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『理解しがたいはずなのに、私の心に刺さるもの。 』
千獣3087

 目の前で。

 いろいろなことを聞かされて。
 いろいろなことが起きて。
 どれも、きちんと、たくさんたくさん、考えなければならないことで。考えて考えて、答えを出さなければならないことで。
 それでいて、すぐに判断しなければならないことも、あって。

 ……聖都に火の手があがっているのが、見えて。
 たぶん、その原因が――火の元が『何』かも察することができていて。

 今、その場にいた皆が皆、そちらに一気に気を取られたことも、わかった。あってはならないこと、みたいな、驚いてる、みたいな。それと、ただ純粋に、何で今? って、少し違う角度での疑問を持ってるみたいな反応も、あった。
 とにかく皆、動きを止めていた。
 私も、止まっていた、と思う。

 聖都にあがる、火の手。
 それを認めての、この場に居る皆の、様子。

 ……また、たくさん考えた上で、すぐに判断しなければならないことが、増えた。

 なのに。
 私は。

 私の、中では。

 ……何故か、一番に頭に浮かんだのでは、そういうことでは、なくて。







 ……人間と関わっていて、時々思うときがある。

 人間は理解しがたい。ダメ、と言われたことはだいたいやるし、手の内を明かさないばかりに手の内から溢れた頃には収まりがつかなくなっている。今目の前で起きていることだって、そう。……「自分」だけで。思いこんで。思いつめて。わかってもらいたい相手に、ちゃんと、わかってもらおうとすればいいのに、わかってもらおうとなんてしなくて。……勝手で。でも、どうしてその「勝手」をするのかの理由も、色々で。ただ「そうしたいから」なだけじゃなくて。……自分のため。誰かのため。そんな風に、「していること」に色々とむずかしい理屈をつけて。
 ……目の前で「していること」だけで見るなら、むずかしく考えるようなことなど、何一つしていないはずなのに。
 でも、それらの「していること」の裏側に、目の前で見えるだけじゃない、むずかしい意味がいちいちこめられているから、わからなくなる。……「していること」が同じように見えても、その時々で、人によって、裏側にある意味がぜんぜんちがっていたりすることもある。
 ……果ては、裏側にこめられている意味が、「していること」とはのまったく逆のことなんじゃないか、って思えるような場合すら、ある。

 関わっても、関わっても、わからない。
 関われば、関わるほど、わからなくなる。

 人間は理解しがたい。獣の世界の方が、ずっとわかりやすい。どれだけ関わっても考えても人間を理解できない私は、やっぱり獣の世界で生きようか。……そんなことも考えていた。

 なのに。





 ――――――『人として、生きたい』。





 その言葉は、何故か胸に突き刺さる。
 刺さって、抜けない。

 聞いてしまったが、最後。
 私は、自分が何を考えているのか、わからなくなった。







 ……聖都であがった火の手。

 初めに見たその時、私がその炎と重ねてしまっていたのは、以前あの集落で立ち合った、あの炎。
 何だか、同じような不穏さを思わせる、炎で。

 でも。
 あれは、以前立ち合ったあの炎と、本当に、同じものなんだろうか。
 そんな疑問が、浮かんだ。

 違う気がする。
 そもそも、あの時立ち合った炎の主は、もっと近くに、今この場に居る。
 でも、当のその人も――聖都にあがるあの炎を見て、目を瞠っていて。今この場での、動きを止めていて。明らかに、驚いていて――驚き方も、何だかそれまでとはぜんぜん違っている気がした。少しだけぼうっと見ていたかと思うと、我に返って弾かれるみたいに、そちらに駆けて行きさえした。その人以外の人も。この件の「始まり」なんだろう二人も――決して同じ思いではないだろうけれど、どちらももう、何はなくともあの炎を確かめるのが先、とでも言いたげな様子でいて――何だか、焦ってるようにすら、見えて。意識は既に、そちらにあって。
 すぐ近くに、目の前にあったはずの、たくさん考えなくちゃならないむずかしい状況が――むずかしい状況だったはずなのに、何だか、それどころじゃなくなった、みたいな。
 聖都にあがるあの炎が見えただけで、その場の空気が、がらりと変わっていた。

 私の中の獣が、魔物が警戒している。空気すら、びりびりと張り詰めている気がした――それこそ気のせいかもしれないけれど、そのくらいの、強い感覚が来た。あの炎を見て。嫌な汗が浮かぶ。……わからないから。以前立ち合ったあの炎に遭遇したからこその、ただの経験則としての獣らしい警戒――だけじゃない、それ以上の「何か」がある気がしてならない。考えるより先に『近付くな』と頭の中で警鐘が鳴り響く。……少なくとも、それだけははっきりしている。

 それでも、私の意識は、もう、とっくにあの炎へ向いている。
 他の皆と、同じで。
 もう、足も向いている。
 頭の中で鳴り響く警鐘に従うべきだと、私の、私の中の獣の、魔物の――とにかく、本能的などこかでは感じているのに。
 なのに。

 ……あの炎が私を、獣を魔物を焼き尽くす炎であったとしても、この場を立ち去る考えが浮かばない。

 一言。
 あのたった一言で。










 ああ、本当に、人間は理解しがたい。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2016年02月03日

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