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『花の移ろい、宵の雨 』
木霊・C・リュカaa0068)&紅葉 楓aa0027)&紫 征四郎aa0076

 ざあざあ ざあざあ
 ざあざあ ざあざあ

 気づけば、雨が窓を叩いている。
 今年最初の雨は寒そうな夜空から降り注いでいた。

 窓の向こうの世界が雨を受けとめる様を見───記憶が蘇る。

●東風吹かば
 窓の向こう、白梅が咲き誇っている。
 この窓から見る白梅も、今日から暫くお別れ。
 紫 征四郎(aa0076)は、帰ってくるまでよく見ておこうと思った。
「いつか、強くなった征四郎をおみせするのです」
 征四郎は、白梅へ約束するようにそう言った。

 昨年のクリスマスイヴ。
 家は、悲鳴に包まれていた。
 ヴィランが、この家を襲撃したのだ。
 使用人がいる程裕福な紫家、金目のものが多くあると踏んでのものだろう。
 予想外の襲撃に対し、征四郎も、皆も、あまりにも無力だった。
 父も母も兄達もなく、その姿はどこかと探し回る最中、見つかったヴィランにその剣を振るわれた。
 顔に浮かび上がる紅い筋───哂うヴィラン達が去ろうとしたのを見、征四郎はその足にしがみついた。
 逃したら、酷いことをするに決まっている。これ以上好きになんてさせない。有効な攻撃が出来ないなら行動阻害をすればいい。
 5歳の、落ち着き過ぎる賢過ぎる考えは、ヴィランの怒りを買った。
 胸へ太刀が十字に吸い込まれる。
 だが、征四郎は離さなかった。離すものか。
 それも乱暴に振り払われ、征四郎は生きたまま火をつけられた。
 遠退く意識の中、男だったら、力があれば、こんな奴らに好きにさせないのにと強く、強く思った。
 直後───征四郎は、自分に向かって手が伸びてきたのを見る。
 それは、願いを叶える男の手。
 征四郎は誓約を交わし、能力者となった。

 共鳴した征四郎は駆けつけたエージェント達が来るまで必死に戦い続け、彼らの処置もあって一命を取り留めた。
 けれど、傷痕は消えない。
 もう消えないのでは、と言われた。
 そう言ったのはエージェントだったが、この傷は力を願う象徴であり強い思いが留めさせてしまうという意味は、征四郎にはよく解らない。
 それもあってか、誓約した英雄の勧めで東京へ行くこととなったのだ。
 この家から、H.O.P.E.東京海上支部は遠過ぎる。
 H.O.P.E.東京海上支部近くなら地元の大病院よりも更にいい設備の大病院があり、その身に受けた傷の治療にもいいだろう、と。定期的に通えば、消えなくとも何かいい方法が見つかるかもしれない、と。
「また会う日までなのですよ」
 征四郎が白梅に別れを告げ、英雄が待つ玄関へ歩いていく。
 裕福なこの家の廊下を歩けば、誰かしら歩いているものだが、今日は誰も歩いていない。
 家の仕事が忙しいのだろうか。
 両親の姿も兄達の姿もない。
 急過ぎたから都合がつかなかったかもしれない。
「いってくるのですよ」
 玄関で靴を履き、征四郎は家の中へ向けてそう言った。

 だから、彼女は知らない。
 彼女は、あの日、選ばれなかったということを。
 兄達よりも輝き過ぎていた為に征四郎の愛の半分も返されていなかったことを。
 認められれば家に帰ってくると信じている彼女は、やはり5歳の少女で、人が思うよりは幼くて、愛されていることを信じていて、棄てられたことを知らない。
 今は、ただ、願いを叶えてくれた英雄と共に新しい一歩を踏み出すのみ。

 この日咲いた白梅は、季節が移ろおうとも、窓から自分を見つめていた存在を忘れないだろうか。

●散り交ひくもれ
 え? カエデのことが知りたいの?
 興味本位……じゃ、なさそうだね。
 それなら、話すよ。
 ボク『たち』と出会う前のカエデはね───

 紅葉 楓(aa0027) は、空を見上げた。
 散った桜の花弁が青空へと舞い、どこかへ吸い込まれていく。
 地面に落ちた桜の花弁と違って、綺麗だ。
「……お別れかな」
 楓が語りかけるのは、唯一の友である人形。
 踏み出せば、お別れだから。

 幼い頃から人前に出るのが凄く苦手で、上手く話すことが出来なかった。
 だからなのか、家族以外の周囲は人形遊びを好み、彼らを友と親しむ楓に冷たかった。
 男の子なんだし外で元気に遊びましょう。人形遊びよりお庭で遊びましょう。
 皆と仲良くしてねという優しい気遣いは、子供達へ異端者認識を植えつけるに十分なもの。
 子供は、価値観の外にある異端者に対しての攻撃は無知であるが故に遠慮しない。
 男のくせに女みたいなことしてる。
 最初はそこから始まり、話しかける行為の頻度から気持ち悪いという評価が加わり、子供達が口々に言うのを大人が注意すれば、子供達の言葉は陰へ身を潜める。時には遊んでいる名目で暴力を振るわれた。
 けれど、大人は、遊んでいるだけと楓の傷を見ようとしない。
 最初に自殺を考えようとしたのは、奪われた人形を川の中に落とされた時。
 何とか見つけた人形は冷たく濡れていて、自分のせいで友人がこんな目に遭うなら死んだ方がいいと思った。
 けれど、びしょ濡れで帰ってきた楓を心配した両親が気づき、説得されたのだ。
 自殺を考える度両親は食い止めてくれ、学校に行かなくてもいいと言ってくれた。勉強はどこでも出来るのだからと。
 やがて高校を受験し、合格。
 卒業証書を届けに来た担任教師は、言ったのだ。

 人形遊びは中学までにしておけ。

 担任教師は、楓を想ったのかもしれない。
 人見知り激しい生徒が『行き過ぎた遊び』が原因で学校に来なくなり、卒業していくのが心配だと。
 だが、楓には決定打だった。

 高校の入学式は、もう目前。
 散りゆく桜がどれだけ残っているか判らない。
 春は花が咲き乱れる季節だが、同時に、花の移り変わりも早い季節だ。
 次の花へ移る前に───

 青空へ吸い込まれる為に踏み出す直前、楓は声を掛けられた。
 そこには、男がいた。
 楓は出会ったばかりの男の言葉に持ったことがない希望を初めて持ち、能力者となった。

 それで、ボク『たち』と出会ったんだ。
 けど、この世界色々あるし、余計に人見知りになっちゃって、ボク『たち』がいないと会話が出来なくなっちゃったんだよね。
 出会いの時、カエデはどうして希望を持てたのかって?
 逃げてンじゃねぇ。きちっと前向いて歩けって言われたからだよ。
『ったく自分だってヤニ臭ぇ親父じゃねぇか』
 ちょっと、タナカさん乱入してこないで!
 今大事な話している最中なんだから。
『カタイこと言うなよ、サトウ』
 そういう問題じゃないでしょ、もー!!

 でも、道を埋め尽くす桜の花弁も空に吸い込まれた花弁と同じで綺麗と思うようになったって、カエデが言ってたよ。
 咲いた桜の花が前を向いて、この春を歩いた証だからだって!

●りんだうの花
 木霊・C・リュカ(aa0068) の白杖が誰かの足に当たった。
「すみません」
 リュカが謝ると、サングラス越しの誰かは大丈夫と片手を上げてくれる。
 重度弱視者のリュカにとって、出歩く際の白杖は誰かの解除がない状況においては必需品だ。
 アルビノであるリュカにとって強い光は毒に過ぎず、明るい場所ではサングラスと長袖は必須である。
 竜胆が終わろうとしているこの季節にしては暖かい日、陽射しも降り注いでいて、本来は表に出歩くような日でもないのだが、外に出る用事が出来てしまった為、已む無く、という形だ。
 通り過ぎる少年だろうか、何か賑やかに話しているのが聞こえ、顔を向ける。
 サングラス越しだが、紅葉のような赤がかった橙のような気がして───近所の雑貨屋さんの息子さんの髪の毛の色がそうだったような気がするものの、リュカは具体的には判らない。
 ほぼ見えない上日光にも嫌われるとあって、積極的に世界へ目を向けることなど出来る筈もないのだ、しっかりとした判別を行うことなど出来ない。
 1人で動くこと───歩くことすら難儀しているのに、どこかへ行こうとは思わない。
 この身はあまりにも弱くて、きっと、祖父が残してくれた古書店金木犀で、変化を感じることなどない程緩やかに時を重ねていくのだろう。
 吐息を零すリュカは、活力に富んだ女の子とそれに応じる父親らしき男と違って、自分が生きる世界は何て色彩がなくて、孤独なのだろうと思った。

 リュカの世界は、綴られた文字に囲まれている。
 未知であり、架空であり……目にした者を自分以外の誰かとするもの達が息づく世界。
 けれど、その存在に埋もれるリュカは、独りだった。
 綴られた文字は、リュカの寂しさを何も語らない。
 ただ、その文字の向こうに、自分以外の誰かとなれる世界を見せるのみ。
 この世界に意味はなく、綴られない物語に意味がない。
 もし、霜にも負けず、悲しむ者にも手を差し伸べる竜胆のような物語が綴られない物語の世界であるここにあると言うならば、この世界に意味があるならば───

 その時、リュカは鋭い光を感じた。
 害することのない光は、太陽の光ではなく、眼差しの色。
 リュカは金木犀の名を眼差しに与え、能力者となった。
 誰にも綴られていくことなく終わったであろう物語に文字が浮かび上がった瞬間である。

 赤みがかった橙の紅葉色がどれだけ鮮やかなのか。
 生気に満ち溢れた会話がどれだけ弾んでいたのか。
 想像ではなく、自分で確かめに行く。
 それが交わした誓約。
 天に星があるように。大地に花があるように。
 人だけが抱える物語には必ず愛がある。
 だから、『一緒に』見つけに行こう。
 生まれる物語が、見つけられるのを待っている。

(とは言え、荒事に馴染みのある生活なんてしてなかったし、血の臭いなんかは苦手だし、共鳴しなかったら世界は相変わらず見えてないんだけど)
 夕焼けを閉じ込めたファイアオパールの幻想蝶を見、リュカは心の中で呟く。
 けれど、この蝶が、緩やかに朽ちるリュカの独りぼっちの世界を壊した。
 壊れた世界の向こうの竜胆は、リュカが思う以上に美しい。

●移ろおうとも
「寝ている間に雨が止んで良かったよね」
 リュカが紅茶に口をつけながら、のんびりと語る。
 向かいに座るのは、一時期同居したこともある小さくても大切な友人、征四郎。
「征四郎としては、新しく買った傘の出番がなくなっておしかったですよ」
『せーしろーさん、どんな傘買ったの?』『教えろ、セーシロ』
 濡れを嫌うからかサトウとタナカが征四郎へ声を掛けてきた。
「青空の傘なのです。開くと、雨なのに晴れるから、征四郎は早く広げてみたくて」
「今は色々な傘があるんだね」
 征四郎の話にリュカは感心する。
 すると、サトウが青空に反応した。
『青空……昨日、そのことを思い出してたね。桜の季節の話だけど』
「征四郎もおうちにあるまっしろいウメのことを思い出しました」
 征四郎も同じだと笑みを零す。
「雨が降ると、世界が違って見えるって表現もあるから、きっかけになるのかもしれないね」
『そういうことなら、たまに雨もいいんだろうね』
『しょっちゅうだと湿っぽいからな!』
 リュカへサトウが納得の言葉を上げると、タナカが身も蓋もないことを言う。
「リュカはどうでした?」
 征四郎がリュカの代わりにペーパーナプキンを渡しながら、そう尋ねてくる。
 独りにさせまいとしてくれる友人は、あの世界にはいなかった。
 リュカはペーパーナプキンを受け取りながら、微笑んだ。
「竜胆は、この世界に咲くから綺麗なんだと思い出してたよ」

 花は、季節ごとに移ろいゆく。
 時は流れているから、同じなように見えても全て違う。
 けれど、それでいい。
 違うから、今ここにいるのだから。

 今年初めて世界を濡らした宵の雨、その向こうには変わらぬ花がある。
 花の名は、『絆』という。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【木霊・C・リュカ(aa0068)  / 男 / 28 / 能力者】
【紅葉 楓(aa0027)  / 男 / 18 / 能力者】
【紫 征四郎(aa0076)  / 女 / 7 / 能力者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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真名木です。
この度は発注ありがとうございます。
新年の雨を通じて呼び起こされたそれぞれの過去、そして現在をご提示のパーティーピンナップと花、それ題材の和歌を踏まえて構成しました。
少しでも思い描いていたものに副えていれば幸いです。
初日の出パーティノベル -
真名木風由 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2016年02月12日

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