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『 Switch on! 』
ファーフナーjb7826)&巫 聖羅ja3916)&小田切 翠蓮jb2728)&Дмитрийjb2758


 一面枯れ色の山の端が、少しずつ茜色に染まっていく。
 穏やかで静かな冬の一日が終わろうとしていた。
 巫 聖羅は目を伏せ、大きく息をつく。
 戦闘の間こわばっていた表情がゆるむと、年相応の茶目っ気が顔を覗かせた。
「せっかくのお正月だというのに、敵と戦って終わってしまったわね」
 聖羅は少しおどけた調子で、思い切り背筋を伸ばす。
「天魔には正月という概念は存在しないからな」
 ファーフナーの口調は事実を淡々と告げ、まるで明日のお天気の話でもするようだった。
 確かに「年末年始は人界に迷惑をかけるのをお休みしよう」とは天魔は考えてくれないだろう。
 そんなわけで大晦日に依頼を受け、初日の出を拝む頃には山深い温泉地に到着。全てを片付けた頃には、元旦の日は西に傾きつつあったのだ。
「そうね、わかってはいるけど。やっぱりつまらない人生、いや、天魔生? よね」
「そうでもないぞ」
 野太い声はДмитрийのものだ。
「少なくとも俺は、のんびり過ごす正月ってやつは悪くないと思っているからな!」
 からからと笑う髭面に、細く長い指が触れる。
「ふふ、わしはおんしと一緒であれば、どこにおっても年中正月じゃがな」
 小田切 翠蓮の声には湿り気を帯びた艶めかしさがあった。
 切れ長の目が色っぽく、僧形の男を見つめる。そこには誰にも犯すことのできないふたりの世界があった。
 ――早い話が、このふたりはデキているのである。
「初詣も済ますことができたしの」
「神社の境内に敵が逃げ込んだだけじゃない」
 聖羅が口を尖らせると、翠蓮は扇を口元に当て、目を細める。
「そうとも言うの」
 ――だめだこりゃ。
 聖羅はがっくりと肩を落とす。
 聖羅がお爺と呼ぶこの男は、物心がついた頃には既にこの姿で身の周りに居た『謎生物』である。一応、血のつながりはあるようだが、実際はどういう関係なのかはわからない。
「だがさすがに少し温泉辺りで老体を休めたくもあるの。そうは思わぬか? 我がラ・マンよ」
「おう、俺はだーりんとならどこへでも」
 愛人と甘く呼べば、相手は熱っぽい目で見つめ返す。

「あの〜……」
 遠慮がちに声をかけられ、一同が振り向いた。
 旅館の名前を染め抜いた法被を着た50がらみの男が、愛想良く会釈する。
「この度は有難うございました。お陰さまで旅館の方も無事です」
「それはよかったな。……おおそうだ、ついでに駅に向かうバスは何時でどこから出るのか教えてもらえるか」
 Дмитрийが尋ねると、旅館の男は気の毒そうに眉を寄せる。
「今日は祝日ですから、もうバスはありませんなあ」
「えええええ!?」
 この声は聖羅である。
 せっかくのお正月、せめて早く帰ってゆっくりしたいところだったのに。
「ちょうど良かったと言ってはなんですが。この騒ぎでご予約のお客様が皆様お越しになれませんで、部屋は空いておりますし、お食事の方もすぐにご用意できます。いかがでしょう、お礼がわりにお泊りになりませんか」

 や・だ!

 聖羅の心の声である。
 何が哀しくて、こんな連中と温泉に……!
 だがタクシーも容易に来ない山奥となれば仕方がない。
 申し出に甘えることになる。



 こうして、山奥の温泉旅館に閉じ込められた俺達は――。

 これはファーフナーの頭に何となく思い浮かんだフレーズだったが。
「なんだと。シングルルームがない?」
 苦虫をかみつぶしたような顔で、深く刻み込まれた皺を一層深くする。
「そりゃそうよおじさま、旅館ですもの。皆一緒のお部屋でも私は構わないけど」
 聖羅がこともなげに言った。
「そうもいかんだろう。せめてお前だけでも別に部屋を――」
 そこまで言いかけたファーフナーは、背後で繰り広げられる甘い会話に口をつぐんだ。
「温泉旅館でおんしとしっぽり、新しいしちゅえーしょんを存分に楽しめそうじゃのう」
 翠蓮がДмитрийの指に指を深く絡めて囁く。
「だーりんは相変わらず研究熱心だな。だが貸し切りということは誰もおらんのか。残念だ」
 ちらり。
 Дмитрийの視線がファーフナーに向けられた。
 この元天使、堕天した理由が「人間の感情という物を見てると面白いから」という変わり者である。生々しくあふれでる人間の感情を観察することが何より楽しいのだ。
 翠蓮とあちこちでいちゃつくのも、それを見た他人の「うわあ……」という顔を見たいがためでもある。

 ファーフナーはこれまで、数々の死線をくぐり抜けてきた。
 その中で研ぎ澄まされた勘が、危険を告げていた。
 ヤバい。こいつらと一緒の部屋はヤバい。
「追加料金は払う。なんとか3部屋を確保して貰えんか」
 カウンター越しに、真剣そのものの青い瞳が宿の主を見据えていた。


 食事の用意ができたと言われ、食堂へ呼ばれる。
 一見して日本人ではないファーフナーやДмитрийを見て、部屋食ではなく椅子席を用意してくれたようだ。
「おお、これはうまそうだな」
 Дмитрийが手をすり合わせて喜んだ。
 食材を余らせるのも惜しいからと、料理人がかなり豪華な料理を用意してくれていたのだ。
「これはなんだ? おお、魚か!」
「待て待て。魚の骨がおんしの可愛い喉に刺さっては大事じゃ。わしが取ってしんぜようぞ」
 翠蓮がいそいそと皿を取り、美しい箸使いで丁寧に魚の骨をより分ける。
「ほう、上手いものだな!」
「そのようにじっと見つめられると、緊張で手元が狂いそうじゃな」
 クク、と、囁き微笑み合うふたりである。

 その間、ファーフナーはひたすら自分のお膳に集中していた。
(なるほど、これは上手くできているな)
 松葉を刺した黒豆、胡麻をまぶした牛蒡の煮物、からりと香ばしいごまめ、蟹の寒天寄せ、胡瓜の酢の物、味噌漬けの魚の焼き物。味も歯触りもバラエティに富んだ、見た目にも彩り豊かな料理の数々には飽きる暇もない。
 かつての彼は、食に多くを求めていなかった。
 命を繋ぐだけの栄養を摂れれば充分であったし、過度に食べることはあさましいとさえ思っていた。
 同じように、日本という国にもそれほど興味はなかった。
 ただ以前にいた国よりも生きるのが楽、それだけで選んだ場所だったからだ。
 だがここにやってきて、色々な者に出会い、色々な物を見た。
 そしてファーフナー自身がとうに忘れ去っていたと思っていた色彩にあふれた世界が、少しずつ戻ってきたのである。

 が、今はそれどころではなかった。
 昔ファーフナーの居た世界には迫害と差別があるのが当たり前だった。
 だから目の前のアンバランスなふたりがカップルであることには何ら驚きもしないし、不快感も抱いていない。
(だが、なんだこれは……)
 ファーフナーは握った箸の先が僅かに震えているのを認めざるを得なかった。

「だーりん、はい、あーんして」
 Дмитрийが鍋から何やらよく分からない肉らしきものを、翠蓮の口元に差し出す。
 翠蓮はそれを口に入れ、口元を濡らす脂を意味ありげに指先で拭う。
「うむ、この旨みが何ともいえぬ。おんしも負けずにどんどんいくといい」
「もちろんだとも。それにしても日本酒というのは、美味いものだな」
 ふたりは鍋をつつき、酒を酌み交わす。
 ファーフナーはすっぽん鍋というものの存在は今日まで知らなかったが、それを何のために食うのかについては、およそ想像がついた。

 ――濃い。濃すぎる。
 幸せピンク色というよりは、愛欲の臙脂色。
 そんなオーラがタールのようにふたりの周囲に渦巻き、満ちて、結界を作り出しているのだ。その先に待ち受けるのはどんなに恐ろしいゲートなのか。
 どうやら戦闘の興奮、その後の山の景色、そして旅館での宿泊という非日常の連続で、妙なスイッチが入ったのだろう。
 恋愛感情というのは、得てしてそういうものだ。
(邪魔をしないように……と思ったが、お互い以外見えていないだろうな)
 ファーフナーは小さく笑い、後は好きな温泉にでも浸かってのんびりと過ごそうと思うのだった。

 その傍らで。
 紅一点、聖羅は眼に不思議な光を宿し、無言のままで食事を続けていた――。



 ファーフナーが部屋に戻ると、糊の匂いのきいた布団が綺麗に敷かれていた。
 自分の部屋に、不在の間に誰かが入ったと思うとあまり良い気持ちはしなかったが、聖羅が事前に教えてくれた通りではあった。日本の旅館ではこれが普通なのだ。
(何というのだったか、『郷に入っては郷に従え』か。全く、呆れるほど平和な国だ……)
 そう思いつつも、ファーフナーは眠気を覚えていた。
 すっかりこの平和に慣れている自分に苦笑いをうかべつつ、布団をめくる。
 そのときだった。
 突然、襖がからりと開き、深紅の弾丸が飛び込んで来たのだ。
「おじさま!!」
「な、お前!?」
 目をらんらんと輝かせた聖羅の異様な様子に、百戦錬磨のファーフナーが思わずあとじさりする。
「お願い、協力してほしいの! 久々に来たのよッ、これを逃したら一生後悔するわ!!」
 何がだ?
 それを訪ねるより先に、聖羅はファーフナーの腕を掴んで引きずって行く。

 連れて来られたのは、湯気とかすかな硫黄の匂いが漂う階段だった。
「……屋上ジャグジー?」
 壁に掲げられた看板を横目に、聖羅に引っ張られるままにファーフナーも階段を上がる。
「おじさまは録音をお願い。私は撮影を担当するわ! あと、誰か来たら阻止してちょうだい!」
「おい。無茶を言うな」
 盗撮に盗聴。さすがのファーフナーも眉をひそめる。
 だがどういうわけか今日の聖羅には、気圧されてしまう。
「そんなに長い時間はかからないわ! お願いよ!」
 ファーフナーに集音マイクを握らせると、カメラを構えた聖羅が低い声で囁いた。
 その真剣な眼差しは誰かを思い起こさせる。
(血は争えないな……)
 ファーフナーはこんな場合なのに、つい感心してしまった。

 さて、聖羅の向かった先は。
 暗い屋上の床に埋め込まれたライトが点々と続く先、青く輝くジャグジーがあった。
 冷たい風が吹き抜け頬を撫でていくが、むしろ今の聖羅には心地よかった。
(よかったわ、屋上だから湯気が邪魔しない!)
 聖羅は襟元につけたマイクに語りかける。
「聞こえて? おじさま!」
『……ああ』
 準備は万全。聖羅はじりじりとジャグジーに近付いて行く。
 中にいるふたりの影は一つになり、囁く声が低く聞こえてきた。
「ほんのりと上気したおんしは、また一段と艶っぽいのう」
 湯気の中から翠蓮の声が漏れて来る。
「おう、だーりん、もう我慢ならんのか? だがもう少し耐えろよ。そのほうがあとの楽しみが大きいからな」
 くぐもった笑い声、そして水を跳ね上げる音。
「おお、おんしは大胆じゃな。クク、では負けてはおれぬな、これでどうじゃ?」
 またも水音。
「……どうやらだーりんとは特別相性がいいらしいな。めくるめく世界、とはこういうものか」
 そして溜息と忍び笑いがこぼれる。

「…………」
 録音用の装置を握り締めたまま、ファーフナーは無言で階段に座り込んでいた。
(あの連中、絶対に気付いてて、わざとやっているだろう……!)
 大丈夫、ジャグジーでは穿いてますから。



 だが夜はまだまだ続く。
「おじさま有難う! 次はこっちよ!!」
 聖羅は目をキラキラさせて、ファーフナーを自分の部屋へ連れ込んだ。
「おい、待て!」
 ファーフナーは流石に慌てた。
 あの男ふたりは立派な(?)成人どうしだし、何より両者合意の上でのことだ。
 だが聖羅はファーフナーから見ればまだまだ子供だ。ここは大人として自分がしっかりせねば……!
「おい。手近で済まそうとするな」
 精々渋い顔でそう言ってやったが、振り返った聖羅の目に迷いはなかった。
「だって他に誰もいないもの! 今この衝動をのがしたら、私、一生後悔するわ!!」
「落ちつけ、お前はまだ若いんだ!!」
 聖羅は布団を跳ね上げ、奥の窓際の応接セットまで突き進む。
 そこにファーフナーを座らせた後、傍の紙袋から分厚い紙束を取り出した。
「人物のペン入れは私がするから、おじさまは背景とトーン張りをお願い!」
「は?」
 ファーフナーは知らないことだったが、聖羅はペンネーム『小田切サファイア』という同人作家だった。
 以前、悪魔の宰相ルシフェル×学園のアイドル・堕天使レミエルのカップリングで相当分厚い本を出したところ、それが大評判。だがその後、筆をとる機会がなく、その筋ではちょっとした伝説級の人物となっていたのだ。
 そして今日、本当に久しぶりに『小田切サファイア』のスイッチが入ったのだ。
「漫画か」
 ようやくファーフナーは合点した。
 勘違いを悟られたくなくて、奥場を噛みしめて渋面を作る。
 だが聖羅はそんなことは気にしてはいない。
「久々に描ける気がするの! いける、いけるわ!!!」

 そしてファーフナーは初夢の代わりに、聖羅の描き出す夢の世界を夜明けまで見続けることとなったのだった。


 翌朝。
 朝食の席にも姿を見せないふたりをさがして、翠蓮とДмитрийは聖羅の部屋を訪れた。
 ファーフナーは几帳面に原稿を積み上げ、道具も片付けて、机の上で眠りこんだ聖羅に布団をかけて部屋を辞している。
 その原稿を見つけ、Дмитрийはぱらぱらとめくる。
「おお、これは俺達か。見せつけた甲斐があったというものだ」
 どうやらファーフナーも手伝わされたのは間違いない。
 ということは、あいつにも間接的に思い切り見せられたということだ。
 残念なのは、その様子を観察できなかったことだが……。
「しかし俺がまったく似とらんぞ。俺はこんなにチャラチャラした顔ではない」
 Дмитрийが首を傾げる。
 どうやら聖羅の美的センスが許さなかったらしく、翠蓮には面影があったが、相手の男は筋肉質だがやや細身で、面長の美形であった。
「クク、わしから見ればおんしはいつでも、こんな風に花が咲いたようにみえておるが」
「だーりんは一途だし、あんたの血筋は実に面白いな。お嬢ちゃんが希望するなら、今度はもっとこってりと見せてやるとするか」
 朝の光の中、やけにすっきりとした表情でДмитрийは笑う。
 その声を聞いているのかいないのか、聖羅は実に幸せそうな表情で、眠り続けるのだった。

 さて、その原稿が最終的にどうなったのか。
 それはお盆辺りにわかる……ことになるかもしれない。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb7826 / ファーフナー / 男 / 52 / バハムートテイマー】
【ja3916 / 巫 聖羅 / 女 / 18 / ダアト】
【jb2728 / 小田切 翠蓮 / 男 / 41 / 陰陽師】
【jb2758 / Дмитрий / 男 / 45 / バハムートテイマー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、渋メン3名+紅一点のお正月をお届します。
意外な取り合わせのメンバーで、一部のシリアスが行方不明になっていますが。
お楽しみいただけましたら幸いです。
この度のご依頼、有難うございました。
初日の出パーティノベル -
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エリュシオン
2016年02月15日

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