『―― ふかふか、竜のおねーさん ―― 』

ファルス・ティレイラ（3733）

　今回、ファルス・ティレイラは子供の遊び相手という仕事に向かっていた。
　内容が子守にも関わらず、何故か報酬金額が高く、純粋なファルスはそれを疑うこともなく、依頼人の家へと来ていた。
「うふふっ、あなたが今日遊んでくれる人なのね」
　ファルスが訪れた豪邸から出てきたのは、まだ幼い少女。お嬢様雰囲気の少女はファルスをジロジロと見つめた後、満足そうに「うふふ、外見は合格ね！」と楽しそうに言う。
「あのね、私、おねーさんを着せ替えしたいの。お洋服とかも用意してるのよ？」
　そう言って少女はファルスを衣裳部屋へと連れ込んだ。
「……凄い数の洋服」
　衣裳部屋の中に用意された衣装、アクセサリーの数々を見て、ファルスは圧倒された。
「じゃあ、着せ替えを始めましょ？」
（でも、子供の着せ替えに付き合うだけであんなお金がもらえるんだから今回は楽な方かも）
　そんなことを考えながら、ファルスは少女の要求に応えて、様々な服を着始めた。

※※※

「……ね、着せ替えばかりで退屈じゃない？　庭を散歩したりとか、そういうのでもいいんだよ？」
　ファルスは衣裳部屋に閉じこもってばかりの少女に話しかけるけれど……。
「ううん、おねーさんを着せ替えしてた方が楽しいもの！　次は、こっちのドレスを着て！」
　ファルスの提案を却下して、ロリータ調の服を差し出されてしまう。
（うーん、依頼人がいいって言ってるんだし、着せ替えばかりでいいかな……）
　そんなことを考えながら、ファルスは渡された服に袖を通すのだった。

※※※

　そして、夕食が終わった後――……。
「おねーさん、竜に変身できるって本当？」
　きらきらと目を輝かせながら、少女が問いかけてくる。
「竜っていうか、まぁ、尻尾と翼、それに角があるくらいかなぁ……？」
「ええ、そうなの？　ねぇ、ご飯を食べ終わったら見せて、見せて！」
　ぴょんぴょんと飛び回りながら強請られ、ファルスは断り切れず「う、うん」と頷いてしまう。
　けれど、この時、安易に翼などを見せてしまう約束をしてしまったがために、ファルスはとんでもないことに巻き込まれてしまうということに、まだこの時は気づいていなかった。

※※※

（はぁ、子供の相手って疲れるんだなぁ……）
　子守の時間も終わり、ファルスは与えられた部屋のベッドに横になっていた。
（今日は思い切り動いたから、ちょっと、疲れ……ちゃった、かも……）
　気だるい疲れに襲われ、ファルスはそのまますやすやと寝入ってしまう。
「……うふふ」
　ファルスが寝入ったのを確認した後、依頼人の少女が部屋に入ってくる。
　その手には、魔法で封印されていた虹色の綿がついた針。
「え、魔力？」
　ファルスは僅かに感じた魔力で目を覚ましたのだけど……。
「うふふ、おねーさん、ちょっとごめんね？」
　少女は楽しそうに笑いながら、尻尾や翼の先に針を刺し、縫うような仕草を見せる。
　すると、ググッと翼や尻尾の感覚がおかしく感じて、ファルスが慌ててみると……。
「ぬ、ぬいぐるみっ！？」
　自分自身がふかふかのぬいぐるみになっていることに気づいた。
「これはね、刺した相手をふかふかの人形にする魔法の針なの。おねーさんの、竜の翼とか、可愛いから今度は私のお人形さんになってもらおうと思って！」
　楽しそうに喋る少女に、ファルスは反論しようとしたのだけれど全身が人形になってしまい、もう言葉を紡ぐことも出来なくなっていた。
「大丈夫だよ、１週間くらいで元に戻るから」
（い、一週間！？）
　これから１週間も少女のお人形でいなくちゃいけないのかと考えると、ファルスは酷く憂鬱な気分になってしまう。
（うう、やっぱり報酬金が高いからって安易に引き受けるんじゃなかった〜〜〜〜！）
　後悔しても後の祭り。
　ファルスはこの先１週間、依頼人の人形として過ごす羽目になってしまったのだった――……。


――　登場人物　――

3733/ファルス・ティレイラ/15歳/女性/配達屋さん（なんでも屋さん）

――――――――――

ファルス・ティレイラ 様

こんにちは、今回もご発注頂きありがとうございました。
今回は依頼人に悪戯されてしまう話ですが、
内容の方はいかがだったでしょうか？

気に行って頂ける内容に仕上がっていることを祈ります。
それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました。
また機会がありましたら、宜しくお願い致します。

2016/2/19

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2016年02月19日