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『ほむら舞う 』
イッカクka5625)&カガチka5649


 街と街とを繋ぐ道、そこから外れた獣道を歩く鬼の男女が一組ある。
 姫君然とした少女と、大柄な無頼者。
 どこぞの部族の令嬢と、その護衛といったところだろうか。
 少女の身なりは簡素に見えて、質の良い衣服を纏っている。
 手荷物は少ないが、だからこそ貴重なものが入っているだろうとうかがい知れる。
 大きな街道ではなく獣道を選んで進むのも、人目を忍んでであろうか。どこぞから落ちのび中か?
「今日の狙いはアレに決まりだ。野郎さえ殺しちまえば、女は売り飛ばしもできるし使い道はあらぁ。悪くない獲物だろ?」
 賊の一人が、高所から狙いを決めて下卑た笑いを浮かべる。周囲の仲間たちも同様だった。

「オレ様たちの縄張りに足を突っ込んだ不運を呪いな!!」

 枯れた藪の向こうから、十を超える盗賊たちが姿を見せ、男女を囲んだ!
「あぁ!!? 俺を誰なのか知らねえとは幸せな奴らじゃねえか」
 少女を後ろ手に庇いながら、男は好戦的に赤い瞳を輝かせた。
 身の丈程ある斬馬刀を振り抜きがてら、接近する賊を三名ほど横薙ぎに斬る。灰に赤が混じった長い髪が踊るように翻る。
「ふむ。斯様な狼藉者の相手は僕の務めじゃな。任せたぞ、イッカク」
「誰が僕だ!」
「狼藉者同士、手の裡も知れよう」
 少女がうっすらと笑みを浮かべ小太刀を構える。
「誰が狼藉者だよ、姫さん!! 昔の話だろーが!!」
 しかし少女が自衛に刀を振るうまでもなく、イッカクと呼ばれた男が襲い来る賊たちを撃退していった。
 呑気な会話を交わしながら、鬼神の如き強さを見せつける。
「な、なんだテメェら…… ふざけやがって!!」
「無知は罪なりとは誰の言葉か。彼我の差を知らぬとは気の毒なことよ」
 暴れるイッカクからツイと離れ、少女は小太刀を俊敏に振るった。
 裂かれた首から、五月雨の如く血が注ぐ。すぐに身を引き返り血を逃れ、少女は目を伏せた。
「これで終いじゃな、イッカク」
「いいや、カガチ。これからが仕事だ」
「?」
「この近辺の賊ってこたァ、賞金首にでもなってるかもしれねぇ。追剥よりカネにならぁ」
「……そなたというやつは」
 カガチと呼ばれた鬼の姫は呆れながらもイッカクを止めるでなく、隣に並んで手伝いを始めた。




 直近の小さな町役場へ申請し、賞金首の換金手続きをし、ならばそこで宿でも取れば良かったろうに。
 二人の足であれば、もう一つ先の町まで進むことができる――その考えが間違いだった。
 地図上では平坦な道も実際に歩いてみると脇道が多く、尚且つ近道をしようと地図に無い道を進んでみれば、気が付けば野宿の支度を始めていた。
 遠くの山並みが夕焼けに燃える、その上空には濃紺が広がっていた。夜が来る前の美しい時間が、焚火に照らし出されているよう。
「まあ、たまには構わぬが……」
 たまに、であれば。
 カガチは恨めしい眼差しを焚火に向ける。
「姫さん、世界ってのは広ぇぜ。何事も勉強って奴だ」
 少し山を登った清流で仕留めてきた魚を焼きながら、イッカクはうそぶく。
 野宿といっても厳しい季節は遠く、星が綺麗で悪くない。これで三日目くらいか。
「そなたが申すと、途端に嘘くさくなるのじゃ……」
 隠れ里で生まれ育ったカガチにとって、世間を知ることは何より楽しい。イッカクの言うことも、示す行動もわからないわけではない、が。
「……土産話にはなるかの」
「そういうこった」
 諦め、カガチも夕食にする。荷物から握り飯を出し、焼けた川魚と一緒に食す。
「! 初めての味じゃ。川魚はどれも同じようなものかと思っておったが」
「あー、やたら綺麗な流れだったからな。俺は知らねぇが、この辺りだけの魚かもな」
「むぅ。気に留めず焼いてしまったぞ……。戻れば、名を知ってる者がおったやも」
 姿かたちを書き留めておけばよかった。カガチは悔やむも、魚には全て綺麗な焼き目がついている。
 また、この薄闇の中では細部もわかりにくい。
「しかし、残さぬよりは良いか」
「ふうん?」
 少女が、覚書を書き留めている紙を広げ筆を取り出す。その様子を、イッカクはニヤニヤと眺めた。
「そういや旅の間中、ずっと書いてるよな。どれ、どんなもんなんだ」
「!! 見るな、見てはならぬ!」
 覗きこもうとする男へ、カガチがギャンと吠えた。頬が赤らんでいるのは焚火のせいだけではない。
「良いか、前にも申したがこれは妾の記録なのじゃ。おいそれと他人が目にして良いものではない!」
「じゃあ、人の目の前で書くんじゃねぇよ」
「魚が目の前にあるのじゃ、仕方あるまい。火が無くては暗くて描けぬ」
「へぇへぇ、わかりましたよ」
 頬を膨らませるカガチ。イッカクは元の位置に戻り、わざとらしく目を伏せて顔をそむけた。
「これでいいかい、姫さん」
「妾が良いというまで、目を開けてはならぬぞ!」
「はいは…… ……長ぇよ、ソレ」




 世界は広い。広い。
 隠れ里を出たカガチの目には、何もかもが新鮮に映る。
 新たな出会い、新たな縁が、少女の心を育てていった。それでも、まだまだ成長途中。
『ちょいと、物見遊山の旅でもしねぇか』
 イッカクからの誘いは、そんなある日のことだった。
 しなければならぬことは特になく、二人の足で行ける範囲ということだったから快諾した。
 知らない町。文化。食べ物。装束。どれもが少女の心を躍らせる。
 粗野なイッカクとの二人旅だから、雅やかな旅路とはいかないが、それはそれで悪くない。
(感謝は、しておるのだよ)
 恐らく、本人へ直接言葉にして伝えることはないだろうけれど。
 焚火を背に寝入っているイッカクに、カガチは心の中でそっと礼を述べた。
 明日には現在の拠点としている町へ帰りつく。旅も終わりだ。
 楽しい数日であった。


 か細い少女の歌声が夜空に透る。
 今回の旅の夜に、幾度か耳にしたカガチの歌声。
 イッカクは薄っすらと目を開け、気づかれない程度に身をよじる。
 炎に照らしだされた白い装束が、神の翼のように舞う。
 黄金に似た暖かな色の瞳が、星のようにチラチラと輝く。
 金環で結わえた二筋の黒髪が、闇夜になお深い影を纏う。
 男が寝静まった頃に、少女はこうして何処かに向けて舞いを捧げていた。血が躍る、というものなのかもしれない。
(…………、だな)
 口はしない感想を、心の中でさえ濁しながら、イッカクは半濁の意識の中でカガチの舞いを楽しんだ。
 



 小さな冒険の、終わりの朝が来る。
「……美しいのう」
 木々の隙間から昇る朝日が覗く。カガチはそれを、うっとりとした眼差しで眺めた。
「色々とあったが、良い旅であった。土産話も沢山じゃ」
「賊退治も、結構なカネになったしな。選ぶなら裏道に限るぜ」
「…………」
 朝食を終え、帰路の支度を整えているところへ。
 イッカクの言葉に、カガチの手が止まる。
「そなた、もしや」
「あん?」
「やたらと揉め事の多い旅路と思っておったが、わざとであったか!!!?」
「ははっ。今更気づいたのかよ、鈍いな!」
「武の腕を磨くにもほどよいかと……じゃが、それとこれとは違う! イッカク、そこに直れ!」
「筋合いがねぇよ、姫さんは戦いの練習になったろうし俺ぁカネが入った。万々歳じゃねぇか」
「納得がいかぬー!! 僕の身で、妾を謀るなど!」
「難しい言葉知ってんな、俺には意味がわからねぇけど」
 カガチの振り回す小太刀を、笑いながらイッカクが避ける。
 盗賊たちは彼女たちを見て『姫と護衛』と判断したようだが、今の姿はまるで兄妹のようだった。


 この冒険が終わっても、それでもカガチは何度も思い出すのだろう。
 篝火の暖かさ。それに照らされた星空の美しさ。
「ま、気が向いたら今度は別の方角へ行ってみようぜ」
「……気が向いたら、の」
 さあ、町へ帰ったら何から話そうか。




【ほむら舞う 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka5625 /イッカク/ 男 / 26歳  /舞刀士】
【 ka5649/ カガチ / 女 / 16歳  /舞刀士】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
篝火を囲む情景を基に、旅路の一幕をお届けいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2016年01月15日

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