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『紅の約束 』
飴餅 真朱也ka3863)&尾形 剛道ka4612

 薄闇に振り続ける白い悪魔。
 刻々と大地を染め、生きるものを現世から覆い隠し、地上から生気を奪う。
 見るものが見れば天使にも見えるという雪。けれど尾形 剛道(ka4612)にとって、今宵降る雪は『死神』にしか見えなかった。

――また死に損ねた。

 白い息と共に浮かんだ雑念。
 死を望み、生を渇望する矛盾に囚われた哀れな男。それが剛道だ。
 彼は雪に生者の証である血を滴らせながら、一歩、また一歩、と先の見えない道を歩く。
 宛などない。このまま死ねばそこまでの命。だが生き延びたのなら、それはまだ死ぬことの出来ない命なだけなのだと。
「っ……クソ、ッ……」
 いつまでこんな事を続ける。
 繰り返しても、繰り返しても、果ての無い欲望が己を駆り立てる。
――此処で目を閉じたら、楽になれるか?
 雪を踏む足が止まった。
 出血からか、先ほどから視界が薄い。
 吐き出す息も白さを失い、全身の体温も悪魔に奪われきろうとしている。
 このまま大地を染める悪魔に身を置けば、本当に死ぬことが出来るかも知れない。この終わりなき矛盾ともさよならをする事が出来るかも知れない。
「それも……悪くない、か……」
 ドサッ。と、雪の上に倒れる音がした。
 倒れる直前、剛道は薄れる意識の中で白い悪魔を見上げていた。
 己を嘲笑うかのように降り続ける雪。その悲しいまでに美しい姿を己が目に焼き付けるように――。

   ***

 目を覚ました時、剛道は見知らぬ部屋にいた。
 虚ろな意識下でも理解できる。此処はあの悪魔がいた世界ではない――と。
「よお、目が覚めたか?」
 不意に聞こえた声。その声に視線を動かすと、見覚えのない男が此方を見ていた。
「やっぱ生きてたか。死体だと思ったんだけどな」
 クツリ。そう笑う男は倒れる剛道を食材と見間違い発見したと言う。
 本来であれば捨て置かれる筈だった命。それを拾い上げた理由はともあれ、生き残った事は事実。
「俺は飴餅真朱也。お前は?」
 真朱也と名乗る男は、そう問うと剛道が横になるベッドに腰を下ろした。
「……剛道。尾形剛道、だ……」
 目覚めたばかりだからか、それとも血を失いすぎた所為だからか、未だ意識が朦朧としている。
 その中で何とか聞き取った言葉に答えを返すと、剛道は長い息を吐いて瞼を閉じた。
「剛道か。ああ……眠いなら寝ると良い。拾った以上は最後まで面倒見るさ」
 柔らかな感触が瞼に触れた。
 目を開くなと言うように圧迫する動きに「馬鹿か」と思う反面、まだ眠っても良いのだと言う安心感が襲う。
 こんな感覚はいつぶりだろう。
 剛道は無意識に口角を上げると、再び意識を手放すべく長い息を吐いた。

   ***

「さあ、今日の飯はこれだ」
 食え。そう差し出したスプーンの上に満たされるのは、何時間も掛けて煮込んだスープだ。
 隠し味に自由都市で仕入れた貴重な香辛料を使い、材料にも真朱也自身の拘りがたんまりと含まれている。
(今日こそ美味いと言わせてやる)
 剛道が真朱也の館に来て3日。剛道の容態は日に日に良くなっている。
 そんな彼に朝昼晩と食事を運ぶのが真朱也の日課になっていた。
「……そう言えば葡萄の館、だったか」
「ん?」
 スープを運び零された声に真朱也の眉が上がる。
 確かに此処は『葡萄の館』だ。
 目覚めて直ぐに剛道が「此処は何処だ」と問うたので答えを寄越した。
 不思議そうに目を瞬く真朱也へ、剛道は微かな視線を向けて首を振る。
「否……」
 言って、剛道は黙々とスープを口に運んだ。
 その姿に密かにムッとしながらも、真朱也は甲斐甲斐しく剛道に食事を与えてゆく。
 その目的は勿論、料理人として彼に「美味い」の一言を言わせる為――……なのだが。
「おい、何か言うことはないのか?」
 全ての料理を口に運び終えた剛道に問いかける。
 そんな彼を見て眉を潜める剛道は、僅かに思案した後こう返した。
「俺以外に住人はいるのか?」
「あ?!」
 確かに剛道はさっき葡萄の館の名を口にしていた。
 だが聞きたいのはそこじゃない。
「いるよ。いるけど違ぇだろ!」
「あ? あー……風呂はまだ無理だ」
「違ぇよっ! もういい!」
 阿呆か! そう吐き捨てて部屋を出る。
 何故だ。何故奴は食べた物の感想を言わない。
 苛立ちと、自分の料理の腕では足りない何かがあるのかもという疑問が次への原動力となる。
「よし、次は肉だ。肉料理で美味いと言わせてやるっ」
 覚悟してろよ。そう密かに零し、真朱也は廊下を歩いて行った。
 そして彼が部屋を出た直後、剛道は彼の態度を気にするでもなく窓の外を見ていた。
「王国南部、か」
 目を覚ました日の夜。真朱也は館がある場所を王国南部の元ドメーヌだと言った。
 周囲に枯れた木を複数擁するこの血は、昔葡萄畑として栄えていたと言う。今は真朱也を主として話の合いそうな者たちが出入りしていると聞いたが、
「住人はいるのか……」
 出歩いていないので何とも言えないが、館は剛道が想像するより遥かに広いだろう。
 彼が目を覚ましてから見掛けたのは同じような使用人と真朱也だけ。だからこそ他に住人がいるのか聞いたのだが何が彼の機嫌を害したのか。
「謎だな」
 剛道はそう零すと、未だ重い身体を休めるべくベッドに身を沈めた。

   ***

(結局、言わせられなかった……)
 真朱也はあれからも三食全部、剛道の体調や好みに合わせて作って食べさせた。だが二週間が経とうとする今になっても「美味い」の一言が聞けていない。
 にも関わらず、剛道はもう館を出ると言うのだ。
「世話になった」
 葡萄畑を背にそう語る剛道の傷は全快している。だから彼が出て行くのは当然だった。
 引き止める意味も、引き止められる理由もない。
 それにもうこれ以上彼の為に食事を作ることも、彼に感想を求めてイライラする事もないのだ。
 そう、これ以上不機嫌になる事もない。
(清々する筈、なんだがな……)
 モヤモヤとした感情が胸の奥にあった。
 それを見ないふりでいたのか、意地を張っていたのか。どちらにせよ、このモヤモヤを消すには自分で動くしかない。
「剛道」
 背を向けた彼に声を掛ける。
 すると思わぬほどにすんなりと、彼はこちらを振り返った。
「これをやる」
 差し出したのは鎖付きの紅い首輪だ。
 彼は剛道の首にそれを着けると、ニッコリ笑って鎖を引き寄せた。
「必ずまた俺の飯を食いに帰って来い。で、栄養バランスの取れた飯をきちんと三食摂るんだぞ」
「……考えておく」
 数日、共に飯を食べてわかった事がある。
 この男に『誠意』と言う物は期待しない方がいい、と。
 それでも寄越された返事に口角を上げ、真朱也はシャラリと手を離した。
「じゃあな」
 返された背に未練などというものはない。それが胸の奥に未だあるモヤモヤを呼び覚ます。
(俺はまだ聞いていない……俺は――)
「剛道!」
 先程より張って呼び止めた声。その声に億劫そうな顔が振り返る。
「美味かったか?」
 搾り出した声は思った以上に優しかった。
 そんな自分の声に驚きながらも、僅かに聞こえた彼の「美味かった」の声に苦笑が漏れる。
「……もっと早く言え、駄犬」
 満たされる欲求と生まれ来る喪失感。
 それに目を落とし、真朱也も背を返した。
「何か美味いもんでも作るかな」
 そう言って見上げた空に、薄い雲が広がり始めている。
 もしかするともう少ししたら天気が崩れるかもしれない。そしたら外に出よう。
 新たな食材と、新たな出会いを求めて――。

END...

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ka3863 / 飴餅 真朱也 / 男 / 23 / 人間(青)/ 聖導士 】
【 ka4612 / 尾形 剛道 / 男 / 24 / 人間(赤)/ 闘狩 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ファナティックブラッド
2016年02月05日

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