あの子達も笑顔だったし…それでいいと思いませんか?」
 楽しい……その気持ちがどんなものか理解しがたいが、一つ言えるのは朝の時ほど不快ではなくなっていたという事である。
 そして友達の証しだと言って貰った手作りの花しおり。ゼラニウムと言う花らしいが、久朗にとってただの植物に過ぎない――はずだった。
 しかし何故だかそれを貰った時、心が底が温かくなる不思議な感覚を覚えて、再びしおりを手に取り見つめてしまう。
「今日は有難う御座いました」
 セラフィナが言う。感謝される程の事はしていないと久朗は顔を上げず沈黙を返す。
 そんな相棒を見取り、セラフィナは静かに久朗の手を取り優しく握る。
 その手はしおりを貰った時と同じ位温かくて、久朗の口元が僅かに緩む。

 忘れてしまった温もりと、芽生え始めている新たな感情――。
 それが何であるか気付くには、まだまだ時間がかかりそうだった。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 aa0032 / 真壁 久朗 / 男 / 24 / アイアンパンク 】
【 aa0032hero001 / セラフィナ / ? / 14 / バトルメディック 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼頂き誠に有難う御座います、お待たせしました奈華里です。
繊細な部分のご依頼だった為、少しお時間を長めに頂きました。
ご希望の内容にちゃんと添えているか難しいラインではありますが、精一杯書かせて頂きました。
ほわほわのセラフィナさんと少し堅物なイメージの久朗さん…
赤いゼラニウムの花言葉(日本の方です)のような関係を築いていかれるのかなっ
そうだったら素敵だなと思いこのタイトルにしました。
それでは、これからのご活躍を陰ながら応援しております。
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2016年01月19日

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