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『孤軍奮闘 』
鞍馬 真ka5819

 それは依頼帰りの事だった。
 簡単な依頼を終えて、ふらりと立ち寄った小さな村。来る道中聞いた噂が気になって、この村にあるパン屋を目指す。
(どうせ急ぐ事もないしな。こっちのものを楽しむのもまた一興)
 彼の名は鞍馬 真(ka5819)――クリムゾンウェストに飛ばされてきて、もうどれくらい経っただろうか。
 始めこそ少し戸惑いはしたものの、それ程物事に執着しない彼はいつの間にかこちらの世界に馴染んでいた。
 それにこの世界の食べ物は悪くない。
「いらっしゃいませ〜」
 食べる事が好きな彼は早速そのパン屋を訪れる。
 そこはこじんまりした店だった。村民の数が少ない為、これくらいがちょうどいいのかもしれない。
 三段に分けられた棚には村で作られた野菜を挟んだものやチーズを練り込んだ素朴なものまで割と種類は充実している。
 彼はその中から好みのパンを数個選んで会計を済ませると外にあるベンチに腰掛け、まず一口。
 すると小麦の香りが口に広がり、他の店との違いを明確に教えてくれる。
「確かにこれは美味いな」
 あっという間に一個平らげ、次に手を伸ばす。が、彼が次を食べる事叶わない。
 村の入り口側だろうか。悲鳴と同時に人々の波が声とは逆方向へと進んでゆく。
「…まさか、こんな村にまで」
 のどかな村の筈だった。
 自分の知りうる限り、この辺での歪虚の報告はないし、ましてやその手の存在が発生、潜伏しそうな場所は見受けられない。
(どうしてこんな所にっ)
 買ったばかりのパンの紙袋をそのままに、彼は声の発生場所へと急ぐ。
「なっ…」
 とそこには確かに敵はいた。体長だけ見れば人間より小さい。しかし、その翼を広げれば凡そ2mはあるだろうか。
 その翼を持ち主が、強靭な爪で眼下の村人らを襲う。その光景に目を取られていると後方で新たな悲鳴――。
「いやぁあああああ!」
 振り返った先には幼子を抱いた女性の姿。子を奪われないようにとその場に蹲り、一方的な攻撃に耐えている。
(くそっ、私は何をしている?)
 今やれる事をやらなければ。
 真はそう思い、携帯していた拳銃を手に取り発砲する。
 しかし、鳥は怯まなかった。
 野生の鳥であれば大きな音に少なからず反応する筈だが、目の前にいるそれは銃弾を避けるだけでたま舞い戻ってくる。
(くそっ、雑魔なのか)
 真は心で舌打ちしつつ、親子の元へと駆け寄る。そして腰に下げた刀を引き抜いて、

 ザシュ

 手応えはあった。腕に届く微震動はこの刀の持つ特殊能力によるものだ。
 軍用に作られたモーター搭載の刀。それが彼のもう一つの得物でもある。
「大丈夫か? しっかりす…グッ!?」
 声をかけざま彼を襲ったのは重い衝撃。何事かと思い振り返ってみれば、そこにあったのは信じられない光景。
 目に映る映像がスローモーションを帯びる。彼は確かに仕留めていた。
 しかしだ。その後ろにもう一匹張り付くように隠れており、それが彼の後頭部目掛けて石をぶつけてきたのだ。
(うそ…だろ?)
 頭から離れていく石の大きさと飛び散る己が血液に目を疑いたくなる。
 だが、それは現実で再び飛び来る敵と目が合い、彼はそこで踏み止まるとさっきの銃を構え直す。
 今度は威嚇などではない。眼前の敵を殺す為に放った銃弾は敵の目を潰し、足首をもふっ飛ばし…残りの弾丸は喉元を抉る。
 その音が妙に大きく耳に木霊した。その苛烈な銃撃に流石の雑魔らも彼を警戒し、特攻を留まる。
「…すまない。で、動けるか?」
 視界が霞む中、彼が尋ねる。しかし、母親からの返事はなく、聞こえるのは雑魔の奇声のみだ。
 数にして十数匹…決して対応出来ない数ではない。但し、それはこちらが万全な状態でだ。
(俺はどうなってもいいが、この二人だけは助けたい…)
 そこで他のハンターがいない周囲に視線を走らせたが、残念な事に彼の視界にそれらしき人物は見当たらない。
 もしかすると、雑魔の発生により村民の誘導に動いてしまっているのかもしれない。
(どうする…この親子を連れてやれるか?)
 母親が子を守った様に…自分もこの二人を守りたい。
 それ程人情深い性格ではないと自覚してはいる彼であるが、目の前で命が消えていくのは見ていられない。
 未だ返事のない親子――脈を計ったみたいが、そんな余裕を敵がくれるとは思えない。今も上空を旋回し、隙あらばまた攻め込もうと考えている敵。一方こちらは? さっきの石が思いの外当たり所が悪かったらしい。脳震盪は起こしていないものの、視野はぼやけ気力で立っている状態。身体自体は動く筈だが、司令塔が鈍っていては更なる怪我も時間の問題かもしれない。
(しかし、守れたとしてもこのままでは…)
 時間が無かった。返事がないという事は危ない状況なのだ。自分だけではどうしよもない事もある。
(となれば協力者が必要か…)
 消えた人々――皆建物の中に避難してしまっているこの状況で彼の声は届くだろうか。
 けれど、迷っている暇はなかった。荒くなる呼吸を抑えて、腹に力を入れる。そして、彼は普段は発しない程の声量で辺りに呼びかける。
「誰かいたら聞いてほしい。親子が怪我をしているんだ! 頼む、この二人を非難させてくれないか」
 木霊する声…己が声が痛む頭に響く。しかし、構ってなどいられない。
 雑魔の攻撃を凌ぎつつの何度目かの呼びかけで、やっと付近の店の扉が開く。
 そこにいたのは不安な表情を浮かべた男性だった。手には棒を握りしめ、真を見つけると何をすればいいかと弱々しい声で問うてくる。
「協力感謝する。私が囮になるからその間にこの二人を」
 意識のない事を付け加えると、男は事態の重さに息を飲む。
「きみしかいないんだ。だから」
 みなまで言わずとも理解してくれたらしい。男が棒を握り直す。
「では、いくぞ」
 真はそれを見取り行動を開始した。
 ヒーローなど似合わないが、ここで今それが出来るのは自分しかいないのだ。
 上空の雑魔に向かって装填し直した銃で挑発し、親子から距離を取る。
「かかってくればいい…餌はこっちだ」
 真はそう言い止血せぬまま移動すれば、敵は弱った人間と錯覚しあっさりと彼を獲物とみなす。
 加えて、数の優位にも立っていると判断し、一斉に彼目掛けて急降下を駆けてくる。
「…甘過ぎだ」
 だが、覚悟を決めた彼もただやられるつもりはない。
 緊張がいい具合に脳を活性化させ、一時的に痛みという概念を取り払い意識を敵の排除のみに集中させる。
 すると青の瞳が一瞬金色を帯びて、光った後に残ったのは切り捨てられた雑魔の残骸――。
 塵となるその前に見えた実体はものの見事に真っ二つになっている。

 ギャア ギャア

 そんな同胞の姿を見せられては雑魔達も焦りを覚える。
 同時攻撃で向かっても駄目ならと、さっき使った石での攻撃へと変換してゆく。だが、

(そんなもの、二度も効くと思ったか?)

 覚醒した彼の敵ではなかった。加えて攻めの構えを発動し、落とされる石を容赦なく粉々にする。
 そうして、敵が油断した隙に弾丸を叩き込む。そうなると敵が考えるのは逃げの一手。
 彼の気迫にやられ、犬死は御免だと高度を上げて別の空へと逃げてゆく。
「やった、か?」
 その姿を見送って、彼はほっとした。すると緊張の糸が切れたように、彼はその場に倒れ込む。
(何とか守れたか…)
 あの親子は無事だろうか。そんな事を思いながら…彼が振り返り最後に見た光景に、幸い人の姿は残ってはいなかった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka5819 / 鞍馬 真 / 男 / 25 / 闘狩士 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼有難う御座いました。お世話になっております奈華里です。
苛烈にという事だったので、流血表現も入れて痛い感じに仕上げさせて頂きました。
何気にシナリオの方では真さんの戦闘描写はまださせて頂いていませんでしたので
戦いの癖など想像して書かせて頂いたのですが、こんな感じでよかったでしょうか?
これからのご活躍を陰ながらお祈りしております。
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ファナティックブラッド
2016年01月29日

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