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『そして彼らは 』
葛原 武継aa0008)&紫 征四郎aa0076

「大人にはサンタさんがこないなら、それは悲しいことなのです」
 全ては、紫 征四郎(aa0076)のこの一言から始まった。

 葛原 武継(aa0008)は走っていた。
 カンと突き抜けるように晴れた冬の日である。吐き出す息は白く、走る葛原の動きに合わせてほわりほわりと揺れ動く。もこもこと着込んだ上着と巻きつけたマフラーが葛原の邪魔をして、いつものようにうまく走れないのが少しだけもどかしい。
「おまたせ! 待ちましたか?」
「いいえ、さっき来たところです!」
 そう言って嬉しそうに笑う紫のほっぺたはかわいらしい赤色に染まっていた。
 今日は、紫と葛原、二人だけでヒミツのお買い物なのだ。「大人にサンタさんがこない」と知ってしまった紫と葛原が、「なら自分たちが用意すればいい」とノリノリで企画したのである。
 家族には「セイシローちゃんと遊ぶので、お迎えは大丈夫です」と言ってきたし、お財布だって密かに用意してきている。
 まだ小学校に通っていない紫は、小学校の近くで葛原の帰りを待っていたのだ。
「そんなこと言って、ほっぺたがまっかっかになってるよ。僕のマフラー、貸してあげる」
「んぷっ」
 自分より頭一つ分弱背の低い紫の首に、葛原はぐるぐるとマフラーを巻きつけてゆく。
「それではタケツグが寒いのですよ」
「だいじょーぶ! だって僕は男の子だから!」
 えへん、と胸を張る葛原だったが、外気にさらされた首筋には目に見えてトリハダが立っていた。鼻頭も赤くなっており、ともすればくしゃみでもしそうな――。
「へくしっ」
「ほら、無理しちゃダメですよ」
「だ、だいじょーぶ!」
 心配そうな顔をした紫が巻かれたマフラーを外そうとするのを、葛原があわてたように押し止める。
「女の子は体冷やしちゃだめだってママが言ってたし、セイシローちゃん寒そうなんだもん。僕は大丈夫だから、マフラーはセイシローちゃんが使ってほしいんだ」
 ほどけかけたマフラーを再度ぐるぐると巻かれてしまえば、紫にそれ以上反対することはできなくて。
「……なら、ありがたくお借りするのです。今日はよろしくお願いしますね」
 少しだけ恥ずかしそうにはにかんで、紫は葛原の巻いてくれたマフラーに口元を埋めるのであった。

「それで、タケツグは何を買うのですか?」
 昼下がりの道をテクテクと並んで歩く。目的地まで、子供の足では少しだけ距離があるのだ。ただ黙って歩くのもつまらないから、紫は半歩先を歩く葛原の背中に声をかける。
「まだ決めてないんだよね。セイシローちゃんは?」
「征四郎もまだなのです」
 むぅ、と困ったようにむくれる紫。葛原の表情も似たようなものだ。
「……相手が何ほしいのか、分からないのですよ。ナイショで買いに行くのに、何かほしいものはありますかって訊くのはちょっと違う気がするのです。それに、無駄遣いには厳しいですし……」
 いじけたように足元の小石を蹴る紫。てんてんと転がった小石は、からんからんと音を立ててグレーチングの隙間から排水溝に落ちていった。
 落ちてしまった小石を少しだけ残念そうに見つめる紫。小さな横顔を見つめていた葛原は、くすっと笑ってすすけた背中をぽんとたたく。
「セイシローちゃんが選んだものなら、なんだって喜ぶと思うよ」
「……そうでしょうか?」
「そうだよ、ぜったい。僕だったらすっごく嬉しいよ」
 くるりと勢いをつけて振り返り、葛原はにっこりと笑って首を傾げた。
「だから、早く行こう?」
「……」
 当たり前のように差し伸べられる手。その手を、一瞬だけ泣きそうな表情で見つめて、紫は年齢のワリにへたくそな笑みを浮かべるのだ。
「……はい」
 繋がれた手は、相棒のものと同じように、あたたかい。

 どこからともなく聞こえるクリスマスソング。
 煌々と灯ったイルミネーションの光は眩しい西日にも負けず輝いている。
 赤いサンタクロースのコスチュームを着たお兄さんやお姉さんが高い声を張り上げて、道行く人々に店頭の商品を売り込もうと笑顔を振りまいているのが見えた。
 葛原の通う小学校からほど近い場所にある商店街。普段は殺風景さすら感じるこの場所も、クリスマス商戦真っ只中にあれば勢い活気付いているようである。
「どこから行く?」
 繋いだ手をはぐれてしまわないようにぎゅっと握りしめて、葛原は隣で固まる紫の顔を覗き込む。いくらエージェントとして活躍しているとは言っても、紫はまだ小学校にも通っていないような年端もいかない少女なのだ。小さな子供二人だけで人ごみの中に踏み入るのは、少々勇気がいるらしい。
「どこでも、いいのです」
 答える紫の声が硬い。きっと心の中で彼女の英雄を呼んでいるのだろう、葛原の左手と繋がれた右手が、何かを探すように少しだけ震えている。
「……うーん、そうだなぁ。ねぇセイシローちゃん、僕の英雄が好きなものってなんだと思う?」
「え?」
 唐突な質問に、紫は不安を忘れた表情で葛原の顔を見上げた。
「……そうです、ね、……タケツグが、好きだと思うのです」
 迷い迷い、紫は口を開く。人の流れの邪魔にならない道端で、葛原はじぃっと紫の言葉を聞いていた。
「見ていて、征四郎の心までぽかぽかあったかくなるくらい、タケツグの英雄はタケツグのこと好きだと思うのです。だって、あんなにやさしい目でタケツグのことを見ているから……」
 空いている左手で、がま口ポーチをぎゅっと握りしめる紫。彼女の脳裏には、きっと快活な表情で笑う相棒の姿が浮かんでいるのだろう。
「僕? ううん、嬉しいけど困ったなぁ。これじゃあ何をプレゼントすればいいのかわかんないや」
「タケツグが選んだものならなんでも嬉しいと思いますよ?」
 きょとん、とした顔で首を傾ける紫。それが、つい先程自分に送られた言葉だと気付かないままの幼い少女に、少しだけお兄ちゃんな葛原はくすくすと楽しそうな笑みをこぼした。
「そっかぁ。そうなのかなぁ。だったら、きっとセイシローちゃんの英雄さんも、セイシローちゃんの選んだものならなんでも嬉しいと思うよ」
 不安そうに歪んだ小さな唇。それが少しでもやわらかくなればいいと思いながら、葛原は笑みを浮かべる。
「だって、僕、二人のこと見てると心がぽかぽかするんだ。だから、だいじょーぶだよ」
 ぱちくり。そんな擬音語が聞こえそうなほど、目を瞬かせる紫。そうして与えられた言葉を受け取って、咀嚼して、少しずつ飲み込んで、まるで蕾がほころぶように、目尻を染めて嬉しそうに笑うのだ。
「あっ、あの雑貨屋さんとかどうかな! いろんなものがあるから、きっとプレゼントも見つかるよ!」
 紫が笑ったことを確認した葛原は、早速目当ての店へと向かって歩き出す。もちろん、紫の右手は繋いだままだ。急に歩き出した葛原に手を引かれて少しだけよろめきながら、すっかり暗い雰囲気の払拭された紫も足を踏み出した。
 幼い二人を、クリスマスに浮かれた街がやさしく見守っている。

「タケツグは、普段英雄とどんな話をしてるんですか?」
「えー?」
 ビーズでできたマスコットを真剣な目で吟味していた葛原の背中に、イミテーションシルバーのアクセサリーを眺めていた紫が声をかける。
「んー、いろいろ、かなぁ? 学校のこととか、ホープの依頼のこととか……。あのね、テストで100点とると、頭を撫でて褒めてくれるんだよ」
「そうなんですか?!」
 普段、葛原に付き従う忠犬のような英雄の姿を見慣れているため、「頭を撫でる」という行動が紫の中でとっさに繋がらなかったらしい。ぐるんと振り返った紫の表情は驚愕に染まっている。
「あはは。セイシローちゃんの英雄さんはそういうことしないの?」
「ええと……」
 途端、紫は年相応な表情をした。ぷぅ、と頬を膨らませたのである。
「征四郎の髪の毛をぐちゃぐちゃにします」
「……ぷふっ」
 その光景に想像がついたのか、葛原は思わずといった様子で口から空気を吐き出した。
 むすくれた紫がジト目で睨んでくるが、普段相棒と過ごしている彼にダメージなどあるわけもなく。
「仲いいんだね」
「……タケツグもです」
 分の悪さを悟った紫がふいっとそっぽを向くまで、葛原はニコニコと微笑んだままだった。

 12月ともなれば、日が沈む時間もかなり早くなっている。
 夕方5時を回ろうかという時刻になれば、もう外は夕焼けに染まりきっているわけで。
「プレゼント、買えてよかったです」
「ね。うーんと悩んだけど、セイシローちゃんと一緒に考えたから、いいものが選べたんだよ」
 青いラッピングの施された四角い箱を抱えて、葛原が嬉しそうに笑っている。赤いラッピングの施された小さな包みを持つ紫も、ほっぺたをほんのり染めて満足げである。
「犬さんのマグカップ、喜んでもらえるといいですね」
「セイシローちゃんのもね」
 赤い包みの中には、銀色のラペルピンがそっと閉じ込められている。犬柄のマグカップと共に、葛原と紫が悩んで悩んで悩み抜いて選んだプレゼントだ。
「喜んでもらえるといいのですが……」
「きっと大丈夫だよ」
 ぽてぽてと夕焼けの道を行く。長く伸びた二つの影は、期待に弾んでとても楽しげだ。
「あっ、そうだ! タケツグ、これどうぞ!」
「え?」
 そろそろ分かれ道に差し掛かる頃、手を繋いで歩いていた紫が急にぴょんと飛び跳ねて、葛原の左手から離れていく。急に寒しくなった左手に一瞬だけ視線を落として、葛原はこてりと首を傾けた。
「……これ、どうしたの?」
「お礼です! マフラーを貸してくれたのと、……一緒に、プレゼントを選んでくれたのと」
 もじ、と少しだけ恥ずかしそうに膝小僧をすり合わせる紫。差し出された可愛らしい紙袋を反射的に受け取った葛原は、紫の気恥ずかしさが移ったかのようにほっぺたを赤くする。
「……ありがと」
「中身はクッキーなのです。相棒と一緒に食べてくださいね」
「わかった」
 頷いて、一拍遅れてなんだかおかしくなって笑い出す幼子が二人。
「じゃあ、またこんどどうなったのか教えてね!」
「はい! タケツグもですよ!」
「もちろん!」
 さぁ、帰ろう。大好きな人の待つ我が家へ。
 5時のチャイムが鳴る前に、子供たちは手を振りながら帰途へつく。

 さて、可愛らしいサプライズプレゼントを貰った彼らの英雄がどんな反応をしたのか。
 それはまた、別のお話。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0008 / 葛原 武継 / 男性 / 10歳 / 人間 / 攻撃適性】
【aa0076 / 紫 征四郎 / 女性 / 7歳 / 人間 / 攻撃適性】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どうもでっす!
 この度はご指名ありがとうございました! 楽しんでいただければ幸いです。
 二人はまだ小学生(征四郎ちゃんに至っては未就学児)なんだよなぁ、と思いながら書かせていただきました。とりあえずかわいいは正義だと思います。
 それではまた、いつかの機会に。
初日の出パーティノベル -
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リンクブレイブ
2016年01月26日

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