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『雲の下の悪夢 』
天河 ふしぎ(ia1037)


 天儀を覆う障壁。
 嵐が渦巻くその先にあったのは、『箱庭』と呼ばれる無人島。
 そこにあった多数の遺産から、古代文明の一部が解明され、天儀の者達はある事実を知ることとなる。

 ――天儀の下には、古代人が住まう旧世界があった。
 そこは未だに多くの瘴気に包まれ、人を拒み続ける土地であったけれども。
 護大が去ってからは、古代人とも友好な関係を築くようになり……何より、時を経ると共に、古代人達の住む土地の瘴気も、徐々にではあるが減少を見せていた。

 そんな危険な場所も、開拓者達にとっては新たなフロンティア。
 空賊団『夢の翼』団長のふしぎも、妻のリズレットを伴い、飛空船で地上世界へ旅立った。
 ……のであるが、瘴気が大分薄れて来ているとはいえ障壁は分厚かった。
 突然巻き起こった瘴気の嵐に、ふしぎ達の船は成す術もなく木の葉のように揺れる。
「くそ……! 舵が利かない……!」
「ふしぎ様、このままでは……!」
「……分かってる。リズ、僕と君の腰をしっかりロープで結んで! 何かあった時もはぐれないように!」
「かしこまりました……!」
 ふしぎの言葉に強く頷くリズレット。
 もう少しで厚い雲が切れ地上が見える。そう思ったその時、船が大きく傾いで……。
「うわああああああ!!」
「きゃああああああ!!」
 響き渡る悲鳴。ふっと目の前が暗くなって、2人はそのまま意識を手放した。


「……ふしぎ様、お怪我はありませんか?」
「うん。平気。リズは?」
「リゼも大丈夫です」
「良かった。それにしてもここ、どこだろうね……」
 あれからどの位の時が流れたのだろう。
 ハッキリとはわからないが、2人がいたのは見知らぬ土地だった。
 不時着した船から投げ出されたようだが、幸い怪我もない。
 周囲には、沢山の湯船が見えて、そこから暖かそうな湯気が立ち上っている。
 ここは温泉地なのだろうか……?
 どうやってここに辿り付いたのか、ここがどこなのかさっぱり見当もつかないが。2人は実力のある開拓者。多少の荒事には慣れているせいか、どうしても目の前の魅力的な環境が気になって……。
「……見知らぬ土地の温泉だなんて、ちょっと素敵ですね」
「そうだね。ちょっと入ってみようか?」
 にこにこと笑いあう2人。お互いの顔を見て……そのまま固まる。
 そこには、何故か自分の顔があったので。
「えっ!? どうして……!!?」
「えええ!? 何で僕がいるの!?」
 アワアワと慌てる2人。
 ここで状況を整理してみよう!
 地上世界を目指したら、船が不時着した上にふしぎとリズレットの身体が入れ替わっちゃった!!!
 ……何で!!? どうしてこうなった!!?
 それが分かれば苦労しませんよ!
 ふしぎとリズレットは夫婦だ。お互いの身体を知らない場所なんてないけれど……かといって、こう、自分自身の身体になってみるとまた別でして……!
 ――胸って意外と重いんだなー。
 ――何だか、股間に違和感があります……。
 もじもじとしていた2人は、ふと目線を感じて振り返った。


 ――そこには、キノコがいた。
 いや、正確にはキノコに似た生物、だろうか。
 軸に小さな手足が生えており、そして笠の色は紫で……顔はこう、可愛らしいといえばそうなのだが、何だかすごく、目線がじっとりとしているし、怪しい笑みを浮かべているような気がする。
「……何だろう、これ。原生生物かな?」
「天儀でこんな生物見たことないですね……」
「……!? ちょっと、リズ! 後ろ!!」
「えっ。ええ……?」
 不思議な生物を覗き込むリズレット……と言っても身体はふしぎだが。
 名を呼ばれ、振り返るとそこには無数のキノコに似た生物が周囲を埋め尽くしていた。
「ど、どこからこんなに……?!」
「分からない。囲まれたね……敵意はない、みたいだけど……何だろうね、この目線」
 すっかり周囲を取り囲まれた二人。リズレットの身体をしたふしぎは、習慣で妻を庇って後ろに隠す。
 じろじろと嘗め回すような目線。何ともいえない気持ち悪さを感じて後退を始める。
 一進一退の攻防。だが、謎のキノコは隙をついて飛び掛って来た……!
「ちょっ!? ぎゃああああああ!!」
 響き渡るふしぎの絶叫。
 謎のキノコが彼……リズレットの身体のたわわな胸に飛びついて頭を埋めている。
「ふ、ふしぎ様大丈夫d……」
 言いかけて固まるリズレット。
 ――目の前の光景を、脳みそがなかなか受け入れてくれない。
 そりゃそうですよね! 自分の身体が謎の生物に触られているのを客観的に見るとかなかなか起きない事態ですから!!
 戸惑う彼女。次の瞬間、臀部に違和感が……。
「きゃああああああああ! いやあああああああ!!」
 絹を裂くようなリズレットの悲鳴。とはいえ声はふしぎのものなので妙に野太い。
 混乱する中、ふしぎは必死で状況を整理した。
 この謎のキノコは襲ってくるが攻撃力は殆どない。
 が……触り方が気持ち悪い。というか、服の中に入って来ようとしている気がする……。
 ふしぎの中のらきすけセンサーがビーッビーッとけたたましい警報音を鳴らしている。
 ああ、これはダメだ。このままにしておいたら絶対アカンやつだ……!!!
「リズレット、こいつはマズい! ここから離脱しy……」
 胸に張り付くキノコを引き剥がし、リズレットの手を取ったふしぎ。
 逃げようとして振り返って……そこに、嫌なものを見た。
 ――キノコの集団の向こう側に、小さくてどぎついピンク色をした物体がぷよぷよと蠢いていた。
 別段何をして来る訳でもなく、とても弱そうなそれに、ふしぎは会ったことがある。
 ……ええ、そりゃもう酷い目に遭わされましたから忘れる訳ないですよ!!
 そう、アイツは武器や鎧などと言った装備品から服までことごとく溶かす悪魔のようなスライムである。
 一体一体は弱いし、素手の攻撃は通るのだが、ものすごい勢いで仲間を呼んで増えていくので性質が悪い。
 天儀では既に何人もの開拓者達が犠牲になり、その悲惨な有様は伝説となっている。
 走馬灯のように過ぎる嫌な記憶に死んだ魚のような目になる彼。その間も、ピンクスライムはぷるぷる身体を震わせて、仲間を増やし続けている。
 ビーッビーッビーッ……。
 再び激しく鳴り響くふしぎの中のらきすけセンサー。
 リズレットをあんな目に遭わせたら素敵……いやいや。とにかく彼女だけでも守らないと……!
「ふしぎ様、これは……?」
「これはね……って説明は後! とにかく逃げよう!」
 

 ふしぎとリズレット は にげだした!
 しかし まわりこまれてしまった!
 謎のキノコは ふしぎに とびかかった!!
 ピンクスライムは ぷくーっと ふくれあがって ふしぎに のしかかった!!


「いやああああああ!!!」
 本日二度目のふしぎの絶叫。
 謎のキノコとピンクスライムは女子の方が好きなのだろうか。
 今回はやたらと自分を狙ってくるような気がする。
 リズレットが酷い目に遭わなくて良かった……っていやいや!
 この身体奥さんのですから! 間接的に酷い目に遭ってますから!!!
「あっ。やだ! そこダメ……」
 スライムに背中をじっとりと這われてに、ビクリと身体が跳ねるふしぎ。
 いつもと同じだ。身体にダメージはない。ねっとりとした柔らかいモノに撫でられる感覚と共に、服がじわじわと溶けて消えていく。
 そこに謎のキノコが割り込んできて、さわさわといやらしい手つきで身体を撫で回す。それが、どうにもおっさんくさくて生理的嫌悪感を呼び起こす。
 スライムだけでも気持ち悪いのに、おっさん臭い謎のキノコまで追加されてこれを地獄と言わずして何というのか……!
「ふしぎ様……!」
「リズレット、僕のことはいいから君は逃げて……!」
「でも……!!」
 己を助けようとするリズレットを慌てて押しとどめるふしぎ。
 その間も、胸のあたりでスライムがもぞもぞと蠢いていて小さく悲鳴を上げる。
 ――身体が違うからだろうか、何だかこう、いつもと感覚が違う。
 不慣れな感覚に戸惑うばかりで、抵抗が疎かになりスライムと謎のキノコに好きなように弄ばれている。
「わあああっ! ダメダメダメ! そこ絶対ダメ!!」
 足の間に分け入ってくる謎のキノコに目を見開く彼。リズレットを逃がしてやりたいがその余裕がない。
 その頃にはもう、リズレットも粘泥の餌食になっていた。
「いやああああ! きもちわるいですうううう!!」
 べちょり、と嫌な音を立ててまとわりついてくる粘泥に悲鳴をあげるリズレット。
 服はみるみるうちに溶けてなくなり、恥ずかしくて身動きが取れない。
 今はふしぎの身体なんだから気にすることはない、と言われても心は花の乙女なのだ。そんなの無理に決まっている。
 両手で胸を隠して蹲る彼女。そこに追い討ちをかけるように、謎のキノコがさわさわとソフトタッチを繰り返す。
 ああ、ふしぎ様は触られるとこんな風に感じるんですね……。
 そんなことを考えてしまうあたり、リズレットの脳は既に現実逃避を始めているのかもしれない。
 ピンクの粘泥も謎のキノコも無抵抗な彼女に気を良くしたのか、触れて欲しくない、敏感なところにも手を伸ばしてきて……。

 ――ブチィッ!!
 
「そこはふしぎ様しか触っちゃダメなんですううううううううううううう!!」
「リ、リズ……!?」
「あなた達なんて皆消えちゃえばいいんですううううううううう!!」
 突如ブチ切れて猫パンチ無双を始めたリズレット。
 呆然としたふしぎは、そこで再び意識を手放し、目の前が真っ暗になった――。


「……ふしぎ様。ふしぎ様……。おはようございます。朝ですよ」
「ん……? えっ あれっ!? ここは!!?」
 ガバッと起き上がったふしぎ。
 窓から入る眩しい朝の光。聞こえてくる小鳥の囀り。
 気がつくとそこはいつもの夫婦の寝室で、目の前には優しいリズレットの微笑がある。
「謎のキノコは!? スライムは……!?」
「ふしぎ様ったら、夢をご覧になっていらしたんですね? さ、朝ごはんしっかり召し上がってください。今日は雲の下まで行かれるんでしょう?」
「あ、ああ。うん。そうだね……」
 そうだ。今日は飛行船で、天儀の下の旧世界へと向かう。
 でも、何だかただの夢のようには思えなくて……。
 ――いや、大丈夫。きっと冒険を前に神経が高ぶっていただけだ。
 新たな冒険の為にも頑張らなくちゃ!!
「ふしぎ様ー? 朝ごはん冷めちゃいますよー」
「はーい! 今行くよー!」
 リズレットの明るい声。朝食のいい匂いに誘われて、ふしぎは元気良く立ち上がった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ic0804/リズレット/女/16/猫パンチ無双な奥様?
ia1037/天河 ふしぎ/男/17/らきすけセンサー搭載の旦那様?


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お世話になっております。猫又です。

ご要望通り、ピンクスライムと毒パルムの悪夢の競演となりましたが戴きましたがいかがでしたでしょうか。
まったくもって酷い内容ですが、これは夢だったのか現実だったのか……ふしぎさんとリズレットさんのご想像にお任せいたします。
好き勝手色々書いてしまいましたが、話し方、内容等気になる点がございましたらお気軽にリテイクをお申し付け下さい。

お届けまで大変お時間を戴いてしまい、申し訳ございませんでした。
ご依頼戴きありがとうございました。
■イベントシチュエーションノベル■ -
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舵天照 -DTS-
2016年02月22日

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