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『新年会と書いて波乱と読む 』
矢野 古代jb1679)&青空・アルベールja0732)&亀山 淳紅ja2261)&小野友真ja6901)&マキナja7016)&華桜りりかjb6883

 無事、今年も新年を迎え、世間では親戚の挨拶回りだなんだとあるが、ここ、久遠ヶ原学園にはまり関係ない。せいぜいが親戚も学園にいるような連中くらいなものである。
 そんな学園のとある場所、とある一室でソファーの背もたれに背を預け、ぼんやりと天井を見ながらもぷかぷかとタバコをふかしている矢野 古代の姿があった。
 魂が今にも抜け出しそうな古代の膝の上で、開いた本の背表紙が同様に天井を眺めている。
 ふと視線が、タバコの先端でじわじわと侵攻してくる灰に向けられ、勢いよく吸い込んで進行速度を速めてみたりして、灰が崩れる前に指でタバコを挟んでテーブルの灰皿へ。
 そして再び、ソファーにもたれて天井を眺めていた。
 ようするに――
「……暇だ」
 その一言が全てだった。
 視界の隅に煙が見え、その煙にそって視線を落とした古代は灰皿で消えきっていないタバコを摘んで、灰皿の縁にある模様に強く、何度もなぞりながらこすりつける。
 危なく娘に怒られるところだったとも思ったが、今日はその心配がないのだと思い出すと、寂しさで古代の背中がすすける。
『父さんと違って、忙しいの。と・う・さ・ん・と、ち・が・っ・て』
 そう言って、依頼に行ってしまった娘。
 引きこもりがちな娘が任務で外に出る機会が増え、成長した事については嬉しい限りだが、自他共に認める娘スキーとしては寂しさばかりが先に立つ。
(こんなことなら仕事入れておいた方が、気も紛れたか……)
 前髪の生え際あたりを指でひっかき、ありもしない任務で学園に残った自分を今、軽く呪っていた。
「早いヤツならもう帰ってきてるくらいか……店も、ぼちぼち開いているな。
 ――よし、新年会を開こう」
 本にしおりを挟みテーブルに置くと、かわりにスマホを手に取った。
「亀山君、青空君、小野君、といったところか……メンツとしては十分かな。
 新年会のお誘いメールを作成して、一斉送信。
 待つことほんの数秒、一番最初に食いついてきたのはやはり淳紅で、鍋をつつきたいと書かれていた。出欠の確認がとれたら希望を聞くつもりだった古代の先を読んだメールに、「さすがだねえ」と無精ひげをなでながら頷く。
 淳紅のあと続々と返信が来るのだが、やはりどんな店がいいとかの希望はなかった。だがかわりに、友真のメールに思わず「ほう」と漏らしていた。
「新年会? 行く行く! まっきーも呼んでええかな? あと華桜さんも誘ったらどうやろか、か。まっきーが誰か知らないが、断る必要性はないな。
 華桜さんは人見知りな部分に若干不安はあるし、どことなく色々と怖い気もするが、おもしろい。女性の前なら少しは自重するかもなんて淡い期待をこめて、呼んでみるか」
 娘の友人でもあり、自分の友人でもあるりりかへとメールすると、こちらもわりと早く「承知です」と返ってきた。
「お次は――な、に、か、き、ぼ、う、は、あ、り、ま、す、か、と……」
 暇がありそうな顔ぶれに出しただけあって返信はすぐに来たが、返信を見るなり古代の顔が曇り、一瞬だけぶるりと身を震わせる。
「甘いもの、鍋、ハンバーグ、唐揚げ……?
 これに酒も入るとか、大丈夫ろうか。酒にあわせるとかしないあたり、若いな。みんな――ああ、胃も若……」
 想像しただけで重くなった胃をさすっていた古代が動きを止め、しばらく静止していたが、かぶりを振ってよぎった言葉を頭から追い出した。
「甘いものとか鍋とかは、選択の幅があったほうがいいか」
 火もつけずタバコを指に挟め、その手の親指でこめかみを掻く古代の目はしばらく泳いでいたが、「あそこにしてみるか」とタバコをくわえ、火をつけるのであった。


 色調が明るく、ガラス張りで開放的な横文字の店が多く建ち並ぶそこの一角、ややにつかわしくない、異彩の雰囲気を放っている古くさい屋台で、古代はどんぶり片手にソバをすすっていた。
 椅子はなく、立ち食いでソバをすする姿は娘が見たら、「じじくさい」と言ってくるだろうななどと思いながら、月見の月を崩さずにすすり続ける。
 ソバもなくなろうかという頃、商店街の雰囲気にとけ込んではいるが、これから飲みに行くとは思えない背格好の淳紅が手を振ってやってきた。
「本日はお招きありがとうやで!」
「やはり亀山君が一番乗りか。
 そういえば案外、会うのは久しぶりだねえ。外の活動が忙しいのかい?」
 微笑みを投げかける古代へ淳紅も、「そんなとこやな」と微笑み返し、さらに古代が言葉を返そうと口を開いたのだが、その口から出たのは「あっ」だった。
 首を傾ける淳紅――その直後、「どーん!」という声と共に背後から強い衝撃を受け小柄な体が浮き上がり、冷たく硬い地面へとダイブする。
 手と膝のおかげで頭から地面に飛びこむなんて無様な事にはならなかったが、「ふ、ふ、ふ……」と低く笑う淳紅が立ち上がり、少し擦りむいた手で膝の埃を払ってゆっくり、振り返った。
 淳紅のいたすぐ近くに、両手を突きだしたまま笑みを浮かべていた友真が。友真は顔を真顔に戻して、両手を合わせる。
「ゴメンな、淳ちゃん」
「ゆ る さ ん!」
 怒れる淳紅が飛びかかり掴みかかり、負けじと掴み返してきた友真と組みあって押し合い引き合いと、まるで高校生や中学生の休み時間のような勝負を繰り広げていた。
 もちろん、どちらも成人済みである。
「……いやうん、まだまだ若いなあ」
 目を細め頷く古代へ、手を振る黒い髪の童顔な青年と、小さくお辞儀をする赤い髪のやや強面の青年が肩を並べ、近づいてくる。どちらも結構な長身なので、多少の人混みでもよく目立っていた。
 そして淳紅と友真をちらりと一瞥してから、古代の前に立つ。
「こんばんは、古代!」
「こんばんはっ、青空君」
 黒髪の青年、青空に釣られて語尾を強める古代へ、赤髪の青年マキナが再びお辞儀をする。
「今日は便乗させていただき、ありがとうございます。ちょっと、妹を大人しくさせるのが大変でした……」
「その様子だと、説得しきらずに置いてきた、というところかな」
「……きっと帰ってからかまえば、問題ない、はず」
 少し泳ぎ気味の目を逸らすマキナに、自分の娘の顔を思い浮かべた古代はマキナの肩に優しく手を添え、わかっているという風に頷いてぽんぽんと肩を叩く。
(なだめすかすのは、本当に大変なんだよな……今日はそれがないのは救いだが――少し寂しい気もするか)
 誰もいない我が家を思い浮かべ、ほんのりと肩を落とす古代の袖を、誰かが引っ張ってきた。誰なのかと古代が顔を向けるよりも先に、じゃれあっていた友真が、「りりかちゃん、やっほいやで」と手を振る。
「んぅ……お待たせ、してしまいました、です」
 申し訳なさそうなりりかが、古代の袖を指先でつかんだまま、その背中に隠れるように移動する。その視線の先にはじゃれあいから戻ってきた淳紅と、マキナに注がれていた。
 その視線の意味に気づけたマキナは、強面ながらも精一杯の笑みを浮かべた。
「こうして話すのは初めてですかね。マキナです、よろしくお願いします」
 マキナにならい、淳紅も古代達に向けるような笑みではないよそ行き用の穏やかな笑みを浮かべると、あまり変わらない高さにある目に合わせようとしたが、逸らされてしまう。
 態度からすでに人見知りなのはわかっていたので、さほどショックを受ける事もなく、淳紅は言葉を発する。
「お互い聞いたことくらいはあるかもですけど、初めまして、ですね。亀山 淳紅言います」
 しばらく古代の陰に隠れていたりりかも、ゆっくりと姿を見せ、身体が半分ほど出たところで小さなお辞儀をひとつ。
「あの……初めまして、です。華桜 りりかなの……」
 消え入りそうな声だが、それでもちゃんと届いたことを示して、「よろしく」と2人はお辞儀で返す。
 もともと顔見知りの青空は「ようこそなのだ」とごくごく普通に接すると、りりかも「遅れてしまいました、です」と、マキナや淳紅の時とは違い、ほんの少し距離感が近い接し方だった。
 そしてもちろん、さきほどちゃん付けで呼んだ友真も同じような距離感である。
「女の子やし、もう少し遅れてくる思ってたんけど、やっぱ暇だったん?」
 あまりな尋ね方のようにも思えたが、気にする様子もなく桜色の唇に人差し指を当てて、「暇……確かに暇なの、ですね」とりりかはあっさり認めた。親友である古代の娘が今日いないのも、大きいのだろう。
(誘って正解だったみたいだな)
 男だらけの飲み会に、人見知りなりりかを誘っても大丈夫かなと思ってはいたが、案外大丈夫そうな様子にほっと胸をなでおろす古代は、少し冷めてしまったどんぶりを傾け、汁ごとつるんと黄身を飲み込み、どんぶりを返却する。
「さあ行こうか」




 店内に入るなり、入る前からせわしなかった淳紅と友真がありありと興奮を隠さず店内を見回していた。
 高めの天井からおしゃれなペンダントライトがたくさん吊り下げられ、店内はとにかく明るく、足を乗せるバーのついた腰の高い椅子と、やや高めの丸テーブルが狭くならない程度に並べられている。
 テーブルとテーブルの間を仕切るのは申し訳程度のツイタテで、淳紅やりりか以外では隣のテーブルが見えてしまうという、開放感の高い、これまでの居酒屋とは一風変わった店であった。居酒屋と言うよりは、イベントホールのような趣がある。
「ここも居酒屋なのー? 古代ー」
「居酒屋の定義なんて俺は知らないが、看板で居酒屋と名乗っているからには少なくとも自称居酒屋でいいんじゃないかな。
 ただここは創作料理居酒屋と名乗ってるだけあって、普通の店ではなかなかお目にかかれない珍しい料理もあったりするんだ」」
「もしかしなくても、バイキング形式の食べ放題ですか」
 料理が並べられたカウンターに群がる人だかりを見ていたマキナの言葉に、古代が頷く。
「それだけじゃなく、種類が絞られるけど飲み物も飲み放題でね。しかも時間無制限なんだよ」
 得意げに語る古代。最後に「ちょっとだけお高いけどね」と、付け加えて肩をすくめるが、淳紅や友真は店の隅々まで珍しそうに見回しているし、青空はバイキングに並ぶハンバーグ、りりかは甘いものに目が奪われていて、すでに誰も聞いていない様子に古代はひとり寂しく笑う。
 だがそんな加齢臭、いや、哀愁ただよう古代の肩に手が置かれ、そっとふり返ってみればマキナと目があった。そして力強く頷いてくれたことに、若干の安心感を抱く。
「申し訳ないですけど、今日のストッパー役、がんばってください」
「いつものことだよ――今度、ゆっくりと飲みに行きたいね」
 マキナほど落ち着いてくれているなら、気持ちよく飲めるだろうなと思って出た言葉に、マキナは「その際はご一緒しますよ」とまさしく大人の対応で返してくれるのだった。
 今にも散り散りになりそうなメンバーを集め店員に席へ案内してもらい、システムの説明を受けたあとで、飲み物を注文すべく、飲み放題メニューに目を通していた。
「とりあえずビー……」
「あ、カルーアミルクがあるのだ」
「甘い、甘いな青空君。飲むなら発泡酒やカクテルが飲みやすくて至高やん」
 淳紅と青空の目がかち合い、2人して立ち上がると、そこに友真も立ち上がる。
「炭酸系も甘いのも、どっちも仲良しさんやで!」
『イエーイ!』
 高さがちぐはぐで、3人による三角形のハイタッチ。飲む前からすでにこのテンションの3人だが、りりかやマキナは静かなものである。
「とりあえずビールですか? 俺も付き合います」
「んぅ……あまり得意ではなさそうなの。甘いお酒を下さい、です」
 静かな空間にひっそりと癒されつつ、店員へ「生2つにカンパリオレンジ」と注文を済ませる古代は、争うようにタッチしている3人を見上げる。
「適当に頼んでおくよ。それと亀山君、カルーアミルクも一応カクテルの一種だからね。
 さ、俺はここで飲み物待ちするから、みんな、とってきなよ」
 言うが早いか、立っていた淳紅と友真が先を争うようにお互いの邪魔をしながらもバイキングコーナーへと向かっていく。青空は立ったまま留まり、りりかへ「一緒に行こー」と、人ごみが苦手であろうりりかに気を使ってくれる。
 頷くりりかは「とりあえず甘いものもほしいの」と、青空の背中に張りついて一緒に向かうのであった。
「俺も行きますが、矢野さん。何かとってきますか?」
 腰を浮かせ、気を利かせてくれるマキナ。ありがたい言葉に古代の顔もほころぶ。
「ちょいと運びにくいかもしれないけど、小鍋立てがあるはずだから、それをお願いするかな。中身はお任せで」
「承知しました。それでは行ってきます」
 立ち上がるマキナが古代へと一度お辞儀をして、それからバイキングコーナーへと向け、歩み始めた。
 りりかに気を使う青空や、自分に気を使ってくれるマキナを目で追いかけ、それから淳紅と友真に向けて苦笑を漏らす。
「今日の良心は青空君とマキナさんかな」
 そして飲み物を運んできてくれた店員に、何かをお願いする古代であった。


「旅館で出てくるみたいな鍋が、たくさんあるなぁ」
 小鍋と具材の置かれたコーナーで、料理があまりできる方ではない淳紅は自分の小鍋を多種多様な具材で彩りも鮮やかに並べ、盛り付けそのものはとても美しく仕上げる。そのあたりはさすがの感性だが、ふたが閉まらないという事に気づくまで、まだしばらくかかりそうだった。
「美味しいもんもめっちゃ食べたい! ユッケ、食べる! あとー……ん?」
 大皿から色々なものをとにかくとりまくる友真の目に映ったのは、赤が眩しいエビチリ――いや、エビチリのようなもの、だ。それに違和感を感じたのは、エビにしてはかなりでかくて肉厚の、丸い物体がその存在を主張しているからだった。
 もしやと近づいて、恐る恐るトングでその丸い物体を挟んで持ち上げたその瞬間、友真の目が輝く。
「帆立やー! エビチリならぬホタテチリだなんて、こんな究極、あってええんか!!」
「どうしたー、ゆーま君」
「この帆立は全部、俺がいただくんや!」
 大皿から残っていた帆立をかき集め、小皿にはホタテチリのピラミッドができあがるのだが、すぐに新しい大皿と交換され「あかん、これ以上は乗られへん」と悔しがりつつ、席へと戻っていく。
 入れ替わりでやってきたマキナが不思議そうな顔をして、悔しがる友真を目で追い、そして青空へと向ける。
「小野さん、どうしたんです」
「帆立を独り占めできなくて、悔しがってたんだよ。マキナ、持っていったらきっと、ゆーま君に感謝されるのだ」
「へえ。ホタテチリですか、珍しい。
 矢野さんに鍋持って行くついでに、これもとっておきますか」
 大皿のホタテチリを小皿に取り分けていると、手に持っている空のトレイに、ずっしりとした重みがかかる。ホタテチリを手にしたマキナは自分のトレイを見てみると、一口チョコのピラミッドが乗った皿が増えていた。
 青空のトレイにも同じものがあったなと思っていたマキナは、青空のトレイからなくなっている事で、こちらに移したのだと気付く事ができた。
 説明を求める視線が、青空に向けられる。
「りりかの分も少しだけ運んで、マキナ。私の分を乗せるスペースが、なくなったんだー」
 青空のトレイにはチョコケーキにチョコアイスと、チョコが絡んだ物ばかりで、どう見ても酒の肴という風でもないし、青空のチョイスには見えなかった。
 それらを選んだ本人が、青空の後ろからチラリと顔を覗かせて、マキナへ何か言いたそうに口をもごもごとさせる。
「迷惑でしたよね、すみませんってりりかは言いたいんじゃないかなー?」
 代弁する青空の言葉に納得顔のマキナは「これくらいなら、ついでですよ」と小さく笑って、鍋のふたが閉まらないと騒いでいる淳紅の所に向かうのであった。


 全員が席にそろい、各々の飲み物も回ったところで古代が咳払いひとつ。
「さて、今日の幹事としてはここで新年のご挨拶とかそういうのをするべきかもしれないが――そんなものは温かい飯と冷たい飲み物をぬるくする失礼な行為だ!」
 力説するとジョッキを掲げ、それにならって男性諸君はグラスを掲げ、りりかは胸の高さまでグラスを持ってくる。
「乾杯!」
『乾杯、イエーイ!!』
 申し合わせたかのように淳紅と友真のみならず、青空とマキナまでもが声を合わせ、高々と掲げてグラスを傾けた。
 ストローで飲むりりかの前で喉を鳴らす男衆。まるで誰が早く飲み干せるか競い合っているかの如く勢いで、誰もがグラスから口を離さない。
 カルーアミルクを先に飲み干した青空が、甘い卵焼きを口に抛りこんでから店員を呼ぶ仕草に入ると、次々と空のグラスがテーブルに並んでいった。
「次は……あ、りりかー。チョコのお酒あるみたいだから、一緒にたのもー」
 チョコを口先で転がすりりかがこくりと頷き、続けて青空が「みんなも何か頼む?」と聞いてくる。口を開きかけた古代の前に、やってきた店員が大吟醸の文字が眩しい一升瓶と、いくつかのグラスを置いていく。
「せっかくの新年会だからね、別会計でちょっとお高いの1本キープしたんだよ。他に飲む人いるかな?」
「私は今頼んじゃったけど、一杯だけ飲んでみるのだ」
「あ、いただいていいですか」
 すぐに返事をするのは青空とマキナ。りりかは首を横に振り、飲まないアピールをしていた。そしてすぐに答えが出ないのが、淳紅と友真。散々悩んでから口を開く。
「新年はお屠蘇……とは言うが、日本酒は辛いからあまり飲めないんよね――でもせっかくだし、1杯だけ」
「あー……淳ちゃんが飲むなら、俺も。ちょっと挑戦してみたいって思ってたところやしね!」
 お屠蘇は薬草酒だから日本酒とはちょっと違うと思いもしたが、大差はないかと言わない事にした古代は一升瓶の封を切ると、溢れんばかりになみなみと注いで淳紅と友真、それとマキナの前に回していく。
 躊躇なく飲んだのは飲み慣れている感のあるマキナで、一口飲むなり「さすがに美味い」と、率直な感想を漏らしてキュッと一気にあおっていた。
 意を決した2人も口に含むが、2人そろって「あかん」と一口飲んでグラスをテーブルに戻す。
「無理でした! でもせっかくやから、コップ一杯はがんばる」
「せやな、注がれた分は飲みきらなあかんと――あ、そういえば三が日の終わりが誕生日なんで、おめでとうだけでももらってええですかね!」
 誕生日と聞いて口々に「おめでとう」と言ってから、次々に「イエーイ!」の連呼、そして淳紅へグラスを合わせる。少し調子づいた淳紅も「イエーイ!」と返し、勢いでりりかにも向けそうになった、が。
「イエーイの魔の手から俺が守らねば!」
 立ち塞がる友真の額に淳紅のグラスがゴツリと、なかなか小気味いい音を立てるのだった。
 額を押さえテーブルに突っ伏す友真に、立ち上がって手を伸ばし「すまへんな」と頭を撫でた淳紅だが、そこからなぜか青空の頭も撫でる。
「ふふ。21歳でっす! また年上になったで!」
 その発言で青空と友真が立ち上がり、淳紅の隣に並ぶ。そして頭を撫でるのかと思いきや、頭のてっぺんに手をかざし、そして自身の頭に手を乗せる。
 何を言いたいのか、誰もが察してしまった。
「ちっさい21歳やなー」
「どやかましいで、小野君。それでも自分は先輩で、2人は可愛い後輩や」
「そかー。淳紅『センパイ』今日は飲みすぎないようになー」
 そう言うと日本酒を軽くあおって、グラスを空にする青空。こちらもだいぶ飲み慣れている様子がうかがえるし、顔色からしてもまだまだ余裕があり、席に戻ってからも、運ばれてきたチョコのカクテルを軽くあおってすぐ次を注文する。
(1人で飲む機会が増えたからだいぶ強くなったと聞いてはいたけど、どうやらかなり強いようだな。マキナさんも相当に)
 グラスを傾ける古代は、若さについていけそうにないなとしばらく成り行きを見守る事にして自分のペースを維持する。
「ゆーま君進んでないよ? ついであげようか?」
「あかんで、この1杯だけなんやから……なんか、増えてる気がするなぁ」
 自分のなみなみと入ったグラスに首を傾げながらも、友真はぐっと一気に飲み進め、一口くらい残したところでホタテチリに箸を伸ばして、美味さに感激して目を閉じて小さく震えていた。
 すると笑顔のりりかが小声で「おかわりをどうぞ……ですよ」と、そっと友真のグラスに注いでいく。それに気づけない友真がまたあおり、そしてりりかが足すのエンドレス。
 さらにはマキナが「この程度ですか? まだいけますよね?」と特定の誰かに向けたわけでもない煽りをいれ、古代や淳紅グラスにドンドン注いでいく。
「ガンガンに受けてたったらァ! ヒーローたるもの誰の挑戦も受け倒したるわ!」
 煽られて調子づく友真が攻めの姿勢を見せるも、飲みきる度に「あかん」と椅子にもたれかかり、注がれる度に「やったる!」と、そのテンションの浮き沈みの激しさが、かなり酔っている事を教えてくれる。
 そしてひっそりと限界を感じ取った淳紅は、注がせないように空グラスを手に持ったまま難を逃れていると、りりかがまだやや控えめではあるが、チョコのピラミッドを差し出しては「どうぞ、です」と勧めてくれた。
「ありがとうございます――チョコのカクテル、やはり甘くて飲みやすいですか?」
 りりかはこっくりと頷くと、少しだけ飲んだそれを少しだけ強引に淳紅へ差し出した瞬間、友真が突如テーブルに突っ伏して微動だにしなくなってしまう。
「もう限界ですか」
「ゆーま君、ここで眠ると風邪ひくよー?」
 ああはならないようにしなければと、淳紅はりりかから受け取って口に含み、「飲みやす」ともう少しもう少しと飲んでしまうのだが、突然、世界が回りだす。
「あかん、目が回る……」
 目を閉じて椅子にもたれかかり――口を開けたまま淳紅も眠ってしまった。
 自制していた淳紅に一体何がと、マキナは「失礼」と淳紅の飲み残したりりかのカクテルを一口飲んで、納得する。
「飲みやすいですが、かなり強いですよ。これ」
「そうなのー?」
 同じ物を飲んでいる青空は終始穏やかで、そうとは感じさせない口調であるが、紛れもなく淳紅へトドメの一撃を放ったのこのカクテルである。淳紅と友真2人を潰したと言っても過言ではないりりかに戦慄を覚え、恐る恐る目を向けるマキナ。
 いつの間にか古代にもたれかかって眠っているのに少しだけ安堵したが、いつの間にか流れていた冷や汗を拭い、ポツリと呟いた。
「魔王という噂は、こういうことなのか……」
 その呟きに古代は苦笑を浮かべ、今日はちょうど3人ずつでよかったなぁと思いながらも、空になってしまった一升瓶を寂しそうに眺めるのであった――

 新年早々、これが彼らの日常なのだ。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb1679 / 矢野 古代     / 男 / 39 / 財布がピンチパパ 】
【ja0732 / 青空・アルベール / 男 / 20 / ニコニコ魔人 】
【ja2261 / 亀山 淳紅     / 男 / 21 / 今日のは不可抗力やで 】
【ja6901 / 小野 友真     / 男 / 20 / ヒーローはヒロインに負けた 】
【ja7016 / マキナ        / 男 / 21 / 本日の良心代表 】
【jb6883 / 華桜りりか     / 女 / 20 / 本日のMVP? 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
お待たせしてしまって申し訳ありません。この度はインフルやノロ、それに伴って忙しくなってしまった仕事でなかなか書き進める事もできませんでしたが、やっと完成いたしましたので納品させていただきます。
今回は人数も多く、絡みを色々とどうしようと悩んだ部分もありますが、待った分だけ納得できる出来になったでしょうか?
ご迷惑をおかけしましたが、またのご発注、お待ちしておりますので、なにとぞよろしくお願いします。
初日の出パーティノベル -
楠原 日野 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2016年02月19日

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