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『笑顔のために 』
ガルー・A・Aaa0076hero001)&Лайкаaa0008hero001

「……邪魔をする」
「おー、いらっさい」
 のっそり、とでも形容できそうな動きで、Лайка(aa0008hero001)は薬屋の奥へ――居住区へとつながる暖簾をくぐり抜けた。肌の露出を極限まで避けた服装は真冬らしいものだったが、真剣さを帯びた表情が近寄り難さを助長している気がする。
 応対するのは肩に白衣を引っ掛けた、一見するとだらしなさすら覚える男――この小さな薬屋の店主、ガルー・A・A(aa0076hero001)である。ようよく見ればその体躯は鍛えられた男性のそれであるため、着崩された服装も彼によく似合っていた。
「お? もしかしてそれ手土産的なやつか?」
「うまいと、評判のケーキ屋で買ってきた。……まずかったか?」
「全然! 甘いもん好きだし」
「……俺もだ」
 嬉しげに笑うガルー。つられるようにして、ライカもそのとっつきにくさを覚えるような表情をほんの少しだけ緩めてみせる。ガルーはちょっとだけ意外そうに片眉を上げたが、それ以上何も言うことなく引っ張り出してきた座布団をぺふと叩いた。
「まぁ遠慮しなさんな、好きなとこに座ってくれ。今紅茶淹れてくる」
「悪いな」
 いそいそと台所に消えてゆく背中を見遣って、ふと、ライカは部屋に甘い匂いが漂っていることに気が付く。この家はいつもなんらかの薬品の匂いが漂っているが、それとはまた別の――そう、焼き菓子の香り。
「……もしかして、何か、作っていたのか」
「ん?! ……よくわかったな」
 ティーカップセットを持って現れたガルーに問いかければ、彼は一瞬面食らった顔をして、そうして「ばれてしまってはしょうがない」とでも言いたげな表情になる。
「丁度クッキー作ってたんだよ。たまたまな、たまたま。別にお前さんが来るからわざわざ焼いてたワケじゃないぞ」
「そうか」
「おう」
 不毛な会話である。
 いたたまれなくなったガルーが二人分の紅茶をティーカップに注いだ。
「……」
「……」
 この上なく不毛である。

「いやこんなことやってる場合じゃないんだよ」
「む」
 無言で過ごすこと数十秒。気まずさと気恥ずかしさから立ち直ったガルーが唐突にすっくと立ち上がった。
 そうして足早に台所へと消えて行き、戻って来たガルーの手にはこんがりと焼けたクッキーが。
「美味しそうだ」
「そりゃどーも」
 まだどこか不貞腐れた感のあるガルーに、ライカは裏表のない瞳で賞賛の言葉を送る。嬉しさを隠すような微妙な表情を見せるガルーは、結局唇をへの字に曲げたまま、ライカの手土産に手を伸ばした。
「……この間さぁ、あいつにクリスマスプレゼントの存在がバレかけてな」
 あいつ、とはガルーの相棒である能力者の少女のことだ。
 ガルーは嘘をつくのが苦手である。ついでに、機微に富んだ細やかな会話というものもあまり得意ではなかったりする。単刀直入に本題へと入ったガルーに、同じような性分のライカも特に何も言わない。
「なんとか誤魔化したんだが、なんとなく不信感持たれてる感もあるんだよな。お前さんとこはどうだ? プレゼントの存在がバレたとか、サンタの存在が揺らいでるとか」
「……そう、だな」
 ライカが持ち寄ったのは、スティック状のチーズケーキとカスタードがたっぷり挟まれたワッフルであった。少し多めにあるのはガルーの相棒の分なのだろう。それはありがたく頂戴することとして、とりあえず今食べる分を取り出して各々の前に並べる。皿などない。
「今日は、それを、相談に来た。……実は、クリスマスに遅くまで起きていていいかと、聞かれてな」
「……なるほど」
 ガルーは大体の経緯を察した。尚チーズケーキは既に半分弱が胃の中である。
「サンタさんに会いたい、的なアレか」
「わからん。いつもは早寝早起きのいい子なんだかな……」
 眉間にしわを寄せて考え込むライカの姿は凄みがある。もふもふとワッフルを食べている姿である程度相殺されてはいるが。ティーカップの紅茶は既に半分を切った。ちなみに、ミルクティーである。
「……寝かしつけるいい方法はないだろうか」
「あー……子守唄でも歌ってみる、とかか?」
 眠くない、と駄々をこねる相棒に対して使う最終手段を口に出してみて、「似合わないな」と失礼なことを考えるガルー。多分表情に出ていたが、ライカのポーカーフェイスが鉄壁すぎてどう思われたかまでは察することができなかった。
「うた、か……」
「歌とかはちいとガラじゃない気もするかね、上手そうだけども」
 どうやら一考の余地はあったらしい。真剣な顔をして悩み始めたライカに、ガルーは一応のフォローらしきものを送る。大の大人が二人、真剣な顔をして口をもぐもぐさせているので大概のことが台無しだが、当人たちはいたって真面目なのが尚のことシュールさを増長させていた。
「あとは、添い寝して腹とか背中をこう、手でぽんぽん叩いてやれば大概寝る」
 自分が先にな、という言葉はかろうじて飲み込んだ。
「ぽんぽん」
「そう、ぽんぽん」
 何度も言うがガルーもライカも真剣そのものなのである。絵面的にそうは見えないが。
「まぁ心配しなくても、普段から早寝早起きの健康優良児なら、俺様たちが動き出す頃には寝てるだろうよ」
「そうだろうか」
「だと思うぞ?」
 ガルーは未就学児と共同生活を送っているのである。相棒のことは必要以上に子供扱いしていないが、それでもやはり、どう足掻いても彼女は「幼い子供」だ。共同生活をする上で気を付けなければならないことは山ほどある。そういう点では、ライカよりもガルーに一日の長があるのだろう。
「……心配するほどでもないのか」
「寝付きの心配より、サンタバレの心配をしたほうがいいかもしれないな。お前さんとこのもそろそろそういう年頃だろう?」
「うむ……」
 子供とは、時に保護者の予想を超えて急に大人びるものである。特に10歳前後など、はっとするほど急激に成長したりするものだ。
 サンタクロースの正体は、そういった意味でも重要な通過儀礼のひとつだろう。
 難しい顔をして悩み始めたライカを横目に、ガルーはカスタードワッフルの包装を剥がした。黄色いカスタードだけかと思ったが、どうやらいちごのピューレも一緒に挟み込まれているらしい。カスタードの甘さといちごの酸味が素晴らしい。
「子供の夢を守るのも大事だけどよ、下手に嘘つかないほうがいいかもしれないぜ」
「……そういうものか?」
「じゃねーの?」
 紅茶のおかわりと注ぎながら、ガルーは片目を眇めてみせる。
「俺様もさ、あいつに電子キーボード買って隠してるんだがよ、それは別に嘘をついてるわけじゃない」
 そりゃあ、バレそうになって誤魔化しはしたけど、と口の中で呟く。
「誤魔化したのは、あいつの夢を守るためだしな。俺様もお前さんみたいにポーカーフェイスきけば良いんだろうけどよ、俺様はそういうの苦手だからな」
 苦労した、と白い歯を見せて笑うガルーの姿に、ライカは眩しそうに眼を細める。
「嘘ではない、か……」
「だろ? 実際、サンタクロースはいるし、まぁ、隠し事はしてるが、極論それだけのことだしな。誰しも、隠し事のひとつふたつはあるだろ」
 ガルーの言葉を噛みしめるように紅茶を口に含んで、ライカはひとつ頷いた。
「このクッキー、美味いな」
「そりゃどーも」
 不器用な男の照れ隠しは、多少、雑だ。

「……む。そろそろ、帰って来る時間だ」
 結局、なんだかんだと話し込んでしまった二人。
 夕焼けに染まる窓の外を見て、ライカは相棒の帰宅予定時間が迫っていることを察した。
「そういや今日はあいつも出かけてるんだったか。お前さんとこのと遊んでるんだっけ」
「らしい」
 今日1日でかなり打ち解けた様子の二人は、気安い様子で頷きあう。
「ならうちもそろそろ帰って来るかな。ああそうだ、土産、ありがとう」
「こちらこそ。クッキー、美味かったぞ。まさかあの子の分まで貰えるとは」
「それくらい何てことねぇよ」
 白衣の袂から出した腕をひらひらと振って、ガルーは片目を眇めて笑った。
「健闘を祈る。……次は飲みに行こうぜ、できれば祝杯で」
「……ああ」
 真面目な顔をして頷くライカ。
 そうして、彼にしては本当に珍しく、口元をほんの少しだけ上向かせた。
「お互い、良い酒が飲めることを祈っている」
「当たり前だろ」
 からりと笑うガルーに、軽く肩をすくめるライカ。
 走ってくる小さな足音が聞こえてくるまで、あと少し。

 さて、彼らは彼らの相棒の夢を守りきることができたのか。相棒達は一体なにをしていたのか。
 それを知るのは、きっと彼らと、彼らの相棒のみなのである。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0008hero001 / Лайка / 男性 / 27歳 / ドレッドノート】
【aa0076hero001 / ガルー・A・A / 男性 / 30歳 / バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どうもでっす!
 この度はご指名ありがとうございました! 楽しんでいただければ幸いです。
 真面目な話をしているはずなのに、なぜかお菓子の話になってしまった気がします。私が甘党なのがいけないのでしょうか。ガルーさんのクッキー、私も食べてみたいですなぁ。
 大人には大人の、子供には子供の悩みというものがあるのだと思います。双方の折り合いを上手につけることができれば、世界はもう少し、やさしくなるのでしょうか。
 それではまた、いつかの機会に。
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2016年01月26日

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