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『Happy New Year 』
aa0027hero001)&ILaa1609hero001


「――せーんぱーい、デートしーましょ」
 元旦の午後、鯆(aa0027hero001)の目覚めはひどく不快なものであった。
 大晦日――そんなものも忘れていつものように設計に精を出し、眠ったのは何時だったか。
 気づくととっくに年を越え、初日の出も越えてソファーに大の字、夢の中。
 そんな起き抜けに素性も知れぬ“後輩”の口から飛び出した言動に、彼の口から思わずため息も漏れるものだ。
「いやお前ね、デートとか意味わかんねぇし」
 寝る前に火種だけ落として放置した灰皿のタバコに再度火をつけ、一息吸ってからベッド代わりにしていたソファーへ腰かける鯆。
 そんな彼へと件の“後輩”IL(aa1609hero001)はテーブル越しに身を乗り出して迫っていた。
「どうせヒマしてんだろ? せっかくの新年なんだから、ちょっとくらい付き合えって」
「これのどこがヒマに見えるって――おいおい、タバコ返せよ」
 設計資料の散らばったテーブルの上で鯆の咥えていたタバコをひょいと摘み取ったILは、そのままどっかりと向かいの椅子に腰掛ける。
 そうしてふぅと一口それを吸うと、紫煙を細く棚引かせながら端に追いやられていた灰皿の上でそれを揉み消して見せた。
「あー! お前、俺の命より大事なヤニだぞ!」
 隻眼を丸く見開いて、ひねり潰された吸い掛けのタバコを口惜しそうに見つめる鯆。
「酒でも飯でも、今回は俺の奢りで良いからさ。ちょっと付き合えって」
 そうして悪びれる様子も無く口にしたILを前にして、鯆は再びの大きなため息混じりにボリボリと頭の後ろを掻いて見せた。
「わーったよ、仕方ねぇな……」
「よっし、決まり!」
 言質を取ってひょいと弾みを付けて立ち上がったIL。
 颯爽と玄関先へと向かって行くその背中に、ふと思い当たったように鯆は声を掛けていた。
「あー……あと、タバコ弁償な」
「1本くらいみみっちぃなぁ」
「うるせぇよ、何もお釈迦にする必要無かっただろうが」
 ぶつくさと悪態を吐きながらも、2人の抜け出した玄関ドアはバタリと乾いた音を響かせて外界との接点を閉ざしていた。

 2人の向かった先、近所の神社の参道は、大勢の人の波でごった返していた。
 厚手のコートやジャケットに身を包んだ者達に紛れて、ちらほらと目にする艶やかな着物姿達。
 軒下に吊るされたスピーカーから流れる笙の音色が今日と言う日を色濃く演出する。
「2礼2拍手1礼……と言うのが、この世界の仕来りらしいな」
 参拝の順番を待つ傍ら、境内の軒先に立てられていた『参拝の手順』に目を通しながらILは興味深げに口の中で復唱していた。
「正確には『ここでは』だろ。宗派なんざごまんと有る」
「それでも『郷に入りては郷に従え』って、この国の言葉だろ?」
「……たく、可愛げの無い男だぜ」
 ああ言えばこう言う後輩は会話の上では退屈しないが、それはそれで厄介なものだ。
「ほら、次だ」
 前を歩いていた先客が横に掃け、厳かな境内が露わになる。
 立て看板に書いてあったことを思い返しながら、賽銭を入れて、鈴を鳴らし、境内を見やる。
(2礼2拍手1礼……か)
 心の中で唱えながら手を合わせる2人。
 最後の礼を終えてすくりと顔を上げると、どちらからともなく列の外の方へと掃けていた。
「なーにお願い事したんです?」
 不意撃つように開口一番口にしたILに、鯆はなんとも言えない表情を浮かべて首筋を撫でる。
「言うか、馬鹿。こう言うのは誰かに口にすると叶わなくなるもんなんだよ」
「おー、偉そうに言うね。どうせ何かの受け売りのクセに」
 言いながら小突かれるわき腹に、やんわりと飛びのくようにそれを制する鯆。
「そういうアルはどうなんだ」
「アンタが教えてくれたら教えますヨ?」
「そうか、なら知らんでいいや」
「いや、そこは聞くとこだろ!」
 興味の無い振りをして明後日の方角に視線を向ける鯆に、含み笑いで突っ込むIL。
 鯆は切り替える話題を探すように視線を巡らせて、ふととある区画をその瞳に捉えていた。
 そうしてILの小袖をひっぱて、「それ」を指差す。
「寒い中こんなくんだりまでわざわざ出向いてやったんだ、何を置いても約束は果たしてもらうぜ」
 指した視線の先に立ち並ぶのは参拝客を狙った出店の数々。
 正月らしいものから、全く関係なさそうなものまで含めてひしめき合った区画には、店主達の狙いの通りに大勢の人で溢れ帰っていた。
「はいはい、分かってるよ。ちょうど小腹も空いた頃だ」
 ILもまた小さく肩をすくめながらそれに答えると、2人の姿は屋台の喧騒の中へと消えて行くのである。


 店先で買った缶ビールで手早く乾杯を済ませ、ざっと出店を見て回る。
 大半は粉モノや飴などの「いかにも」な店が多いが、この寒い時期に併せてか、煮込みなんかの暖かいものを出すような店もチラホラ。
 一通り買い揃えるだけでも、十分豪勢な食卓を飾れそうなだけの店舗は揃っていた。
 しかしながらビール片手ともなれば持ち歩ける食べ物の量も限られ、結局は持ち帰り用にパックして貰うか、指の間に挟んで何とか持つか、それなりに器用な事を要求されていた。
 とは言え、2人ももう食べ急ぐような年でもなければ買ったものを並べてご満悦になるような性質でも無い。
 ビール片手と言うのをある種の制約のように、1件ずつ、食べては次へ食べては次へと文字通りの食べ歩きに花を咲かせるものである。
「いやー、うまい! 寒空の下の熱燗ってのは最高だな!」
 ベンチに腰掛け焼き鳥片手に吐き出すように一言。
 鯆はぐびぐびとカップの中身を飲み干すと、カラになったそれをクシャリと握り潰して傍らのビニール袋に放る。
「毎度のことだけどさ、ペース速くない?」
「んなことねぇって。いいか、酒はな、待ってはくれないんだよ。あ、お替わり貰ってくるわ」
 苦笑交じりに当ILへと鯆は意味不明な言動を返すと、ふらりと別の出店に足が向く。
「あ、おい! サイフは俺だってこと忘れるなって!」
 ブツを一旦ベンチに置いて、慌ててその背を追いかけるIL。
 鯆は酒は好きだが別段強いわけでもない……どちらかと言えば弱い方。
 ともすれば、既にいい感じにほろ酔いである事は言うまでも無い。
 ILはおざなりになった足つきの鯆の腕を取ってそれを支えると、気を確かめるように軽くその肩を叩く。
「んー? 大丈夫だって、まだ酔ってねぇよ」
 ILの背筋を摩るようにしながらそう答える鯆。
 そう言う人間こそ酔っ払ってるのだと、今の彼に幾ら言っても意味が無い事をILも承知しているので口には出さない。
「酒は俺が買って来るからアンタはあっち。食い物と席の見張り、よろしく」
「おう、まかせとけ!」
 バンと背を叩かれながら、気持ちの良い返事に逆に不安を覚えつつも熱燗を買いに急ぐ。
 途中、とある屋台の軒先にその視線が這っていた。
 そこに並べられていたものを見て、一時何かを考えるように視線を伏せる。
 暫くして、熱燗の並々入ったカップを両手にベンチへと戻ったILは、ベンチに腰掛けて天を仰ぐようにして大人しくなった鯆の姿を目の当たりにしていた。
「あー、新年から何してんだろうな俺」
 ぽっかりと明いた口でそう言いながら、手持ち無沙汰に何かの包み紙を手の中で何度も折り曲げる。
「ほら、熱燗。これ飲んだら帰ろうぜ」
「なんだよー、宴はこらからだろ?」
 コップを受け取りながら、ILの肩に擦り寄る鯆。
 と言うよりは、自分で身体を支えきれずに倒れ込んだのに等しい。
 ぐらりと揺れたコップの中身がパシャりと地面に零れる。
「うわっ……たく。おい、鯆サン」
 地面が飲み込んで行く熱燗を恨めしそうに眺めながらも、肩に寄りかかった鯆を揺らすIL。
 が反応は無く、代わりに規則正しい息遣いがその首筋へと静かに吹き込んでいた。
「ったく、手間がかかるんだからな……」
 言いながらちらりと覗き込んだその表情。
 どこか安心しきった子供のようなそれを前に、小さな吐息が漏れる。
 肩を預けたまま先ほど鯆がそうしていたように自分も天を仰ぐIL。
 先に彼が見ていた冬の空が、そこには広がっていた。
 
 帰り道。
 すっかり酔いつぶれた鯆を肩に抱き、彼の自宅を目指すIL。
 酒のせいか、いつもよりも体温が高いように感じるその胸板を背に首筋を吹き抜けた冷たい風に小さく身震いをする。
「寒いな」
「……そうか?」
 酒焼けで掠れた声で鯆が返す。
 重いまぶたは今にも閉じ切りそうであるが、流石に人の背中の御世話にはならない程度の自覚はあるのか、ふらつく足取りながらも雪道を一歩ずつ踏みしめて歩いていた。
「あ……そうだ、忘れる所だった」
 不意に立ち止まり、ゴソゴソと上着のポケットをまさぐるIL。
 もはや彼に体重を預けなければ歩く事もままならない鯆は何をするでもなく、共に立ち止まっていた。
 やがて、何かを取り出したILの手が鯆の左手に回り、その手首にそれを結わえ付ける。
 掠れる鯆の視線の先、そこにあったのは義手にくるりと巻き付いた黒と赤のミサンガであった。
「アンタにやるよ。お守り代わりだ」
 言いながら、いつもの調子で笑ってみせるIL。
 鯆は腕のそれと、ILの顔とを見比べて、そしてもはや何も考えられない頭でただ一言口にする。
「おう……さんきゅ」
 再び歩みを進める2人。
 静かな夜に、2人の足音だけが木霊する。
 虚ろな意識の中で鯆はもう一度、左手についたミサンガに視線を落としていた。
 額に手を当てる振りをして、そっとそれを顔へと寄せる。
 そうして先に境内で願った事をもう一度祈るようにして、瞳を閉じる。
 それは望めばいつでも叶う事願いである事は本人もよく知っているが……だからと言って素直になれるほど、自分ができた人間で無い事も彼は良く知っていた。
 だからこそ願う。
 この紐が切れたときに、それが必ず叶いますようにと。
 
 ――またいつか、こいつとこうやって遊べますように。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0027hero001 / 鯆 / 男性 / 47歳 / ドレッドノート】
【aa1609hero001 / IL / 男性 / 33歳 / バトルメディック】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、のどかです。
今回は英雄お2人の新年の一節を書かせて頂きました。
ややBLちっくと言う事で初挑戦のジャンルとはなりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか……?
新ジャンルというものは、発表するときはいつもドキドキです。

2人の恋路?はまだまだ発展途上。
とは言え、大人ゆえの微妙な距離感がなんとも言えずに書きながら見守っておりました。
PL様にも、是非同じように見守って頂ければなぁと思う所存です。
ご注文、ありがとうございました!
初日の出パーティノベル -
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リンクブレイブ
2016年02月08日

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