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『豊穣の呪い 』
満月 美華jb6831


 薄暗い倉庫。港に設けられたそれを想起させるそこに積まれた複数のコンテナに身を隠す、満月 美華の姿があった。
「ハ、ハァ……結構、ハードですね」
 透き通る金色の毛髪、凛々しく、気品漂い、鋭さを兼ね備えつつも美しい顔立ち。お嬢様、といった表現がよく似合うその容姿。凡人には触れることすら叶わぬ高嶺の花。と、言いたいところだが。
 彼女の体は、コンテナからはみ出すほどに巨体だった。豊満なバストを上回ろうかというウェスト。それさえ、それさえなければ、すれ違う男が振り向かずにいられぬ美女であったに違いない。
 現在も、体中の毛穴という毛穴から汗を吹き出し、上昇する体温からは湯気が生じる。
「キシャーーーッ!」
 獣の咆哮と同時に、頭上のコンテナが弾き飛ばされる。
 咄嗟に身を翻した美華は、鞘より刀を抜き放ち、二足歩行するオオトカゲを切り捨てた。
「休憩もままならないなんてね。いいわ、かかってきなさい」
 他にも五匹。オオトカゲが取り囲んでいる。
 正面に一、左右に一ずつ、背後に二。
 一瞬の隙も見せられない。極限の緊張感が、汗を冷やす。
 姿勢を低く保ち、刀を鞘に納める。切っ先を鯉口に引っ掛けて引き抜くことで、初撃の威力を倍増させるためだ。そして、もう一つ。
「シッ!」
 衝撃波だ。
 刀を振るったその瞬間、刃の軌跡を辿る金色の閃光が、正面のオオトカゲを真っ二つにする。
 それを合図とするかのように。
 残る四匹が一斉に飛びかかってきた。
「右! それから!!」
 右方のトカゲを切りつけ、左後方に鞘を投げつける。それに面食らっている間に、左方のトカゲが振り下ろした爪をかいくぐり、刃を突き刺した。
「グェェッ!」
 断末魔の悲鳴を耳に、振り向きつつ抜いた刀を横構え。トカゲが、背中を狙ってくることは予測済みだからだ。
 しかし。
「しま――っ」
 一拍遅れた。
 刀はトカゲの爪によって弾き飛ばされ、美華は丸腰となる。
 絶体絶命。

 ビーーーッ!

 その時、サイレンが鳴り響く。オオトカゲは、それと同時に消えてしまった。
『訓練終了。お疲れ様でした』
 倉庫内のスピーカーから、無機質な女性の声が聞こえる。
 そう、これは訓練。天魔討伐に際しての模擬戦闘だったのだ。


「……あぁ、疲れた、と」
 シャワーを浴び、ベッドへ寝転ぶ美華。ギシリと音が鳴るのは、いつものことだ。
 自然と、視界の一角を支配する腹の肉に目がいく。そして、嘆息。
 彼女の暴飲暴食が原因なのではない。この大きな体には、彼女一人のせいではない、理由があった。
 豊穣の呪い。
 それは、満月一族が天魔によって施されたという呪詛。日に日に体が肥大化してしまうという、恐ろしい呪いだ。恐らく、脂肪による肥大なのだろう。二百キログラムに届かんという体重でありながらこの大きなお腹は、それを如実に語っていた。
 しかし、そんな忌まわしき体質を諦め、受け入れてやるつもりはない。だからこそ、こうして日々のトレーニングをこなして、少しでも脂肪を燃焼させようと努めてはいるのだが……。
「もう、動けない……」
 疲労も重なって、体がとにかく重い。腕を上げるのも一苦労だ。そんな自重を忘れるほどに、先ほどのトレーニングでは俊敏に動いていたつもりだ。それでも、その鈍さが原因で、結局はメニューを達成できなかったわけだが。
 ちらり、とカレンダーに目がいく。一月、撃退士として戦場には赴かなかった。確か、先月も……その前も、戦ってはいない。
「限界なのかな……。このまま、自分の大きな体に潰されてしまうのかな」
 そんな自分が悲しくて、情けなくて、気持ちが沈む。
 一族にかけられた呪いだ。美華に責任はない。ただ、この一族の女として生まれてしまっただけのこと。
 生まれた時から、運命として決まっていたことなのだ。
 だからこそ、悔しい。生まれた家が違ったのなら、当たり前のように暮らして、平均的な体重であっても「痩せなきゃ」なんていってダイエットしたりしたのだろう。なんて幸せで、なんて贅沢な日々だろうか。
 そう考えている内に、瞼が重たくなってくる。もう眠ってしまおう。そして、とりあえず明日を生きよう。
 意識は、徐々に沈む。


 次に目を開けた時、美華は仰天した。
 あれだけ大きかったお腹が、スリムなまでに凹んでいる。腕や足もほっそりとしていて、ややサイズは縮んだものの、バストだけは体に比して大きいまま。
 呪いが解けた! どうしてそうなったのかは分からないが、彼女は直感的にそう理解する。
 普通の体、人並みの体。
 奇跡だ! 完全なる奇跡だ!!
 あまりにも唐突で、とても信じられないが、これが、本来の自分の姿だ。
 感涙を流しつつ、彼女は外へ飛び出した。
 するとそこで待ち受けていた友人たちが、拍手と共に迎える。
 おめでとう、良かったね、と。
「ありがとう! 皆、ありがとうございます!!」


 ……という、夢を見た。
 目覚めて、自分の体が大きいままだと自覚した美華は、ため息。
「夢のままなら、良かったのに」
 そう呟いて、朝食の支度をする。今日は……トーストにしようか。
 パンが焼けるまでの間、美華は夢のことを考えていた。
 呪いが解けたら。あるいは、呪いに抗うことができたら。
 困難な道のりだと、分かってはいるが、それでも。
「何もしなかったら、何にも変わらない。ええ、きっと」
 食事を終えたら、今日もトレーニングへ向かおう。


「ここまでは……!」
 本日のトレーニングメニューは、昨日のそれと同様のものを選んだ。
 そして、五匹のトカゲに取り囲まれるところまでは、同じ流れだ。
 己の速度を上げることも必要だが、戦術の選び方も重要だ。
「やッ!」
 刀を引き抜く衝撃波。それと同時に、駆ける。
 正面のトカゲが倒れ、その上を踏み越える。
 背後から四匹のトカゲが追ってくる。
(順番に相手をしては、敵の俊敏さについていけない。それなら)
 全部いっぺんに相手をする。
 壁まで到達すると、振り向く。
 四匹が爪を振りかざし、迫る。
「私は、私は……抗ってみせる! 何度だって、どんな時だって!」
 崩れた屋根から倉庫に入り込んだ陽光が、美華の刃に反射した。


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【満月 美華(b6831) 女性 ルインズブレイド】
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追掛二兎 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年02月01日

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