『友情のハロウィン 』

龍華　狼（ka4940）＆鬼百合（ka3667）

●
『TRICKorTREAT♪』
　――それは今日がもっと楽しくなる合言葉！


「すっげぇ……！」
「これがハロウィンのお祭りなんですねぃ……！」

　まるで御伽噺のように夢で溢れ、非日常な世界観に染まった街は訪れた少年二人を歓迎する。よりどりみどりのお菓子に、行き交う人々の個性的な仮装。お菓子な街のハロウィンのお祭りは、一瞬で彼らを虜にした。
　なんだか楽しくて、素敵な事が起こりそうな予感！
　そんな胸の高鳴りが止まらない龍華　狼（ka4940）と鬼百合（ka3667）は周囲を見渡し夢中になっていた。因みに狼は狼の被り物と肉球グローブを身に着けて狼男に、鬼百合は角を着けたりして鬼に仮装中。街のお祭りを目一杯楽しむつもりで遊びにやって来たのである。けれども初めて訪れた場所というのもあって、見ているだけで精一杯。

「やぁ。楽しんでる？」

　ハロウィンカラーのパティシエの仮装をしたお兄さんに声を掛けられたのは、そんな折だった。
　見るからに爽やかで優しそうな人。観光でやって来た雰囲気ではなく、恐らく街の人なのだろう。狼と鬼百合は満面の笑顔で応える。

「はい、とっても」
　狼はとびっきり愛想よく言った。そして鬼百合も、瞳をキラキラ輝かせながら狼に続く。
「オレ達、ハロウィンって初めてで。こうして歩いているだけでも楽しいでさ！」
　そう、今日は友達との初めてのハロウィン！
　まるで冒険の始まりのようなワクワクが、少年二人の心を弾ませているのだ。
「おー！　君達初めてだったんだね。と言う事は、この街のハロウィンも初めてかな？　……じゃあ二人に良い事を教えてあげるよ！」
「良い事、ですか？」
　狼が首を傾げると、お兄さんはうんっと頷く。
「そう、良い事！」
　そして二人だけに秘密の話をするように、お兄さんは紡いだ。
「『トリックオアトリート！』。この合言葉を唱えると、お菓子が貰えるんだ。そう、僕達パティシエの卵にねっ！」
「「！！」」

　一見は、ハロウィン祭。
　しかし此処はお菓子で有名な、子供達の夢がいっぱい詰まったエンターテイメントの街―――
　このお祭りにはこの街ならではの、『子供達の為に、沢山の可能性と将来を期待されたパティシエ見習い達が腕をふるう毎年恒例のお菓子祭り』、という顔があったのだ。

「そうだったんですね？　全然知らなかったです」
「あはは、声を掛けて良かったよ。――と言う訳だ。さあ、次は言ってみようか。合言葉はもう知っているだろう？」

　お兄さんが微笑むと、きょと、とした狼と鬼百合は互いに顔を見合わせた。
　そうしたら『合言葉』の意味に気付いて、にかっと笑い合う。
　そして唱えるだろう―――

「「トリックオアトリート！」」

　――合言葉の呪文を！

「うん！　完璧だ♪　ハッピーハロウィーン♪♪」

　すると優しい笑顔と共に、お兄さんはあるものを取り出した。
　大きなペロペロキャンディー。
　オレンジとパープルがぐるぐると巻き合って、透明な包みにチェックのリボンを結んだ華やかで可愛いお菓子だ。
　これは勿論、狼と鬼百合へのプレゼント。

　二人は手に取ると、感激で表情が輝く。

「わ、わ、ハロウィンってすっごく嬉しくなるお祭りなんですねぃ！」
　鬼百合はキャンディを持ちながら幸せそうに、へらりと緩く微笑みを浮かべた。

「へへ。喜んで貰えるのが一番嬉しいよ」

　そんなお兄さんに、二人で『ありがとう』と言ったら、彼はちょっぴり照れているようだっただろう。喜んで貰えて本当に嬉しかったようだ。


　ハロウィン祭ことお菓子祭。街には何百人ものパティシエ見習いの仲間が居て、皆、お兄さんと同じようにお菓子が大好きな人にお菓子を配っているのだという。
　そしてお兄さんは薦めた。『折角のお祭りだ、沢山お菓子を貰ってね！』――と。

「はい！　そうしたいと思います」
　狼は素直な子供のように愛嬌のある笑顔をお兄さんに浮かべた。
　……しかしその後「あっ！」と声を出して振り返り、鬼百合を見る。
　友達と遊びたい盛りの、年頃の少年のような瞳で。


「どっちが多くお菓子を貰えるか競争だ！」

　――競争。

　鬼百合は、（「これはまた狼らしい提案ですねぃ」）なんて思いつつ、「いいですぜ！」と答えた。
「ぜってぇ負けねーからな！」
「オレだって負けねーんですからねぃ！」

　そうして約束する。
　いっぱいお菓子を集めて、集め終わったら『オレ達の秘密基地に集合』！
　お菓子の数の勝負をした後、
　一緒にお菓子を食べよう――、と。


　笑い声を街に響かせて、楽しげに。
　ゆっくりと進む刻の中を、少年達は駆け出していく。



（「張り合いかぁ……。俺も昔はよくやってたっけ……」）


　無邪気に走って行ってしまった少年達を見つめるお兄さんの瞳は、何処か懐かしそうに潤んでいた。
　彼らがとてもきらきら輝いていたから――お兄さんにも在った、心の奥でずっと在った、少年の頃の想い出を間近で眺めているような気持ちになったのだ。


　今日は楽しいお祭り――
（「彼らにとって最高のハロウィンとなりますように」）



●

　街に何百人と居るパティシエの卵達は皆、とても嬉しそうに子供達にお菓子を配って居る。一方の子供達も沢山のお菓子を抱え、そして新たなお菓子が貰えるように目一杯駆けまわっていた。そんな、夢のようなお祭りの中。
　狼と鬼百合も全力でお菓子を集めていた。
　どちらが多く貰えるかの勝負の為――其々の想いを胸に抱きながら。


「ありがとうございます！」

　―――狼は大人に対して愛想がよく、礼儀正しい。
　そしてどうすれば相手が喜ぶかをよく知っていた。
　それは今迄の経験から学んだ、所謂処世術。

「全部お姉さんが作ったんですか？　凄いですね。綺麗だし可愛くて、食べるのが勿体無いです」

　トリックオアトリートと言って、貰ったお菓子を眺めた狼がそう言うと、パティシエのお姉さんは照れながら色んな種類のお菓子をくれた。
　いっぱい貰えて、心の中では（「ヨッシャー！」）とガッツポーズをしているけれど、表面ではにっこり。
　可愛い子供を演じて、既に沢山のお菓子をＧＥＴしている。


（「順調順調……。この調子じゃあ楽勝かもしれねぇなっ！」）


　―――なんて自信に溢れ乍ら、楽しくてわくわく。
　この勝負に勝って、早く『俺凄い』ってしたい！
（「今頃鬼百合どれぐらい集めてるかなぁ」）って、うきうき気分で考えている頃。


　鬼百合は元気いっぱいに別のパティシエのお姉さんに突撃していた。
「トリックオアトリート！」
　笑顔で明るく。
　無邪気さに癒されたお姉さんもつい笑顔を浮かべながら、お菓子を配る。
　――そして鬼百合の手の一杯のお菓子を見て、目を細めた。

『沢山集めてくれてるのね』

　鬼百合はその言葉に「えぇ！」と返し、今、友人と貰うお菓子の数の勝負をしている事を伝えた。

『あら、そうだったの？』

　―――だったら、勝つ為に頑張っちゃうわよね。

「んー……ちょっとだけ違いまさぁ」

　鬼百合は少し考えてから、小声で零した。
　その解答にお姉さんはきょと、とする。

「あぁ、いえ！　姉さんの言うように、勝ちたいんですけどね。でも勝ちたいというより……、
　―――負けられないんでさ。オレが、オレのダチにとって支えられる友である為に」

　だから頑張るのだ、と。
　そんな鬼百合の気持ちを聴いたお姉さんは、とても温かな気持ちになる。

『大事なお友達なのね』

　鬼百合は頬を緩め、そして曇りなく、何よりも輝いている笑顔を浮かべながら頷いた。






「凄く大事なダチでさ」





●
「俺の方がぜってえ多かったのになぁ」
「狼はいつまでこだわってんですかぃ。……まーオレの方がちょっと多かったですけど」

　自然多い丘に立つ一本の大樹。
　その枝に沿うように作られたのが、少年達の秘密基地―――。

　お菓子はこのとおり、お互いのを合わせて秘密基地を埋め尽くす程の宝の山のようにいっぱいに集まっていた。
　……だが肝心の勝敗の行方の方は結局分からず仕舞い。
　カウント中にいつのまにか混ざってしまい、数える事が出来なくなってしまったのだ。そうした事から、先程からずっと口で張り合い続けている。
　お菓子は口に入れるととても甘くて、美味しい。
　狼に負けじと鬼百合も自分の勝ちを主張していたが、そんなことは本当はどうでもよくって。
　ただ、一年前迄は、身近に居なかった同年代の友人。彼が居てくれることの喜びと心強さを深く実感していた。

　そんな時、鬼百合はある事に気付く。

「狼、その足……怪我したんですかぃ？」

　服に滲む、赤い染み。
　思い当たる節はあるようで―――。

「う。なんでもねぇ……。ただちょっと、風船が木にひっかかったとかでびぃびぃ泣いてる奴が居て、なりゆきで取ってやった時に足が滑って落っこちただけだし」
「おお。そうだったんですねぃ……」

　どうやら狼は、お菓子を集めている最中に色々あったらしい。
　傷を癒す為手当てを施しながら、鬼百合はぽそりと言う。

「泣かなかったですかぃ？」

　微笑むように、心配するように。

「な、泣いてなんかねえよ！　ど、どうしてそう思うんだよ……」
「そりゃあわかりますって、狼のことは」
　そう言われ「？」と首を傾げつつ鬼百合を見る狼。
「狼のことならいっぱい知ってますぜ。オレにはすぐ張り合ってきて、泣き虫の癖に頑張り屋で、すぐ抱え込んで動けなくな―――」
「そっそんなんじゃねぇし！」
　間髪入れず咄嗟に否定した。けれど鬼百合は「あはは」と笑って、続ける。
「……けど狼のそういうところ、強いなって思いますぜ」
「――！」
　狼は驚いた後、顔が少し赤くなっていた。
「なんだよそれ……」
　と、零す照れ隠し。
「つまりオレはお前の事、ちゃんと見てるってことでさ。大事なダチですから」
「……っ」
　鬼百合のまっすぐな想いに、狼は次第ともっと赤くなった。
　眉を潜め、視線を逸らしながら。
　――けれど、嬉しくなかった訳ではない。
　言葉にするのは恥ずかしいけれど不器用に、想いを張り合った。
「お………俺だってな。鬼百合は……ハンターになって初めて出来たダチだから。だから……なんだかんだ言っても大事にしたいと思ってる……っていうか…………」
　此処まで言ってしまえば、後はもう勢いだ。
「鬼百合の前で喜怒哀楽とかそういうの激しくなんのも、何にでもすぐ張り合おうとするんのも、俺凄いってしたいのだって、それは……それだけ気を許してるって、証拠だし………」
　―――彼は歳も一緒で、気兼ねなく接する事が出来る貴重な相手。
「弱いところも見せたけど、ずっとダチでいたいと思って……る」
　―――ずっとこの友情が続けばいいと想っている相手。
　だからビシッと言いつつ。
　そして気恥しそうに鬼百合を見る。

　すると鬼百合は、笑顔を浮かべていた。
　明るくにっこり。
『嬉しい！』
　――と、全身から叫ぶように。

「オレも信じてますぜ！　狼となら、ずっとダチでいられるって。それに―――。
　オレはお前の隣を歩いていきたいんでさ！」

　―――忘れないでほしい。
　―――大事なダチだからこそ、『対等』でいたい事を。
　―――狼が『弱い』と言った部分を、弱いだなんて思ってない事を。

　だからこそ、もしも辛い時は頼って欲しい。
　そんな願いを吐き出しながら―――、

「それにしても……なんだか恥ずかしいですねぃ」
「鬼百合から言いだしたんだろっ！」

　今になって照れる鬼百合と、つっこむ狼。
　……けれど。
　次にはもう、お互い噴き出して笑った。

　そして優しい風が―――彼らを撫でるように吹いていく。
　賑やかな笑い声を乗せるように。
　金平糖のように鮮やかで綺麗な星夜に包まれながら、
　運ばれた風が小さな紫の花を揺らす。


「また次の年も、こうして一緒にいられやすかねぃ」
「当然じゃねぇか。　俺達は『最高のダチ』………だろ？」


　悪戯な夜に少年達は絆を深める――
　この日のお菓子の味は、大切な友人と一緒に味わったいつまでも特別な宝物。


　友情よ、永遠に。



　HAPPY HALLOWEEN ☆





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka4940　／　龍華　狼　／　男　／　11　／　男の友情を築く狼】
【ka3667　／　鬼百合　／　男　／　11　／　男の友情を築く鬼】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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たいへんお待たせしてしまい、本当に申し訳御座いませんでした…！
こんにちは、瑞木雫です。この度は、ゴーストタウンのノベルの御依頼頂きまして、誠にありがとうございました！
お言葉に甘えさせて頂き、アドリブ満載です。ほのぼのな雰囲気……それから『少年らしさ』と『男の友情』をテーマに描写致しました。いかがでしたでしょうか？
もしも内容の中に不適切な点等御座いましたら、是非、遠慮なく仰ってくださいね……！

お二人にとって友情のハロウィンの物語となれていますように。

ゴーストタウンのノベル

瑞木雫

ファナティックブラッド

2016年01月26日