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『『幼子の訪れる……かもしれない未来』 』
リディア3339)&エルファリア(NPCS002)

 これは今から十数年後に訪れるかもしれない未来のお話――。

 風喚師の少女リディアは、美しい女性へと成長を遂げていた。
 聖都エルザードの王女であるエルファリアに保護され、国立の魔法学園で教養を身につけたリディアは、エルファリアの勧めで王立の女学院へと進学し、高度な知識と宮仕えの作法を学び、現在ではエルファリアの侍女兼宮廷魔導師となっていた。
 そう、純粋で素直だったリディアは、その性質を失うことなく、美しく聡明な女性へと成長したのだ。

「リディアさん、大切なお話があります」
 その日、リディアはエルファリアの私室へと呼ばれ、ソファーに腰かけるよう促された。
「はい、なんでしょうか、お姉様」
 プライベートな場では、リディアはエルファリアのことを『お姉様』と呼ぶようにと言われていた。……エルファリアはリディアにとって保護者であったが、決してお母様とかおば様とか呼んではいけないのだそうだ。
「この間のボンボン国の王子様の件ですが」
「はい、お姉様にしつこく言い寄っている王子様の件ですね。先日私が赴いて、丁重にお断り申し上げたはずですが、まだなにか?」
 聖都エルザードから遠く離れた地に、ボンボン国という小国が存在している。
 そこの王子は随分昔からエルファリアに熱を上げており、しつこく恋文を送ってきていた。
 リディアはエルファリアに頼まれて、先日ボンボン国を訪れて王子と面会し、エルファリアの気持ちを伝え、失礼のないよう丁重に断ってきたのだ。
 王子もその場では了承していたはずだが……。
「王子様ですが、私の外見を良く知らなかったらしく、訪れたリディアさんを私だと思いこんでいたらしいのです」
「外見もよく知らずに、お姉様に熱を上げられていたのですか。やはり権力が目当てだったのですね」
「それもあると思いますが、どうも勘違いが激しい方のようでして、自分に相応しい女性として私を求めていたらしいのです」
 家臣や噂でエルファリアの評判を聞き、自分の中で膨らませて作り上げたエルファリアという妄想上の人物に惚れこんでいたらしい。
「それでその方ですが、あなたにお会いして、あなたに惚れてしまったらしいのです」
「……え?」
 突然の話に驚くリディアに、エルファリアは手紙を取り出して開いて見せた。
 その手紙には『美しき緑の髪のカーバンクルの女性。貴女こそ僕のエルファリアだ。僕の嫁になって欲しい』などと書かれている。
「そういうわけでして。あとはお任せいたします」
 言って、エルファリアは肩の荷が下りたというように、ほっとした表情でティーカップを口に運んだ。
「ええっと、どうすればよろしいのでしょう?」
「リディアさん昔、王子様と結婚して子孫を残すのが夢だと仰っていませんでしたっけ? そのチャンスでもあるかと思います、が」
「確かにそういう夢は持っていましたし、そろそろ適齢期だとは思うのですが……」
 ボンボン国の王子は妄想が激しいだけではなく、リディアの3倍は生きていると思われる外見をしている。体型は一目でわかるメタボ。
 純粋で心優しいリディアは、人を外見で判断したりはしないのだが、自分の子供の外見の心配は少なからずしてしまう。
 ボンボン国の王子の子供達は、一族の復興と種族の繁栄を担っていけるのだろうか。あの年齢まで独身であった王子の子供達が。……それを言うのならエルファリアもだが、それは決して口に出してはいけない。
「あなたが宮廷魔導師であり、我が国に必要な人であることをお伝えしたところ、このようなものが届きました」
「……はいぃ!?」
 エルファリアがリディアに差し出したのは『果たし状』と書かれた、手紙であった。
「勝負して勝ったらあなたを貰い受ける、そうです」
「は、はあ」
「一方的な申し出ですが、言葉が通じないお方であることは既に重々解っております。ですので、あとのことはお2人にお任せします」
 エルファリアはティーカップを手に、少し悪戯気な顔でにっこり頬笑んだ。
「ええっと、お姉様、めんどくさい人から逃れられてすっきりしていません? なんだかそんなお顔をしてますよ!」
「うふふふふっ」
「お姉様〜。ど、どうしよう……」
 果たし状に記された日時は明日。
 リディアは眠れない夜を過ごしたのだった。

 翌日。
 指定された荒野に現れたのは、ボンボン国王子と、騎士団の一個小隊であった。ただ彼等が装備している武器は、重火器ではなく縄やとりもち、スライムであった。
「え、えええっ、まさか」
「僕のエルファリアたん、勝負しようではないか! 僕の部隊を倒してみなされ! でなけりゃ君は僕のものさ。うへへへへっ♪ それとも、僕のものにしてくださいと、君の方からお願いしてみるかいぃぃ?」
 リディアは一人で訪れていた。
 リディアは有能な魔導師ではあったが、多勢に無勢である。
 振り切ってどうにか城に戻ったとしても、彼はまた同じことを繰り返すだろう。
(逃げて帰っても、お城の皆に迷惑をかけてしまいます……)
 泣いて許しを請うしかない。それでも逃してもらえるとは思えないけれど。
 リディアが跪いたその時だった。
「リディアちゃんに手を出したら俺達が許さないぞ!」
「リディアちゃんと戦いたいのなら、その前に俺達を倒せ!」
「リディアちゃんは俺達のものだ。貴様もリディアちゃんを真に愛しているのなら、まずは俺達の団に入るのが筋だ!」
 ぞろぞろと現れたのは、リディアがかつてロリコンさんと呼んでいた亜人達だった。
 彼等もまた、この十数年の間に成長を遂げていた。リディアファンクラブ団という団を立ち上げ、美しい女性へと成長したリディアを変わらず愛し、子孫を沢山残したいという彼女を崇拝し、彼女の子供を待ち望んでいる。
「エルファリアたんへの愛の力で僕に勝てると思うなよ! 行け、亜人達をボコボコにしてやるんだ!」
 王子が部下たちに命じる。
「やれるもんなら、やってみろ!! 愛する人を貴様は傷つけられるのか!」
 団員たちは、幼きリディアの等身大の写真が貼られた大盾を手に、騎士団に立ち向かう。
「これには爆弾を仕込んである、貴様らも道連れだ!」
 自作のリディア抱き枕を抱きしめながら。
「ぐぬぬ、卑怯だぞ! エルファリアたんを盾にするとはーっ! ええーい、傷付けずに奪いとれぇ!!」
「ああ、ああっ、やめて……もう、やめてください」
 修羅場と化していく荒野で、リディアは泣き崩れた。

 ……数時間後。
「同志よ」
「我々は兄弟だ!!」
 奪い合い、絡み合い、そして男達は分かりあったのだ! 彼等にリディアグッズを傷つけることなどできなかった。
 リディアへの愛で彼等は結ばれ、1つになった。
 その後、ボンボン国王子の騎士団はエルリディア愛団という名になったのである。

    *    *    *    *

「という夢を見たんです」
 リディアは面会に訪れた髪長お姉さんに、熱心に今日見た夢を語った。
「うふふっ、それはとても面白い夢でしたね」
「はい、ちょっと怖かったですけど、楽しかったです」
「正夢かもしれませんよ?」
 魔法学園の応接室で、ティーカップを手に髪長お姉さんが悪戯気な笑みを見せた。
 初めて見る表情だったが、それはリディアが夢に見たエルファリアの表情そのものだった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2016年01月29日

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