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『―― ふたりにとって、大切な日 ―― 』
カイka3770)&フェリアka2870

「……よし」
 カイ(ka3770)は小さく頷いて、自宅から出た。
 今日はフェリア(ka2870)との初デートで、カイも普段より気合いが入っていた。
 まだふたりは友人未満、恋人未満という曖昧な関係のため、カイは絶対に失敗が出来ないと鏡で自分の身だしなみを確認しながら、心の中で呟く。
「さて、行きますか」
 カイは呟きながら、予定よりも少し早めに家を出るのだった。

※※※

 今日は休日のせいか、広場には平日よりも多くの人で賑わっている。子供相手をしている人もいれば、任務中なのか慌ただしそうに走り回っている者もいた。
 そんな人ごみの中で、カイは小走りでこちらに向かってくる女性に気づく。
「カイ君、もう来ていたの?」
 少し驚いたようにフェリアがカイに言葉を投げかける。
「たんぽぽさんを待たせるわけにはいきませんからね」
 少し余裕めいた笑みを浮かべながら答えると、フェリアは照れくさそうに視線を逸らした。
 フェリア自身、カイは周りにいなかったタイプのため、彼との交流に新鮮さを感じている。
(……こんな風に真っすぐ好意を向けられるのは初めてだから、戸惑ってしまうわ)
 楽しそうに微笑むカイを、ちらりと見つめながら、フェリアはそんなことを考えていた。
「ん? どうかしましたか?」
「……ううん、何でもない。今日はどこに行くのかと思って……」
「広場の北側に細工物市が来ているんですよ、そこを見てみませんか?」
「細工物……」
 フェリアも女性だから細工などには興味があり、自然と声が弾んでいた。
(とりあえず細工物市のことを調べておいて良かったかな)
 フェリアの表情を見つめながら、カイは心の中で安どのため息をつく。

※※※

「わ、さすがに人が多いですね」
 細工物市ということで、会場にいるほとんどの人間は女性だった。
 たまに男性の姿も見かけるけれど、カイと同じように女性を連れている人ばかり。
「何か気に入った物があればプレゼントしますよ」
「そんな、私はここに連れてきてもらえただけで十分なのに……」
「俺が、たんぽぽさんにプレゼントしたいんですよ」
「……ありがとう」
 フェリアは少し頬を赤らめながら呟き、ふたりで市に出ている露店を見て回ることにした。

「……あ」
 しばらく露店を見て歩いていた時、ふとフェリアの目に留まった物は花細工の髪飾り。
「たんぽぽを象った髪飾りですね。可愛らしいデザインですし、たんぽぽさんに似合いますよ」
 カイはそう言って、フェリアの髪にたんぽぽの髪飾りを当てる。
「たんぽぽさんも気に入ってるみたいだし、プレゼントする物はこれで大丈夫ですか?」
「ええ、ありがとう……この髪飾り、大事にするわ」
 照れくさそうにフェリアが答えると、カイもつられるように頬を赤らめるのだった。

※※※

 細工物市を見た後、ふたりがやってきたのは女性に人気のカフェだった。
「……カイくん、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ」
 想像していた以上にメルヘンチックな店内で、カイは少し居心地悪さを感じていた。
 けれど、フェリアのためと考え、恥ずかしさを何とか堪えている状態だ。
「ふふ、私は普通のところで良かったのに」
「女性に人気ってことで、たんぽぽさんも気に入ってくれるかなと思ったんですよ」
「……細工物市の時もそうだったけど、カイ君は私ばかり優先してくれるのね」
 ポツリ、と呟かれた言葉にカイは目を丸くした。
「私は楽しいけど、カイ君が楽しんでくれているのか……少し、不安だったりするの」
「なんだ、そんなことですか。俺はたんぽぽさんと一緒にいられるだけで楽しいんですよ」
 それはカイの本心だった。
 ひとめぼれした女性が隣で楽しそうに過ごしてくれる、それだけでカイは楽しいのだから。
「……カイ君って、変。私のどこが気に入ったのかも分からないし」
「どこがって、全部と言いたいですけど強いていうなら天然で可愛いところですね」
 カイがさらりと答えるとフェリアは更に頬を赤らめた。
「そういえば、この店の近くにぬいぐるみを売ってる店がありましたよね」
 ぬいぐるみ、という言葉にフェリアがピクリと僅かに反応を見せた。
「せっかくだから行ってみましょうよ」
 行きませんか、だとフェリアが遠慮するかもしれないと考え、カイはあえて『行きましょう』と決定するような口調で言う。
「……カイ君が、そう言うのなら」
 フェリアはもごもごとランチを食べながら、嬉しそうに頬をほころばせるのだった。

※※※

 ぬいぐるみ店は、専門店というだけあって数えきれないほどのぬいぐるみが置いてある。
 可愛らしい物から、これは……と首を傾げてしまいそうになる物まで幅広く。
「……」
 そんな時、フェリアがとあるぬいぐるみを見つめていることに、カイが気付く。
「たんぽぽさん、気に入った物があるなら――……」
「ううん、大丈夫。行きましょう」
 カイの言葉を遮り、フェリアは彼の腕を引っ張って店の外へと連れだした。
 髪飾りをプレゼントされ、ぬいぐるみまで――……というのは気が引けたのだろう。
「……」
「たんぽぽさん、ちょっとトイレに行ってくるからあそこのカフェで休憩しましょう」
「うん、分かった。店の外で待ってるから」
 フェリアは頷き、カイの手を離して店の外へと向かう。
(さて、と……)

※※※

 カフェに着くと、カイはフェリアを連れて『予約席』と書かれた場所に座る。
「えっ、カイ君。ここ予約席だって書いてあるよ」
「いいんですよ。予約したのは俺ですから」
 カイの言葉を不思議に思いながら、フェリアは席に置いてあった紙袋に気づく。
「カイ君、これ……」
 フェリアが目を瞬かせながら問いかけると「プレゼントですよ」と、カイが答えた。
「あっ……!」
 紙袋の中には、先ほどフェリアが見つめていたぬいぐるみが入っていた。
「……カイ君。もしかして、さっきトイレって言ったの、ウソだった?」
「まぁ、そうですね。たんぽぽさんに喜んでほしくて、店員に頼んできたんです」
 カイは照れくさそうに言葉を返す。
「私、今日はカイ君に何かしてもらってばかりだね」
 申し訳なさそうに言うフェリアだけど、それを嬉しく思っているのも事実だった。
「最後、たんぽぽさんに素晴らしい景色をプレゼントしますよ。楽しみにしてて下さい」
 まだこれ以上何かあるの? とフェリアは驚きながらも楽しそうな表情を見せるカイに言葉を挟むことが出来なかった。

※※※

「ここは……」
 カイに連れられてやってきたのは、普段は立ち入り禁止の鐘楼。
「ここから見る夕暮れはすごく綺麗なんですよ」
「……本当に、綺麗ね」
 高い場所から街を見下ろし、フェリアは穏やかに微笑む。
「……本当は、ここで大輪の花束を渡したかったんですけど、これしかなくて」
 そう言って、カイは一輪のバラを差し出す。時間も時間であることから、花屋にあまり花が残っておらず、売れ残っていたバラを一輪だけ買って来たのだ。
「ありがとう、今日はすごく楽しかった。こんな楽しいの、初めてな気がする」
 バラを受け取りながら、フェリアは呟く。
(……少しでも、たんぽぽさんとの距離が近づいたかな)
 そんなことを考えながら、もうすぐ鐘が鳴るからフェリアに伝えなくては、と考えるカイなのだった――……。

―― 登場人物 ――

カイ(ka3770)/男性/16歳/人間(クリムゾンウェスト)/疾影士(ストライダー)
フェリア(ka2870)/女性/21歳/人間(クリムゾンウェスト)/魔術師(マギステル)

――――――――――

カイ 様
フェリア 様

初めまして。
今回ノベルを担当させて頂いた水貴透子です。
今回はご発注頂き、ありがとうございました。
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていましたら幸いです。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました。
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

2016/2/19
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ファナティックブラッド
2016年02月19日

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