▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『あたたかな雪 』
加倉 一臣ja5823)&月居 愁也ja6837)&夜来野 遥久ja6843)&小野友真ja6901



 それは果たして夢か、幻か。




「わーめっちゃ雪やー!」
 真っ白に染まった景色を見渡し、小野友真は歓声を上げた。
 地表を覆い尽くす雪は深く、踏みしめる感触が新鮮でつい何度も踏み込んでしまう。
 ここは東北のとある街。年の瀬に依頼で訪れたところ、そこは一面の銀世界だったのだ。
「綺麗だね……それに、凄く静かだ」
 雪化粧された街並みをひとしきり眺め、西橋旅人も呟いた。
 降り積もる雪が、周りの音を吸収してしまったのだろうか。驚くほどに辺りは静寂に満ちている。
 瞳を輝かせる二人を見て、北海道出身の加倉一臣はつい微笑んでしまう。
「俺達には見慣れた景色だけどな。普段雪を見ていないと、やっぱり感動するもんなんだな」
「そうやで、今の俺はめっちゃテンション上がってるから!」
「おーい友真、はしゃぎすぎて転ぶなよ!」
 笑いながら注意するのは、同じく道民の月居愁也。彼と同郷の夜来野遥久も慣れた様子で雪道を歩いている。
「西橋殿の故郷では、あまり降らなかったのですか」
「年に一度見られるかどうかかな。こんなに積もっているのは見たことないよ」
 だから珍しく積もったときなんて、まさに大事件。寒さを忘れて外で遊んだものだ。
「なんかその新鮮な感覚、ちょっと羨ましいな」
 一臣の感想に、愁也もうんうんと同意する。
「だなー。雪なんて毎年うんざりするほど見てるしね……」
 若干遠い目になる愁也に、遥久も苦笑しながら。
「たぶん、俺達が南の海に感動するのと同じ感覚だろう」
 雪国では見られない鮮やかなコバルトブルーは、今でも目に焼き付いている。それを聞いた友真は考えこむように。
「俺は南の海も雪景色も見慣れてないからどっちも感動するけどなー。あ、これってもしかして……一番得ってやつ?」
「確かに、そうかも」
 旅人は笑って頷いてみせると、依頼書片手に提案する。
「じゃあせっかくの機会だし、依頼を早く終わらせて観光していこうか」
「いいね、賛成!」
 陽の光を浴びた新雪は、きらきらと輝いて眩しいほどだった。



 日が暮れ始めた夕刻。
 予定通り依頼を早めに終わらせた五人は、翌朝の帰還まで街を観て回ることにした。
「ううう……それにしても寒いなー……」
 外灯が灯りだした雪道を歩きながら、友真はぶるりと身体を震わせた。
 冷え切った空気が手や頬の感覚を奪っていく。陽が当たる昼間と違い、夜はより寒さが身に染みてくる。
「え、そうか? 今日はまだ暖かいほうだと思うけどなー」
 平然とそう返す愁也の横で一臣と遥久も頷く。
「まだ1度もあるしな」
「1度とか普通に寒いから!! 極寒やから!!」
 友真の抗議も虚しく、道産子三人はまったく寒がる様子はない。遥久は隣で黙り込んでいる旅人に気づき、声をかける。
「……西橋殿、大丈夫ですか?」
「うん……気温が二桁切ったらだいぶ辛いかな……」
「ちょ、どんだけ寒さに弱いの旅人さん!」
 既に凍死しそうな顔をしている旅人に、愁也が慌てて自分が巻いていたマフラーを巻き付けておく。
 その時、ふと友真が人の流れがあることに気づいた。
「あの人達みんな同じ方向へ向かってんな。あっちに何があるんやろ?」
「ああ。今この辺で『かまくら祭』をやってるらしい。たぶんそれじゃないか」
 一臣の説明によれば、この地方で開催されている伝統的な祭りとのことだった。毎年この時期になると、町のいたるところでかまくらが作られ、冬の風物詩となっているらしい。
「へぇーなんか面白そうやな! 見たい見たい!」
 予想通りな友真の反応に一臣は笑いながら頷いて。
「よし。せっかくだし、行ってみますか」

 彼らが向かったのは、会場となる古民家が建ち並んだ一角だった。
「わぁ、遠くから見ても綺麗やな……」
 集落へとつづく細長い小道に外灯はなく、代わりにロウソクが灯されたミニかまくらが道の両端に並べられている。
 その先に見える家々は穏やかな明かりにライトアップされ、見る者にどこか温かい印象を与えていた。
「おおーこれはすげえな」
 会場を見渡しながら愁也は驚きの声を上げた。辿り着いた場所は、まさに『かまくらの郷』。
 集落のあちこちにかまくらが建ち、訪れた人達が中で談笑しているさまが見える。
「これだけのかまくらを見るのは初めてだな」
 あちこちから漏れ聞こえてくる笑い声に、遥久も瞳を細めた。
「雪像作りはよくやったけどなー。雪合戦とか」
 そう言って愁也は雪玉をシュート。放たれた雪の塊は、軽く弧を描きながら友真の後頭部に直撃する。
「ちょ、やったな愁也さん!」
「お、やるか? 数多の場数を踏んだ道産子に勝てるt」
 友真の投げた雪玉は、見事愁也の顔面にヒット。
「へへーん俺の命中力見たか!」
「お前、光纏はずるいだろ!」
 その後雪まみれになるまで投げ合い、遥久の説教を受けるまでが様式美である。

 しばらく歩み進めると、開けた場所へと出た。
 運動場ほどの広さがある雪原はミニかまくらで埋め尽くされており、そのすべてに明かりが灯されている。
「凄いな……まるで、あの時に見たスカイランタンのようだ」
 一臣は辺りを見渡し、感嘆の吐息を漏らした。
 闇夜の中、雪の白さとロウソクの揺らめきだけが視界を彩る。
 そのさまは幻想的で、あの舞台で見た夢幻の景色を思い出させた。
「本当だね……あの時と同じくらい綺麗だ」
 そう返す旅人の瞳にも、懐しげな色が映っている。
「なんかな。こういうところ歩き回ってると、ミスターと遭遇するような気するよな」
 友真の言葉に一臣は笑いながら。
「あの人ならあり得るな。まあさすがにここにいたりはしないだろうけど――」
 その時、数メートル先にあるかまくらの中に小さな人影があることに気づいた。一臣は一瞬どきりとしながらも、パンフレットで見た内容を思い出し。
「そういやこの祭りって、かまくらの中から子供が招いて甘酒を振る舞ってくれるんだったよな」
「おーそうなんだ。じゃあ早速いただこうぜ」
 愁也に促されかまくらの中を覗くと、そこには道化姿の子供がちょこんと座っている。
「……いやいやいや。うん?」
 目をこすってもう一度。
「…………うん」
 見間違えてない。
 入口で固まっている一臣を見て、友真が不思議そうにのぞき込む。
「一臣さんなにやってんの……ってあれ?」
 見覚えのあり過ぎる後ろ姿。
 こちらを振り向く猫のような瞳が、ゆるやかに細められる。
「ミスター!」
「おや、あなた方でしたか」
 二人の姿を認めたマッド・ザ・クラウンは、いつも通りの微笑を浮かべていた。聞きつけた愁也と遥久も中をのぞき込み。
「あーミスターだ久しぶり!」
「お元気そうで何よりです」
 彼らが挨拶を交わす隣で、一臣はぶつぶつと何ごとか呟いている。
「タビット教えてくれ。俺の意識は今ここにあるだろうか」
「うん。割と」
「じゃあやっぱり本物なんだな? 俺のアレが見せる幻とかそういうアレじゃ」
「オミー君落ち着いて」
 挙動不審な一臣に生暖かい視線を送りながら、遥久はクラウンへ声をかける。
「こちらへは観光へ?」
「ええ。そうですよ」
 聞けば彼もかまくら祭を見るために、この地を訪れていたという。遥久はならばと、提案。
「せっかくの機会ですし、ご一緒するのはいかがですか。それでいいだろう? 加倉」
 その問いに一臣は我に返ったようになる。こちらを見つめる瞳へ、改めて向き直り。
「えーっと……お久しぶりですね、ミスター」
「ふふ……相変わらずのようですね、あなたも」
 互いに笑い合い、それ以上は多く語らない。一臣は軽く咳払いすると、周囲に視線をめぐらせ口を開く。
「この状況が夢か幻かは、わかりませんが」
 選ぶべきは、伸るか反るか。
「ならここは、楽しむのが上策でしょう?」
「てなわけで遊ぼうぜ、ミスター!」
 友真のかけ声と同時に、道化の悪魔は愉快そうに袖を振ってみせる。
「いいでしょう。雪夜の宴、共にしようじゃありませんか」




 北国の静かな夜。
 辺りは雪がちらつき始め、さらに気温が下がってくるのを感じる。遥久は肩に積もった雪を軽く払いながら、皆に切り出す。
「さて、まずはこの人数が入れるだけのかまくらがいりますね」
 大の男五人と子供一人。結構な大きさが必要だが、周囲にそれだけのサイズのかまくらは見あたらない。
「なければ作りましょう。撃退士ならすぐです」
「よーっしミスター! かまくら作りは先輩である俺が教えたろ! ……と思いましたがわかりませんどうしたらいいんですか」
 友真と旅人(クラウンはもちろん)はかまくら作りが初めてのため、遥久や一臣が作り方をレクチャー。
「まずはいきなり大きいのじゃなく、練習がてら小さいのを作ってみよう」
 一臣の提案に、愁也がやる気に満ちた顔で振り向く。
「よし旅人さん、カッコイイかまくら一緒に作ろうぜ!」
「いいね。やろう!」
 光纏した二人は阿修羅的なパワーと阿修羅的な持久力で、瞬く間に雪を積み上げていく。ある程度積み上がったところで愁也は手やスコップで表面を叩いて固め始めた。
「本当は一晩置いたほうが、しっかり固まるんだけどねー」
 遥久も同意しつつ。
「今日は時間もありませんしね。このまま入口を掘り始めましょう」
 彼の提案に、愁也と旅人は互いに顔を見合わせる。
「ふっ……俺達の力ならすぐだね旅人さん(闘気解放)」
「ふっ……かまくら掘り最速を目指せそうだね愁也君(闘気解放)」
 張り切る二人に遥久は嫌な予感しかなかったが、ひとまず放置(訂正線)見守ることにする。
「すげーざっくざく掘れるぜ!」
 撃退士の力をフルに利用して、二人はどんどん掘り進んでいく。
「……おい愁也、バランスを取りながら掘らないと」
「だいじょーぶだいじょぬわあああああ」
 掘りすぎてバランスを崩した雪の塊は、あっさりと崩れ去った。完全に埋まった愁也と旅人を見て、遥久はため息ひとつ。
「……まあいいか」
 もうこの光景も見慣れたことだし。

 一方、友真とクラウンは一臣の指導の下かまくら作りに励んでいた。
「じゃあ早速始めよか!」
 スコップ片手に張り切る友真の隣で、クラウンはじっと雪を見つめた後。
「要するに雪を集めればいいのでしょう?」
 その直後、クラウンの周囲を黒煙が一気に覆い尽くす。見ていた一臣が慌てて。
「いやミスター待ってください。もの凄くダメな予感しかしn」
 一臣の制止も虚しく、煙の中で大きな影がゆらりと動き出す。
 二人が凝視する先。そこには、三メートル近いミノタウルスが立っていた。
「ちょおおおおみすたああああ」
「それはダメですミスター、事務所的にもですが子供が見たら泣かれるどころか確実に通報されますからね!」
「おや、そうですか。この方が効率がいいと思ったのですが……仕方ありませんね」
 言い終わると同時に、再び道化姿の子供が現れる。
「うん、ミスターはその姿が一番ええと俺は思うな!」
「ミスターはそこで見ていてください、ここは俺達がやりますんで!」
 余計な事をされる前に終わらせねばならない。
 そんな使命感からか、二人のかまくら作りは猛スピードで進んでいった。

 結局、一臣と友真が作ったかまくらが予定外に大きくなったため、メンバーはこの中で暖を取ることにした。
 完成したかまくらを見上げ、遥久はひと言。
「先に中の強度を確かめておいた方がいいんじゃないのか、加倉」
「ああ、そうだな。じゃあちょっと見てくるか」
 そう言って一臣が中に入った瞬間、巨大な檻がどこからか出現する。
 \がしゃーん/
「おいこれどういうことなの!」
 収監された一臣の前で、遥久は悪魔へ微笑みかけた。
「やはりお約束は大事ですよねクラウン殿。あ、似合うぞ加倉」
「遥久あああああああ」
 通過儀礼が済んだところで、パーティの準備を開始。
 暖を取るための七輪や食べ物を、次々にかまくらの中へ運び込んでいく。
「わーかまくらの中ってこんな風になってるんやなー」
 友真は物珍しそうに周囲をきょろきょろ。愁也はせっせと飲み物やおでんを温めている。
「ミスター寒くないですか? 寒いですよね?」
 一臣はそう言うが早いか、有無を言わさずマフラーを巻き付けていく。もこもこ状態になったクラウンを見て、満足そうに。
「ふぅ……お似合いです」
「それミスターしゃべれねえじゃん!」
 顔が半分近く埋まったクラウンに、愁也が笑いながらカップを差し出す。
「はい、甘酒。熱いから気を付けてね!」
「もごもごもご(いただきましょう)」
「友真はホットチョコ?」
「わーいありがと愁也さん!」
 全員に飲み物が行き渡ったところで、一臣は甘酒を片手に全員を見渡した。
「では、改めて。友真の進級試験MVP祝いと、ミスターお久しぶりです記念と、クリスマスパーティを兼ねて」
 せーの、で杯を掲げ合う。
「乾杯ーー!!」
「友真おめでとー!」
「ありがとさんやでー!」
 カップを両手で包んだ友真は、火傷しないように少しずつ口に含む。チョコレートの香りと甘さが口いっぱいに広がって、身体の中が一気に温まるのを感じる。
「ああ、ホットチョコ最高……ありがとう神様……」
 至福の表情を浮かべる友真を見て、愁也は笑いながら。
「お前ほんとチョコ好きだよなー」
「そうやで……甘酒もええけど、ホットチョコが最高なん。あ、ミスターも覚えてといてな!」
「わかりました。次のYAMINABEはそれにしましょう」
「いやそれはどうかなミスター」
 友真が真顔になったところで、一臣がいそいそとマグカップを手にやってくる。
「ミスター、スープ飲みますか? 飲みますよね?」
 カップの中は熱々のポタージュ。一臣は冷ますためにふーふーしながら。
「あ、これ決して甘やかしてるわけじゃないですからね。ゲストをもてなすために当然の心遣いをしてるだけですからね!」
「加倉さん誰に言い訳してるの(」
 愁也がツッコむ横で、クラウンは立ちのぼる湯気をじっと見つめてから口を付ける。スープを味わうようにしばらく沈黙したあと。
「美味しいですね」
「……よっし!」
 やりきった表情の一臣へ生暖かい視線を送りつつ、遥久は旅人へ声をかけた。
「そういえば、今日は半蔵殿は来ていないのですね」
「ああ、依頼の時は大抵留守番してるから。あと……僕と同じで、寒いのが苦手なんだよね」
 苦笑する旅人に、遥久もなるほどと笑う。
「半蔵殿も南国の生まれですか」
「元々アフリカに生息している種類らしくてね。だいぶ日本の冬にも慣れたけど、気温が低過ぎる日は外に出たがらなくって」
 おでんに手を伸ばしていた一臣と友真が、納得したように。
「確かに熱帯生まれなら、東北の冬は厳しいだろうなあ」
「俺が半蔵やったら、冬は一歩も外に出えへんな……」
 二人の言葉に愁也もうーんと小首を傾げた。
「鳥だから厚着するわけにもいかねえだろうしなあ」
 そこで愁也は何か思いついたように、持ち込んでいたウィンナーを包み始める。
「じゃあさ、これ持って帰ってよ旅人さん。半蔵のお土産にね」
「ありがとう愁也君。きっと喜ぶよ」
 受け取った旅人は嬉しそうに礼を言った。

 その後すっかり身体も温まったメンバーは、祭ムードな各地を巡ることにした。
 屋台で焼きそばや芋煮を食べたり、ミニかまくらに猫耳をつけたり。
 ライトアップされた景色を眺めながら、穏やかな時間を過ごしていく。
 綿雪がちらつく中、ふと夜空を見上げた友真はゆるく息を吐いた。
「ふー……」
 視線の先は漆黒の闇で、星ひとつ見えない。けれどその方が降ってくる雪の白さが際立つようで、不思議と満ち足りた気分になる。
「どうした、友真?」
 一臣の問いかけに、友真は上空を見つめたままふにゃりと笑った。
「幸せやなーって思って。な」
 綺麗なものを見て、美味しいものを食べて、楽しくお喋りして。
 大切な人達と過ごすこのひととき以上に、幸せなことなんてあるのだろうか。
「そうだな。俺も幸せだ」
 一臣は微笑みながら、寒さで赤みを帯びた恋人の頬を両手で温めてやる。
 そんな二人をにやにやと見守りつつ、愁也はクラウンに尋ねた。
「そういやミスター、あれから面白いものは見れた?」
「ええ。興味深いものをたくさん見ましたよ」
「例えば例えば?」
 興味津々といった様子の愁也に、クラウンは記憶を辿るように視線を馳せ。
「そうですね、つい先日『ドッグレース』とやらを見てきました。あれは実に興味深いものでしたよ」
「へぇー。犬ぞりのレースならこの辺でも見かけるけど、ドッグレースは見たことねえなあ」
 愁也の言葉に同意しつつ、遥久が問いかける。
「ドッグレースのどのあたりに、興味を持たれたのですか」
「あのレースは出場する者(犬)に獲物のダミーを追わせていましてね」
「ああ、あれは競馬や犬ぞりと違って人が走らせるわけじゃないんですよね」
 一臣の反応にクラウンは頷いて。
「あの追わせるという様式が面白いと思ったのですよ」
「へぇ、それはどうしてなん?」
「逃げる者を追いたくなるのは、当然の本能ですからね。あの獲物を見ていると、私もつい気分が高揚してしまったものです」
 その言葉を聞いた五人は一瞬黙り込んだあと。
「……それってねk」
「タビット、しっ!」
 彼らの微妙な空気を気にする風もなく、クラウンはうっとりした表情で続ける。
「そもそも、あのレースは私の追いたいという衝動とレースを見届けたいという葛藤の狭間に成り立っているわけです。実に奥深いじゃありませんか」
「レースをそんなふうに見てるのは、ミスターだけやと思います(まがお)」
 友真がつっこんだところで、遥久が再度問いかけた。
「これからもしばらくは、この世界を巡られるのですか?」
「ええ。そのつもりですよ」
「いいですね、旅の土産話が楽しみです。ああでも……」
 そこで遥久は一旦言葉を切ってから、にっこりと微笑んだ。
「また、『楽しいこと』をご一緒したいですね」
 聞いた悪魔は瞳を細めると、確信めいたまなざしで応える。
「ええ。互いに望むのならば、いずれ叶うでしょう」
「え? ミスターそれってどういう……」
 友真が言い終えるより早く、クラウンはゆっくりと立ち上がった。
 無邪気さを帯びる口元から告げられるのは、夢の終わり。
「では、そろそろ私は行きます」
「え、もう行っちゃうの? ミスター」
 残念そうな愁也の言葉に、悪魔は微笑を返す。
「楽しいひとときでした。礼を言いましょう」
 その瞳には、いつものようにほんの少しの名残惜しさを映している。
 クラウンはぐるぐるに巻かれたマフラーを見やると、一臣に告げる。
「これはいただいていきます」
「どうぞ。まだまだ寒いんで、お風邪を召しませんよう」
「ふふ……私はあまり寒さを感じないのですがね。人の子の気分をもう少し味わってみることにします」
 こうしていれば雪の冷たさも、美しさも、より感じられるような気がするから。
 別れ際、友真は思い出したようにクラウンを呼び止める。
「あ、そうやミスター! 俺、二十歳になって大人になったんやで」
 そう伝えてから、にやりと笑みを浮かべて宣言する。
「でもな、俺はいつまでもヒーローに『なりたい』ってあがき続けたる。だから俺はこの先もどんどん成長するし、退屈する暇なんかない」
 いつだって、いつまでだって、貴方の期待に応えてみせるから。
「また遊びたなったら、いつでも受けたるからな!」
 聞いたクラウンは、どこか愛おしげな微笑で返す。
「ええ。知っていますよ、ユウマ」
「またそのうちにね、ミスター!」
「お元気で」
 愁也と遥久の言葉に続いて、一臣も旅立ちへの言葉を送る。
「またお会いするのを楽しみにしていますよ、ミスター」
 その言葉に、クラウンはいっそう優美に微笑んで。
「ええ。私もですよ、カズオミ」
 熱を秘めたまなざしが、雪の中に溶けていった。


 それは夢か、幻か。
 ならば楽しむのが、上策でしょう?


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号/PC名/性別/外見年齢/雪】

【ja5823/加倉 一臣/男/29/なれっこ】
【ja6837/月居 愁也/男/24/なれっこ】
【ja6843/夜来野 遥久/男/27/なれっこ】
【ja6901/小野 友真/男/20/たのしい】

 参加NPC

【jz0129/西橋旅人/男/29/きれいで】
【jz0145/マッド・ザ・クラウン/男/5/あたたかく】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お世話になっております、久生です。
今年も楽しい発注ありがとうございました!
いつも通り好き放題書かせていただきましたが、楽しんでいただければ幸いです。
初日の出パーティノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年02月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.