▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『〜 to ZERO 〜 』
ゼロ=シュバイツァーjb7501

 枯れた色の草が乾いた風に揺れている。
 ダラダラと続く灰色の路。
 その真ん中で、黒い男が転がっていた。
 手足を伸ばしたり縮めたり、仰向け、うつ伏せ、側臥位と姿勢を変え、呼吸だけは深く静かに一定のまま、いわゆるストレッチをしていた。
 道行く人がいれば何事かと思っただろう。だが辺りには人っ子一人いない。半径数キロに及び、人間の数は数えるほどだ。
 主戦場はすぐそこ。周辺住民の避難はとっくに終わっていた。
 そんな誰もいない街角で、ゼロ=シュバイツァーはその黒い男と出会った。
「よう」
 ゼロが声をかけると、
「はーっ……おう」
 呼吸の合間に返事が来た。
 黒い道着姿の、角河トホルだった。
 ゼロも黒い服装だったが、こちらはいつも通りだ。
 寝転んだ姿勢のまま、トホルはゼロを見上げる。
「スーッ……も少し待って……はぁーっ……」
 ゼロは笑って、天を見上げる。
 空が綺麗だった。
 数分と待たず、汚い羽音がそれをぶち壊した。
 バラバラと舞い降りてきたのは、二足歩行する巨大な虫、コウモリの羽を持つ怪人、甲冑と刃で武装したトカゲ人など……奉仕種族だった。
 無論、黙って見逃すゼロではない。降りるまでに二匹が頭を吹き飛ばされて死んでいる。地獄への道案内は、ゼロの腕にとまった一羽の大鴉、優しき友より譲り受けた黒い銃口の哭き声。
「終わり」
 ふわりと立ち上がり、トホルが言った。
 ゼロは翼を広げ、舞い上がる。
 殺戮が始まった。
 首をへし折られた怪物が、唖然とした表情で転がった。
「あんた何しに来たの?」
 胸を穿たれた怪物が、黒い血を吐き出して息絶えた。
「葬式はやらんみたいやしな。手土産くらいはつけたろかなって思ってな」
 次から次へと敵が現れるので、次から次へと殺しながら、二人は会話を続ける。
「何の話」
「ごまかすな」
「じゃあ言うけど」
 手近な敵をぶちのめし、そいつを盾にトホルは突き進む。「マリスはちゃんと葬式してたっぽいよ」
 敵陣に到達。めちゃめちゃに暴れまわる。ひどく、暴れまわる。
 ゼロも武装を大鎌に変えて飛び込む。 
「おまえは葬式行ったんか?」
「関係ない」
「ちょっとは発散しとけ」
「……お節介だなあ、相変わらず」
 殺戮を振りまいて己の傷を増やす。体の傷が増えてゆく。
 理性的ではないが。
 理想的だ。
 ひどく、暴れた。
 奉仕種族ですらが恐慌をきたし、泣き声をあげるほどに。
 今回、トホルはゲート掃討作戦に参加し、偵察を担当していた。
 その任務中に行方不明になった。
 その捜索を願い出たのがゼロだった。
 偵察も捜索も完了した。
 土砂降りの黒い翅、凍てつく白い闇、殺意を込めた熱が、奉仕種族たちの命にヒビを入れてゆく。黒い刃、闇色の光が生き物の器を壊してゆく。ゼロの破壊衝動は敵味方を問わない、すべてを壊す。
 すべてを壊さなくてはならなかった。そう生まれそう育った。だからゼロは一人で戦うことを好む。
 それに巻き込まれぬよう少し離れたところで、トホルが淡々と屍の山を積み上げている。その殆どが反撃からの追撃だ。さばいて打つ、蹴る。流してひねる、砕く。倒れた相手は蹴散らす。
 自らに迫る攻撃ならどの角度にも対応できるが他者は守れない。だからトホルは一人で戦うことを好む。
 けれども。
「なあ、それ使えてるか!」
 ゼロの刃が黒い三日月のような軌跡を描いて、敵影をまた一つ減らす。
 唸りを上げて飛来する火の玉を払うトホルの腕には、V兵器。ゼロから譲り受けたもの。
 トホルは親指で敵の喉にある急所を押さえつけ、
「最初は戸惑ったけどね、手足だけしか使えなくなるから!」
 脚を払って転がした。
 距離は遠く、会話の声は大きい。
「あー、せやなあ。使いにくいか!」
「大丈夫、やれてるよ!」
 一足飛びに跳んで横蹴りをするときには、脚のV兵器が発現している。これもゼロのプレゼント。
 悲鳴、怒号、爆音、意にも介さずおしゃべりを続ける。殺して、殺して、殺しながら。
「ゲートはあっち、隣駅のほうやな!」
「えー? 行くのー?」
「まぁまぁ。うまい酒飲む為の一仕事やと思ってな!」
 敵勢力が残り3割ほどに減ったところで移動を開始。
 かかってくる奴らは斬り殺し、撃ち殺し、殴り殺し、蹴り殺し、くびり殺し、とにかく殺した。
「もしもし、トホルです」
 それから本部に連絡を入れた。「はい無事です。すみません道に迷っちゃって。ああ、はい、合流できました」
「ども、ゼロです。はいはい、見つけましたー」
 二人共、通信機に報告しながら、向こうからの返答はほとんど聞いていない。ぶらぶらとゲートに向かう。
 本部の方は大騒ぎ。
 二人は律儀に報告する。
「じゃあそうゆうことで、寄り道してから戻ります、はい、うっせえばか」
「はいはいー、問題ないよって、ちょいとゲート潰してきますわ、はいはーい、やかましいわボケ」
 報告完了。
 顔を見合わせ、ゲラゲラ笑う。
 双方、無傷ではない。息も上がっている。あれだけの猛攻、目をそらそうが気をそらそうが傷は無情なまでに現実的だ。
 痛いわ辛いわで、とりあえず八つ当たりしたくなるくらい変な心境。
 ちょうどいい、ゲートがある。
「俺とお前ならよゆーやん」
「そうでもないぜ、死ぬかもよ」
 冗談めかして笑うゼロに、トホルは現実的な意見を、同じ笑顔で返す。
 二人は歩いた。
 ゼロは翼をたたんでいた。
 本部は慌てて総攻撃の指令を出して、作戦が前倒しになった。
 騒がしくなった街の中、二人は歩いた。
 途中、奉仕種族の一団と出会った、神話の生物を模したような怪物たちが近代的な武器を構えて、二人に襲いかかった。
 黒い服の二人は自分を削りながら歩みをすすめた。
 ゲート周辺の激戦を「ちょっとすいませんね」と通り抜け、キーパー(ゲートの持ち主)に挨拶する。
「……」
 何名かの撃退士を殺し終えていたキーパーは、同じような獲物がやって来たかと身構えた。
 ゼロとトホルのほうも、ちょっと強い八つ当たりの相手くらいに思っていたから、普通に足を進めた。
 それでも何となく、ここで一段落という気がしていたから、トホルは口を開き。
 ゼロは耳を澄ました。
「彼女は死にたくないと欲し」
 元俳優だけあって、トホルの声はよく通った。
「周囲も彼女を死なせたくないと願い」
 爆炎、範囲攻撃が飛んでくる。
 傷が増える。
「皆が力を振り絞って」
 歩みは揺れず。
 上体を柔らかく、力を抜いて。
「それでも彼女は死んだ」
 必殺の刃を捌き、躱しきれぬ攻撃は急所を外して受けて。
「命をゴミみてえに捨てて戦争とかやっている貴様らは何だ」
 怒り、悔しさ、悲しみ、不快感……やりようのない思い。
 ふっと脱力を深めて、踏み込んだ。
「……」
 ゼロは何も言わなかった。
 黙って、相棒の攻撃に合わせて、やはり同じような思いをアウルに変えて解き放った。
 敵がそのとき何を言ったか、二人共、別に興味はない。

 その一時間後、行きつけのバーに二人の姿があった。どちらも傷だらけだった。
 どうしたの? とバーテンダーは訪ねた。
「一人になりたい気分だったんだ」
「一人にさせとうない気分やったもんでな」
 二人は応え、それぞれいつもの一杯目を注文した。
 バーテンダーは笑って、いつも通りにシェイカーを振った。
 それから彼らは乾杯を交わしたが、言葉はなかった。
 悲しみも喜びもなく、プラスマイナスゼロの乾杯。
 空っぽのグラスに、自分が映っていた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

● jb7501 /ゼロ=シュバイツァー /男性 /31歳(外見年齢) /アーティスト(現ジョブ)

● jz0314 /角河トホル /男性 /29歳(外見年齢) /ルインズブレイド(現ジョブ)



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 似た者同士か、正反対か。
 
 
WTシングルノベル この商品を注文する
丸山徹 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年02月05日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.