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『始まりの日だからこそ 』
佐倉 樹aa0340)&真壁 久朗aa0032)&セラフィナaa0032hero001)&シルミルテaa0340hero001

●後ろの傍観者達
 日付が変わり、新しい年になって少しばかり時間が経過した頃。
 急勾配の坂道を登っていく4人組がいた。
「……こんな時間に出歩くなんて危ないだろ」
「その言葉は全国で初日の出を待つ人全員に向けて言うべきだと思うけど」
 目の前で繰り広げられるいつもの会話は、時間帯も考慮されての音量。
 シルミルテ(aa0340hero001) がセラフィナ(aa0032hero001)に振り返ると、星の川の瞳がくすりと笑う。
 作戦は、無事に成功しているようだ。

 初日の出、一緒に見たい。

 シルミルテとセラフィナが揃って申し出た時、佐倉 樹(aa0340)と真壁 久朗(aa0032)は揃って微妙な顔をした。
 俗に言うチベスナ顔をしている能力者達へ尚もせがむと、共に英雄のお願いを断れない両者は初日の出を一緒に見に行くことで合意したのだ。
(僕達は僕達で楽しみましょう)
(ソウダネー。お正月ダモノ)
 ふわふわのマフラーの下の口元を緩ませ、セラフィナが聞こえないようにシルミルテヘ声を掛けると、お気に入りの真っ白なマフラーの下でシルミルテも同意する。
 樹と色違いデザインのピンクのロングケープから、ふわもこの手袋に包まれたシルミルテの手がすっと出てきた。
「一緒に行コー」
「新年ですからね」
 セラフィナは小さく笑うと、白いケープから手を出し、シルミルテの手を取る。
 こうして、初日の出を観るのは初めてだから、セラフィナ自身も純粋にはしゃぐ気持ちがあった。
 勿論、シルミルテと同じように、セラフィナも久朗を想って、今回謀った訳だが。
 ずっと孤独だった久朗は感情を押し殺して過ごし続けた結果、自分の感情に気づく術を持っておらず、ごく自然に素にならないから。
「いツ登ッテモ急ダネー」
 セラフィナをフォローするように手を繋ぐシルミルテも、樹と久朗の憎まれ口の叩き合いは介入しないでいる。
 オフホワイトのタートルネックニットワンピースと温かいタイツとムートンブーツで他の防寒もお洒落に完璧といった可愛らしい姿とは裏腹に大切な半身と思う樹への想いはその外見を遙かに超えるものだ。
 樹は自身の異常性を理解し、独特の価値観に基づき、淡々と行動している。
 無理に『普通』を装うことはなくなった樹にとって、着飾らずに対応出来るのが久朗だ。憎まれ口を叩くも、素が出せるという意味で気楽な腐れ縁。
 だから、新年最初の日の初日の出というイベント位は素のままで。
 そうした願いで、2人は彼らにこの4人だけで初日の出が見たいとせがんだ。
「観るって、どこで」
「いつもの空き地なら、近いし、すぐ帰れるから良くないか?」
「中間地点だし、そこがいいか」
 このような樹と久朗の協議(と言うには簡単過ぎだが)の結果、両者の家の中間にある小さな空き地で見ることとなった。
 この小さな空き地は、急勾配な坂道が多い住宅街の一角、それも坂の上にある。
 任務に共に向かう際の待ち合わせや任務を終えて帰る際の解散場所にもなっており、彼らにとって馴染みの場所だ。
 何故わざわざ坂の上の場所かというと、地図上ガチの中間地点がそこだったからという何とも単純なものである。
 一応地主に話を通す形でその場所を馴染みにしており、今日もそちらへ許可を取って向かっているのだ。
「モチロン、セラフィナとモ初日の出一緒に観タかッタヨ?」
「僕も一緒に観ることが出来て、嬉しいです」
 シルミルテにとっても、セラフィナにとっても、互いが1番仲が良い友達。
 互いに能力者を案じていることも知っているから、今こうして一緒に歩いているのだろう。
 親友、と言い切って貰うには、もうちょっと互いの内に入り込む必要はあるものの、一緒にいて楽しいと思う気持ちに変わりはない。
「晴れテルカラ、初日の出モきット綺麗ダヨ」
 シルミルテがセラフィナを見、笑う。
 セラフィナの、どこまでも澄み渡る星空も、時折宇宙に投げ出されて旅をしているかのような不安定さも……全てひっくるめた大好きを込めて。
「ア、チョット遠慮ネー」
 何かに気づき、宙を見あげて、シルミルテが口をもぐもぐさせたが、その行動の真意は当事者たるシルミルテ以外本当の意味で理解は出来ないだろう。
 ただ、シルミルテが、今年初めての時間を大事にしたいことだけ解ればいいのだ。

●先を行く当事者達
 樹はシルミルテと色違いデザインのワインレッドのロングケープを翻し、久朗を見た。
 年が変わっても、彼の装いは何も変わらない。ダークグレーのタートルニットに黒のPコート、コートと同色のチノパンと夜の闇にでも紛れるつもりかと思う。
(まさか初日の出をくろーと観ることになるとは)
 新年早々の腐れ縁だ。
 黒いマフラーの下で樹はやれやれと吐息を零す。
 シルミルテからセラフィナと一緒に過ごしたいとせがまれると、断るのが難しい。
 それは恐らく、久朗も同じなのだろうが。
「いっちゃん、ちょっと待って」
 久朗は後方のシルミルテとセラフィナとの距離が少し離れたことに気づき、足を止めた。
 2人共余力がないということではないだろうが、コンパスの差による遅れはあるだろう。
「少し距離離れたね」
 樹も彼らの好きなように過ごさせたいと思っているが、そこは気遣って、久朗の隣で足を止めて待つ。
 待つ間、2人分の白い息がふぅっと漏れて、太陽を待つ暗闇の空へ消えていく。
(誰かと観る初めての初日の出が、いっちゃんとはな)
 今まで孤独だったからこそ、誰かと共に観る初日の出には少々高鳴る気持ちがあるのだが、側にいるのが腐れ縁の樹だ。
(そういえば、よく知らない)
 いつ知り合ったのかさえよく思い出せない程当たり前のような腐れ縁なのに、何を知っていると聞かれると何も答えることが出来ない。
 久朗は、今更ながらに気づいたのだ。
 尋ねる? 何を?
 この胸が平たい女に、お前を教えてくれとでも言うのか?
(……聞くまでもないか)
「お待たせしました!」
「オ待たセー」
 久朗が緩く首を振っている間に、セラフィナとシルミルテが到着した。
「くろー、早く行かないと日の出に間に合わないよ」
「解ってる」
 樹に言われ、久朗は変わらない憎まれ口と共に歩き出す。
(何で、こいつは今でも自分の横にいるのか?)
 よく知らないのに。
 けれど、問うことは出来ない。
 自分でもよく解らないが、よく知らずとも樹の胸は平たいままで、理解し切れない当たり前の腐れ縁でいいと思っている。
 ずっと孤独でい続けた為に関係変化を、そのことで壊れる時間を少し恐れている───それを具体的に思った訳ではないが、聞かなくていい、話したければ話すだろうという結論へ至らせたのは確か。
 久朗の少し高鳴る気持ちは彼の胸の内に留まるのみである。
「日の出には十分間に合いそう」
「さっき、俺を急かさなかったか?」
「くろー……日の出の時間もチェックしてないの?」
「ぐ……」
 樹の切り返しに久朗が言葉に詰まる。
 日の出の時間を調べていれば、時計を見て、まだ十分に余裕があると気づけたのは事実で、樹に言い返すことが出来ない。
 同時に、樹が言っていた意味を正確に理解した瞬間である。
 とは言っても、樹は久朗を貶める意味で言った訳ではないことも理解しているのだ。
 初日の出に間に合わなかったら、シルミルテもセラフィナもがっかりしてしまう。
 久朗にとって、大切な兄弟のようなセラフィナが久朗が寒さに震えなければいいと過保護にも心配する程度には寒い中、坂道を歩いているのだから、間に合わなかったら……それは、久朗も落胆することだと樹は知っているから。
 久朗にしろセラフィナにしろ、樹にとってどうでもいい風景ではないから、そう言ってくれるのだろう。
 ……というのは、通常久朗は疎いので気づかない。
 が、シルミルテを落胆させたくない樹は想像出来るから、逆にすれば、そうなのかもしれないとは思う。
 それがなければ気づかないかもしれないから、久朗の配慮はまだ範囲が狭いと言えるが、不器用でも、計算のない優しさがある。
「……見えてきたぞ」
 久朗が馴染みの空き地を視界に捉え、呟いた。

●日の出を待つ
 やがて、4人は馴染みある空き地へ到着した。
 坂の上にあるからか、意外に見晴らしがよく、初日の出の邪魔をするような家屋はない。
 ごく単純な理由でこの空き地を選んだが、穴場であったらしく、場所選びには成功したと言えよう。
「シリィ、ほっぺ、寒くなってない?」
 一息ついた樹がその愛称で呼ぶと、シルミルテは「風冷タかッタカラ」と笑う。
 シルミルテが自分にだけ許してくれた愛称だから、樹もその名を呼ぶ状況を選んでいる。
 2人きり以外では、久朗とセラフィナしかいない時だけ。それ以外ではその愛称でシルミルテを呼ばない。
 そういう意味では、彼らにだいぶテリトリーを許している。
「シルミルテと色違いで同じ格好をしているんだよな?」
「それが何」
「背丈以外の変化がない」
 久朗が割と真顔で言ったので、樹は今度彼に胸パッドを差し出し、自分で装着して実感してみればと言ってやろうかと思ったが、とりあえずその野望は胸に秘めておく。
 尚、胸に秘める、と、断念する、は、イコールではないことは明記しておこう。
「一応、カイロと少し摘めるものなら持ってきた」
 久朗は、手持ちのバッグからカイロを出す。
 続けて、一口サイズに切られたホットケーキと温かいココアが入った水筒。
「クロさんのホットケーキは冷めても美味しいんですよ。勿論、焼き立てが1番ですけどね」
「温カくテ甘くテ美味しイネー」
 ホットケーキを食べるセラフィナの横でシルミルテがココアをふーふーして飲んでいる。
 どうやら、彼らを気遣ったのだろう。英雄である彼らはこの世界の病である風邪とは無縁であっても、その寒さを放っていいことはないから。
 機微に疎い朴念仁呼び声高い久朗であるが、セラフィナが久朗に大きな影響を与えているのだろうと判る。
 尤も、樹にはそれらも背丈の違い程度の範疇になってしまうのだが。
(時々、水に雨が落ちたみたいに波紋が細波だってるように見えるけどね)
 でも、セラフィナは純粋で澄み渡ってるから、久朗とは互いにフォローし合う関係でいられるのだろうなと思う。
 親密なる宿敵『くろー』は、何だかんだで自分を裏切ることはないと思っているし、腐れ縁は続いていく気がする。その時、セラフィナはごく自然に久朗の傍にいると思うのだ。半身であるシルミルテがごく自然に樹の傍にいてくれるように。
(……ここは、ちゃんと息が出来る)
 好きか嫌いかと聞かれても、久朗とセラフィナに関してはよく解らないと首を捻るが、一緒にいて居心地がいいことは確かで、ありのままの自分が呼吸出来ると思う。
 共に在る『彼ら』とは息が詰まる、という意味ではない。どうでもいい相手を記憶に留めることなどしない。何度も戦場を共にしたりもしない。
 強いて言うなら、本能的なもので、理屈で語れるようなものではない何かがそう思わせているのだろう。
 恋とか愛とかそういった感情ではなく、自分を裏切らないだろうと当たり前のように思える何かがある。
 言う程のものでもないので、樹も久朗からホットケーキとココアを受け取った。
「美味しイネ」
「固くなってないんだね」
「ホットケーキミックスによってはそうなるな」
 シルミルテに応じた樹が久朗を見ると、久朗はそんなことを漏らした。
 久朗は不器用だが、途中で投げ出したりしない忍耐強さはあるので、実を結べば持続力はあるのだろう。戦いにおいても、そうした忍耐強さが粘り強い守りを生むのかもしれない。
 樹はひとつ呼吸をしてから、ホットケーキの最後の一口を放り込んだ。
 そろそろ日の出の時間……折角に見に来たのだから、見逃すことなんて出来ない。
「方角、どっち?」
「俺のこと笑えないだろ」
「それはそれ、これはこれ」
 樹が方角を確認すると、久朗が呆れる。
 すかさず樹が切り返すが、セラフィナが「あっ」と声を漏らしたので、2人も憎まれ口の叩き合いを止めて、太陽の方角へ顔を向けた。
 交わらない平行線でも、こいつは絶対裏切らないという信頼がある近さはある。
(同じこと思ってそうだが)
 久朗は何となく、そう思った。
 そして───
(くろーだから?)
 憎まれ口を叩きながら、樹も同じ確信を抱いていた。
 口で表現が難しい信頼は、今年も去年も変わらない。

●今年初めての太陽
 太陽の光が空の色を変えていく。
 完全に姿を見せるのにはまだ時間が掛かるだろうが、これが今年の初日の出だ。
「初日の出観ると、年が変わった実感がするね。……改めて、あけましておめでとう。今年もよろしくね」
 樹が新年の挨拶を告げる。
 年が切り替わってすぐ太陽が昇る訳ではない為、新しい年は既に始まっているものの、やはり初日の出を観て実感したのだろう。それは頷ける。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
 待ち望んでいた初日の出の喜びから、新年の挨拶へ切り替えたセラフィナは丁寧に頭を下げる。
 それは、久朗が唯一素のままで接することが出来る相手に対する挨拶でもあった。
 セラフィナは語られない樹の本質を何となく察しているが、そこに触れないのは、樹への信頼からである。
「ほら、クロさんも!」
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
 セラフィナに促された久朗も新年の挨拶。
 シルミルテも「あケましテおメデトうござイマス」と新年の挨拶をしながら、久朗を見る。
 セラフィナがもっと幸せになって欲しいと思い、孤独な人生を歩んだりしないようにと何かしら理由をつけて外出させ、交流させようとしているのは知っている。
(ボクネンジン)
 久朗の前では大人びた面はあっても年相応の少年となるセラフィナは、彼の相棒……シルミルテとしてはセラフィナのことをセラフィナとしてまっすぐ見て貰いたいと思う。
(良い人ダケドネ)
 樹も忌憚なく喋る彼は、その術を知らずに育った不器用な人。
 そうと判るから、シルミルテはお口にチャックして、2人を見守るのだ。
「そういえば、僕は初めてのお正月なんですが、お正月はどんなことをするのでしょうか」
 セラフィナが聞きたかったらしく、正月についての質問を挙げた。
 シルミルテは樹と共に在って日が経過しているからお正月の過ごし方は知っているが、セラフィナは初めて迎える分分からないようだ。
「初詣は……明後日皆で行くから、その時に教えるとして」
 何があるだろう、と久朗は樹とシルミルテを見た。
「オ節やオ餅食べタリ?」
「その餅を突いたりもするな」
「あと、お正月じゃないと羽子板で遊んだりしないね」
 シルミルテが小首を傾げて答えると、久朗が餅つきもこの時期じゃないとしないと続く。
 すると、樹も正月じゃないとお目にかかれない遊びがあると言い出した。
「それ、全部やりたいです」
 セラフィナが初めて迎えるお正月なのだからと声を弾ませた。
「それに、近くてもいいですから、旅行にも行きたいです」
 その旅行はここにいる全員がいること前提なのは言うまでもないだろう。
 いや、お節や餅つきでついた餅を食べるのも、正月ならではの遊び全般も、セラフィナは前提として言っている。
「行コー行コー」
 シルミルテが誰よりも早く賛成をすると、セラフィナが「まずは何からしましょうか」と嬉しそうに微笑む。
 樹と久朗は思わず、顔を見合わせた。
 やっぱり、やっぱり……今年も腐れ縁は続いていくのだろう。
 お互いの顔にはっきり書いてあるのを確認し、それから、彼らの英雄達へ顔を戻した。
「とりあえず、初日の出は終わったから帰るぞ」
「長居しても、地主さんに悪いからね」
 その点に関しては意見を一致させた腐れ縁能力者達へ、素直に応じた英雄達は彼らが見ていない所で顔を見合わせて笑った。
 きっと、今年もこんなやり取りが沢山あるのだろうけど。
 願うのは、彼らが彼ららしく、そして、去年よりももっと幸せになってくれること。
 だから、今年も、彼らと一緒にいよう。

 今年最初の太陽は、彼らのありのままの姿を照らしている。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【佐倉 樹(aa0340) / 女 / 19 / 能力者】
【シルミルテ(aa0340hero001)  / 女 / 9 / 英雄(ソフィスビショップ)】
【真壁 久朗(aa0032)  / 男 / 24 / 能力者】
【セラフィナ(aa0032hero001) / ? / 14 / 英雄(バトルメディック)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度はご発注いただきましてありがとうございます。
馴染みの場所で初日の出を共に見るということでしたので、各々メインになる描写を踏まえつつ、その心の動きを描写させていただきました。
同時に、何だかんだで一緒にいる腐れ縁を兄弟のような間柄、半身という恋愛とは少し違う目線で見守る友人同士を意識しました。
この翌々日に初詣となりますが、それまでも皆さんでお正月を満喫していただろうな、と思っております。
本年も皆様にとって良い年でありますように。
初日の出パーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年01月19日

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