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『誰カノStella 』
常塚咲月ja0156)&鴻池柊ja1082


 出逢いは“必然”。

 誰かがそう言った。
 だから、信じてみよう。“誰か”ではなく、キセキという名の“貴方”と“貴女”を。



 ――う……? 初詣……? おー……なるほど……。
 ――月、ストール忘れたのか? ほら、これ。俺の使え。元々身体弱いんだから、ちゃんと暖かくしていけ。
 ――む……なくても、風邪ひかないよ……?
 ――咲月君、幼馴染の言うことは素直に聞いておきなさい。
 ――う……流架先生がそう言うなら……。ひーちゃんのストール、大きい……先生……巻いて……?
 ――おう、鴻池。お前さんはオレのを一緒に巻くか? ちょーHotでアリじゃね?
 ――無しですね。伊藤先生の熱は俺一人じゃ受け切れないと思います。
 ――あら、フラれちまったわ。でも、そのColdなところもオレは好きだぜ。
 ――ひーちゃん達、仲良い……? でも……置いてっちゃうよ……?
 ――ああ、少し風があるかな。だが、空は抜けるような満天の星だよ。ほら、見てごらん?
 ――澄み切っていますね。冬の空は昼も夜も本当に高い。
 ――へぇ、すっげぇな。星座がカタチ成して降ってきそうだぜ。
 ――……浪漫な表現するんですね。意外でした。
 ――寒い……雪、降るかな……。
 ――そうだね、そんな気配はありそうだけれど。降ったら……美しいだろうね。
 ――う……? 先生の世界が……?
 ――俺達と、君達がいる世界だよ。



 今日と同じ日はもう二度と来ないから。
 貴方のいる世界。貴女のいる世界。共にする平素の“シアワセ”は、何よりも“    ”――――。





 日本の中でも有数の観光地、京都。

 幾千の歴史を抱えたこの街は、白緑、刈安、蘇比、搗――時の色彩が流水の如く趣きを変える。その様々な表情は、正に古の美。
 
 そこは、京都市内にある町屋造りの小路だった。
 石畳の道。両脇に茶屋や料亭がズラリと。だが、確かな風情は一角のカフェをひっそりと染めて。
 レトロな窓から中を窺えば、ムーディーな照明が瞳を淡い温度に浸す。思い切って店の扉をベルで鳴らして開けば、クラシックなBGMとアンティークな調度品が客をゆったりと出迎える。
 まるで、時が静止したような絵画の中。その空間を、アンティークドールのように整とした女性――常塚 咲月(ja0156)と、男性――鴻池 柊(ja1082)が、機械仕掛けから解かれたように忙しなく動いていた。

 ――。
 時計の長針を一周程、逆に戻そう。カチリ、コチコチ。



「ひーちゃん……前に一緒にバイトしてたお店の店長から連絡来た……。んと……病欠で人員不足だから、手伝いに来て欲しいって……」
「ああ、ヘルプだろ。俺の所にも来た。月、この前の依頼で使ったウィッグあるだろ? それ使って店出ろ。――元の髪色だから似合ってた」
「う……? そう……? じゃあ、取って来る……」
「ああ。



 (――行ったな)」

 Prrrr……Prrrr……、

 ――(ガチャ)

「今日は、鴻池です。突然お電話してすみません。確か先生、此方に来てるんですよね? 実は喜んで頂ける物を入手出来そうなので、ご相談が――……」



 ――。
 カチリ、コチコチ。丁寧に“今”へ戻して。

「ふぅ……お客さん、多いね……お腹空いた……」
「休憩になるまで我慢しろ。ほら、三番テーブルにウィンナーコーヒーと焙じ茶ソフト」
「ん……。おー……美味しそう……」

 じゅるり。

「月」
「……」

 とててっ。

「全く……食い意地は本当に変わらないな」

 苦く呟くと、柊は首のクロスタイに人差し指を掛けた。くぃ、無意識のその動作に「(おっと……)」、手を引く。高校、そして大学時代にアルバイトで世話になっていた店なのだが、久しぶりに袖を通した仕事着が妙にこそばゆい。
 対して、咲月。
 不覚にも、という言葉が適切であるかどうかは分からない。だが、柊の木蘭色の瞳に映った景色は久遠ヶ原学園へ入学する前の生活と色で――。

「(やっぱり似合ってるんだよな、月の仕事着。烏羽の髪も、素振りも、此処の温度と色も……変わらないものは意外と沢山ある、か)」

 次に配膳する品をトレイに準備しながら、ちらり、柊の目線が彼女を追う。
 烏の濡れ羽に映えるヘッドドレスは可愛らしさの中にも気品が混在していて。撫子地に桜柄の着物袖は、動く都度、花弁のように戯れる。濃な紫の帯を結んだその下はモダンな膝上スカート。黒の色を上から隠した純白のミニエプロンが天使の羽のように揺れていた。

 とととっ。

「配膳してきたー……あ、五番テーブルの片付けも済ませたよ……」

 いつの間にか、過去の“平面”から咲月が飛び出していた。反応の鈍い柊を見上げながら、目をぱちくりさせている。

「ああ、お疲れ。
 ――じゃない。次の配膳が待ってるぞ、ほら。俺は客の案内をしてくる。五番だったよな?」
「う……? んー……よろしく……」

 昔の記憶は、そっと今に隠して。
 柊は不思議に感じていた。何故だろう、今更。張りつめていたものが切れてしまいそうな奇妙さと不安定さに、喉の奥が閊えていた。

 ――と、いうのも。
 柊には予想がついていた。恐らくで、はっきりと定まってはいなかったが。



 ting−a−ling……。



 ――そう、“彼”の顔を見るまでは。

「あ……お客さん……? いらっしゃいま……は……流架先生だ……。伊藤先生も……こんにちは……」
「やあ、咲月く……ん? ――ああ、この前のウィッグか。ふふ、似合っているね。近くまで来たからちょっと顔を出しに寄ったんだよ」
「こんちはさん。へぇ、良い感じの店じゃねぇか。ノスタルジックっつーの?」

 桜餅然り。裸白衣然り。言わずもがなの来店者――藤宮 流架(jz0111)と、ダイナマ 伊藤(jz0126)である。
 平素よりラフな私服に見慣れていたせいか、今日の彼らの装いはやたらフォーマルに見受けられた。

「先生達……京都に来てたんだ……。は……今、満席で……――あ……でも、奥の席が今さっき……少し、待ってて……」

 思いがけない出会いに隠しきれない微笑みを宿して。咲月は蝶々のように華やかな帯リボンをひらひらさせながら、早い歩調で店の奥に消えていった。

「あ、咲月君! 忙しそうだから俺達はすぐに――、」
「いらっしゃいませ、先生方。御足労をおかけしました。此処の場所、すぐに分かりましたか?」
「おや、こんにちは。ん、電話で君が丁寧に教えてくれたからね」
「おう、鴻池。悪ぃな、オレも邪魔させてもらっちまって」
「いえ。歓迎しますよ。確か、個展の手伝いでしたっけ。連日、かなりお忙しかったとか」

 笑みを湛えて出迎えた柊が、首を傾げるように流架へ伺う。
 余程の事情でなければ、彼からダイナマへ要請をかけることなど先ず有り得ないだろう。しかも、連日ということは=泊りがけ。ゴーヤよりも苦そうな流架の“心事情”に、柊は毛色の違う含み笑みをそっと面の裏に沈めた。

「ああ、思う存分こき使われてしまったよ。
 開催するにも人手が少なく、展示についてのアドバイスも必要だとの仰せでね。昔から“春霞”を御贔屓にして下さっている方だから、断るに断れなくて」
「マジでめっちゃカロリー消費したわ。力仕事は殆どオレに回しやがってよ」
「当たり前だろう。何の為に呼んでやったと思ってるんだ」
「オレはルカとカロリー消費したかっ、ぐわぁっ!! ――っ、……アリガトウゴザイマス」

 敢えて視界に入れずとも柊の耳には届きました。
 ダイナマの脛辺りから、不思議なメロディが聞こえたのです。ああ……柊が二人へ注ぐ視線、実に生温かいこと。

「(今日も今日とて安定しているな……この二人は)」

 相変わらずブレない教師達。
 柊は思わず感嘆の吐息を漏らしてしまうが、意識と共に下げた肩へ“仕事中だ”と言い聞かす。

「お持ち帰りですか? イートインも出来るので……お急ぎでなかったらぜひ――、」



 ガシャン!!



 ――突如、不協和音が床で鳴いた。
 店中の視線が不穏な空気へ向く。そこは、入口から向かって角の席――柊達の位置からも窺えた。野卑な喧騒を放つ若い二人組の男と、気の弱そうな女従業員を庇うように背にする咲月の姿。

「ああ……」

 瞬時に状況を察した柊が、内心げんなりして呟いた。

「おい、何か絡まれてねーか? 常塚のヤツ」
「ええ、まあ……以前もそうだったんですが、偶にいるんですよ。花街の名残を勘違いしている、ああいう輩が。――藤宮先生。巻き込んで申し訳ありませんが、彼らに大人な対応というものを教えてやって、」

 ――頂けませんでしょうか。
 次ぐはずであった言葉は空振りして、既に。流架のトレンチコートの背中が自分から遠ざかっていくのを、柊は暫し呆然と見つく。

「いいのかよ、鴻池。対応は“大人”かもしれねぇが、やることは“悪童”だぞ」
「ええ、“だから”ですよ。それに、助けられるなら藤宮先生の方が月も喜ぶでしょうし」
「言ってくれるぜ。つーかよ、お前さんに一つ聞きてぇことあったんよね」
「はい?」

 この、“彼と彼女”に置かれた状況下で質疑応答。
 一抹の不安すらもない柊とダイナマの安定はある意味、“彼”に対する信頼と言えるのだろうか。

「――餌撒いたな、鴻池」
「?」
「口実だろ。ルカが喜ぶモンっつーんは。言ってみ、目当ては何なん?」
「心外ですね。――それに、“一つ”は既に“お見せ”していますよ? 先生の知らない月を知って頂く良い機会でしたから」
「へーぇ。ったく、気ぃつけろよ。その内食われるぜ?」
「俺が、ですか?」
「……ほんと策士だわな。――で? 一つは、ってこたぁまだあるワケか?」
「それは――……」

 思惑の馳せが、柊の口調に重なって途絶えた。
 事の成り行きが静かに動こうとしていたからである。

「――いってぇ、アンタに叩かれた腕がメチャいてーわ。どうしてくれんの?」
「たかがプレートで……? 柔なんだね……最近の男の人って、案外情けないんだ……?」
「はぁ? てゆーか、え、なに? 自分も絡んで欲しかったとかそーゆーこと? まぁ、別に構わねーけど。ぶっちゃけ、後ろの彼女よりアンタの方がタイプだし?」
「ここは、そういったお店じゃない……あほなの……?」

 ――いっそのこと。
 明らかな嫌悪であれば、幾分かは彼らのプライドを逆撫で出来たのかもしれない。だが、当の咲月に表情の色彩はなく。腹を立てると無表情になってしまうのが徒となるようで。平素のトーンで物申すものだから、男達は沸く。

「かーわいー。ねぇ、楽しいこと色々教えてあげるからさー、ちょっと俺達に付き合っ――」

 痛くもない腕を押さえながら咲月と対面していた男が、口の端に悦を浮かべ。彼女の身体を引き寄せようと手を伸ばす。が、強い意思と力がそれを許さなかった。

「薄汚い手で触らないでもらえるかな」

 軽口めいた声音に孕んだ、青い炎。

「君達小者が手を出せるほど安くないんだよ、彼女は」

 男の手首を拘束している箇所から、みし、と“不音”がした。呼気で笑む、流架の気配。男が細く息を吸い込んで止めるのが、咲月にもはっきり分かった。

「やや? 返事は? 理解出来たのかな?」
「なっ、なんだよアンタ! ――ってぇな、放せ!」

 と、言われる前に、流架はパッと掌を開いていた。勢い余った男の腕が滑稽な仕草で身体ごとよろめき、仕舞いには椅子の足に躓いて派手に転倒。

「おー……痛そう……」

 流架の背中から、ひょこ、と、首を傾げるように顔を出して。咲月が全く心の籠もっていない一言をお見舞い。
 目まぐるしく変化した光景に、暫し呆然としていたもう一人の男。
 はっ、とすぐに我に返った頭は瞬時に血が上ったようで、ふるふると半開きの口を戦慄かせながら椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。

「てっ、てめぇ――このっ!!」

 目線は流架のまま、男は手近にあった物を武器に――恐れ知らずもいいところ。戦闘科目教師の“阿修羅”目掛け、突撃。

 あーあ、と。
 二人の男が溜息をつく。

「ご愁傷様」
「南無さん」

 店中が一瞬で“沸いて”、










 沈黙。

「おー……流石、先生……。でも、私一人で退治出来たよ……?」

 そんな後半の言葉とは裏腹に、一人の女性は酷く満足気であった。





 店の活気は通常営業へ戻り。
 
 ――だが。
 唯一、安泰でないものを挙げるとするならば。

「それ、凄く高かったのよねぇ……」

 店の奥で控えていた“彼女”は、咲月や流架達の中で大いなる存在感を放っていた。胸の下で腕を組み、鼻から息を漏らして“安い”ぼやきを吐く。

「(……? あの彫刻……ひーちゃんがつくったやつだよね……?)」
「(ああ。高いも何もないはずだが。……まさか、な)」
「(つーかよ、アイツらへーきだったん?)」
「(はい? 脈はあったんですよね?)」
「(あったわよ。いや、そーゆー問題なんか……?)」

 カタリ。
 無惨なオトの音もない。
 集った顔ぶれにお披露目されているのは、彫刻のボード――だったもの。これがまた、完璧なまでに大破されていて。言うまでもなく、男が手にした物の末路である。破片から何とか見て取れる部分といえば、桜や蝶、猫が彫られていたということだろうか。

「――ああ、申し訳ありません。避けるのが面倒で、彼ごとのしてしまったんです。弁償させて頂きます。お幾らですか?」
「あら、じゃあ身体で払って貰おうかしら。彫刻の“修理代”」
「は?」
「ふふ、縁って不思議なモノよね。一度関われば何かしら影響を受けるんだもの。だからこの店の名前は――」

 怪訝に眉を顰めた流架へ、彼女――“縁”の店長は片目を細めてにたりと笑った。





 店の活気は通常営業から大変賑わって盛んに、正に文字通りの大繁盛。
 それもそのはず。
 善人でないことを自覚済みの善人面達が整った容姿で接客業。――となれば。

「女性客の口コミで、ひーちゃんと流架先生狙いのお客さん……一気に増えた……。お店繁盛、嬉しいね……? でも……少し疲れて……いっぱいお腹空いた……」
「年末だから稼ぎたいんだろうな……流石、使えるモノなら俺達の教師ですら使う。――あ。後で蒐さんに写真と動画を送るか。端々で撮っておかないとな……月、手伝え」
「はーい……」

 柊の懸念は見事に的中。
 店のトップにいいように使われる次第となった流架は、ウェイターとして無償労働をするハメに。柊と同じ仕事着――黒とレトロな色彩を基調とした衣服に身を変え、心意気はとりあえず\いざ鎌倉!/

 ……京都だけどね!





 なんだかんだでカチリ、コチコチ。
 京の空はとっぷりと蘇比色に染まり、カフェ“縁”の客の出入りも漸く落ち着いてきた。

 奥の席ではダイナマが編み物で時間を潰し、糖分補給症状が現れた咲月は賄いパフェで蕩け中。
 柊と流架はというと、客の退けたテーブルの後片付けに勤しんでいた。食器を重ね、膳を拭き、ナプキンの補充をして――、ふと。
 柊が記憶を辿るような眼差しを覗かせた。そして、流架へと移る。

「そういえば、前にどうして俺と月が付き合っていないのか――そう訊かれたことがありましたよね?」

 唐突な話題に、流架は「え?」と驚き顔になった。
 表情に戸惑いを浮かべている彼へ、柊は小さく笑う。

「俺、高校入学する前に告白してるんです。“何か違うから、無理”って言われて断られましたけど」
「……ふむ、そうだったのか」
「安心しました?」
「は? ……何故?」
「いえ、何となく」
「教師をからかうもんじゃないよ」

 苦く、微笑んで。
 流架は柊に留めていた目線を、ふぃ、と外し、テーブルへ戻した。そして、疎かになっていた手元を動かし始める。柊からは後ろ姿なので表情は窺えなかったが、それでも。

「でも……俺は、今はそれで良かったと思ってます」

 真剣な面持ちで彼に伝えた。

「俺との“約束”、違えへんで下さいね」





 見えないから存在しない――それは事実ではない、“誰か”のココロの行き先は果たして?



「終わったー……」

 良い子はもう眠る時間だけれど、今日は大晦日。
 閉店後の清掃を終えた咲月達が向かった先、そこは、穏やかに賑わう神の座――神社であった。

「お、見えた見えた。へぇ、結構人いんじゃねーか。日本人も信心深ぇのね」
「う……? 伊藤先生は外国の人だったね……? あ……伊藤先生……“あの時”、治療してくれてありがと……」

 道行く人混みの中、咲月は控えめに立ち止まると、ぺこり。ダイナマへお辞儀をした。彼女の律儀な態度に、ダイナマは「それがオレの役目だかんな」と言って柔らかく笑む。

「ま、お前さんが思う限り色々やってみ。罰は当たんねーぜ、多分」
「んむ……? よく分かんないけど、分かった……。おー……着いたー……ここ、春になったら桜が綺麗……」

 鳥居の前まで小走りして、咲月は白い吐息を零した。
 ニットワンピースの裾をひらひら、蝶の羽のように揺らして境内へ向かう。

 神社も年末は神様のお迎えの準備がばっちり済んでいるのだろう。雰囲気は清々しい。
 さて――。
 先ずは年越し前にきちんと参拝。手水舎で身を清め、神前へ。

「(来年も、皆が幸せでありますように……)」

 宵に月が微笑んで、

「(約束を守れるように。そして、月達が幸せであるように)」

 月に椿が頭(こうべ)を垂れた。

「柊……今年も一年ありがと……来年も宜しくね……?」
「ああ。俺の方こそよろしく、咲月」

 一年の感謝と、新年に向けての心構えを確かめ合って。
 流架達と出会う前から幾年も共に心を通わせていた彼女達を、流架は眩しそうに眺めていた。そんな彼に気づいたのか、咲月が傍に走っていって――なでなで。

「先生……今年一年お疲れ様……」

 スニーカーな爪先をちょんと伸ばして、彼の頭を慈しみ深く撫でた。

「来年も宜しく……あと、先生の一年良い事がありますように……」

 頬を傾けて目を細める咲月にゆるりと瞬きを返した後、流架は彼女の片頬をやんわりと包んだ。その優しい体温に、咲月はほっと息をつく。

「ん、来年も、その先も、どうぞよろしくね。そして……君にも、沢山の幸が訪れますように」

 互いに唇を綻ばせて、願う。















「なぁ、鴻池。やっぱオレのストール一緒に巻か――」
「巻きませんよ」
「ちぇー」
「不貞腐れてるんですか?」
「オレが? まさか。お前さんはどーなのよ」
「高校を入学する前の俺だったら、もしかしたら。……もう少しくらい、我儘させてやりましょう」
「あいよ」

 気負いのない柊の視線が、腕の時計に落ちる。

「初詣というか、年末詣になってしまいましたが……明けますね。そろそろ」
「お、そっか。あー、毎度ながらに良い年だったわ。来年もよろしく頼むぜ。鴻池」
「此方こそ、お世話になります」

 カチリ、コチコチ。

 空の寒さに滲んだ空気が、はらはらと。

「は……屋台で買い食いしなきゃ……」
「やや、いいね。先生はベビーカステラ買おうかな。君は何が食べたい?」
「んと……私も……カステラ、食べたい……。半分こ……してもいい……?」





 幸せが明けて、また新しい幸せがきらきらと。

 明日の空も、
 明日の心も、

 温もり分け合う“誰か”が待っているから。





 ――――小雪はらはら、舞う。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja0156 / 常塚 咲月 / 女 / 21 / 縁糸を繋いで】
【ja1082 / 鴻池 柊 / 男 / 24 / 残香を追って】
【jz0111 / 藤宮 流架 / 男 / 26 / 月導を辿って】
【jz0126 / ダイナマ 伊藤 / 男 / 30 / 邂逅を偽って】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
平素よりお世話になっております。愁水です。
大変お待たせいたしました……!
いつも美味しいご発注をありがとうございます。毎度ながらお優しいお言葉に甘え、文字数ぱんぱんで御座います。
お心のすれ違いがないことを祈って――此度のご縁、誠にありがとうございました!
初日の出パーティノベル -
愁水 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年01月18日

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