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『消えた記憶、消えない過去 』
シュヴェルトaa0053hero001

 私は口元を吊り上げ、朱色に染まった手を見つめていた。

 それは、過去の記憶なのか夢の記憶なのかは分からない。

 ただ、鉄の様なニオイを含んだ風が体をすり抜けていくだけ。

 元の世界で戦う者として……いや、戦闘狂として生きてきた記憶の断片。
 屍の上に立ち、鉄の様なニオイと腐敗臭が混ざりあう中で独りで居た。
 青年は白い髪を風に靡かせ、青い瞳には光ではなく狂気を宿していた。

「貴様は強いのか? ならば試してやる」
 と、私の前に来る戦士に問う。
 口元を吊り上げ、私は剣の柄を握る。
 何度も、何度も、剣を交える。
 強者を切る感触。
 死を悟った目。
 朱に染まる服。
 そして――……戦う事に対しての異様な執着。
 いつからなのか、どうしてなのか、それさえ思い出せないが私は戦う事に執着していた。
「かっ……ぐふっ!」
 朱の液を口から吹き出し地面に倒れた。
(コイツもツマラナイ)
 私は動かなくなったソレを蹴って山に加えた。
 場数を増やす度に道は朱に染まる。
 ぬるり、とした感触が足の裏に付く。
 私はそれをものともせず前へ進む。
 ただ、黒く変色していく服の感触が倒された者が闇の底へ引っ張るかの様に感じた。

 朱はいずれ黒となる――……

 星が360度回転した時、朱は黒となり地面に溶けていく。
 山は地面と一体化しながら沈んでいく。
 酷いニオイと布切れだけを残して、また独りになってしまう。
 ”そうなれば、また強者を探しに行けばいい”と思い旅立つ。

 フラッシュバックの様にチラつく“朱に染まった笑顔”

 思い出そうとすると“朱に染まった笑顔”が脳裏に浮かぶ。
 その“朱に染まった笑顔”を思い出す度に”強者”を求める私が居る。
「強くならなければ……強くならなければ……」
 と、呪文のように何度も、何度も、口にする。
 そして、私が気が付いた時には別の地で、知らない少女が私を宝石の様な輝く目で見つめていた。

 現在、私は彼女の英雄として生きている。
 私は中世貴族の様な服を身に纏い裾を風に靡かせ、この世界での知識を教えてもらっている。
 しかし、過去の事、“朱に染まった笑顔”人物の正体と、強くなりたいと願った切っ掛けが思い出せない。
 でも、消えない過去であれ過去があるからこそ私は今ココに居る。
 彼女はそんな私に屈託の無い笑顔を向ける。
 その時だけは全てを忘れて笑える。

 戦う彼女を見ると様々な思いが頭の中をぐるぐる回る。
 考えてはダメだと、思考を振り解く様に首を横に振る。
 それは彼女の使命……いや、望んだ必然は変える事は出来ない。
 能力者である彼女が私よりも強く成長する事を楽しみにしているのに、護ろうとしている彼女が昔の私の様に朱に汚れて欲しくないと密かに願う私も居て――……
(酷く戸惑います)
 瞼を閉じて脳内の記憶を探る。
「私の居場所は戦場、それに偽りはない。だからこそ、強くあらねばならない……。そうしなければ*うから」
 やっぱり思い出せない、肝心な部分が切り取られた写真の様に空白だ。
 でも、彼女は空白の部分を優しい思い出として埋めてくれる。
 思い出すのは怖い……いや、彼女が知った時に心の距離が離れてしまうのではないか?と恐れているのかもしれない。
 そんな私の気持ちと裏腹に今日も彼女は戦う。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【aa0053hero001 / シュヴェルト / 男 / 20 / ブレイブナイト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度、発注をしていただきありがとうございます。
 初のWTシングルノベルという事もあり、手探りで書いたので時間が掛かってしまいました。
 表現をソフトにしつつ全体的に暗い内容にしました。
 シュヴェルト自身が、今と昔では感覚が違うのかな? と色々と想像しながら執筆しました。
 彼の物語を書かせていただきありがとうございました。
 何か不備がありましたら気軽に言って下さい。
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2016年02月08日

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