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『セツナザクラ 』
黒桜aa2611hero001


 これはある、遠くて小さな小さな世界のお話。
 まだ世界としても新しく、人々は畑を耕し、慎ましやかに生きていた。幸福に生きていると言って、間違いはない。
 その証拠に人々は日々、笑顔であふれている。
 笑顔を向け、笑顔で返す――その様子をずっと何年、何十年、いや、とうに百年以上見てきた者、いや、モノがいた。
 村の中央でいつも人々に囲まれ、春になれば皆が集まってくれる、それはとてもとても美しい花を咲かせる大きな桜……それこそがずっと村人を見ていたモノであった。
 しかしいつしかその桜には、とある願望が芽生え始める。
 笑う彼らに触れあえたら――最初はそれほど大きなものではなかったが、十年、二十年と経つにつれ、それはどんどん大きくなりつつあった。
 そんな不思議な桜に、不思議な事が起こり始めた。
 最初、その異変に気付いたのは村人の方だった。笑顔で歌う村人を見るのが好きだった桜は、いつしか自分も歌うことが好きで、誰にも聞こえない声で歌っていたのだが、その歌声が村人の耳にも届くようになったのである。
 それだけでも人々は気味悪がったものだが、ぼんやりだった声がはっきり聞こえるようになった頃には、腰まで伸びた黒髪に深紅の瞳、桜の花が散りばめられた漆黒の着物を着た女の子の姿が、誰の目にもはっきり映るようになっていた。
 桜は自分の姿が見えるようになっている事に気づかず、ただ歌い続ける毎日。
 なにかしらの変化を感じ取ったのは、大人達の遠巻きに気味の悪いものを見る様な目。それと、真っ直ぐに見つめてくる子供達の好奇にも似た視線だった。
 そしてある日、子供達はとうとう、桜に声をかける。
「さくらのおねーちゃん、歌、きれーだね」
 そう話しかけられ、初めて自分が実体化したことを知った桜だったが、歌は歌えても会話なんてしたことがない。どう答えたらいいのかわからない桜だったが、子供達との会話を繰り返しているうちに、大人達の不信感も消え、やがて子供達のように、「さくら」と呼ばれ、慕われるようになっていった。
 この幸せが、いつまでも続くと信じて疑わなかった――が、それこそが幻想にすぎなかった。
 朝になり、いつものように歌い始めるさくらはすぐその異変に気付いた。この時間にはもう必ずいるいつもの女性が道端で胸を押さえ苦しみだして、さらには身体から黒いもやが溢れてきた。
 それの存在を桜は知らなかったが、それでも自分に近しい何かだと感じ、話しかける。
 それは自らを「世界の闇」と述べ、ただ人を苦しめるだけの存在――人々を助けようと、桜は世界の闇へ1つの提案をしていた。
 自分が、全てを受け入れる。
 世界の闇にとってどこでもよかったのか、その提案をあっさり受け入れ、膨大な量の世界の闇が桜の樹の中へと消えていった。
 それで確かに人々を助ける事はできたが、世界の闇を宿した桜は、その身が徐々に蝕まれていくのを感じていた。そして、決して長くもたない事も。
 束の間の平和が訪れていたが、あの日から桜は歌う事すらできなくなっていた。子供達は寂しそうな顔をし、いつもの広場はいくら雑踏があろうとも、静かなものになってしまった。
 そんな日々が過ぎていたある春の日、とうとうそれはやってきた。
 いつもならば花を散りばめ、乙女の頬のような様相になるはずの桜が、全く蕾すら見せず、風が吹くたびにギシリギシリと嫌な音を立てるようになっていた。
 そして春一番を告げる突風をその身に受けた時、とうとう彼女は悲鳴を上げてしまった。
 けたたましい音を立て、桜の樹は2つに折れてしまう――同時に、これまでずっと桜を宿主としていた世界の闇は間欠泉のように吹き出し、再び人々を襲い始めた。
 人々の苦痛に満ちた悲鳴がそこら中を支配し、桜は悲痛な叫びをあげるが、宿る器ですらなくなった彼女にもう耳を貸す事もなく、それどころか、これまでは桜の樹しか侵蝕しなかった世界の闇が実体を持った彼女すらも蝕み始めた。
 これまでにはなかった意識の侵蝕に、彼女は恐怖を覚えた。そして、自分の力が全く及ばず、倒れていく人々へ抱く罪悪感に、押し潰されそうになった。
 次第に黒へ沈んでいく意識の中、彼女はただただ、この言葉のみを繰り返す。



「ごめんなさい……」



 次に目を覚ました時、彼女はある少年と出会い、そこからが新しい物語の始まりであった――





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa2611hero001 / 黒桜 / 女 / 15(樹齢百年以上) / 悲しみを背負う桜 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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まずはご発注ありがとうございました。関わりの薄いリンクブレイブとの事でしたので少し身構えましたが、異世界の話でしたのでこのように書かせていただきました。あえてセリフを少なくし、彼女の後悔がより一層伝わればいいなと思っていますが、どうだったでしょうか?
またのご依頼、お待ちしております
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楠原 日野 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年02月01日

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